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第15話  第1章-第15話

20161029公開

1-15



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

-3h12m37s  ビアンカ・ヒル viewpoint


「おとうさま! おとうさ・・ ・・おと・さ・・ま・・・・」


 アイナの声は、途中から泣き出した為に言葉にならなかった。

 そういう私も、夫にしがみ付いていて、安堵の涙を流していたのだから、愛娘と大差が無い。


「ビア、本当に有難う。よくぞアイナを守って無事で居てくれた・・・」


 夫も私たち2人を抱き締めて、言葉に詰まった。

 周囲も同じ様な光景があちらこちらで展開されていた。

 そのほとんどは同じ区画に住んでいた守備兵とその家族だ。

 半ばお互いに生存を諦めていたと思う。

 それ程に絶望的な状況だったのだ。

 聞えて来る音は悲鳴と逃げ惑う足音と滅多に吼えない筈の『害獣アロ』の咆哮のみ・・・

 そんな状況で家族全員が無事に揃うなど、あの地獄の最中に想像する事など出来る筈も無かった。


「もう大丈夫だ。我々には救世主が付いているのだから」


 夫の視線が動いた事に気付いて、私もその方向を見た。


 斑模様まだらもようの緑色の見慣れない服装の少女が居た。

 その少女を重槍兵が囲んでいた。

 まるで、自らの主人は、この少女であると主張しているかの様だった。


「彼女が?」


 私の言葉に答える夫の声には、紛れも無い敬愛の念が混じっていた。

 それは敬虔なプラント教徒の夫が、プラント様について語る時に等しい程に熱がこもっていた。


「まさにプラント様が遣わしてくれた救世主だ」


 偶々なのだろうが、その少女と目が合った。

 そして、人生で初めてプラント様の幻像らしきものを見た。

 彼女の黒目勝ちの瞳が1つの言葉を叫んでいた。


『生き延びよ』


 私は、自然とプラント様に祈りを捧げる様に手を合わせて、膝を曲げた。

 周囲には、私と同じ行動を取る人々が続いた・・・


 




  

「さすがに6千人からの避難民を抱えて、今からニューランドまで移動する事は無謀だと思う。疲労も有るし、途中で野営になる。野外で夜間に襲われたら収拾が付かんぞ。それに強行軍で進んでも脱落者が続出するだけだろう」


 富田様が正論を展開した。


「いっその事、今夜は南半区で休んで、明日の早朝に出発する方が良いのではないか?」

「むしろ、ニューランドへの避難は止めて、ここに留まる方が安全ではないか?」

「だが、入り込んでいる害獣への対策はどうする?」

「まだ日没までは時間が有る。入り込んでいる害獣どもを掃討すれば安全に今夜を過ごせる」

「誰が掃討するんだ?」


 みんなの視線が俺に向いた。


「いや、さすがに南半区の面積を1人で掃討するのは勘弁して欲しいな」


 1㌔四方を1人で掃討するのは時間さえ掛ければやれなくもないが、害獣が俺を避ける様ならば何日掛かるか分からない。

 陽が落ちた後では、いくら地球に居た時よりも夜目が効くとはいえ危険も倍増する。それに南門を閉めなければ市外から害獣が入り放題だ。1人で巨大な門を閉めるのはさすがに無理だろう。

 もちろん、即自メンバーと一緒に南門を閉めた後で、掃討すれば明日中には状況終了するのは可能だろう。

 だが、その間に避難民が襲撃を受ければ想像もしたくない被害を受ける。


「脱出するにしろ、留まるにしろ、食料が積まれていない倉庫をいくつか確保して、そこで夜をやり過ごす方が現実的だろう。幸い、気温も低くない。1晩くらいなら着の身着のままでも過ごせる筈だ」


 俺は日本での災害時に行われる避難所設営を念頭に置いて発言した。

 戸外でビクビクしながら1晩過ごすよりも避難民の疲労は少ない筈だし、警護もし易い。



 俺達は南半区の北西の角近くに在る守備隊の本部に来ていた。

 守備隊の根拠地とも言えるが、地球の警察署と同じ様にごく普通に通りに面していて、防護柵や金網で覆われている訳では無かった。3階建てで、それなりに大きな建物だが、それでも避難民全員を収容出来るわけでは無い。

 実は現在、俺達はコロッセオを出発した時には想像もしていなかった事態に直面していた。

 弓兵小隊が手持ちの矢を全て使った為に補充が必要となったので、貯蔵されている遠征用の食料の調達も兼ねてやって来たのだが、その過程で、周辺の住宅区域で大量の避難民を救助したというか、勝手に合流して来たのだ。

 その数は5千人を超えていた。

 『害獣アロ』は、逃げ出そうとして南門に向かう為に南半区の戸外に居た住民を先に襲ってから北半区になだれ込んだ様だった。

 この辺りの出来事は、『害獣アロ』を追い掛けて北半区にやって来たM1873攻撃魔法ファイノム小隊の隊長、ベルナルド・サレス中尉が明らかにしてくれた。

 彼の部隊が仮眠を取っていた時に悲鳴が鳴り響き、慌てて部隊を叩き起こして中央門に急行した途中で見た中央大通りは死体の山が築かれていた。

 中央門も死体の山が邪魔になったせいで閉めれなかった程だった。

 だが、その犠牲者のおかげとも言えるが、家の中に閉じこもっていた市民には却って被害が及ばなかった様だった。 


 現在は、生き残った守備隊の各隊長と(城壁上に居た守備隊の生き残りも合流していた)、召喚者文民代表の富田様、召喚者軍事部門代表としての俺、それとプラント教代表としてリリシーナとで話し合いが行われているところだ。守備隊の隊長は遠征組だったし、副隊長以下事務員も行方不明なので(一部の武装が無くなっている事から市民の救出に出たと思われる)、実質このメンバーがこの集団の本部構成員となっていた。

 現在、守備隊本部の横に在る200㍍四方の公園には、6千人に近い避難民がひしめいている。

 公園にフェンスなど無いので、防御拠点としてはかなり脆弱だ。それを生き残った守備隊と俺たちが守っていた。守る距離を考えたら薄氷の様に脆い防御線としか言いようが無かった。

 そして公園の一角では、守備隊の貯蔵資材からありったけのテントと医療用具を根こそぎ持ち出して、軽傷者の治療に使われている。

 重傷者はこの守備隊本部の会議室に集められて、子供たちが付きっきりで《活性化ヒール》を掛けている。一時はピコマシン切れを起こしたが、現在は最初の頃に使われて空になったものの、4時間掛かる再充電が終わったピコマシンが自転車操業の様に使われていた。

 

 


「避難民の代表者が居れば、倉庫の心当たりを聞きたいのだが、生き残っているのか?」


 俺の言葉に、ベルナルド・サレス中尉が答えてくれた。


「商業組合代表のルイ・サレス氏を見掛けたから、彼に意見を聞くのが良いだろう。部下に呼ばせて来る」


 呼ばれて来たルイ・サレス氏は初老に差し掛かった背の高い美男子だった。意志が強そうな碧眼が印象的だ。


「それならば、私の商社の中規模な倉庫3棟が丁度空いています。場所もここからさほど離れていません。ただし、荷棚以外は地面が剥き出しですので寝るには不向きですが・・・」 

「見せてもらっても良いですか?」

「勿論、構いません」


 案内された倉庫は100㍍×50㍍の大きさが有った。倉庫の半分ほどの面積には、穀物の袋を置く為の高さ1㍍、幅1㍍の棚が平行に1㍍半間隔に組まれている。

 持ち出した荷物を置くには棚が使えるが、人間は地面に寝るしかない。

 だが、子供や老人は棚の下の段に寝る位は出来そうだし、穀物を入れる丈夫な袋の貯蔵もかなり有ったので、それを敷けば地面で寝るとしても多少はマシだろう。

 1棟で2千人を収納すれば、1晩限りの宿としては使えそうだった。扉も頑丈で、害獣の侵入は防げそうだ。安心して寝れる事は体力の消耗を抑える事に繋がるので早速借り受ける事にした。

 使用料を払うと言ったが、ルイ・サレス氏は固辞した。守って貰うだけで十分な報酬だと言って・・・

 後は食事だが、これも本部に有った炊具をフル活用して、供出して貰った材料を基に簡単な夕食を配給すべく事前に手配は終えている。

 今頃は公園で、避難民自身の手で食事を作っている最中だろう。


「歩哨は我々が先にするので、守備隊は後半を頼む。少なくとも6時間は休んで欲しい。リリシーナ様?」

「オダ様が仰る通りにして下さい。プラント様の御神託が有りました。魔力ピコマシンの回復が早まる加護が与えられると仰せでした」


 嘘では無いが、真実はかなり隠蔽されている。

 真相は、俺から宇宙船プラントに守備隊のピコマシンを俺たちに使った最新型に入れ替える様に持ち掛けたのだ。普通は経口で取り入れるピコマシンを強制的に入れ替える為には、どうしても数時間は掛かるそうだった。その間は寝ていて貰わなければ身体に影響が出る。その為に守備隊の歩哨を後回しにする必要が有った。

 ただ、出力までは俺たちと同じ性能は無理だった。デチューン版でなければ周囲の細胞が耐えれないそうだ。それでも元の5割増し強にはなるので実質のピコマシーン増強は1.5倍になる。4GB増えた分を全て弾丸の0.45ACP×30や.44-40×30用に回せば、これまでの30発から一気に3倍の90発まで増える。

 これで今まで12時間は必要だった再充電が4時間に短縮される事と合わせて、大きな戦力アップになる。

 

 夜半に歩哨を交代して、叩き起こされたのは夜明け前だった。

 現役時代の訓練の成果か、意識が急速に覚醒して行く。


 守備隊の各隊長が一堂に会している小さな会議室に案内されて向かうと見慣れない人物が居た。

 俺と同年代の人物だった。

 身なりは良いし、端正な顔をしているが、表情には焦燥が浮かんでいた。


「悪い。だが、これを聞いたら起こした理由に納得する筈だ」


 ゴンザレス少佐が憔悴した表情で詫びて来た。

 そして、傍らに居る人物を紹介してくれた。


「ニューランドとの運送に携わっているアントニオ・シルバ殿だ。たった今、こちらに着いたばかりだ。それではシルバ殿、先程の話を頼む」

「ええ。私がニューランドを出発して半刻ほど経った後でしょうか、ふと何か変な感覚がしたので、周りを見渡して見ましたが特に問題が無かったのでホッとしたのですが、それまでに来た道を振り返ると、予想もしなかった光景が目に入って来ました」


 シルバ氏は一旦、言葉を切った。

 俺は頷く事で先を促した。


「ニューランドは災獣レックスの群れの襲撃を受けていました。それも、これまでに見た事の無い数でした。多分数百頭は居た筈です」


 ニューランドに避難するという選択肢が完全に消えた瞬間だった。


お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m



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