第三章 『花弔封影』 PART1
1.
花は妖艶な香りを残し、鳥を惑わす。惑わされた鳥は感じたままに唄い、思いを風に乗せて仄めかしていくだろう。
花鳥諷詠、四季の移り変わりをあるがままに唄おうとする俳句の理念だ。
だけど今の私はこの言葉のようにできない。自分の気持ちを正直に告げることなど、できそうにない。
本当は伝えたいのだ。誰でもいい。自分のことを知らない人であれば、なりふり構わず思いを述べて楽になりたい。
あなたと出会わなければ、叶わぬ夢を見ることもなかった。
あなたの存在を知らなければ、眠れぬ夜を過ごすこともなかった。
あなたに気持ちを伝えることができない状況の中で、私の気持ちは無意識のうちに肥大するばかりだ。
この一瞬が、永遠に変わらないかと。
もう少しだけでいいから、時間を止めて欲しいと。
私はそればかり願ってしまう。
私の願いはたった一つ。
残されたあなたの時間を共有したい、それだけなのに。
でも、成就しないことはわかっている。感情が追いついていないだけだと理解もしている。
だけど、あなたが愛しくて、あなたが恋しくてたまらない。
私の全ては今、この瞬間にあるのだから。
決してこの先私が望んだ未来がこなくても、私は思い続けるだろう。あなたがここにいたという証は私の瞳に刻まれているのだから。
そして、今でも私の胸の中に――。