チートさん・自衛隊さん。
1時間ほど時間が空いたのでコーヒーブレイクをしていたら。今度はチート勇者男Aさんがやって来た。
「いらっしゃい。今回はどのようなご用件で?」
チートさんはご機嫌そうに語ってみせた。
「俺の魔法ちょっと強すぎちゃってさ、それに無双もしたいんだ。どこか雑魚を沢山蹴散らせる場所ないかい?」
来てしまった。なんかこの世の中、自分を中心に回ってると思っちゃってる人が来てしまった。いわゆる困った冒険者さんだ。
「それって、強い敵と戦いとかかい?」
「いいや、敵は雑魚くて。名声がすぐに上がる場所に行きたい」
(なんともいい加減な人だなあ……)
「ふーん、ちなみにそんなに強いのなら。村1つくらいは救ったりとかした勇者さんなのかい?」
「いいや、それはまだだ」
店員は察した。この人は、自分は強いと思っているただの初心者だ。
「ん~それじゃあ。イフリートの熱山なんかどうかなぁ、あそこならケガをしてもすぐに初心者の街ライデンに帰れるし……」
「おい! 話を聞いてたのか? 俺は「俺つええ」をやりたいんだよ! そこはただの2面エリアじゃないか! ちなみに俺様の魔法は超強くって……」
店員は渋々ながらどうしてそこをチョイスしたのか解説をする。
「良いですかお客さん。あなたは今、周りの人が武器を持っていない状態で、一人だけ武器を持っているような状態です。そりゃあ、他の人より強いのは当たり前です。ですが、パーティとして仲間の事を思いやり、劇的な人間関係を築いてない状態で他の街へ行っても。緩やかに空気になり失踪するのがオチです。私は異世界攻略相談所の店員として、失踪だけは避けなければならない立場なんです」
チート勇者Aさんは高笑いを決め込む。
「この俺様が失踪!? ハハ、笑わせる!」
初心者は大概そうやって慢心するんだよねあ。とは、お客さんなので口が裂けても言えない。
「ですので、初心者の街で仲間を集めるか。2面で弱くても、自分より経験を積んだ仲間達に出会うのが。今のあなたにとって最優先事項になってきます」
「納得出来ねえ! 俺は強い!」
困った店員。ここで一度世界を救った店員の強さを自慢して。チート勇者男Aさんの心をへし折るは容易い。しかしここは初心者相談所。そんな事をやったら二度と足を運んでくれない。どころか、悪評が島に蔓延して、まだ見ぬ他のお客さんが来なくなってしまうかもしれない。なのでここは慎重に言葉を選んで……。
「いいですか。仮にもし本当に強い、上級者向けのダンジョンにあなたを勧めたとします」
「始めっからそう言ってるじゃねーか」
EXステージ。アルテマ島終わり市の事を話したら、だとおかしなことになるので。今回はその話題は避ける。あそこは次元を超えられなきゃ、渡れない島とかがあるからである。
「『嵐の目のサッカー競技場』などのボスモンスターに出くわしたとします」
「一撃粉砕だな、俺様の力を持ってすれば」
「ええ、仮にそれでも良いでしょう。しかし、待っているのは孤独です。張り合う相手が居なくて寂しいという感情です。弟子をとるとか、同じ苦楽を共にした仲間が居るとか。それだけでかなり場の空気は違ってくるでしょう。私は初心者相談所の店員として、まず仲間を見つけることをあなたの最優先課題と位置付けます」
「おっしゃ! じゃあ奴隷ケモ耳少女でも買ってくるかぁ!」
いや、それは酷すぎるだろう。とも思ったが、助言を出してそういう答えに行きつくのなら。やんわりとこの場を送り返そう。そういう考えに陥ってしまった。
「ええ、それで良いでしょう。ご武運を」
数日後。チート勇者男Aさんは、風の噂であっさりと「つまらない」と冒険者をやめて、世界を救っていた。何度も生きかえられる携帯型ゲーム機の中で。
「こんなやりきれない仕事もあるんだなぁ」
ピラミッド型の底辺には成功者の栄光とは裏腹に。沢山の初心者、挫折者が居ることを、身をもって知った店員であった。
初心者用に電脳の街ライデンの地図を探していたら、間もなく自衛隊女Bさんがやってきた。
「こんにちは、始めまして」
「お、いらっしゃい」
穏やかにお茶を手渡す店員。
「それで今回はどのようなご用件です?」
「星と星との和平交渉で、政府に護衛の依頼をされました」
それ、店員に言っても良い内容なのか? と心の中で思ったが。今回はさらっとスルーする。
「それで、場所は何処です?」
「エレメンタルワールド、方位青龍のモンスターワールドとエタニティです」
(村や国単位じゃなくて星か……なんとも壮大なご依頼だ)
自衛隊女さんは、困り果てながら相談してきた。
「それで、どのように指揮を取ればいいのか解らなくて……」
「ちなみに、あなたの出身国はどこですか?」
「戦乱都市アスカです。そこで武術や基礎学力は得ました」
「なるほど、超巨大型戦艦タートル船内の出身者でしたか」
一応、地球人じゃない事が解っただけで収穫だった。あそこは公の場では現在調査中の大陸だったはずだ。その人がここに来たと……。
「モンスターワールドとエタニティは、名前は知っているけど、行ったことはないなぁ」
「お願いします、せめてアドバイスだけでも!」
よほど精神的に追い詰められている様子だった。
「自衛隊の隊員達は全員人間ですか?」
「いいえ種族混合です。アルテマ島、終わり市『最果ての軍勢』の最下位互換の部隊と考えて下さい」
「おおっと、ここに来て最果ての軍勢さんの名前が出てきたぞぉ。ちなみに『ファイブスクール』の面々ですか?」
「いいえ、元から自衛隊所属で。あの化物たちのような超能力は持ち合わせていません」
「なるほど、種族混合の純粋な自衛隊と言ったところですか」
感じとして、力関係は人間と超能力者の間ぐらいの立ち位置だろうと推測できた。となるとその上の層。氷炎結族やましてや土地神なんかがテロリストとして、やってきたら太刀打ちできず。護衛失敗。なんてことにもなりかねない。
「反政府組織はどの種族が大半を占めているのですか?」
「幻影族です」
「うわぁ……」
(自分たちより格上の種族が敵側かぁ、しかも集団で)
「そうなって来ると荷が重いですねぇ」
「はい、そうなんですよ……」
間を置いて考える店員。強い種族を仲間に引き連れて来れば強くはなるが。連携は取れない。となると、武器の新調が視野に入ってくる。
「未発表の代物ですが『魔具シリーズ』の購入などをご検討されてはいかがでしょうか?」
「『魔具シリーズ』? 何ですかそれは」
「マルチバース、未開拓海域で見つかった新たな世界の。新たな武器です。まだテスト段階ですが効果は実験済みです。そうですねぇ、自衛隊さんなら『氷狼法矢』を1人1つずつ装備させて連携を高めて訓練すれば幻影族との戦闘でも役に立つでしょう」
「ありがとうございます、助かります。それでは失礼しました」
「ちょっと土地勘が無くて恐縮ですが。これが私の今できる精一杯のアドバイスです。お達者で」
翌日、新聞で。幻影族にとって未知の武器を装備した自衛隊が居たことから。反乱は中止され、行政は滞りなく終わったことが新聞で伝えられた。初心者相談所の店員はほっと胸を撫でおろした。




