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第17話  第1章-第17話

201611105公開

1-17



 夢を見ていた。

 俺は、『これは夢だな』と思いながら夢を楽しむ事が結構有る。

 夢の中の俺は、空中を飛んでいた。飛ぶと言っても飛行機の様に高空を飛ぶのではない。

 きっと、寝る前に試運転した機体が切っ掛けとなって見ている夢だろう。

 何となくラジコンヘリになった様な感覚で、慣性、遠心力、重力、浮力、風を身体に感じながら低空を飛んでいる。真下で深雪やみんなが俺を見て楽しそうに笑っている。

 なんだか楽しくなって来て、大笑いしながら空中散歩を楽しもうと思ったところで意識が覚醒に向かった。


 目を覚ますとホーム画面に『アラーム OFF』と言う文字が出ている。

 そういえば、寝る前に設定していた。あと1分遅らせておけば良かったな、と思いながらタップして脳内アラームを切った。

 そして、起きる前準備の為に上半身を起こして、思いっ切り伸びをした。

 テントから出て、〈戦闘装着セット(戦闘服2型)〉に着替えると、守備隊本部の建物に向かった。

 食堂では夜間の哨戒上がりだろう、5人の弓兵がテーブルの上に山の様に積み上げられたパンが乗っている大きなカゴからパンを取って自分のプレートに乗せていた。特に個数制限は無いのか、1人で3つ取っている豪の者も居た。

 席に着いた途端に俺に気付くと立ち上がって敬礼しようとしたので片手で制して、俺もパンの山からパンを1つ取った。

 カゴにはB4サイズくらいの紙が貼り付けられていた。


『プラント様の加護のもと

 ファーストランドは永遠なり


 プラント様が遣わした使徒と、我らが守備兵に心からの感謝を


 お好きなだけお食べ下さい。材料が続く限り補充は致します


                 ガンツ・パン工房一同』


 宇宙船プラントが俺たちが植え付けた自動翻訳によって文章の意味は分かるのだが、違う意味で意味が分からない。

 まあ、きっと、出入りの業者が南半区解放に感激したのか、パン食べ放題のバイキングを提供してくれているのだろう。

 もっとも、パンと違って付け合せはボイルしたソーセージ2つだけだ。汁物は塩味を感じる程度の薄いスープだったが、貯蔵されていた野菜は昨夜でほとんど無くなっていたので、数ミリ角に切られた断片が3つほど遊泳しているだけだった。

 うん、こう言っちゃなんだが、やはりこちらのパンは固い。日本ではパンと言うのはふんわりもちもちが当たり前だったが、こっちのパンは日持ちさせる意味も有って、全般的に固い。味も素材の小麦の風味だけしか感じない。

 俺の日本での朝食は、白ゴマを少し追加に入れたインスタントの「鮭茶漬け」と、有名な健康関連会社の社名が付いた福神漬け、それと焼き豚を数切れ食べるのが定番だった。お米を食べないと腹がもたない性質たちなんだが、こっちに来てからはお米はコロッセオを出る前に立ちながら食べたおにぎり1つが最後だった・・・

 食べ終わる頃に、ニューランドの情報を提供してくれたアントニオ・シルバ氏がやって来た。

 どうやら俺を探していた様で、俺を見付けると真っ直ぐにやって来た。


「お食事中に申し訳ありません。お願いが有って探していました。前に座っても?」

「いいですよ。ちょうど食べ終わったところです。で、ご用とは?」

「出陣が有ると聞いていますので手短に言います。ニューランドを助けてくれませんか?」

「こちらの守備隊にも余裕は無いですし、まずはファーストランドの足場を固める事が先決です。もし我々に頼んでいるとしたら、普通に考えて戦闘に向いている人間が10人かそこらで何とかなるとも思いませんが?」

「ええ、普通に考えれば、無理でしょう。ですが、このファーストランド南半区に居た害獣を1日で駆逐した『プラント様が遣わした使徒』に縋るしか無いのです。今回の『災獣レックス』の群れの襲撃は余りにもタイミングが悪過ぎました」


 時間もそれほど余っている訳では無いので、リリシーナ達のファーストランド上層部に検討はさせておくという返事を返したが、それで少しはホッとしたのか、来た時とは雲泥の差の表情になっていた。

 どっちしろ、北半区の掃討戦に出る前に富田様に会って、色々な事を頼む予定だ。富田様なら俺が考慮した事以外にも気が付いて、リリシーナ達に働き掛けてくれるだろう。これも頼みごとの1つになるだけだ。



 それにしても、『プラント様が遣わした使徒』という大層な二つ名が付いていたとは・・・

 うん、深雪のせいだな。まあ、俺も同罪か・・・・・・・・


 



『ツー、スリー、配置完了』

『フォー、ファイブ、配置完了』

『シックス、セブン、配置完了』

『ソラ、ニュー、配置完了』

『姫、配置完了』


 みんなからの報告が入った。

 これで、逃げ回っていた『害獣アロ』の3つの群れは袋のネズミになった。

 上空からの映像で再度、配置通りか? 抜け道は無いか? をチェックする。

 問題は無さそうだ。


『蓋を締める・・・ よし、蓋を締めた。各自、自由に発砲』


 32頭の『害獣アロ』は、完全に退路を断たれた。

 6つの住居区画を使った待ち伏せは6カ所の辻が閉鎖されているので、どこにも逃げようが無くなった。

 どんなに逃げ惑おうが、どれかのチームが待ち構えている。不意打ちを食らう前に追い込めば、後は火力で押し潰せる。

 結局、1頭も逃げ出せずに掃討された。

 俺は40㍍上空でホバリングさせていた『球体観測機(試Ⅱ型B)』を更に上昇させて、周辺に居る害獣の居場所を探した。


 『球体飛行体』・・・

 2010年に試作機が公開された、旧『防衛省技術研究本部(TRDI)』開発の球状の飛行ユニットだ。

 そのユニットの特徴は形状だけでなく色々と有った。

 まずは、ホバリングや水平飛行だけでなく、上昇下降がかなり自在に出来る事だ。

 安定性も8面の舵を使ってかなり優秀なものがある。人間を追い掛け回す事さえ可能な機動性も持っていた。小回りも効くし、壁に貼り付けさせる事さえ可能だった。

 万が一コントロールに失敗して墜落しても、外殻の球体構造により内部まで余りダメージが及ばない(それ以前に転がって衝撃を吸収してしまう)。

 で、今、俺が使っているのは、2012年に試作されて、俺に運用テストを依頼して来た時の特殊作戦群用試作機体だ。

 原型機では350㌘だった機体重量は、装備化に備えた構造強化や撮影送信ユニット搭載などで2㌔にまで増えたが、市販品を組み上げた原型機(公開した時の試作機は7号機)と違って、モーターの高出力化、大型バッテリー搭載による飛行時間の延伸(8分から30分強へ伸びた)、メンテナンス性の改善、風への対処対策、2つのカメラ及び送信ユニット搭載、自動運転機能の追加、専用の運用コンソールの開発など、格段の進歩を遂げていた。

 昨日の晩にアプリ化を依頼したのはこの機体だった。

 これまでのところ、実用性は十分なものだった。1機当たりの消費ピコマシンが5GBと、俺が使う限りはコストパフォーマンスも十分だ(4時間のピコマシン再充電サイクルを考慮に入れると40GBを占有されるが、128GBの容量を持つ俺なら許容範囲内だった)。

 ただでさえ、深雪という天然のソナーが居るのに、更にこの『球体観測機(試Ⅱ型B)』を併用した場合の有用性は『害獣アロ』はもちろん、『害獣ラプトル』の掃討にも活躍している事から明らかだった。

 


『東の方向、3つ先の通りで食事中の『害獣ラプトル』11頭を発見した。画像送る』


 『位置シンク』を使って、各自の位置関係を表示させた後で、『カメラシンク』を使って各自の端末に『球体観察機(試Ⅱ型B)』からの映像を転送する。

 俺たちの姿も映ってるので、『害獣ラプトル』までの位置関係も把握し易い。


『各自の経路を送る』


 『カメラシンク』上の画像に何本かの線が引かれていく。

 地球では不可能だった『カメラシンク』と『手書きシンク』の重ね書きだ。


『待ち伏せ地点をここにする。念の為、移動中の警戒は怠るな。移動開始』

『ツー、スリー、了解』

『フォー、ファイブ、了解』

『シックス、セブン、了解』

『姫、了解』

『ソラ、ニュー、了解』


 こうして、俺たちは虱潰しらみつぶしに北半区の害獣を掃討をしていった。

 今日もバウティスタ・ゴンザレス少佐率いる重槍兵中隊が後方に待機している。

 もっとも、一昨日の段階で、避難経路付近の避難者を助け出していたので、主に東側と西側の住宅区から新たに300人程度の救助で終了した。



 状況の終了を宣言したのは、陽が暮れる直前だった。

 ずっと『ボイスパーティー』機能を繋ぎぱなしだった富田様とリリシーナに掃討作戦の終了を告げて、警戒を緩める事無く水筒から水分を補給する。ミネラルウォーターはこれしか飲まないと決めている六甲の水はいつもの様に美味しかったが、これもいつまでもつか分からない。まあ、少なくとも俺たちの店にはあと5ケースは残してあるので、しばらくは大丈夫だが・・・

 それよりも腹が空いた。昼は市販の携行食品で済ませたが、それだけではさすがに足りなかった。

 開けてもらった中央門を潜りぬけて南半区側の中央門前広場に戻ると、いつもの代表グループのみんなが待っていた。

 中央に位置するリリシーナが代表する様に声を掛けて来た。


「お疲れ様です。皆様が御無事でなによりです」

「有り難う御座います。これで市内は確保出来ました。後は今後の事ですが・・・」

「明日の朝までは現状維持で。本日の夕食後に会議をして方針を決めたいと思います。いつものメンバー以外で誰か加える必要が有る人物は居ますか?」

「エイトール・メンデス氏は呼ぶべきでしょう。その他、出来ればルイ・サレス氏以外にも住人代表に足る人物も欲しいですね。当方からも1名参加して貰う事にします」

「分かりました。サレス氏に相談して決めておきます。では、夕食までは疲れをお癒し下さい」


 ここまでは『ボイスパーティー』機能を使って、事前に決めていたやり取りだった。

 富田様にお願いして、もうこちら側の新しい参加者の出席の許諾を得ている。

 もっとも、掃討メンバーには筒抜けなので、オタクコンビには『汚い、大人って汚い!』とニヤケながら突っ込まれていたが・・・ それに対して、深雪が『これこそ腹黒キャラの極み』と返したのには地味に傷付いたが、内緒にしている。

 まあ、根回しは日本人の本能みたいなモノだ。


 リリシーナが優しい笑顔から、真剣な表情に改めると声色も変えて更に言葉を紡いだ。

 これは事前の協議には無かったが?


「住民の命を救って頂き、本当に有難う御座いました。この御恩は忘れません」


 そう言って、彼女は胸の前で右手を左手で包むと、その場でひざまついた。

 プラント教では、高位の者に対する仕草となる。

 彼女の後方に居た隊長たちは、見事に揃った挙動で彼らの敬礼を送ってくれた。


 この異星に住む人類の歴史が変わりつつある事を象徴する出来事だった。 




お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m

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