最終章 『月花美陣』 PART11
❆.
「……よかったな、志遠君。いや、よくなかったのかな」
雪奈は千月の後ろ姿を眺めながら新しい煙草の封を切った。
彼は彼女を救うために自分の記憶を掻き消した。彼女に別の未来を歩ませるために敢えて自分の存在を消したのだ。
だが皮肉にも彼女は彼との記憶を取り戻そうとしている。きっと彼女は再び絶望するだろう。知りたくもない現実を知り再び意識を閉ざすかもしれない。
けれどそれを乗り切らなければ未来などない。希望を見つけるためには絶望を受け止めなければならないからだ。
でも今の彼女ならきっと前に進めるだろう。
なぜなら希望の光を灯してくれる友人との紲があるのだから。
月紲花風
~『月の光』は彼らの希望を紲いでいく~
人は一人では生きられない。また、二人でも生きられない。多くの繋がりに支えられて初めて安定のない未来を生かして貰えるのだ。
名前を持たない星でも集まれば星座を描くことができるように、一人では心細い光でも重なれば頼もしい閃光となる。
一人で光ることができなくてもいい。誰かに光を当てて貰えるだけでも灯りを持つことができる。月のように、太陽の存在があれば輝きを取り戻すことはできるのだ。
今夜もまた彼女のために月の光を灯そう。彼女の心に火を点けるために熱を込めて演奏しよう。
……そして。
私の希望の光を見失わないためにも、ピアノを奏でよう――。