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12 事件、事件、そして再会

謎の車を捜査していくうち新たな謎を見つける刑事。そして新たな事件に見え隠れするヤノ。

一方で別のミッションが着々と準備されていた。

パピヨンは一枚のメモに導かれるようにとあるホテルに来ていた。

主な登場人物

エルザ

パピヨン

むかつくイケメン野郎

デザイナー

落合由美

刑事

***


俺は3日間の休暇を調査にあててしまい疲れた体で出勤した。

署内では上司の行方不明が問題になっていた。俺は全容を知っているがしらを切らなくてはならない。


その日の午後俺は悶々と考えていた。あの仕事するくらいならまだいい。

その時に電話が鳴った。駅周辺の安ホテルで殺人があったという通報だった。やれやれ・・休暇後の初仕事が殺人か・・・。俺は同じ課の刑事と一緒に現場に向かった。この現場で事件があるのは珍しくない。

大方金持ちの趣味が行き過ぎて殺したとかだろう。俺は溜息をついた。


「殺しばかりだな・・」

「まぁ・・それが普通かもな・・」

「なぁ、お前はまだつづけるのか?」

「この仕事か?」

「ああ」

「お前はもう辞めたいって顔してるな」

「家族ができたからなぁ」

「家族か・・奥さんって日本人だっけ?」

「うん。」

「出会いは?」

「俺がシャツ買いに行ったときの店員だった」

「ほーー。そんな出会いがあるんだ」

「でも付き合うまでは長かったよ。そのせいで俺はシャツをたくさん持っているよ」

「そうか。店員さんだったのか奥さん。だから服の趣味がいいんだな」

「ありがと」


俺は別に自慢はしていないが少し照れた。何で俺は惹かれたのか覚えていない。一目惚れではなかった。

ただ仕事柄、見映えの良い女には少しウンザリしていた。浮気されたり色々ある。

まぁ・・長い目で見れば成功だろう。贅沢も言わないし、家事も手抜きせずしっかりやるし。

家では優しく俺に接する。そういえば喧嘩したことないな。不自然かもしれないが。

これを同僚に言うとノロケだとか言われるから黙っていよう。


しかし、3日間もう少し妻と一緒に時間を過ごすべきだった。休み明けが殺しだもんな。

俺は溜息をついた。何年か辛抱しよう。その後に警備会社に転職する。


現場についた。見るからに何か起きそうなホテルだ。

部屋に入ると客と思われる男女がいた。


殺人現場はホテルのバスルームだった。この部屋を指定したのはデザイン事務所で縫製を担当しているナタリーという女だった。話を聞いてみると興味深かった。女と言うものは好きになるとトコトンまでやるというのが分かる。

この一見おとなしそうな女も恋の為に思いきったことをしたものだ。


一緒にいる男はカメラマン・ジャナーリストのジョンフランク。この殺された男の写真を撮ったらしい。


二人は面識があるらしく、互いの記憶の相違について揉めていたが、ナタリーがプレゼントしたという

服が決め手になった。


被害者の顔を見る。若干むくんではいるものの、なかなかのイケメンだった。

なるほどねぇ・・・。


傍にいる年寄に話を聞くがどうも記憶力が曖昧だった。前の担当者を覚えているかと聞いても分からないと言った。

仕方がないので、このホテルのオーナーに電話をしてみた。オーナーは血相を変えて現場にやってきた。

しかし話しぶりは既に慣れている。さすがによく事件が起きるせいか質問にも慣れた様子だ。



「まぁ・・場所柄が色々あるところですから・・それで・・従業員のことでしたっけ・・。

ウチはね・・登録制なんですよ・・働きたい日を事前に登録しておけば働けるっていうシンプルなね・・

シフト表ですか・・ありますよ・・あのお爺さんの前は御婆さんでしたね・・名前・・・。アレ?」


「どうしました・・ありますよね・・名前」


「消えてる」


「何が消えてるんですか?」


「登録データが消えています。その婆さんの名前とか連絡先とかね・・抹消されています。おかしいな」


「誰かが故意に削除したとかですか?」


「ええ、連絡先とかも削除されていますが。あの時間帯はお爺さんが勤務していることに書き換えられているのです。」


ならばその書き換えた人物が怪しい。誰が書き換えることができるのか・・俺は気分が重くなった。

この一連の事件もアイツらが出てくると俺は手を引かなければならない。


「防犯カメラをチェックしてみます。一応事件が多いのでつけてみたんです」


「どうです?」


「ありました。男と一緒に来ています。一人はフードを被った男です。」


「その映像を見せてください。」


俺はその映像を見た。男はあの男だ。フードの男は下を向いていて顔が分からない。

二人は上に上がっていった。映像はそこまでだった。さすがにプライバシーの問題で部屋の中にはカメラはつけられない。


となると、そのフードの男が怪しいとなるな・・。事件当初現場は窓が開いていた。雨が降っており外から雨が入り込んでいた。俺は窓の外を見た。犯人は殺害後このベランダから逃走した。

どのルートを通っただろうか。周辺を聞きこみをするか。もし出なかった場合はまた迷宮入りするかもしれない。

この辺はホームレスが多い。一人一人を聞きこむのに膨大な時間を費やす。


逃走したならどこへ逃げるだろうか。

駅から近い・・となると、逃走ルートは絞られるが広範囲になる可能性もある。

バスの線になるともう少し狭まるだろう。

目撃者捜しをするしかないか。


それから一週間現場周辺の聞き込みをしたがフードの男に関する情報はなかったに等しい。

ホームレスはそこらじゅうにおり、その風貌の人間はどこにでもいる。

どこにでもいればいるほど、探すのは難しい。


俺は走り周り汗をかいた。駅前の近くに紳士服の店があった。ついでにシャツでも買うか・・。

またコレクションが増えるな。

俺は店のドアを開けた。中からは感じのよい店員が出てきた。


俺は最近あった事件を話しをし、この辺で何か変わったことはなかったか聞いた。

店員は少し不思議そうな顔をした。



「ああ、そういえばこの店にモデルさんが来ましたよ。やっぱり本物は違うね」


「モデル・・ってどんなモデルだ?」


「ええと・・この人。ヤノさんって亡くなったって本当ですか?おかしいな・・」


店員は雑誌を持ってきた。ヤノがこの店に来た?



「あの日は雨が強くて肌寒かった。ヤノさんは雨に濡れていた・・またそれが男前でねぇ・

・カッコ良かったなぁ・・」


店員は思いだし溜息をついた・・。そんなにカッコいいか?アジア系のモデルなんか同じ顔に見える・・失礼かもしれないがね。


「ヤノ・・死んだモデルがこの店に来たというのか?」


「そうだと思います。・・でも他人の空似かもしれないし。でも俺が間違うわけない」


「なんでそんなに自信があるの?」


「いいもの見せてあげましょう」


その店員はスタッフルームに案内した。中にはモデルのポスターが貼ってあった。

その中にヤノもポスターが貼ってあった。駅構内に貼られていたものを貰ったらしい。

なるほど、毎日のように見ていれば間違うはずがないというのか。ある意味ナタリーと同じものを感じる。


しかし、ヤノを知る人物は皆なぜかヤノだと言う自信がある。それも何か不自然な気もする。

ヤノに口止めをされているようにも思えないが・・。


となると、あの死体は誰だ?ヤノは死んだのではないのか?

フードの男はどこに行ったんだ?


俺は自分でも気が付かないうちに叫んでいた。二人ともソックリだったんだ。

店員はエッといい俺を凝視している。そう考えるとシックリ行くんだ。

この際どっちがヤノなのか問題ではない。ソックリの男があの場所に居たと仮定すれば

この店にヤノと似た男が来ても不思議ではない。


問題は今生きている方が誰かだ。フードの男の方なのか、それともヤノ自身なのか。


ヤノの金目の物が無くなっていたとなるとフードの男の線が濃くなるが、

これがヤノの犯行となったらどうだろうか?


もしヤノ自身が・・。ヤノとはどんな男なのか。


俺はその店でシャツを買うのも忘れて走りだした。

ホームレスの集団にヤノの写真を持ちこの男ににたホームレスは知っているか聞き回った。

ホームレスは知らないと答えた。

それではこの時間帯に偶然ヤノのソックリさんがこの店に入り服を買ったということか。


しかしヤノについての情報はまるでなかった。

俺は入国管理局に問い合わせた。ヤノと言う名前の情報について。情報は数件あった。

ヤノという名前と年齢を特定すると1件出てきた。


しかし別人だった。矢野高次。この顔とこのモデルの顔は一致しなかった。

似ていると言えば似ているだろう。しかし別人だ。


矢野高次は入国後どこへ行ったかは分からない。

矢野高次は観光ビザで入国後は分からない。おそらくフランスにはいないだろう。

矢野の入国時と思われる映像があった。


これは紛れようもない本人に見える。この男はどこへ行ったのか。そしてこのモデルのヤノは一体誰なのか。


一旅行客かもしれない。情報が少なすぎる。

ただ日本では矢野高次は帰国していないようだった・・とすれば矢野高次は今どこにいるのか。


あの店員のブログを見る。嬉しい様子が書かれている。

ヤノは店に来るとジャケットをすぐ購入したらしい。雨に濡れているヤノに店員はタオルを貸した・・・。

タオルを貸した・・・か。ならばそのタオルに髪の毛があればDNAが分かるかもしれない。

俺は店に電話をかけたがタオルは既に洗ってしまって分からないという答えが返ってきた。

そうだろな・・。俺は苦笑いした。しかしヤノに似ている人間が二人はいることがこれでわかった。


とりあえず、完璧ではないが矢野高次とこのモデルのヤノは似ている。

そして、フードの男の顔がハッキリわかればこの事件は割と早く解決するかもしれない。

体温が温められて死亡推定時刻は幾分かズレるにしても現場周辺からヤノに似ている人間がいる以上、

ヤノに似たフードの男、もしくはヤノに疑惑がある。


もしくは第三者・・削除されているあのホテルの従業員の老婆だ。


俺は自分のデスクに戻った。コーヒーを注ぐ。犯人はどこへ向かったのか・・。あの店員の証言によるとそのヤノに似た人物は駅に入っていったらしい・・。となるとその時間帯に出発した汽車に乗ったということになる。

その時間帯に出発した汽車は1本だ。この線を調べるか・・・。しかし鈍行だ。どこで下車したのかとなると全路線のカメラで確認するしかない・・。しかし駅によってはカメラがついていない場所もある。

そこで下車されたら分からない。


俺は路線図をペンでたたいた・・。この中のどこかにアイツはいる。

俺は店員から借りてきた雑誌を見た。ヤノは俺にウィンクしているように見える。挑発的なようであり親しみのある微笑みは女だけではなく男も魅了されてしまう何かを持っている。


映像も確認する。ランウェイを歩いてくる姿はとても素人とは思えない歩き方だ。視線の向こうを見つめ何やら表情を変えた。あの場所に何があったのだろうか。何かを見つけたような顔をしている。

立ち止まりタバコに火をつけ、笑顔を見せてウィンクした。


その瞬間、俺はイスから落ちた。

痛い・・・。イスから落ちるのと同時に俺はやや心を持ってかれてしまった。

あの店員の気持ちが少し分かった。俺ですらこうなんだから、ナタリーが恋に落ちたのも分からんではない。


「大丈夫か・・・お前・・もしかしてそういう趣味でもあるのか?さっきからそのモデルばかり見ている」


「いや・・何か分かるかなって思ってさ・・・」


「それでなんかわかったか?」


「特にないな・・しいて言えば・・・」


「なんだ?」


「ヤノが魅力的だということだ」


「アンタ結婚したのに、そんなこと・・」


「まぁ・・見てみろよ・・男でも惹かれる何かを持っている」


俺はさっきの映像を同僚に見せた。ウィンクのところに来た。同僚は顔を少し赤くした。


「どうだ?」


「分からんでもない・・確かに・・それが事件と関係あるとでも・・」


「ヤノの雰囲気だ。そっくりだとしても、雰囲気はマネできないだろう・・立居振舞・・とかさ」


「二人がソックリと仮定するならだろ?お前の推理は憶測だろう・・証拠がない。ホームレスの男の写真でもあればいいんだかがね・・」


「過去にあのホームレスと入った客の映像を探そう・・そしてその相手を割出しどんな男だったか聞くしかないか」


「とりあえず、あのオーナーのところに行ってみるか・・」


「そっちは俺に任せろ・・・アンタはデザイナーさんのところにでも行ってみろよ・・かわいいモデルがいるかも」


「よせ・・」


同僚がホテルオーナーの所に行くというので俺はそのデザイナー事務所に行ってみた。

デザイナー事務所はそこにはなかった。売出し中だった。

ずいぶんとタイミングがいいな・・。デザイナーの連絡先に電話をしてみる。


「はい・・」

「ニュースを見ましたか?ヤノというモデルの件でお聞きしたいのですが・・」

「確かにウチのモデルでしたが・・もう仕事は頼んでいないですよ・・本人はどこか別の所に行く様子でした」

「なるほど・・ナタリーさんとヤノさんはどういう間柄ですか?」

「単なるモデルと縫製者という関係だけです・・私の知る限り。ちなみにナタリーに彼を直接紹介したのは最近ですよ。」

「その時は何があったのですか?」


「服が欲しいと言っていてそれでナタリーに服を何枚か選んでもらうようにしました。その服はナタリーが特別ヤノのために作ったものでした」

「なるほど。ヤノさんの本名はご存じですか?住所は・・」

「さぁ・・一時しのぎだったので、名前はヤノとしか聞いていません・・。それに臨時だったのでね・・」

「なるほど。ギャラは払ったのですか?」

「ギャラは払っていませんよ・・ただ・・船を貸して欲しいと言ってきました」

「船ですか・・どこに行ったか言っていましたか?」

「いいえ特に・・・観光ではないですかね・・あの・・忙しいので手短にお願いします。」

「その船はどこにありますか?」

「結構お金がかかるものですから、一番保管料金の安い港に置いてあります。」

「その場所を教えてください。いつ、その船を借りたのですか?」

「もうずいぶん前です・・あの、ショーの後から1週間前後だったとしか覚えていません・・私も忙しいので・・」

「遺体の確認をお願いできますか?」

「ヤノの?私は彼の裸なんて見ていませんし、会っていないモデルの顔なんて忘れてしまいますから」

「一度でいいので見てください・・」

「では、明日・・。船の置いてある場所はその時にご案内します。」


デザイナーは不機嫌そうに言った。



それから電話を別の所にした。


「警察から電話があったわ・・結構しつこく聞かれたわよ・・明日遺体を確認しに行くの。それと船を見たいって言ってきた。船のこと言わない方が良かったかしら・・。わかった・・。遺体をみたらそう言うわ・・。じゃぁ」


デザイナーは電話を切った。これで一時的に宣伝効果が出るわね・・・。デザイナーは鼻歌を歌いながら

明日着て行く服を並べた。


***


デザイナーを待っていると赤い車が止まった。赤字の割にはいい車に乗っているな・・俺はデザイナーを見た。

さすがに服に気を使っている。年齢は割といっているが若々しく見える。


「すみません・・お忙しいところ確認お願いします・・」

「わかりました」


俺は遺体管理している場所に案内した。


デザイナーはソワソワしていた。遺体を見せるとデザイナーは叫んだ・・。この反応は本人なのかもしれないか・・。デザイナーは興味深そうに顔を見ていた。死体を見るのはそれほどないからな。


「本人ですか?」


デザイナーは震えて言った。


「間違いないわ・・ヤノです。もういいでしょう・・耐えられないわ。一度は一緒に仕事をしたんですもの」


俺は早々に遺体を安置室に戻した。証言だけだがヤノは死んだことになった。しかしデータが足りない。

さすがに船には指紋ぐらいあるだろう。それで分析するか。


「そう・・では次・・船ね・・案内します」


場所は遺体安置している場所からそれほど遠くない港だった。


車から降り、デザイナーは船を案内した。

小ぶりの船だがセンスがある。割と新しい方かもしれない。もしかしたらヤノの指紋もあるかもしれない。

俺は鑑識を呼んだ。


この港付近もいささか物騒な場所だったな・・俺は港近郊の煉瓦の壁のある通りを見た。

最近この間で事件があった。あれも妙な事件だった。


鑑識の一人が言った。


「ありません・・」


「ないと言うのは・・」


「なにも出てきません。」


「ヤノは指紋を残さずに船を乗ったと言うことか・・それは不自然ではないか」


「ヤノが使ったあとに私が整備を業者にお願いしたの・・ヤノを疑ってはいないけど、他人に貸すとトラブルのよ。なんでかしらね・・あら、何かご不満ですか?」


「それならその業者の指紋くらいあるもんでしょう。おかしいですね」


「手入れする際は危ないので手袋をはめて作業しますよ。人にもよりますけど。」


「なるほど。わかりました。お手数掛けました」


「船に触らないでくださいね。」


「すぐ降ります。」


しかし腑に落ちない。


デザイナーは帰っていった。俺はしばらくその船の上に居た。


ヤノはどうして船なんか乗ったのだろうか・・。何かを探していたのか・。

それが鍵かもしれない。しかし、ヤノはいない。あのデザイナーとナタリー・ジョンフランクがヤノを認めている以上ヤノは死んだということになる。本人の素性分からずともこんな結果になるとは。


俺は少々落ち込んだ。俺は船から降り知らないうちに別の事件のあった煉瓦の壁の通りを歩き出していた。


しばらく歩いて行くと一人の女が海の方を見て立っていた。海沿いにある煉瓦の壁には奇妙な落書きがあり

意味不明な文字が羅列していた。その一部が大きくくり抜かれた場所の前には大きな看板らしき物があった。

俺は気が付くとその女のいる所まで歩いていた。女は看板の方を見ていたが俺に気づくと歩き出した。


俺はその女に尋ねた。


「ここは危険な場所ですよ・・どうしてこんなところに・・」


女は無視し歩こうとしたが振り向いた。女は少し太っている。痩せていればかなりの美人かもしれなかった。


「知ってるわ。ニュースで見たから。」


「ここで何をしていたんですか?」


「別に・・。」


女は歩き出した。この女はもしかすると被害者なのかもしれない。しかし被害者なら現場なんか来ないだろう。

あの女は何を見ていたのか。俺は海の方を見た。

ここからだと海よりも看板の方が目立つ。それにしてもこの看板はだいぶ腐食していた。

こんな看板を見にわざわざ来たのか?

ブランド名も分からない。背景が少し残っている。

俺は時計を見た。そろそろ帰るか。この場所に居ても何も解決しない。俺は歩き出した。


署に戻ると同僚が帰ってきていた。俺に進展を聞いてきた。


「どうだった?デザイナーさんは」


「ヤノに間違いないってさ。あと船を見たよ。」


「船か。」


「ヤノはギャラはいらない代わりに船を借りたいと言っていたらしい」


「それは変わっているな。普通はギャラを高くしろとか要求するよな」


「その船なんだけどさ。指紋が出なかった。デザイナーの話だと業者に整備依頼したらしいが普通指紋くらい残るよな?」


「まぁ・・仮にキレイにしても、その多少は業者の指紋が残るな」


「なんか臭う・・そっちは」


「ホームレスと寝たらしき客は全然出てこなかったよ。あのフードを被った男は新参者だったらしい。だから情報がない。」


「新参者?」


「昔からいるホームレスの男に聞いたけど事件のあった前日にはその男はいなかったらしい。服装もよくあるものだし断言はできないが、いくら髭面でも容姿がヤノくらいなら目立つはずだよな・」


「確かに。ということは、フードの男というのはホームレスではないということか?」


「防犯カメラをチェックしたが、その男らしき人物はあのホテルを利用していない。他かもしれないが」


「では、わざわざヤノに会うために1日だけホームレスになって待っていたということか?」


「かなり無理があるよな・・ヤノが来るとは限らない。」


「その男は知っていたんじゃないか?」


「何を?」


「ヤノがそこに行くことを」


「どうやって知るんだ・・ナタリーは発信機を付けたから分かったんだぞ。待て・・」


「ヤノを常にマークしていたとしたらどうなる?かなり前から」


「ストーカーだな」


「そもそも・・ヤノって何者なのかな?調べても何も出てこない・・・」


「まるで幽霊みたいだな。」


俺はゾクッとした。幽霊か。


「ヤノは幽霊かもしれないな。もちろん生きている幽霊。」


「それは面倒だな。捕まえられないじゃないか。」


「そうだよ。捕まえられない。それだ。しかしヤノの目撃証言がある以上ヤノは生きている。フードの男の方かもしれないが」


「とりあえず駅のカメラをチェックするしかないな。どこで下車したのか」


俺は路線図を見て溜息をついた。気が遠くなりそうだ。その間に容疑者は逃げる。


俺はコーヒーを飲みながらヤノの映像を見た。同僚に冷やかされそうだが。


何度も見ているうちに何か思い出した。あの看板・・・この服のブランドじゃないか。


俺は雑誌の広告を見た。この風景・・わずかに看板に残っていた風景が似ている。


他の雑誌を見てみた。これは・・ヤノがウィンクをしている。この写真はあの看板に使われている。

だとするとあの女はヤノを見ていた。


どうしてあの女はあの腐食した看板を見ていたのか?


***


柏木は封筒から手紙を出した。

手紙には場所と日時が書いてあった。そして一枚の写真が入っていた。その写真を見る。

ロングヘアーの女の写真だ。意志の強そうな目と眉そしてどこか憂いのある表情には微笑を浮かべている。


これは何を意味しているのだろうか。この日、その時間にそこに行けばこの女が待っているというのか。

俺は小さな出版社でなんの影響力もない。そんな俺に近づくモデルやタレントなんて普通はいない。

この女は何か勘違いしているのだろう。

しかし、数日前からこの女の事が気になってきた。もうすぐその日が来る。

俺は試しにホテルの予約状況を聞くための電話をしてみた。

その日、その部屋には予約が入っていた。


俺は自分が勘違いしていたことを話し、自分の名前を言った。

フロントはそのお名前で予約が入っておりますと答えた。俺はその予約をいつ誰がいれたのか聞いた。

フロントは予約の電話の日付は書いてなかったと答え、予約を入れたのはイチセミホという女性から受けたと聞いた。彼女はお宅の会社の従業員で社長に頼まれたと言った。


なるほど・・俺に興味のある女がいるのか。

何故なのかは分からないが、こんな美人なら・・・。

しかし万が一ということがある。

第三者を予定に入れておくか・・もし自分に何かあった際には記事にしてもらえばいい。


あの男・・ジョンフランクと面談の予定を入れればいい。

一見冴えないヤツだがライターの腕は確かだ。



***


私はあのムカツクイケメン野郎から私が知らないうちに色々なコトをされていた。


まぁ・・いいですよ・・無料で脱毛なんて世の中の女は恐らく喜ぶでしょう・・しかし・・。


ついに・・・まぁ・・いいですよ。でも見られたのかと思うと・・腹が立つ。


イケメン野郎は私のベッドに来た。いつぞやの場所で見た白衣を着ている。科学者ではないでしょう・・なんで?


「やぁ・・・ツルッツルで気持ちがいいでしょう」


「・・どうも・・てか・・なんでアンタが私の脱毛をするの?」


「今回は部位が部位だけに俺ではないよ・・残念だがね・・女性がやりましたよ・・」


「なら、まあいいわ。それでなんか用?」


「ずいぶん、ご機嫌が悪いね・・パピヨンとの段取りを持ってきたのに・・次の機会にする?」


「・・いいえ・・今聞きたいわ」


「すごい情報が入ってね・・恐らく彼はここに行くよ。」


イケメン野郎は汽車のチケットを私に見せた。このチケットは鈍行のようだ。まぁいい、飛行機よりはね!

飛行機・・船は当分いいですよ・・あとヘリもいやよ・・。


「それで、どういう段取りなの」


「君は結婚したという設定でいくよ。彼がどんな反応するか見たい・・あと当日はシカケがあるから。ものスゴイね。それは当日のお楽しみ。先に行っておくと演技に響くから。キミは終点で降りてキョロキョロしていればいいよ。

おせっかいな日本人が君に声をかけるだろう。その彼が今回のキーマンだよ。

キミは彼と少し親密になるようにね・・といっても恋人とかじゃなくね。要は『他人から見て仲良く見えるように』がポイント。」


相変わらずよくしゃべる男だ。口にガムテープでも貼ってやりたいくらいだ。

鈍行で終点まで汽車に乗りキョロキョロすればいいだけか・・楽勝じゃん。それでパピヨンといつ会えるのか・・。


「パピヨンといつ会えるの?」


「その日に会える・・場所はその男が案内してくれるだろう。キミはその男に任せてちょっとしたバカンスを楽しめばいいよ」


バカンス?鈍行の汽車の一人旅で偶然出会う謎の男とバカンス?


「ただし、イケメンに限る・・」


私はどこかで聞いたことのあるフレーズを言った。今はもう死語になっているだろうか。


イケメン野郎は笑った。


「大丈夫・・イケメンだから・・君が驚くようなイケメンだよ」


ほほう・・だといいが・・・。違っていた場合ケリを入れてやる・・。


「出発はいつ?」


「明日・・。君さ・・少しは学ぼうよ・・フランス語」


「別に・・今回が最後のミッションなんでしょ・・フランスから離れるから必要ないし」


「向上心とかないわけ?」


「それはさぁ・・・自由になってから。このミッション終わったらフランスから出るし。

もう私の部屋から消えてよ・・」


「なんて言い方するんだ・・。この部屋はこの組織のモノだよ・・君のモノではない。

レディはもう少し言葉づかいも気を使った方がいいよ」


「イケメン野郎・・出て行け!!今、私が使っている以上、私の部屋なのよ!」


私は無表情で言った。男はゲラゲラ笑った。ムカツク・・。


「俺の事そんな風に思ってくれてたの・・嬉しいね・・俺はね・・谷崎っていうの。シタの名前教えてほしい?」


「興味ないわ・・谷崎・・出て行ってよ・・」


「ハイハイ・・」


谷崎は出て行った。ふぅ・・あいつ谷崎っていうんだ・・別にいいけど・・。


私は真っ白な壁を見た・・。ここは息が詰まる。早く外に出たい。


コンコン・・誰かがノックした。またアイツか・・私は溜息を付きながらドアを開けた。


目の前には信じられない人物が立っていた。


黒い長い髪の女・・意志の強い眉・・・由美・・落合由美。

口を閉めるのをしばらく忘れていた私の顔はさぞ間抜けただろう。

しかし由美は谷崎のようにバカにした表情は一切見せなかった。

さすがですな・・動じない。心のモテノートにメモをした。どんなことがあっても動じるな・・。できるかぃ・・。


「何か用事ですか」


私は無表情になり由美を見つめた。由美はニッコリ笑った。それは優しい笑顔だった。

今までの色々な事をかき消すような優しい笑顔。・・ズルイ・・。

笑顔の練習をやること。これはトイレに入っている時が無難だ。しかしココでは毎日できるな。


由美は紙袋を私に見せた。


「あなたに洋服を持ってきたの。似合いそうなワンピースも入っている。あとアクセサリーも。

メイク用具も入っているので使ってね・・。何か必要な物があったら谷崎に連絡しておくけど・・」


もしかして・・脱毛この女がやったのだろうか・・まさか。それはそれでいやだ・・今更遅いが。

そして今その質問はできない。私は複雑な表情をした。


「あ、ごめんなさい・・あなたの好きな服の趣味わかっていないもんだから・・勝手に選んじゃったけど

変更もできるわよ・・」


由美は私の表情を見て勘違いした。意外と気遣いのある優しい女性なのかもしれない。素は。


「あ、いいえ。」


私は服を見た。どれも品があり素敵な物だった。そして高級そうだ。


「どれも素敵です。」


「良かったわ。明日私も違う交通手段で同じ方面に行くわ。もしかしたら会うかもしれない・・。

その時は宜しくね・・。あ、でも私に会っても声をかけないで、無視してね・・

私も貴方がいても無視するから・・そうするように指示されてるの」


「そう。」


この女もそれなりのしがらみがあってここにいるのかもしれない。

いろいろあるんだなぁ・・もしかしたらパピヨンのこともこれらの制限があってやらなければならなかったかもしれない。・・この女の肩をもってはならないが・・子供を置いていく女だもの。しかし複雑な状況もなんとなくわかった。

それにしても作戦がよく分からない・・谷崎・・どうして全部教えてくれないのよ。


私は由美の顔を見て頷いた。笑顔を作りたいところだが色々あったせいかこの女に対して気持ちの良い

対応ができない。


「何か質問はある?」


質問ねぇ・・言いたいことは色々ありますよ・・貴方どこにいたの・・とか子供を置いてよくそんなことできるわよね・・とかね。しかし私の口から出てきた言葉は脱力感半端ない言葉だった。脳が疲れているんだ。



「谷崎ってさ・・ムカつかない?」


由美は質問はミッションの内容と思っていたのに全然違う内容だったので少し間の抜けた顔をした。

この女でもこんな顔をすることもあるんだ。でも何かキュートで可愛らしかった。


「少しね・・それが彼の良さでもあるのだけどね・・他は?」


「作戦全部教えてくれないかしら?」


「谷崎は色々と考えて敢えてそうしているのなら私は何も答えられないわ。あの人の方が私よりも

アナタの性格をよく分かっているでしょうからね」


「そう・・」


「他に質問は?」


私はこの女の顔をしげしげと見た。写真の時と違って見える。表情も豊かだし笑顔も時折見せる。

感じは思ったよりも悪くはない。それならこの質問をしてみよう。どう反応するだろうか。


「パピヨンの事どう思っている?」


由美は一瞬目が点になった。そんなこと質問されるとも思ってなかったんだろう。

そして声を上げて笑った。なんかムカつく。これがこの女の本性かもしれない。

これまでの評価はチャラにしますからね・・・。まぁ私の評価なんて何とも思わないでしょうけど。


「フフフッ ごめんなさいね。そんなこと質問されるとは思わなかったわ・・まるで中学生ね・・アナタ」


中学生とか・・・ムカツク。恋愛とは一途なモノですよ。説教したいが、この女の場数にはかなわない。


「質問はあるかっていうから質問しただけよ。おばさん」


おばさんという響きがグサっと刺さったのだろうか・・表情がこわばった。

そうだ。年上だろう。美人だけど勝てるのなら年齢くらいだ。

少し自分も傷ついている。うううっ・・。


「パピヨンのコト・・ね・・・」


もったいぶって・・なによ・・。


「愛していないわ」


どう思っているかに対して愛していいないと言うのは不自然だ。愛に結び付けること自体が愛を意識している。

愛していないですと・・・その割にはご執心ですこと。これはこの女が少なくともパピヨンを愛した証拠だろう。

そして今もそうかもしれない。


由美はもう一度微笑を浮かべながら


「彼は自由だし。それはアナタも私も同じ。アナタが彼を好きならそれでいいのよ。」


正論である。由美の背後には統計的なグラフが見えるようだ。


「そう・・分かった。」


由美は笑顔を浮かべた。この女の気持ちは分からない。そして私はこの女を極力頭の片隅から追い出そうと

することを辞めた。別にいい。いようといまいと、私には関係ないことだ。

この女もそう思っているだろう。


「質問はそれだけ?」


「まぁ・・そんな・・あ・・一ついいかしら?」


「なんでも聞いて」


「男を落とす秘訣って何かしら?」


「オトコねぇ・・アナタの場合彼を落とすにはどうしたらいいという質問に置き換えたらいいかしらね」


「・・・うん」


「正直なところね・・エルザ・・」


「うん」


「私、彼を落としたっていう手ごたえ感じたこと一度もないのよ。寝たとしてもね」


寝た・・・・ってさぁ・・・もう・・・負けた感が半端ない。

ベルギーでワッフルを食べる人生に身を転じるよ・・。あ、ベルギーは英語圏ではなかった。

ここから早く出たい。とりあえず、ベルギーでワッフルとチョコは食べるよ・・。

そしてイケメンと恋愛の一つをしてから次に行こう。それだ・・それにする。

私はパピヨンとこの女の関係云々をワッフルとチョコに置き換えて心の痛みを癒そうと努力しようとした。

アホ過ぎる。


「なるほど・・でも寝た時点で落としたというカウントに入るのでは?」


心の中でワッフルを3枚掴み口に入れた。何回寝たのだろうか・・。回数の倍ワッフルが必要になる。


「それならカウントできるかも」


グググッ・・・・。もういいよ・・もう。後悔しても始まらない。

私はワッフルをこの女の顔に投げたい気持ちを抑えた。ワッフルがないので仕方がない。

しかし、ワッフルがあったら、間違いなく、投げただろう。

この女はどんな表情をするのだろうか。多分動じないだろう。すげぇ・・。


これなら地上に出て誰もいない公園に穴を掘りその穴に向かってこの質問を叫んだ方がまだ良かった。

アホ過ぎる・・。


私は変な顔をしていたのだろうか・・。由美はゲラゲラ笑い出した。

ムカつく・・・もしこの女がナイアガラの滝の前でバッグが絡まり、そしてピンヒールのヒールが折れ、

足が吊ってバランスを崩し私に掴まろうとしたら急ぎの用事を思い出し走り去ろうと思った。

これなら不慮の事故だろう・・。しかし普通そんな状況ないだろう。

アホ過ぎる・・。


「それでは明日、良いご旅行を」


由美は私の質問に対する言及を爽やかな微笑にすり替えて言った。

これが経験値ってヤツか・・・。ハードルが高いが心のモテノートには必須かもしれない。

ハードな質問にはハードな答えと爽やかな微笑で対応。上級過ぎる。


私は何か言いかえしたかったが、もう戦意喪失でこう言うしかなかった。そしてできるだけ穏やかに努めた。

それしかできない・・ふん。


「・・あなたも」


由美はドアを閉めた。


疲れた・・・なんかものすごく疲れた・・・・私はベッドに大の字になって寝転がった。


そして枕もとにあるボタンを押した。お腹空いた。


「ハイ・・」


男の声がした。谷崎か・・ナースコールみたいだ・・。


「谷崎 お腹が空いた。ゴハン食べたい・・米が食べたいの!フォアグラとかいいから米!ねこまんま」


「すぐお持ちしますよ。・・姫」


姫とかいいから・・米を食べたい・・。

谷崎はワゴンに色々と持ってきた。その中に日本食もあった。メシだ・・・。メシ。

それからカツオ節・・・醤油・・・。


他にもフランス料理があったが私はご飯に意識の目がいった。


ドアがノックされ谷崎が入ってきた。ワゴンの上には茶碗にご飯が盛られていた。湯気が見える。

見栄えがよく料亭風にセッティングされている。気を使わせてしまったが、これくらいいいだろう。


「召し上がれ」


谷崎は言葉短めに退散した。


ねこまんま。


うん。ねこまんまって美味い。いいんだよ・・フォアグラとかキャビアなんてもう・・・。


私はゴハンにカツオ節をかけ醤油をかけた、この恐ろしく単純な料理?を

ウマイウマイと言いながら食べたのであった。パンとかしばらくいいわ・・やっぱり米・・。ぬふ。


この部屋を観察していたフランス人は仰天した。


「彼女はずいぶん横柄だねぇ・・一見おとなしそうなのに。

実に興味ぶかい。刺身や寿司という繊細なものを食すこの民族はこういう食べ方もするのか。

ずいぶん野性的だね・・意外・・。しかしイイ。なんかセクシーじゃない?」


その横で谷崎は苦笑した。


「日本人でも色々いましてね・・彼女は庶民的なんです。彼女をセクシーだと思いますか?

それは奇特ですね。彼女にお会いになりますか?おそらくアナタは彼女のタイプだと思いますが」


「なるほど・・彼女見ていると面白いね・・今回だけで終わりって少し寂しい

彼女の好きなタイプはどういうの?」


「あら、ご執心ですか?まぁ・・パピヨンがタイプなのでね」


「なるほど。彼か。彼と私が同じようなタイプというのは言い過ぎではないかね?」


「いえいえ、男らしくクールで決断力があって・・」


「君・・お世辞がうまくなったもんだね・・次回の査定プラスしてあげよう。昇進も考えてもいいよ。」


「ありがとうございます。」


谷崎はその男に挨拶をしその部屋から出た。廊下から外が見えた。

空を見上げた。


「・・・天気になってくれよ・・。天候に左右されるかもしれない・・。、」


***


俺は数日間列車で移動をした。それから気になっていたメモを見た。あのホテルの名前・・。

俺はそのホテルから近い駅に降りた。そこから俺は駅の片隅に留めてある車を盗んだ。

ホテルに向かう。ホテルは海沿いにあった。ホテルから少し距離のある路肩に車を留めた。

公衆電話でそのホテルに電話を掛けた。部屋の番号を言い、予約の確認をしたいと聞いた。


「カシワギユウキ様で3日間予約をおとりしております」


カシワギ・・?日本人か。3日間も。

またチェックインしていないのか・・。ならばこのホテルに来る客をチェックするか。チェックしたところで何の意味もないかもしれないが。あのメモが気になる。

俺は歩きながらホテルを見た。ごく普通のホテルだ。しいて言うなら観光客が異常に少ない。

これは目立つな・・・。人が多い方が入りやすい。


俺はホテルの裏庭に入った。カメラはなかった。これはこれは・・・セキュリティ甘いな・・。


木々の間を通りオープンスペースにはこじんまりしたプールがあった。その裏は芝生がありベンチがいくつか

並んでいる。何やら話し声が聞こえた。それが日本語だったので俺は少し驚いた。まぁ・・観光かもしれない。

他にも日本人がいるようだった。団体なら入りやすい。この中にカシワギとやらがいるのか・・。

背の高い男が白いスーツを着て女に何か話していた。恋人だろうか。


女は笑いながらこちらの方に歩いてきた。手にはグラスを持ち、白いワンピースを着ていた。

黒い髪で白いパンプスを履いていた。女は時折振り向きながら男に話しかけていた。

ここらへんでイチャつくのだろうか・・。だとしたらお邪魔をしてはいけない。

女は笑いながら走ってくる・・男が追いかけてきた。


女は俺の前で止まった。

俺はとっさに隠れた。


その女はエルザだった。


***

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