第13話 第1章-第13話
20161016公開
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-1h37m57s 神崎 彩 viewpoint
「アヤッチ、そっちに2匹行ったで!」
ミユキの言う通り、『害獣』が2匹、10㍍先を右から左に斜めに横切る様に走って来た。
「見えた! この! この!」
まずは先頭の『害獣』に銃弾を集中させる。少なくとも2発が当たって着弾の衝撃で身体がブレた後で動きが鈍った。
次だ、と思って目をやるともう1匹の方が真っ直ぐこっちに突っ込んで来ていた。
真正面から見ると、本当にコイツらは幅が薄い。当て難い・・・ 目の前まで迫られてやっと背中に命中した。
このままだとぶつかる、と思ったら右足が出ていた。中学の頃まで通っていた空手教室の癖が出て、『害獣』の鼻先にブーツ(正確には編上靴というらしい)が斜めにカウンターの様に入った。私よりも体重が有る筈だが、綺麗に打ち抜けた事で押される事なく蹴った勢いを敢えて殺さずにそのまま右足を地面に叩き付けて、銃口を『害獣』の首筋辺りに向けて0.5秒程引金を引いた。
「亜里沙、里璃亜、玲奈、そっちに1匹追い込んだで! 任せる!」
「はい!」
ミユキの声に、レジ仲間の返事がハモった。
もう何度かも分からんほど、私らは『害獣』の群れの襲撃を受けて来た。
その間、同い歳で親友のミユキは女子高生ながら、ずっと最前線で戦ってくれた。
私はその間、1発も撃っていなかった。
お母ちゃんがスーパー織田に役職付きでヘッドハンティングして貰えたのは、ミユキの口利きが有ったからだ。その事は本人が否定しているが、私には分かる。だって、採用の通知が届く前日のミユキの態度が、隠している積りだっただろうけど嬉しくて仕方ないってモロバレだったからだ。
いくらミユキが心身ともに強靭といっても(私らと同じ中学校出身者内では「アイアン・ミユキ」と呼ぶ時が有る程にタフで有名だった)、こんな命のやり取りが続くとさすがに疲労が溜まると思う。
なんとか手助けしたいと思ってたのはレジバイトの後輩の3人も同じ様だった。
1年後輩の平山亜里沙、牧野里璃亜、白石玲奈の3人だ。
お母ちゃんを説得した上で、私が近くに来た「即自」の岡さんにミユキと一緒に戦いたいと言ったら、私たちも一緒に戦うと立候補してくれたのだ(ちなみにスーパー織田では「そくじ」と言えば『即応予備自衛官』を差す。こんなスーパーは当店だけだろう)。
結局、惣菜・ベーカリー部門の川島さん(即自の人たちで一番上の階級だった。こんな事になって初めて知った)に話しを通して貰って、最終的に店長が判断を下して、女子高生5人で1つのチームを組んだ。
組んでから最初の襲撃はミユキだけで撃退した。
次の襲撃は私も6発だけ撃った。
その次の襲撃は亜里沙、里璃亜、玲奈も撃った。
その次の襲撃からはミユキが指示を出して、チームプレーをする様になった。
で、今では、私たちは『イージス艦娘クインテット』と呼ばれている・・・・・
命名者はソラさんだ。あ、ソラさんとは松浦さんの事だ。宇宙の名前をもじってそう呼ばれている。まあ、長過ぎるから、そのうちに適当に省略されると思うけど・・・
迎撃は、大体は最初にミユキが『害獣』を発見するところから始まる。
ミユキ曰く、なんとなく殺気を感じるらしい。
そう言えば、最近はみんなに隠しているが、ミユキは小さい頃から「不思議ちゃん」の一面が有った。
私が覚えている最大の出来事は小学校の帰り道に急に近くの商店街に行くと言い出した時の事だ。
理由が、『だって1万円が落ちてるんやで。交番に届けたらお礼でケーキ食えるで』という、意味の分からないものだったが、結局、彼女の言う通りになった。
あの時は『不思議だなあ』と思っただけだったが、よく考えるとちょこちょこと「不思議ちゃん」の出来事は起こっていた。まあ、私は慣れているけど、付き合いが短い人には不気味がられるので中学生になる頃には隠す様になったけど・・・
で、私とミユキが遠い段階でハチキュンで削って、削り切れない『害獣』は亜里沙、里璃亜、玲奈の後輩コンビがガバメントで削るというパターンが多い。
実は現在、私たちクインテットはかなり広い距離を受け持っている。
最大の数の一番最後方の列を守っている。長さ20㍍くらいの列になっているから160人は居るだろう。
どうしてそんな事になったかというと、理由は、私たちが最大の火力を誇る事と、こっちの世界の兵隊さんのカルロスおじさん達がリタイヤしたから・・・
と言っても、別に死んだ訳でも怪我をした訳でもない。
弾切れだった。
耳元でいろいろ教えてくれる女性曰く、こっちの世界の住人は魔法に使えるピコマシンが少ないそうだ。
でも、8GBしか無いって?
私ら女子高生は全員が64GBだったりする。
その8GBのピコマシンを持つ割合も人口の8%しか居ないそうだ。実際に軍人さんになって攻撃魔法を主力に使える人は全体の2%だけ。少な過ぎる・・・
そっちが弾切れやったら、こっちは逆切れしてもええんやで? って、ミユキが冗談で笑っていたけど・・・
冗談はさておき、そんな事情で私たちは気が付いたら、かなりの距離を担当していた。
まあ、こんな状況では仕方ないとも思う。
容量の話のついでに言うと、こっちの人たちと私たちはかなり基本スペックが違うらしい。
アクティベイトした後で告げられた《iPSE 64GB級》というのは、かなり個人の能力に密接に結び付いていたみたい。
まず、少なくともiPSE級の身体能力は、ミユキのiP6s級や店長のiP6sPlus級には負けるけど、こっちの人のiP級(ただのiP・・・ 初期モデル過ぎて改良のしようも無いほど低いスペックとしか言えない。しかも92%の人間が4GB級だし)をかなり上回る。
見た目は地球に居た頃と変らないけど、遺伝子操作だけで私たちは3割近く身体能力が上がっている。
更にピコマシンで嵩上げされる予定だ。
具体的な数値で言うと、ピコマシンを使って嵩上げされるのがiP級の15%に対し、iPSE級は72%の嵩上げになる。遺伝子操作で嵩上げされた分と合わせると、もう超高校生級と言って良いかも知れない。
まあ、いきなりそんなに嵩上げされると神経が付いて行けないので、段階的に嵩上げしてくれるそうだ。
ちなみに、ピコマシンの嵩上げはミユキで100%、店長に至っては200%の予定だそうだ。
200%って・・・ もう、人間を止めても良いレベルとしか思えない・・・
こっちの住人のほとんどがiP級なんだけど、これは魔法を使う際にも大きく影響している。
私のiPSE級もミユキのiP6s級も、魔法に関しては、トップに君臨する。処理能力に結び付くCPU値がiP級の85倍だからね・・・
これは魔法起動までの時間や、連続で使う時の能力に関わって来る。カルロスのおじさんも店長が連射をした事に驚いていたけど、こっちの住人は連射出来ないそうだ。処理能力が追い付かないらしい。
更に言うなら、魔法の重ね掛けなんか、有り得ないみたい。
そりゃあ、RAM値が私たちの2GBに対して128MBしか無いからね。ガバメントを装備するだけで98MBも使って弾も装備したら106MBが常に使われている訳だから、それ以外の魔法を展開出来る訳ない。
だから、ガバメントやハチキュンを出しながら〈戦闘装着セット(戦闘服2型)〉を着用した私たちを驚きの目で見ていたらしい。
こっちに連れて来られた被害者の中で一番低いクラスだった飯塚のおじいちゃんとおばあちゃんでさえip4s級で、512MBのRAM値と16GBの容量だったのだから、私たちは十分に《チート》と言っても良い気がする。
「おっと、味方が居るで! アヤッチ、回収して来るから、ここ任せてもいい?」
ミユキが突然、声を上げた。
これで5回目だ。
本人曰く『野生の勘』と言っているが、さすが「不思議ちゃん」だ。
「うん、任された」
「あんがとー! マクシムさん! また頼めますか! 30人ほどが取り残されています!」
ミユキの問い掛けに応じて野太い声で返事が返ってきた。
「了解した! エゴール、5人連れて行け!」
重槍兵という大きな盾と槍で身を固めた兵隊さん6人を引き連れて、ミユキが大通りを横切って行った。
隙なく周囲を警戒しながら進むミユキの姿は、歴戦の兵の様な風格さえ有る。
今ではミユキの近くには常に重槍兵の1個小隊が控えていた。
さすがに4回も取り残されている市民を発見した後だけに、いつでも回収出来る様にと配置されたのだ。
一方、私たちはそのまま行進を続ける。ペースを乱すと、前の人達と間が開いて危険だからだ。
5分後、ミユキが連れて来たのは15人の弓を装備した兵隊さんと16人の市民だった。
弓を装備している兵隊さんが背中に背負っている矢を入れる筒は開きぱなしだった。だけど、矢は1本も残っていなかった。
佳澄ちゃんが生活魔法で給水を始めた。連れて来た重槍兵の兵隊さんがコップをテキパキと配って行く。今回は怪我人が居ないみたいでホッとした。
前回の時は大変で、3人の重傷人を急造の担架で運びながら佳澄ちゃんが一生懸命《活性化》を掛けて、なんとか一命を取り留めたくらいだった。
ほんと、佳澄ちゃんは頑張り屋だ。
こんな妹が欲しいけど、ミユキに『もう、うちがつばつけたから上げへんで』と睨んで来たから諦めた。
まあ、ミユキもお願いすれば、頭を撫でて上げる位は許してくれるだろう。
時間が出来たら、頼んでみよう・・・・・・・
お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m




