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第十五話 お仕置き ☆

軽いR表現あります。

 結局、柚葉は応接室へ連れて行かれた。

契約関係のトラブルかと、柚葉は華宮夫妻の姿を探したが、そこには誰もいない。

 ん? あれ? 誰もいない?

 ふと見上げると、眉間にしわを寄せたサングラス。

 すっごい不機嫌そうなんですが、何事なんでしょうか。

「私が掛けた上着を脱いだんですね」

 厳しい調子で陸也は問う。

 あ、上着の件か。えと……。

「あ、あの、汚すといけないなって思ったので、車の中に置いてありますが……」

 この理由も嘘ではないし……ね。

 あれれ、眉間のしわ、とれませんね。あ、持って来いと?

「あ、取ってきますね」

 きびすを返して取ってこようとしたのだが、掴んだ手首をさらに強く握られた。

 いたた。

「そんな姿でですか? 上からだと下着の線が丸見えですよ。もしかして、それは彼に見せるためにわざとそうしているのですか?」

 はい?

 私のスーツは、上着のボタンが一つしかなくて襟ぐりが大きくあいているタイプだ。結構胸がある体型なので、しっかり覆うタイプのスーツだと、単に太っているように見えてしまう。それで、ついついこのような型のものを選んでしまうのだけれど……。

 そんなに見えてる?

 それに、彼って誰ですか? もしかして隼人のこと?

「あの、それはどういう……」

 意味ですか、という言葉は遮られた。

「彼を誘っているのですかと聞いているんですよ。そもそも、彼とはどういう経緯で知り合ったんでしょうね? ナンパでもされましたか? まさかあなたから……とか?」

 何の冗談だ? と後見さんを見上げたが、冗談を言っている様子ではない。

 なんかすごいマジなんですが……なんなんですか? それ……。

「そんなことしてませんっ。隼人のことを言ってるのなら、ナンパされたとかしたとか、そんなんじゃないですよ」

 後見さんにそんなことを言われるなんて、なんか、すごいショックだ。

「彼のことは名前で呼ぶんですね」

「え? だって、彼がそう名乗ったから……」

 ってか、やつはそれしか名乗らなかったし。名字知らないし。海野かもしれないけど……。

「だったら、さっきから随分私を避けているようなのは何故ですか? 好きな彼に気を使っているとしか思えないのですが?」

 はぁぁ? それは後見さんが、さとみさんの気持ちを無視して私ばかり構うからじゃないですかぁ。なのに、それがどうして、私が隼人を好きってことになるんですかね。サッパリ分からないんですが。しかも、そんなことで私を責める後見さんの気持ちもサッパリ分からない。

「何なんですか、さっきから。仮に私が彼を好きだったとして、でもそんなの後見さんには何も関係ないじゃないですか!」

 そう言った途端、柚葉の手首を握りしめていた力が一層強くなった。

「関係ないわけがないでしょう! あなたは私のっ……」

 急に言葉をとぎれさせる後見さんに、イライラしながら問う。

「私は後見さんの何なんですか?」

 一体、なんなの? 仲良さそうな二人を見て、気持ちの整理をつけたところなのに、どうして? どうして後見さんは、私をそっとしておいてくれないんだろう。どうして私に構うの?

「私の……社員なんですから、仕事中に浮ついた行動をされては困ります」

 何それ! 私がいつ浮ついた行動をしたんですか! 誤解にもほどがありますよっ。しかも今日は私まだ休暇中だし。

 心の中で何かが、ふつりと切れた気がした。

「……分かりました。私としては浮ついた行動などとったつもりはありませんが、後見さんがそうだとおっしゃるのなら、そうなんでしょう。だったら、これ以上お仕事の邪魔をしてはいけませんから、私はお先に失礼させていただくことにします!」

 不穏な視線を放つサングラスをまっすぐ睨みつけると、掴まれていた手首をふりほどいた。

「柚葉さんっ、どうするつもりですか」

「電車で帰ります」

 阿字ヶ浦にはひたちなか海浜鉄道の駅がある。それで勝田まで出れば、JRに接続できるのだ。

「駄目ですよ。そんな格好で電車に乗るなんてとんでもない」

 後見さんの少し狼狽えているような口調に、内心勝った気分に浸りながら、私は襟をかき合わせた。

「平気です。こうやって前をしっかり合わせておきますから」

 そう言って、一歩踏み出したところで、肩を思いっ切り掴まれて壁に押しつけられた。そのまま両手首を掴まれて頭上で押さえつけられる。

 え……?

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。

「なっ、何を……」

 視界を塞いで立ちふさがる黒スーツをとっさに見上げる。

 その表情は無表情で、それはいつもどおりのはずなのに、いつもと違う鋭く研ぎ澄まされた気配に、柚葉は瞠目して身を竦めた。

「前をしっかり合わせておくんじゃなかったんですか? こうするとシャツが胸に張り付いて尚更よく見えますね」

 瞠目して固まる柚葉を、陸也は無表情に見下ろす。無表情なのが逆に恐ろしい。柚葉は何度も身をよじって逃れようともがくけれども、陸也はびくともしない。楽しげな色さえ浮かべながら見下ろしている。

「柚葉さん、あなた本気で抵抗してますか? この程度なら、私は片手であなたを封じられますよ? ほら」

 片手で柚葉の両手首を交差させて押さえつけ、片膝で両脚を押さえつけると、空いた片手を柚葉の体に這わせる。

 や、いやぁ。

 狼狽える柚葉の耳元に唇を寄せて陸也が囁く。「暇になったこっちの手で何をしましょうか? せっかくですから、あなたのお望みどおりのことをしましょうか?」

 な……にを……するの?

 カタカタ震えながら、柚葉は陸也を見上げる。 片手で透けたシャツの胸元のボタンを器用にはずし、露わになったブラの上から膨らみを鷲掴みにした。ブラからはみ出した白い乳房が陸也の手の動きに合わせて波打つ。

「っぁ、やめて!」

「あなたはこういうことをされることを期待してるんでしょう? だから、そんな格好で電車に乗るつもりなんじゃないですか?」

「ち、ちがっ……」

 陸也の手はブラの下にまで侵入してきた。そのまま乱暴に揉みしだかれ、ブラの上から膨らみの頂を甘噛みされて、掠れた悲鳴があがる。

「いやぁ。お願い……やめて……」

 惨めなくらいに声が震えた。

「駄目ですよ。声を出さないでください。こんなところを人に見られたくないでしょう? もっとも、私にはまだ余力がありますからね。あなたの唇を塞いで黙らせることくらい簡単なんですが……」

 唇と唇が触れるほど近づいて囁く。

 こんなに意地悪で、柚葉の願いを聞いてくれない陸也を柚葉は知らない。

 こんな後見さん、知らない。怖いよ……。

 一言でも声を漏らせば唇が触れそうで、柚葉は声もなく呼吸を乱した。

 絡み合う吐息。混ざり合う熱。愛撫する指先に追いつめられる。

 後見さん、分からないよ。なんで私にこんなことするの? 私のことなんか好きでもないくせに。私、分からないよ。潤んだ瞳でサングラスを見つめる。

「あ、後見さん、どうして? どうして、こんな……するの?」

 ボロボロと涙がこぼれた。

 泣きながら震えて言葉を紡ぐ柚葉に、ハッとした表情を浮かべると、陸也はすべての拘束を解いた。抱きしめて、涙がつたう頬にそっと口づける。

「泣かないでください。あなたが聞き分けのないことを言うからですよ」

 そして、ドアに向かってこう叫んだ。

「さとみ、構わない。入ってくれ。この人に新しい服を買ってあげたいんだけど、君にお願いしてもいいかな?」

 後見さんの言葉に、すぐにさとみさんが入ってきた。

 え? さとみさん! この状況を見ていたのです? で、そこで控えていたんです?

 ええええ~、私、どうすればいいんですか?

 内心、さっきよりも取り乱す。

 あ、あ……あの、私は一体、どんな顔をして奥様であるあなたと対峙すれば……良いのでしょう……か。


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