53/78
第五章 『花纏月千』 PART1
1.
花びらは天空を舞い、月の光は地上を照らす。
花天月地、この言葉はどちらも存在するだけで美しいとされる代名詞だ。だが本質的には対極に存在するものでもある。
一瞬の命しか持たないが無限に咲き続ける花。
永遠の光を放つが夜の闇の中でしか輝けない月。
どちらも同じ世界に存在するものだけど、天と地に分けられる程、正反対の意味を持っている。
昔から日本人は花と月を愛でてきた。それは昔の諺の多さにも比例している。
花鳥風月。月に叢雲、花に風。花鳥諷詠。風花雪月。
これらは全て自然を愛するがために出来た形容句だ。花天月地という言葉もそのうちの一つにあたる。
しかし今の僕はこの言葉を聞くと必ず違和感を覚えてしまう。
なぜなら花は地上で咲き、月は天にあるものだからだ。花びらは天に舞うけれど花自体は地上に住んでいるし、月の光は地上を照らすけど月自体は天にある。
『逆』の方がしっくりきてしまうのだ。
時として、言葉には逆に来る方が適応する場合がある。
それはこれから始まる物語においても、いえるのかもしれない――。