第23話 第2章-第4話
20161212公開
2-04
「お騒がせして申し訳ない。昨日の親書に書かれていたと思うが、ファーストランドの臨時交渉担当の織田信之という。代表の方、もしくは案内してくれる方はどちらに?」
俺の言葉でやっと、呪縛が解けた様だった。
幅2㍍の櫓内で動きが出た。
1人の初老の男性が見物人をかき分ける様にして姿を現した。
もはや定番とも言える美形で、しかも見事なロマンスグレイだ。
俺の家系も白髪体質だが、俺が歳を取ってもここまで似合うとも思えない。
「ニューランド主席行政官のセルヒオ・ナバーロと言います」
「わざわざのニューランド主席行政官自らのお出迎え、痛み入ります。早速、話し合いをしたいのだが、構わないだろうか?」
「分かりました。では、私に付いて来て下さい。会談場所は用意してあります」
「あ、その前に少しだけ時間を貰えないだろうか?」
「構いませんが、何をされるのですか?」
「仲間に無事に到着した事を伝えておこうと思いましてね」
「なるほど。どうぞ、ご遠慮なく」
俺はいかにも外に居る仲間に暗号で合図を送るかの様に右手を上下左右に規則性を持たせて振った。
特に合図の意味は決めていないが、それっぽく演じる事でダイレクトに遠距離での会話が出来ることを隠す狙いが有った。
『川島三曹、見ての通り、無事に到着した。連絡するまで警戒態勢に移行してくれ。一旦ボイスパーティは解除するが、何か動きが有れば連絡をしてくれ』
『了解しました』
ボイスパーティを解除して、ファーストランドに居る富田様にもニューランドに着いた事を報告する。
『無事に到着しました。これから会談に入ります』
『お疲れ様。予定通り会談前に接続を頼むよ、店長』
『もちろんです。では、後ほどまた』
きっと、リリシーナを含めて、すぐにみんなにも伝えてくれるだろう。
会議内容も富田様と根本様にボイスパーティー機能で実況中継する予定なので、1人で臨まないだけ気が楽だ。
最後に深雪に動画ファイルをメールしておく。
送信が終わった後で、ふと気になって自身が踏破したルートを見下ろした。
ちょっとした怪奇現象を見た様な気がする光景が見えた。
25頭全ての『災獣』が俺を見ていた。
表情なんて分からないが、何故だか俺に対して怒りを抱いているのだけは感じ取れた・・・・・
城壁を降りて、向かった先は『旧港区画』と呼ばれる区画に在る人民議会議事堂だった。
隣の敷地には巨大な統合行政庁舎が建っている。
日本に例えると、やや小ぶりの国会議事堂の横に、霞が関に在る行政機関の庁舎を1つの大きな建物に纏めた庁舎が隣の敷地に建っている感じになる。
ニューランドの政治システムは日本人の俺からすれば少し変わっている。
人民議会の議員は選挙で選ばれるが、日本と違って権力はさほど無い。権力は俗に言う役所が持っている。
人民議会はあくまでも市民の要望を行政機関に伝えるものであって、立法権も持たない。
三権の内、辛うじて司法権だけは人民裁判所が握っていたが、立法権も行政権も行政機関が支配していた。これは、政治的な意思決定の迅速化と施政方針の継続性を重視した結果によって出来た仕組みだった。
三権の分立は近代社会の必須項目と言えるが、ヘキサランドの様な世界では生き残る為の効率が最優先されるのだろう。
俺とセルヒオ・ナバーロ主席行政官は人民議会議事堂と巨大庁舎に繋がる目抜き通りを並んで歩きながら、お互いのパーソナルデータを交換した。
一刻も早くお互いの都市の情報を交換したいが、どっちにしろ会談場所に着いたらその事も含めて説明をしあうのだから、ここで話をしても2度手間になるだけだ。
そういう事情も有って、ここでは個人的な親交を深めておく方がいい。
こちらも交渉相手のパーソナルデータを知っておく事で、カードの手札を増やせるからだ。
まあ、後半は俺が披露した身体能力絡みの話題が出て来たのだが、それもご愛嬌だろう。
「しかし、『プラント様が遣わした援徒』様は凄いとしか言えませんね。まさか身体一つで城壁を越えてしまうなどとは思いもしませんでした」
「まあ、自分も自分自身の能力に驚いている部分は有ります。《地球》ではここまでの能力は無かったですから」
「そう、そう言えば、その事も謎でした。プラント教の教義も出て来る、《我らの母星『青き地球』》と関係が有るのでしょうか?」
「我々はプラント教の言うところの神様に依って《地球》から、このヘキサランドに来た身です。ですから、少々、こちらの常識から外れている部分も有ると思って頂くと助かります」
「なるほど。だから『プラント様が遣わした援徒』と呼ばれているのですね」
気が付けば、数分後には話題が俺の家族関係に移っていた。
ヘキサランドのヘソとも言えるニューランドを統括するだけあって、このニューランド主席行政官セルヒオ・ナバーロ氏は優秀と言える。
ごく自然に俺の家族の話に話題が変わっていた。
狙いは俺の身辺調査と言うか、楔を打つポイント探りと言うか、そういった類だろう。
思惑を知りながら敢えて俺は乗る事にした。
「目下の悩みは、妹がこの遠征に参加している事です」
「ほう、妹様も同行しておられると?」
「ええ、まあ。今は別任務でベルト帯に居ますが、今では頼りになる戦士になってしまいました。結婚出来るか心配になっています」
「なるほど、それは心配ですね。実は私にも結婚に興味を示さない孫娘が居るのですが、こちらの心配などどこ吹く風で、仕事ばっかりしています」
「心情、察します」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
-6d2h23m11s 織田 深雪 viewpoint
「深雪ちゃん、ちょっと試し射ちするんで、念の為に周辺警戒頼める?」
お兄ちゃんが送信して来た動画を見ていると、『ニュー』さんこと松永さんが興奮した様子でウチに声を掛けて来た。
一緒に居た『ソラ』さんこと松浦さんも何故か興奮している。
「ええですけど、なんか嬉しそうですね?」
「いや、ダメ元で宇宙船にウィンチェスターの威力を上げられへんか頼んでみたら、OK出たんだ。それで、どれくらい上げたら良いか、試射したいんだ」
「え、そんな事出来るんですか?」
「ああ、俺もニューも言い出しておきながらビックリや。正確には初速を上げるんやけどな」
ソラさんが笑顔で答えてくれた。
「えーと、初速を上げれば弾頭の運動量が二乗で増えるんでしたっけ?」
「そうそう、2倍に上げれば、4倍の運動量になるで。これでウィンチェスターも『災獣』相手でも通用する目途が立つな」
「それは地味に朗報ですね」
「そやろ? でも、ウィンチェスターって本来は先端が平らな拳銃弾を使っているから、どれだけ初速を上げても有効射程は増えへんかもしれんし、却って扱い難くなるかもしれんから、妥協点を探したいんや」
「そう言う事情ならええですよ。どっちにしろ、ゴンザレス少佐の部隊の大休止が終わらないと動けませんし」
周辺を見渡して、異常が無い事を確認した。
少なくとも、周囲1㌔以内に、『災獣』はおろか、『害獣』も『害獣』も居ない。
「大丈夫そうです。ウチも見学してええですか?」
「勿論!」
何故か2人の声が被ったで・・・・・
なんか、一緒に行動をしている内に2人の仲は急速に良くなった気がする。
まあ、元々オタク同士と言う事で、アヤッチいわく仲は良かったそうやけど、一緒に死線を潜ったからか、日本に居た時以上に信頼関係が深くなっている様や。
1時間ほど試射した結果、上げた初速に比例して消費するピコマシンが増えるみたいやった。
1.4倍の初速が命中率の関係と反動を抑えられる限界という点と、コストパフォーマンスを考えた場合にバランスが良さそうだったので、ニューさんは今後はそれで行く事にした。
ソラさんとウチもついでにハチキュウの初速を上げて試したけど、ソラさんは1.6倍にした段階で反動を抑え切れずにギブアップ。
ウチはそれ以上でも耐えられたけど、ピコマシンの消費が増えるから、ちょっと悩むところや。
お兄ちゃんに報告のメールだけしとこ・・・
お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m




