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長編小説 4 『花纏月千(かてんげっち)』  作者: くさなぎそうし
第一章 花弔封月(かちょうふうげつ) 黄坂千月(こうさか ちづき)編
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第一章 花弔封月 PART1

 第一章 『花弔封月かちょうふうげつ』 黄坂こうさか 千月ちづき


  1.


 花鳥風月かちょうふうげつ


 この言葉は自然の美しさを表現した言葉だ。


 花が鮮やかに咲き乱れると、鳥は色を付けて羽ばたく。鳥の羽ばたきは新しい風を起こし、その風の流れはやがて月にまで届くだろう。

 全てには一連の流れがあり、必ず始まりと終わりがある。その一瞬に日本人は美を感じてしまうものだ。


 自然に咲くからこそ花は美しい。

 意識せずに聴こえるからこそ鳥の鳴き声は心地いい。

 季節が変わるからこそ風の流れを感じることができる。

 手に届かない位置にあるからこそ月に想いを寄せることができる。


 その感情は些細な一瞬にしか存在せず、永遠のものではない。時の流れを感じることができて初めて味わえるものなのだ。


 時の流れ、つまり時間である。それは目に見えなくても必ず存在している。人は永遠の存在ではないからこそ時間を大切にし尊重し合う。


 ここで私の中で未だ答えが出ない問題がある。



 それは『時の反対側』には何が来るのかということだ。



 一瞬の反対には永遠がくるように、時の流れの反対側には何があるのだろう。


 もちろん推測はできる。過去へ向かう重力さえも無視するような逆転の世界かもしれない。またはビデオの巻き戻しのような逆回転の世界かもしれない。どちらにしてもこの世には存在しないものだ。


 だからこそ私は時に思いを馳せずにはいられない。


 時の魅力に取り憑かれた私は歯車達を正しく連結させて、血を廻らせ、一つの機構を循環させていく。滞りなく全ての部品が役目を勤めた時、初めてそれは動く。


 その瞬間が、堪らなく心地いい――。

 その一瞬だけは人工の時計が自然に還っているのではないかと錯覚してしまうくらいにだ。


 そう、私の仕事は時計修理技師。


 止まった時に再び息吹を送り込む。凍結した世界に光を差し込み新たな時間を刻ませる。

 この心地よい作業にずっと没頭できるものと信じていた。


 私の大切なものが止まった、その一瞬までは――。

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