第12話 第1章-第12話
20161012公開
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子供たちにトラウマになる様な作業をさせている間、バウティスタ・ゴンザレス少佐との打ち合わせは続いていた。
「掴んでいる情報を教えてくれ。なんせ俺もカルロスから聞いた話しか知らないからな」
「そうだな、まず南半区の商業・工業ブロックは諦めざるを得ないと思う。配置されていた守備隊は南門を閉める間もなく撤退を余儀なくされた筈だからな」
「中央門も閉めれなかったのか? あそこさえ閉めれれば、北半区は無事だったろうに」
「俺たちの部隊はそこに配置されていたが、南半区から逃げて来る市民と一緒に『害獣』の1群に入り込まれた。偶然かもしれんが、わざと市民を喰わずに逃がしたのかも知れん。市民の群れに紛れた『害獣』に簡単に懐に入られて、混乱を立て直している最中に更に100頭近くの『害獣』に襲われて部隊の半分近くを失った。仕方なく市民を保護しながらここまで後退した所で包囲されて睨み合っていたところだ」
「他の部隊の動向で何か情報は持って無いか?」
「軽槍兵中隊と弓兵中隊はそれぞれの半分が城壁の上に、残りは南半区に居た筈だが、どちらも不明だ。攻撃魔法中隊の内2個小隊も南半区に居たが、『害獣』を追って北半区に来たのは確実だが、今は発砲音は聞かなくなったので不明だ。もしかすれば中央門を閉じてくれた可能性は有る。北半区に居たもう1つの攻撃魔法小隊もどこに居るのか分からない」
「中央門は閉じられていない。『害獣』まで入り込んで来ているからな。守備隊に関しては何も分からないという事か・・・」
「ですが、我々以外の攻撃魔法小隊はもしかすれば潜伏して魔力の回復を図っているのかもしれません。冷静な判断を下せる小隊長が揃っていますし」
カルロス准尉がゴンザレス少佐に推測を言った。
まあ、希望的推測にすぎないが・・・
この聖都「ファーストランド」は北側を川に接した立地で築かれていた。
それに、かなり拡張を重ねたので、区画によって築造年代も区画割も違う。
大きく違うのが北半区と南半区だ。細かく分かれた区画割りになっているのが北半区で、南半区はかなり大きな区画割りになっている。
元々、この都市は、移民第3陣の先鋒5千人が東西500㍍、南北550㍍の城塞都市を築くところから開発が始まった。北250㍍は住居区と商工区で、連作障害を避ける為に南300㍍が農地区・放牧区・休耕区という3つの区に分かれていた。
十分に機能し始めると、次鋒の5千人が東隣に同じ規模・同じ構造の城塞都市を延長した。
その区画も機能し始めると、次は一気に1万人で東西区画を合わせた規模で南側に延長した。
完成時点で2万人以上が住む、東西1㌔、南北1.1キロの城塞都市が出来上がり、橋頭堡として十二分な規模になっていた。
そして残る2万人が築いたのが後に南半区と呼ばれる、それまでの3段階で築いた城塞都市と同規模の城塞都市だった。
だから北半区は細かく区画が分かれていて、南半区は大きく区画が分かれていた。南北の半区の境界に城壁が残されているのも、中央門と呼ばれる門でしか行き来出来ないのも、その当時の名残だ。
その後、海岸部に築かれた「ニューランド」への入植が始まる少し前に、「ファーストランド」の川を渡った北部に拡がる平野部を開墾して穀倉地帯へと発展させていった。この開墾を始めた頃がこの都市の人口でのピークだった。8万人くらいが住んでいた筈だ。
現在の聖都住民は1万人を切っているだろう。開墾した土地に大部分の人間が住む様になったからだ。
更には新たな開墾地を求めて北に向かった事が、今回の危機を拡大させてしまった。
宇宙船の説明シーケンスで教えられた事だが、こちらの住人には伝えられていない様だ。
現在の「ファーストランド」の人口の内「プラント教」の信徒と鍛冶職人、守備隊とその家族などが3千人くらいで、残りは農作物や畜産物の流通を手掛ける商人たちが占める。
だから南半区には、居住区と工区を除くと10万人の胃を満たす規模の穀物用の倉庫が整然と並んでいた。
「これからこのまま大通りを南下して中央門に到達後、状況を見てそのまま南下後に南門から出るか、中央門を潜らずに中央城壁沿いに東に向かうかを決める。未だ逃げ遅れて屋内に避難している住人も多いだろうから、回収も暫時行う。異存は?」
「無い」
「こっちもだ」
更にこれからの陣形を3人で打合せて、これまで通りに斥候をする為に隊列の先頭に行こうとしたところで、リリシーナと出会った。
「オダノブユキ様、民を助けて頂いて、本当に有難うございます」
そう言って、彼女は綺麗なお辞儀をした。
頭を下げる時よりも上げる時の方がゆっくりとしている。付け焼刃の俺の接客用のお辞儀よりも遥かに様になっている。
その事に気付いた俺は思わず苦笑いを浮かべた。
その苦笑いに気付いたリリシーナが首を傾けた。
「いえ、綺麗なお辞儀をされたので、自分の至らなさに苦笑いが浮かんだだけです」
そう言えばこちらの軍人相手には階級に関係なく言葉を崩しているのに、この目の前の少女にだけは丁寧な言葉を使っている事に気付いた。
自分が思っている以上に宗教的な権威に弱いのだろうか?
「思ったよりも逃げずに残っている市民が居る様なので、この後も可能な限り避難民を吸収して行く予定です。ただし、危険が増えて行く事と限度が有る事を理解願います」
避難民が増えれば増える程、守り切れなくなっていくのは事実だ。
新たに保護した避難民は132人に及んだ。これで保護すべき人数は258人に膨らんだ。
それを53人で守る事になる。
重槍兵部隊42人が加わったと言えども、火力が大きく増えた訳では無い。
火力は相変わらず変わっていない。
「承知しております。オダノブユキ様にプラント様の御加護が有ります様に」
そう言って、彼女はもう一度頭を下げた。
宇宙船からはもう加護を貰っているが、それと引き換えに命のやり取りをする羽目になっているので、素直に有難く思えない。実際に三宅部門長はこんな異星で命を落としている。
何とも言えない表情の俺にもう一度軽く頭を下げてから、リリシーナは馬車の方に向かった。
彼女に両手を合わせる様に合掌して頭を下げる人がちらほらと居る。
それは『プラント様に仕えし至高巫女様』に対するものと言うよりは着ている服装でプラント教の高位者と判断してのものの様に感じた。
「店長、よろしいですか?」
リリシーナと別れた直後に、川島三曹から声を掛けられた。
「出来るだけ手短に頼む」
「はい。女子高生のレジっ娘の4人が妹さんと一緒に戦いたいと言っているのですが、どうしましょう?」
意表を突かれた。志願される事は全く想定していなかった。
「自分の意志で志願しているのか? 彩君は神崎部門長の許可は出ているのか?」
「ええ、自分で直接確認しました。神崎部門長にも直接確認は取っています。まあ、その際に軽口も叩かれましたが・・・」
「なんて?」
「自分ももう少し若ければ志願するんだけど、歳は取りたくないわねえ・・・ と言っていました」
神崎部門長らしいと言えば、確かにらしい。
ここで彩君が前線に出て貰えれば大きな戦力アップだ。
なんせ、89式小銃を装備している貴重な戦力だ。
残りのレジバイトも若いだけあってピコマシンの量はカルロスたちとは桁が違うだろう。
問題は指揮系統だが、深雪の指揮下なら大丈夫だろう。
「分かった。許可する。だがくれぐれも無理をするなと言っておいてくれ」
「了解です。あと、ソラのヤツも志願して来ました」
松浦君も89式小銃を装備している。確かに戦力としては活用したいところだが、深雪に比べれば危惧を抱かざるを得ない。
「俺は直接松浦君の戦闘を見ていないが、前線を任せて大丈夫か?」
「正直なところ微妙です。ですが、背に腹は代えられないのも事実です」
「松永君を付けよう。2人で組めば、安定するだろう。松永君を呼んで来てくれ」
松浦君と松永君は一緒にやって来た。
2人は俺の考えを聞いた後で即決で了承した。
保護すべき住人が倍増した事を考えると、焼け石に水とは言えるが、贅沢を言える状況では無かった。
少なくとも実戦を経験した後に志願してくれたという事は、士気に関しては不安は無い。
生き残る為には、使えるモノは使い切るしかない。
それが猫の手であろうと、立っている親であろうと、オタクコンビであろうとだ。
やはり俺は、非道な人間らしい・・・・・
お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m




