第14話 第1章-第14話
20161023公開
1-14
深雪たち女子高生チームが突出した戦闘力を見せ始めたのは完全に予想外だった。
というよりも、深雪が戦場での指揮官としての素質をあっさりと開花させた事が予想外と言える。
確かに高校のソフトボール部の主将だが、平和なクラブ活動と今とでは求められるものが全く違う。
兄として喜ぶべきか憂慮すべきかに悩むが、指揮官としては喜ぶべき「嬉しい誤算」だ。
また、アクティベイト後に告げられた俺のiP6sPlus 128GB級や深雪のiP6s 64GB級の意味を知れば知る程、宇宙船が必死?になって俺たちの遺伝子を求めた理由が分かる気がする。
まさか自分たち兄妹が《チート》と呼ばれる様な存在になるとは考えても居なかった。
もっとも、『俺TUEEEEE』の実感なんて少しも無い。
気を緩めれば死ぬのは、Sの訓練や戦場と同じだからだ。
『俺TUEEEEE』に浸るのは、自分が死ぬか生きるかの状況では只の戦死フラグだ。
俺の12㍍後方から続いている隊列は、50㍍近い長さになっている。
隊列の先頭はリリシーナとゼフ(セバスチャン)が指揮する2台の巨大な馬車だ。
リリシーナは最初は荷台に乗っていたが、今は御者席に移っていた。理由は荷台に重い負傷を負った守備隊の兵士と市民が4人ずつ乗せられているからだ。
そして馬車2台は並列に進ませている。
馬車を先頭にした理由は2つ有る。
隊列の後方とかに配置して、暴走されたらそれだけで壊滅的な被害が出る事を考慮した事が1つ目。
まあ、これは、本当に万が一の事を憂慮してだ。『益獣』は大人しい割にかなり豪胆な性格をしている様だ。
俺たちが発する連続した発砲音にも驚かなかったし、細かい襲撃を加えれば2ケタを超える『害獣』の襲撃に怯えた様子は一向に見せなかったから多分想像している通りだろう。
2つ目はいざといった時に突破力を発揮して貰う事を考えてだ。
その突進力は『災獣』でさえ避けると言われているみたいだ。
もっとも、そんな事態そのものを避ける為に俺が斥候をしているのだが・・・
2台の馬車の後ろには初期に加わった避難民67人が5列に並んで続いている。
その後方に日本人の集団44人が続く。
何気に隊列の真ん中くらいに配置しているが、この配置は身内びいきだけでは無い。
この位置ならば、ガバメントと言えども、隊列をある程度カバー出来るからだ。
外側に居る成人男性18人だけでも濃密な弾幕を張れる。
列の左右の外側にそれぞれ9人が配置されているが、各自1秒間に1発以上の発砲が可能だった。9人の発砲を合わせれば弾数だけならハチキュウ1丁の連射に匹敵する。こちらの世界の代表的な火力である攻撃魔法小隊25人をも上回る弾幕だ。
最後の列は続々と増え続ける避難民だ。深雪が着実に回収してくれるので今では200人を軽く超えている筈だ。
『害獣』の群れの襲撃をなんとか撃退しつつ辿り着いた中央門前広場は、静寂に包まれていた。
動いている生き物は『害獣』くらいだった。
中央門前広場の土は大量の血糊でどす黒く変色していた。乾き切っていないせいで、水たまりの様になっている箇所も有る程だった。
『害獣』が食い散らかした人体だった物の喰い残しをついばんでいる『害獣』の群れだけが、動いていた。
予想通りに、中央門は開いたままだった。
俺は警戒を続けながらも、今後の方針を決める為に後続から富田様、ゴンザレス少佐、カルロス准尉を呼ぶ事にした。
「店長、深雪ちゃんからの伝言を預かっている。『近くに守備隊の人の家族が結構固まって暮らしていた区画が有るみたいなので、配慮をすべし』という事だ」
会談の冒頭でいきなり富田様が爆弾発言をした。
「本当なのか、カルロス?」
彼の態度はキッパリとしていた。
「今は身内の事よりも、避難民の安全を優先すべきだろう。わざわざみんなを危険に晒す事は避けるべきだ」
「カルロス准尉の言う通りだ。特別扱いはしないでくれ」
ゴンザレス少佐もカルロスの言葉に同意した。
「深雪ちゃんからの伝言には続きが有る。『と、言う事で、この伝言を聞いた1分後に回収に行って来るね、テヘペロ』だそうだ。テヘペロの意味は分からんが・・・」
富田様の言葉に、俺は頭を抱えたくなってしまったが、深雪は言い出したら止まらない。
隊列の後方に目を向けると、深雪がサムズアップをしていた。
「カルロス、ピコマシン切れしているのは知っているが、深雪の案内をしてやってくれ。ゴンザレス少佐も数人でいいので護衛を付けてやって欲しい。構わんか?」
「いいのか、オダ?」
「軍人の家族はこういった事態に対する覚悟は出来ている筈だ。言い換えれば、閉じこもって生存している可能性は高い。『プラント様に仕えし至高巫女様』から頼まれている、逃げ遅れている市民を助けて欲しいという願いに応えるという点にも合致するし、その過程で周辺の生き残っている一般市民も回収する事も期待出来る。ただし、時間は20分しか与えられないぞ」
口にした時間の概念や距離は意訳されて伝わる事は経験から知っていた。
俺の言葉に後押しをされて、2人の顔に今までには見られなかった表情が混じった。
「分かった。言葉に甘えさせてもらう」
「急げよ」
大急ぎで走って行く2人の後ろ姿を見送る俺に富田様が話し掛けて来た。
「2人の前では言えなかったが、深雪ちゃんはこうも言っていた。『東日本大震災で災害派遣に従事した自衛官は被災した自分の家族への心配を押し殺したけど、こっちの人達にそれを求めるよりも救いの手を差し伸べた方が後々に効いて来ると思う。情けは人の為ならず、ってやつやね、富田のおじさん』とな。誰に似たのか、深雪ちゃんはなかなかの大物だな、信坊」
「ええ、正直なところビックリしています」
中央門前広場に居た『害獣』どもは姿を隠していた。
こちらの戦力が今までの人類とは違う事を分かっている気がした。
厄介な相手と言える。
20分後、深雪は500人以上の人間を引き連れて戻って来た。
その中には、ピコマシン切れのM1873攻撃魔法1個小隊も混じっていた。
俺たちは大きな貸しを得る事に成功した・・・
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-2h29m06s ビアンカ・ヒル viewpoint
「おかあさま、わたし、こわい・・・・・」
一人娘のアイナが私に抱き付いたまま、小さな声で呟いた。
その言葉の通りに、我が身ですっぽりと覆える程に小さな彼女の身体は小刻みに震えている。
安心させるように我が娘の背中を優しく叩いて上げる。
「大丈夫よ、アイナ。きっと、お父様が助けに来てくれるわ」
「おとうさま、きてくれるかな? きてくれるよね? あいな、いいこにしていたもの・・・」
「ええ、アイナは良い子にしていたもの。だから、きっと来てくれるわ」
数刻前まで、街は音に満ち溢れていた。
だけど、今は何も聞えなかった。
この街には、自分達母娘だけが生きていて、他は全て死に絶えたかのように感じる程、街から音が消えていた。こんな事は私の人生で初めての出来事だ。
「ええ、アイナは良い子にしていたから、きっと、大丈夫・・・」
もしも、『害獣』が家の中に入って来ても、ドアが簡単に開かない様に色々なものを積み重ねている。
結婚を機に退役したが、これでも元一等M1911攻撃魔法士だ。
現役時代ほど上手く扱えないだろうが、それでも何頭かは道連れにしてやる。
最悪の場合には、アイナに隠れて貰う為の中身を放り出した金属製の衣装ケースもすぐそこに置いている。
願わくば、私だけで満足して欲しい。私で満腹になれば、アイナは助かるかもしれない・・・
そんな事を考えている時だった。いきなり攻撃魔法を使った時の音が街中で鳴り響いた。
それまでに聞いた事の無い音に疑問を抱くが、有り得ない事に鳴り止まない。不規則に、でも、ずっと鳴り続けている。
20拍以上経った後でやっと止まった。
きっと、30回以上は撃った筈だ。魔力が切れたのか処理が間に合わないのだろうかと思ったら、また鳴りだした。
今度も同じくらい続けて鳴り響く。無傷のM1911攻撃魔法小隊の援軍が来たのだろうか?
いきなりの展開に理解が追い付かないが、援軍が来た事は現実だ。
「おとうさまだ! おとうさまがきてくれた! おかあさん、おとうさまだよ!」
アイナが久し振りに笑顔を見せた。実際にはたった1日しか経っていないとは思えないが、本当に久し振りの笑顔だった・・・
そして、あの人の声が聞こえた。
何人もの男の人が、同じ言葉を叫んでいるが、自分の夫の声を聞き違える筈は無い。
「家の中に居て、無事な者は大至急出て来てくれ! これからここを脱出する! ニューランドに行く途中で食べる食料の他は最低限で構わない! 時間が無い! すぐに撤退するから、早く出て来てくれ!」
私は、この騒動が起きてから、初めて涙を流した。
プラント様に感謝を捧げた後で、久しぶりの心からの笑顔を浮かべて(アイナを安心させる為の笑顔はそれこそ数えきれないほど浮かべて来た)、愛娘に言った。
「アイナが良い子にしてくれたから、プラント様がお守り下さったのよ。ありがとう、アイナ」
愛娘もプラント様に感謝の祈りを捧げた後で、力いっぱい抱き付いて来た。
私たちは助かったんだ・・・・・・・・
お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m




