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18 あぁ恐ろしや女のバトル

ミッシェル捕獲のために作戦会議にパピヨン、由美、エルザが参加します。

会議には柏木もいて作戦の方向性で模索します。

深い人間関係でお互いに処理できなかった想いも入り感情をぶつけ合います。


どれだけの間俺は待っていただろうかこの時を。


目の前にはエルザがいた。

髪は黒く艶があり長さは由美よりも短い。あまり化粧気はない。

顔つきは以前よりもキツくなった気がする。

普段の生活からまさかこんな展開になるなんて思いもしかなったろう。


最後に会ったのは確か、海辺だった。

まさかエルザに撃たれるなんて思いもしなかった。あの時最後のデートになると思っていたがここでまた再会した。

この組織の思惑であれ何であれ俺はまだ生きている。


この日を心待ちにしていたというのに会ってしまえば俺はただエルザを見るのが精一杯だった。


エルザは涙を浮かべた。俺はこういうのが苦手だ。

柏木なら気の聞いたことでも言うだろうか?

ミッションのときはそれなりのことが言えても、素の俺なんてこんなもんだ。

俺は何気に隣にいる柏木を見た。柏木はエルザの方ではなく由美を見ていた。


人は本能で欲するモノの物を追い求める・・・。

あぁ、そういうことね。


俺は由美が「柏木さんともしちゃったくらい」と言ったことを思い出した。なるほどね。しちゃったのか。

俺は自分が妙な立ち居地にいることに気づいた。

これからやる作戦とこの立ち居地どうよ・・・。


この組織の作戦は由美の内縁の夫であるミッシェルを誘きだしたところで拘束することで終了だ。

組織はなくなるし、由美との関係もなくなるとしたらミッシェルはどう動くか。


最悪のシナリオを考えた。その中心は由美の気持ちだ。


これまでの経験で言えばこの女に作戦は通用しない。作戦を自分の腹の内でアレンジし平気で人を裏切る。

できれば組みたくない女だ。今回の場合も十分に裏切られる可能性がある。

この組織はこの女をどこまで信じているのだろうか?


由美は行動に一貫性があるようで読めない。

多分その理由を突き詰めると「愛が理由よ」なんてシラっと答えるだろう。


さてそこで愛に関する問題だ。由美が俺を愛していると言った場合はミッシェルと柏木の利害は共通する。

柏木は由美に好意を持っている。さっきの視線でそう思った。

その好意はどこまでもものなのか計り知れないが。


二人で俺を消しにかかる可能性もある。もしくは土壇場で柏木が裏切る可能性もある。

まさかね。二人に接点はない。それに由美が自分の気持ちをミッシェルに話すとも思えない。


いや、あり得る。


しかし由美はなんでこちら側についたのだろうと思った。

むしろミッシェルを守るだろう。内縁の夫なんだし。なんとも掴めない女だ。本当に。それから見るとエルザは素直だ。

分かりやすい。やっぱりエルザだなぁ。俺は改めてエルザを見て抱きしめた。

しかし何と声をかければいいのか出てこない。


エルザは俺を見ていた。涙は乾いていた。女という生き物はよく泣くが突然冷静になり男を鋭く観察する生き物だと思う。

「パピヨン何を考えているの?心ここに在らずよ?」


随分古風な言い方をするもんだ。突然聞かれて言い訳なんぞ思いつかない。

まさか自分にボキャブラがなさ過ぎてこういうのに慣れていないとでも言ったほうがマシなのか?


俺は思った。自由になって少し時間ができたらラジオ電話相談で相談してみよう。

アノ手の番組はこういうネタが好きだ。


「魚が喰いたいなってね…。覚えてるか?前に川で釣りをやった。あのときお前が釣った魚を料理してもらうはずだった。」


「あぁ・・・。あったね。随分前だ。色々ありすぎてね・・・。」



ふぅー。俺は何とか取り繕った。

しかし魚が喰いたくなった。無性に。

魚は焼いた魚でいい。塩焼きで良い。川魚でなくても良い。できれば野外で料理をして食べたい。


八代亜紀の舟歌のようだ。あぁーオヤジくさくなったなぁ。


俺はエルザに笑って言った。


「この件が済んだら釣りをしよう。魚食べたくなった。」


「うん。私は料理あんま得意じゃないんだ・・・。」


「俺がやるからいいよ。エルザは側にいてくれればいいから。」


エルザは急に真っ赤になった。


俺は一瞬ポカーンとなったが自分がさり気なくエルザに好意を伝えたことに心の中でガッツポーズをした。


やればできるじゃないか!


その瞬間、何か視線を感じた。


何気に人が集まっていて周りの人間がこの一部始終を見ていたのだ。オールだ。

急に俺はジワジワと顔が熱くなってきた。これが赤面というヤツだ。

冷静でクールな俺がこんなところで赤面なんて恥ずかしい。

平常心だ!平常心。


リーダが時計を見て俺に合図をした。もうそれくらいにしてくれという意味か。まったく色気のないヤツだ。

俺はエルザに耳打ちした。


「あとで話そう」


俺とエルザはおとなしくイスに座った。イスはローラーがついているので何気に心地いい。


俺たちの後ろに由美が座った。なんか背中が疼く。刺された場所だ。この女に背中を見せるのは怖い。


「諸君。注目してくれ」


リーダは声を強めて言った。


「初めましてエルザ君。休暇中のところ悪いね。」


エルザはムカっとした顔をしたが何を返事をしたらいいのか分からないふうだった。


「ああ、彼女は通訳が必要かな」


フフフッと笑うと今度はリーダが日本語で話し始めた。


気に入らない。すべて解決して自由になったら最後にコイツを締め上げよう…。


「さてメンツが揃ったところで軽く自己紹介だ。

この組織はカンタンに言えばテログループを消滅させるためにあらゆることを画策するために作られた。

私の名前はエフォワン。エフォとでも呼んでくれ。アホじゃないからね」


柏木はニャリと笑うとエルザを見た。エルザの脳内はアフォと変換するに違いないと思った。


エルザは柏木を見ると


「なんで貴方がここにいるの?」


と聞いた。


柏木は微笑するとリーダのアフォがもとい、エフォが


「彼も作戦の一部なのでね、ここにいるんだ」


リーダはリモコンをとるとモニターにミッシェルを映した。


「さて君たちを集めた理由を話そう。この男知らない人もいるだろうから話すね。

この男は日本で違法行為を繰り返していた。恐喝から誘拐、器物破損、殺人。理由はなんであれ違法だ。

しかも性質が悪いことに、正義を理由としてやっていた。テロを防いでいたという見方もあるがね。

しかし賛同する人間も現れそれが組織となった。組織名がナインレターというのが分かったのは最近だが皮肉にも組織名がわかったところで事実上組織は消えた。

ほとんどのメンバーは国外に逃げたが実態はつかめていない。関連資料にはメンバーの死亡写真があるがね。


リーダーのミッシェルとその息子、デービットは死亡したことになっている。

死亡原因は爆発。デービットの遺体のみを発見した。


しかし実際はリーダ、ミッシェルは生きている。組織も主要メンバーは生きている。それが君たちだ。

当局は再組織化を防ぐため君たちを当局の保護下に置いた。


覚えておきたまえ。君たちの命も私たちが握っていることをね。」


ここで柏木は改めて俺を見た。


-デービットの遺体のみを発見しただと?特定は誰がしたのか?


「遺体をどうしてミッシェルの息子だと特定できたのか?」


俺は口を挟んだ。すると由美が低い声で言った。


「私が、あの子だって、DNA鑑定もしたわ。だからここにいるのよ。私」


由美は鋭い視線を俺に向けた。しかし目は潤んでいた。ヤバイ、また女が泣きそうだ。


「でもキミはミッシェルを愛していたんじゃないのか?俺からすればどうして君がここにいるのか分からないよ。

本当はミッシェルを助けるために二重スパイしてるんじゃないのか?」


「貴方が憎いわよ本当にね!それにエルザもね!事の展開がどうであれ、貴方たちがデービットを殺したようなものよ!」

由美は立ち上がり泣きながら俺に罵ってきた。

そうだ。俺とエルザが殺したようなもんだ。こうやって罵られて当然だろう。

だからこそ疑問が沸く。俺が空港で刺された時、誰かと約束をしていた。

普段感情を表に出さないこの女がこうやって公の場で感情を露にするのはなぜか?


この女、相変わらず読めない。


「もう一度、聞く。なぜミッシェルを助けないんだ?」


由美は下を向き、肩を震わせていた。泣いているようにも見えたが、声を上げて笑い出した。


「バカな男!なんて鈍感なのかしら?」


突然エルザが口を挟んだ。


「パピヨン!もうやめて!」


「アンタは黙ってなさいよ!」


由美はエルザの座っているイスを蹴飛ばした。エルザはイスから転げ落ち顎を床に打ちつけた。

エルザはしばらく動けなかった。

その迫力に周りの人間はいささか怯えた。


暴力反対!コエェーよ。加減しろよ。背中が疼く。


俺はエルザを抱き起こした。エルザの顎は赤くなっていた。


「エルザ大丈夫か?」


俺はエルザを見つめた。エルザはカッと目を見開いた。


怖いっす。女って怖い。


エルザは由美の前に立ち、由美を平手打ちした。


「前からこうしたかったわ!デービットが死んだから復讐?バッカじゃないの?

アンタはずっと前からあの二人捨てて消えていたんじゃないの?アノ人たちはそれでもアンタを愛していたというのに、肝心なとき自分はどこに居たのよ?今頃になって母親面するんじゃないわよ!」


由美の頬は赤くなった。由美は下を向いた。肩を震わせていた。

膝にポタポタと涙が落ちている。


「由美、もう少し穏やかにいこう。エルザ落ち着こう。」


エルザは俺の胸にもたれ掛かるように座った。あの時の記憶を思い出したのだろう。

俺はあの時自殺するつもりだった。それが最後の瞬間気づけば逃げていた。

あの時デービットを助けられたかもしれない。


「エルザが話を遮るからよ。それで、聞きたいの?ここで言わせたい?」


「まぁ、言いたくないのならいいよ。みんな待ってるし」


「カンタンよ…。アナタを愛しているからよ」


周りの人間がお互いに顔を見合った。


あぁ、こういう展開になるとは墓穴を掘った。

エルザは展開が読めたのか。だから止めようとしたんだ。

何気に柏木の顔を見てみた。柏木は無表情だった。


リーダーは低くため息をついた。


「お二人さん、済んだかね?もしまだ話があるなら、後でいいかね?」


「分かった。話を遮ってすまない」


俺はリーダに手短に応えた。しかし疑問がさらにわく。


「それでどうやって接触するんだ?」


リーダは俺を見ると


「ドキドキするよね?久しぶりのご対面。爆発に関わっているとしたら本気で復讐されるね」


本気で来るに決まっている。

今回の標的を俺とエルザにすることでミッシェルは必ず現れる。

俺だけが行った場合不幸にも俺が死んだとして次にミッシェルはエルザを狙う。

逆にエルザだけが行った場合はエルザが殺される確率が高い。

とすると、二人一緒に居た方がリスクは避けられる。


由美の場合はどうだろう。この組織が由美を行かせるわけはない。

由美が寝返る可能性がある。

両方の情報に精通しているためそんな危険は冒さない。


柏木の場合はどうだ。捕まって情報を履かせられるのが落ちだ。

これは避けたい。柏木も不運だ。たまたま俺と似ていたばっかりにこんな無茶なことをさせられる。


「あの爆発時ミッシェルは俺とエルザを目撃している。誘き寄せるのなら俺とエルザ一緒でなければならない」


「そう。目撃されてるんじゃしょうがないね。標的は…。」


リーダは俺に笑いかけながら信じられないことを言った。

お久しぶりの投稿です。

色々あってこの作品に向かうことで息抜きができています。

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