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長編小説 4 『花纏月千(かてんげっち)』  作者: くさなぎそうし
第二章 『月運花馮(げつうんかふう)』 緑纏 凪(ろくまと なぎ)編
25/78

第二章 月運花馮 PART13 (完結)

  13.


 5月8日。


 ……これで最後の一件だ。


 凪は伝票を確認しながら病院へ入った。前回と同じ特別病棟だ。今日は母の日だが、今年は連休明けにあったため配達はそこまで多くない。連休が近いとほとんどの人が里帰りなどでその時に何かしらのプレゼントをするからだ。


 特別病棟に行くエレベーターを待っていると、千鶴を見かけた。声を上げるとこちらに気づいたようで軽く手を振っている。


「お疲れ様。その様子だとまた配達みたいね」


「ああ。千鶴ちゃんの患者さんにお花を届けにね。仕事の調子はどう?」


「うん、今の所は大丈夫」


 千鶴は小さく笑った。

「担当が一人しかいないから楽ね。主任が理解のある人だから、葬儀の仕事がある時でも交代を許してくれるし」


「いい上司を持つと楽でいいよなぁ。俺の所なんかさ」

「いいよ、聞かなくてもわかってる」


 千鶴は再び微笑んだ。

「さあさあ、早く終わらせないとまた携帯が鳴っちゃうよ」

「違いない。それじゃあね」



 エレベーターで10階まで上がり手続きを済ませる。部屋に入ると、届け先の東雲和巳だけでなくその依頼主までいた。


「来てたんですね。ご注文の花を届けに上がりました」


「ありがとう」


 東雲翼は笑顔でいった。

「早速花瓶に水を汲んでくるわね」


 彼女が水を汲みにいってる間、凪は和巳にそっと球根を手渡した。

 「今日はサービスでこれも届けに上がりました」


「まあ、ありがとう。これは何の球根?」

「当てて見て下さい」

「そうねぇ。……ヒヤシンスかしら?」

「当たりです」


 凪は大きく頷いた。

「まだ早いですが来年に向けて咲かせて下さい。色はその時のお楽しみです。鉢物とはまた違った咲き方をするので面白いですよ」


「……それまで持つかしらね」

 和巳は自分の体を見て心細く笑った。


「持たせて下さい。大丈夫、担当の看護婦さんは信用がおけますから。お医者様まではわかりませんがね」


「……本当に正直な人ね」


 和巳は小さく微笑んだ。

「でもせっかく貰ったんだから、頑張ってみるわ。どっちも上手くいくようにね」

「ええ、その意気です」


 凪は病室を見渡した。きちんと揃った三つの鉢が同じ所に置かれてある。その真ん中は紫色のヒヤシンスだ。花はすでに枯れてあるが、来年に向けて再び栄養を蓄えている姿が見える。


 その鉢にはプラカードが刺さってある。そこにはヒヤシンスの育て方と花言葉が書かれてあった。



 お水をたっぷりとあげて下さい。このお花はお水が大好きです。

 土が乾いたら再び湿らせてあげて下さい。寒くなり過ぎてはいけません。根が枯れてしまいます。

 でも冬を越えれば必ず立派なお花が咲きます。

 なぜなら紫色のヒヤシンスの花言葉は『悲しみを乗り越えた愛』といわれているんです。

 厳しい冬を越えれば必ず春が来ます。


 その時に是非、お会いしましょう――。

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