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11 刑事の転職

グロいシーンがあります。ご注意ください。

パピヨンが乗り捨てた車が思いもかけない発端に。

***

パリ郊外のとある警察署では観光客の道案内から窃盗、婦女暴行から殺人まで警官は一つ一つこなすのに精一杯だった。

その中の一部の刑事はもううんざりしていた。いや殆どといってもいいかもしれない。

その中の一人の刑事は特別正義感が強く精神的に参っていた。

任務当初は真面目だったし、それなりに成果もあげてきたが、犯罪はなくなるどころか

増え続けている。まったく良くならない。逮捕したところで、無罪が確定するケースも多々あり真面目に勤務するのがバカバカしくなるほどだ。それでも腐らずにやってきた。とりあえず、今日までは。


しかし、一連の事件の背後に政治的大物がいるとなると組織は長い物にまかれるのだった。そんなことは今までもよくあった。しかし今回のケースはさらに惨い内容だった。

自分がこれまで捜査した内容も全てなかったことに処理、偽造されて事件は暗闇に葬られてしまった。

一部の刑事はその見返りの金を受け取り割り切っている者もいた。

そして、この刑事もまた受け取ってしまった。給料は知れている。仕事の割には人から恨まれたりしても褒められることはあまりない。金は魅力的だったが、同時に男の精神的な部分で変化が起きていた。


俺は溜息をついた。

まったく・・・俺たちは何のために汗水たらして捜査したのか・・意味がない。

上司は俺の肩をたたいた。よくあることだとそう言った。

この上司も当然金を貰ったはずだ。


そして、これからもそうなるだろう・・・。何一つ変わっていない。

結局どこの国も対して変わらない・・。

自分の仕事を誇らしげにしていたが、それも今日までだ。もう・・うんざりだ。

しかし、辞めることはできない。家族を養っていかなければならない。

俺は結婚し、子供が生まれたばかりだ。

そんな時に自分の都合で仕事を辞めることはできない。

いや、別の仕事に就くこともできる。例えば、警備会社で働くとか。それなら、少しは高待遇で迎えられるかもしれない。何よりも責任が違うだろう。

俺は上司にしばらく休暇を取りたいと言った。

上司は分かったと言った。ここで辞められても困ると思ったのだろう。


上司は言った。


「君は転職したいのかな?もしそうなら、いいところを紹介するよ。

ここでの仕事は報われないこともあって、正義感の強い君なら耐えられないこともあるだろう。もし、君さえ良ければ・・。」


「それはどんな仕事でしょうか?」


「中立の仕事だよ。もし興味があるのなら、ここに電話をしてみてくれ。

担当者が分かりやすく教えてくれる。見学もできるから嫌なら辞めてもいい」


「中立・・ですか。それは犯罪者とそれを裁く側の間ということでしょうか?」


「シンプルに言えば、我々と犯罪者の中間ということだよ。」


「なるほど、興味深い話ですね・・。電話するかもしれません。

休暇は1、2日とってもいいですか・・」


「君はいつも良くやっている。3日取りなさい。その間に色々考えるといい。君が警察に残るのならこれまでどうりうまくやっていけるし。もしそっちに行きたいのなら、止めない。そしてまた別の選択肢があるのならそれでもいいだろう。」


「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて、3日取らせていただきます。」


俺は上司に礼を言うと部屋から出た。署内には犯罪者と刑事、警官がごった返していた。

他の人間が何やら男に話しかけたが男は


「悪い・・体調が悪いから帰る・・」


というのが精一杯だった。本当に悪い・・。消化不良というやつだ・・。なにより、暗闇に葬られることが一番・・。


俺は警察を出て自分の車の駐車場まで来た。

溜息が出る・・車にもたれ掛け男はポケットからタバコを出した、タバコと一緒にさっき上司からもらったメモを見た。


『中立』・・・か。


それはもっと面倒じゃないか・・。それは、公にはできないことだろう。

下手したらこっちが犯罪者になるかもしれないじゃないか・・。待て。見学できるとかって言っていたな・・。

俺は車に乗ろうとしたが歩き出した。歩きながら電話をしてみた。


「はい・・」


それだけ相手は言った。それはないんじゃないか?相手の男で低い声でそう言ったきり黙っていた。仕方がないので、俺は見学の話を持ち込んだ。


「見学できるとかって聞いたもんでね・・入ろうかとどうしようか迷っている」


相手はしばらく黙った。しばらくしてガサガサという音がした。


「迷っているって?フフフッ。見学はできるよ・・ただし条件がある」


いきなり条件とか言うのか・・。あまり歓迎されてないようだな・・。


「なんだ」

俺はぶっきら棒に言った。別にこんな胡散臭い所でなくてもいい。

警備会社に行こうか・・。相手の男は低い声でゆっくり言った。念を押す感じだ。


「今夜3時●●倉庫の付近に来い。誰にも見られず、どこへ行くか悟られず来るんだ。

もし、警察関係・身内に知られることがあったら、お前を消す。他言は厳禁だ。悪いがね・・こちらは誰でもウエルカムではないんだ。アンタの適性もテストさせてもらう。」


「俺の名前は・・」


「報告がある。アンタの住所・名前・親戚の住所・その他もろもろ・・全て

仕事柄、他人を調べているつもりかもしれないがね・・その見返りに自分も情報垂れ流しているのもお忘れなく。我々はアンタたちを評価もしているがね・・ダメなヤツも見てきた。エリートってヤツほどこっちの世界じゃ使えないんだよ。頭デッカチでね、行動ができない。アンタはどうかな・・。アンタも結構優秀そうだね。だが、言っておく。

エリートよりも正義面しているヤツの方が一番、使えないんだよ・・。

やめるなら今だよ。巷の工場見学のような親切面したヤツが案内するわけじゃないから覚悟しておくといい」


「正義面か・・その正義面も今日で終わりだ。もう・・ウンザリだ。」


「なるほど・・そのウンザリがどこまで本当なのか、観させてもらうよ・・。」


「・・・この組織はなんて組織なんだ」


「アンタを認めた時に教えてやるよ。これは単なる見学じゃない、アンタはヘタした死ぬから覚悟しておけよ。忠告しておく。アンタは今の仕事の方が合っている。家族の幸せを守るなら今の仕事の方が安全だ」


そういうと相手は一方的に電話を切った。あの上司が言っていたようなイメージとは全然違う。そんな甘いものではない。

しかし、3時にそんなところで誰も見られずに来いなんていうのはロクな事ではないだろう。何かの取引か、殺人・・か。選択肢は意外に少ないものだ。


殺人となると無罪だった被疑者を消すことになるのかもしれない。

その場合、今回の大物だってターゲットになることがあるかもしれない。

自殺に見せかけて・・殺人とかね。

それなら、俺の頭痛も良くなるかもしれない。しかしそれもまた一種の殺人になるわけか。俺は腹をくくった。車のある場所まで戻ると俺はエンジンをかけた。

車を運転しながら、俺は緊張してきた。


あの電話の相手は家族を守るなら今の仕事がいいと言っていた。

あの男は家族を失ったかもしれない。だとしたら俺はどうする・・この消化不良の状態を何年も続けるのか?

あの上司のように。しかしあの上司はどうして知っていたのだろう・・。

上司はあのグループの一員なのか。真の適性を見ているのかもしれない。あのグループに入れる適任者なのか。俺の場合は一応第一選考は通過したのかもしれない。


その後俺は家に帰り普通に過ごした。いつもと同じ。

俺は3日間の休暇を貰った。警察に行くふりをして、今後の『就活』をしようと思った。

中立というのはなんだろう。もう考えるな・・3時にすべてハッキリする。

妻は俺の顔を見ていた。俺の変化に気が付いたかもしれない。

子供を寝かしつけたあと、妻は俺に聞いてきた。


「何かあったの」

「なにもないよ。今日は疲れたんだ。事件が解決したから」

「そう・・解決して良かったわね。」

「うん・・今夜別々に寝てくれるかな・・俺イビキがうるさいと思うんだ」

「・・・そうね・・いつも眠れないわ」


妻は笑いながら言った。そうか・・うるさいんだ・・。俺は少し落ち込んだ。

俺は、シャワーを浴びると言い部屋を出た。

本当なら、久しぶりに妻を抱きたかった。しかし一緒に寝れば、俺が出かけたことを気づくかもしれない。

それは厄介だ。これからの俺の生き方を決める大事な日だ。しかし、この調子だとこの状態が続くかもしれない。

なるほど、これまでの方が幸せかもしれないな・・。しかし・・。


俺はシャワーを浴びた。とりあえず、仮眠をとっておこう。色々疲れた。

そして、2時頃俺は目を覚ました。そろそろ準備に取り掛かる。

拳銃も一応持った。夜間は少し冷える。俺は家を抜け出した。

自分の車の前を通りしばらく歩いた。しばらくすると公園があった。

駅からだいぶ離れているこの公園の周辺には駐車場があった。そこに何日も前から駐車している車があった。持ち主は鍵をつけたままにしていた。車を物色したところ、問題なかった。むしろ、いい車だった。こんなところに駐車して鍵もとらないなんて、なんて間抜けな持ち主だと思い俺は笑った。俺は念のため手袋をはめた。


ドアを開けてエンジンをかけた。問題ない。持ち主は車の手入れを良くしていた。

車内は埃一つ残っていない。職業柄色々な所まで目が行き届く、運転席の下にも何も落ちていない。大抵は小銭の一つや女のヘアピンが落ちていたりするが、この車は掃除したてのようだ。


俺はこの車で例の場所に向かうことに決めた。ガソリンは満タンにしてある。

そして、全て終わったらまたこの駐車場に停めて鍵をさしたままにしておけばいい。

次は盗難に遭うかもしれないだろう。その前に俺がさり気なく持ち主に連絡をしてやるか。


俺は電話で指示のあった倉庫に向かった。


****


深夜3時 とある倉庫の前には黒のワゴン車が一台停まっていた。

中から覆面を被った男が2人でてきた。


そして後部座席から小太りの男がフラフラしながら別の覆面の一人に引っ張られ降りてきた。


俺は約束の場所の付近の建物の近くに車を停めてその場所に近づいた。双眼鏡を取り出しその様子を見た。


小太りの男は倉庫の中に連れて行かれた。


あの男は見覚えがあった。無罪になったヤツだ。なるほど・・。今日はあの男を殺すのか。

しかし、その判断は誰がやるのだろうか。


俺も近づき倉庫の中に入った。声が聞こえてくる。

小太りの男が叫んでいた。


「許してくれ・・殺さないでくれ」


そして銃声が聞こえた。


小太りの男の叫び声は聞こえなくなった。この静寂・・。俺は動悸が激しくなった。

倉庫の中で何か音が聞こえてきた。これは・・。何か動いている。


『ウィーン・・キィーッ・・ガーッ・・・ガッガッ・・・シューッ・・・』


これは・・死体を始末している。あの小太りの男の存在を消そうと、この倉庫の中で・・・。俺は耐えられるのか・・もしこのグループに入ったら俺がその死体処理の担当になるかもしれない。恐らく、一番下の仕事がそれだろう。

事件の消化不良と言っていた方がまだ良かったかもしれない。


しばらくするとその不快感のある音は消えた。

それと同時に俺は吐きそうになった。俺は、使えないかもしれないな・・。


『ドボッ・・ドボッ・・』


何かに入れる音が聞こえてくる。見たいが見たくない。これでは見学とは言えないが、グロ過ぎる。殺したあと、骨も何もかも分からないように細かくして、どこかに隠すのだろう。声が聞こえてくる。こっちに来る。俺は身を潜めた。


「・・・分かったか?・・これが仕事だ。」


俺の身を潜めていた場所を連中は知っていた。俺の肩を掴み引き上げた。


「2次試験は合格だけど、総合的に不合格だね。これからの努力次第で色々と使えるとは思うけどね。しかしアンタ、精神的にモロそうだね。そんなんで吐いていたんじゃぁ・・俺らと一緒に仕事はムリだよ・・。今から奥さんとネンネしな」


男は笑った。俺は吐いていないと思っていたが、既に口の周りには異臭が漂っていた。ムカツクこの臭いとそして自己嫌悪、俺は安易に見学しにきたことを後悔した。あの電話の男が言っていたとおりだった。俺はこの連中を見上げた。3人とも覆面していて人相は分からない。この一人の男意外は何も話さなかった。特定はムリだ。

全員男性だというぐらいしか。この手の仕事に女性は仲間にならないだろう。

俺は質問をした。そうでもしなければ次は俺が殺されるのではという緊迫感からどうしても逃げたかった。


「今回暗闇に葬られた事件の真犯人はどうなるんだ?」


今回の事件の全貌は闇に葬られたが、この連中はどこまで警察内部の捜査を知っているのか知りたかった。それを俺が今確認したところでどうにでもなるわけでもないが、すくなくとも、この連中の手にかかるのなら、これまでの消化不良も解消できるのではと思った。もしかしたら、様々な事件については、この組織は知らないのかもしれない。

単なる掃除屋で命令はもっと上からくるのかもしれない。

先ほどから唯一話しかけてきた男は少し黙ったが、笑いながら言った。


「・・さあね。すべての犯罪者を公平に裁くわけでもないんだ。悪いけどね。

アンタみたいな正義感・・・ココでは不要なんだよ。

その真犯人も表向きはアンタよりも世の中のためになっているんだしね・・

しかし、オイタが過ぎると我々も動くから。その時は容赦ない。

これが中立って意味。わかった?正義感の強いアンタは普通に今の仕事している方が身のためだ」


「もし、このネタ録音していたらどうする?」


覆面の3人は俺を取り押さえた。体をチェックしたが何もなかった。


「脅しか・・フフッ。

録音してたら、もちろん、殺すよ。知らなくて幸せなこともあるんだ」


「俺が仲間になると言ったらどうする?」


「悪いがね・・不採用とさせてもらうよ。」


「どうして?」


「アンタは注意力に欠けている。それが我々の命取りになる。」


「注意力?」


「アンタ、あの車に乗ってきたんだろう・・シトロエンに乗ってきただろう?」


「カギがついていた」


「だから・・不採用なのさ」


「どうして・・」


「『借りて』もいい車か調べなかっただろう?」


そうだ・・調べていない。ここに来るのを優先してしまった。しかし今思えば不自然な点もあった。


「見学・試験は以上だ。帰ってもいいが、あの車は元に戻しておけ。指紋も拭き取るように。」


俺はうなだれた。不採用か・・・でもそれで良かったかもしれない。


「ここでの事は他言無用。もし言った場合は、殺すからな。我々はアンタをマークしている」


「わかった」


俺は力なくその場に座り込んだ。

覆面の男三人は俺の前を通っていった。車のエンジンがかかった。車は行った。

俺はしばらくその場に座り込んでいたが、立ち上がった。そして連中が先ほどまでいた場所に歩いて行った。


何もなかった。何もなくなっている。あるのはドラム缶ばかりだ。

このドラム缶もしかして・・・。

俺は寒気と吐き気が同時にこみ上げ叫び声を上げようとしたが飲み込んだ。

足に力が入らない。何度もこれまで事件で死体も見てきているが、今回は俺もヘタヘタと

座り込んでしまった。時計を見る。早めに帰らなければならない。

それから俺はなんとか立ち上がった。不採用で良かったかもしれない。

こんな仕事するぐらいなら、警備員になろう。

俺はその場から走り車の停めている建物に近づいた。

車の中には別の人間が座っていた。俺はドキッとした。俺は恐る恐る車に近づいた

俺の上司だ。どうしてここに・・。こちらの方に顔は向けていない。

俺は車のドアを開けた。上司は動かなかった。死んでいた。

恐らく、あの3人の内の一人がこの上司だったに違いない。そしてあの連中はこの俺の不適正を見破れなかったために見せしめに殺したかもしれない。

そして、俺は今試されている。できなければ家族を殺されるかもしれない。


俺は車を運転し、さっきのドラム缶のある場所に着いた。

上司を車から下した。俺は倉庫の中を見た。ベルトコンベアがある。これに物を乗せておくと自動的に細かく粉砕され最後はサラサラとした液体か粉末になる。

そしてその最後を空のドラム缶に入れ封をするのか。画期的な仕組みを作ったこの設計者はまさか死体処理に使われているとも思っていないだろう。


俺は上司をベルトコンベアに乗せた。これまで共に仕事をしていたのにこんなことになるなんて。しかし、死体の始末をし、車を元あった場所にもどし、安全に家に帰らなければ家族も殺されてしまう。

俺はスイッチを入れた。そして空のドラム缶の準備をした。


不快音が聞こえた。俺は吐いた。当分ムール貝は食べたくない。妻の今夜の料理はムール貝を使っていたが、ムール貝を見るとこの夜にリンクする気がした。あと5年は食べたくないな・・。とりあえず。


しばらくして、処理が終わったらしく音が小さくなった。排出口からゴボゴボッと音が聞こえた。俺はドラム缶を排出口に合わせた。どす黒い赤い液体が流れてきた。液体はドラム缶8分目に丁度収まると止まった。計算されつくしているが、大柄の人間の場合はドラム缶2つはいるかもしれない。

俺はフラフラしながら上蓋を被せた。そしてその横にあるプレス機の上にドラム缶を引きづり合わせた。

スイッチを押すと上蓋はドラム缶にプレスされた。圧力もこのドラム缶の強度に合わせてあり、潰れ過ぎなくなっている。俺はドラム缶を引きづり最後尾の列に置いた。汗と泥と吐き気の臭いに俺は耐えられなくなり再び吐いた。


俺がフラフラになっていると、倉庫の奥から白髪の男が出てきた。

小さく拍手をしている。老人かとも思ったがそれほどでもなさそうだ。


「よくできました。さぁ・・こっちに来なさい。着替えを用意しておいた。シャワーでも浴びるかい?あとはこっちで片づけておく。君の汚物も私が片づける。」


「アンタ・・誰だ」


「知らい方がいい。そのままだと、車に証拠が残ってしまう。綺麗にしていきなさい。

着替えた服はこちらで処分しておく。最後までしっかりやれば、家族には手は出さないから。」


「わかった・・シャワー浴びさせてくれるか」


「すぐそこ。私は見ないから」


朽ちて囲いもなにもなくなったシャワー室があった。まぁ・・いいか。紙袋がありそこには着替えが用意されている。黒の長袖のTシャツと長ズボン。ご丁寧にパンツまで。


俺はシャワーを浴び、タオルで体を拭き着替えた。幾分サッパリした。


俺はさっきの男に礼を言おうとしたが、男の姿はなくなっていた。

俺の吐いた汚物もなくなっていた。さぞかしムカついただろう。しかし連中も痕跡が残されると困るからこそあの人間をここに取り残したのだ。そして俺が帰るかどうかどこかでチェックしている。


俺は足早に歩き車の場所まで来た。上司の座っていた場所を見た。大丈夫だ。

連中は刺殺してないから血が出ていない。しかし、警察の間ではしばらく捜索が続くだろう。

そして迷宮入りになるだろう。となると俺も一応怪しまれるかもしれない。この3日間休暇を取っているのだから。そしてタイミング良く警察を辞めるとなると疑いをかけられるかもしれない。となると、このまま警察にいる方が疑われないかもしれない。


俺は車のエンジンをかけた。この車の持ち主は誰だろうか。そしてどうしてあんな場所に鍵をつけたまま放置したのか。俺はしばらく眠れそうもない・・・。


なんとか俺はこの車の駐車していた場所に駐車をすると車内の掃除を始めた。

何一つ残してはならない。上司の座っていた位置に髪の毛があるかチェックをした・・。大丈夫だ。俺は全て元に戻した。走行距離も走る以前の状態に戻した。

俺は時間を見る。休んでいるヒマはない。俺は車を後にするとそのまま走りだした。


家に帰ろう。


2階の窓から入ると俺のベッドに妻が寝ていた。俺は青くなった。妻は気づいた。

俺は妻の頬にキスした。妻は目を開けた。


「あなた・・どこに行っていたの?」

「眠れなくてね・・走ってきた・・」

「どこに?」

「その辺一回りしてきた。」

「そう・・。あなた・・警察辞めるの?」

「まさか・・どうして?」

「悩んでいるような気がしたの」

「君と時間がせっかく取れても、気になることがあると眠れなくてね・・」

「・・警察やめても私はいいわ。仕事はなんでもやってもいいわ。」

「そう・・警備員とかどうかな・・」

「今よりも辛くないのならなんでもいいわ。見てて辛いこともあるのよ。」

「しばらくは今まで通りでいくよ・・忙しいしね」

「それがいいわ。」


妻は俺に抱きついてきた。俺は安堵した。

良かった・・。家族は無事だ。これまで通りで行こう。

いささか消化不良の事件があったとしても家族を失いたくない。

俺は妻を抱きしめた。


女は片手に持っていた小さな針をベッドの下に隠した。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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