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俺ん家でランチって?!後編

「このコメどーすっか・・・。ちょっと食べる気しねぇからもったいないけど捨てちまうか」

「ごめんなさい本当に。今度お米持ってきます・・・」

「いや、いいって」


(米持ってくるって何・・・?)


どーすっかと考える。

今から米炊くのも時間かかるしなぁ。


「外に喰いに行くか?」

「え、あ、の。で、できれば、なんですけど」

「ん?なに」


弓弦はモジモジしながら言った。


「せ、せっかくの機会なんで、瀬名さんの、手料理、とか食べてみたいなぁ・・・なんて」

「・・・俺の?そんな上等なもんじゃねーぞ?」

「な、なんでも、良いんです。瀬名さんの作ってくださるものなら、なんでも」


恥ずかしそうに言う弓弦。


なんでもいいとまで言われて外食するわけには行かねぇな。


(・・・なんかウチにあったっけなぁ・・・)


ガサゴソ冷蔵庫とその隣の棚を漁る。

すると少し前に安売りで買っていたと思しきスパゲティの袋を発見した。


(そういや、ツナ缶もあった気がする)


「ツナ缶のクリームスパ、とかなら作れそうだけど。それでいいか?」

「クリームスパゲッティー?!手作りですか?!」

「手作りっつーか、パスタは茹でるだけだぜ?」

「ということはソースは手作りなんですね!すごい!尊敬します!!」

「・・・尊敬って・・・」


こんな手抜き料理に尊敬されても・・・と思わないでもない。

でも今まで言われなかった類の賞賛の言葉は気恥ずかしくて、そして嬉しいものだった。


「ま、ちょっと時間かかるから、きたねーとこだけど、奥で待ってろよ」

「え、そんな。せっかく瀬名さんと一緒に居られるのに。隣にいたいです。あ、お邪魔、ですか・・・?少しならお手伝いできると思うんですが!」

「・・・どうぞ、ご自由に」


(かーっ、恥ずかしい奴!!何?俺の隣にいたい?・・・可愛すぎる!そしてホントに趣味が悪すぎる!!)


ぶっきらぼうに答えたが、実際は赤面しないように深呼吸するので精一杯だった。

パツキン不良が赤面とか、視界の暴力でしかねぇし。


「・・・あーそういや、結構プリンになってきたんだった」


フライパンを出してオリーブオイルを・・・。

あ、ないんだった。サラダ油でいっか?

いや、ツナ缶の油でイケるか・・・。


(テキトーだな我ながら。こんなんでいいのか・・・?)


「プリンって、なんですか?なる?」

「髪の色が元に戻ってきてるってこと。・・・ほら、根元の方、黒くなってるだろ。見た目がプリンに似てるから、こーいうのをプリンになるって言うんだ。知らなかったのか?お前、染めてねーの?」


茶色がかった髪色で、てっきり俺は弓弦も染めているもんだと思ってた。


「染めてないですよ?元々色素薄目なんです。だからよく風紀検査引っかかっちゃいます」


くるり、と髪を指に巻きつけてそれをイジリながら笑った。


「・・・風紀検査」


懐かしい単語だ。黒蓮では有ってないような行事だから。

そもそも風紀委員が茶髪だしな。


「瀬名さん、染め直すんですか?」

「・・・染め直す、か。どーすっかな。ちょうど染髪料切れてるしなぁ」


風紀検査とか守っていそうな弓弦の目の前で染め直すとかいうのもどうかと思うし。

あんまり俺の悪影響とか与えたくないわけで。


「瀬名さん、黒髪似合いそうです・・・見たいなぁ」


ツナ缶からツナを出して軽く炒める。黒胡椒もテキトーにふる。


「・・・そーか?」


弓弦がそう言うなら、染め直すの無しにしようか。って、弓弦が言うからみたいになってるな、実際そうだけど!


「このままじゃ格好悪ぃから黒染めにするか」


生クリームないから牛乳だけ投入。って、ちょっと雑すぎたかもなぁ。

コンソメは・・・どうすっか。


(一応入れとくか・・・このやり方でいいんだよな?ちょっと不安になってきた)


「・・・弓弦、そこのでっかい鍋で湯沸かしてくんねぇ?」

「・・・っはい!了解です!」


元気のいい返事。


あれ、おかしいな。

弓弦に尻尾が生えてるように見える・・・。ブンブンしてる・・・。


(くっそ、やっぱコイツかわええーっ)


好きだと自覚してからは、コイツのこういう態度が、結構辛い(理性的な意味で)。







ソースに小麦粉で軽くとろみを付け終わった時に、ちょうど湯が沸騰した。


「瀬名さん、お湯沸きました!」

「おーし。塩入れて、茹でてくれ」

「そ、そんな大役を私に?!」


あわわわ、と弓弦はアタフタしている。


(・・・スパゲティ茹でるのって、そんなに言うほどのもんか?)


料理音痴みたいだからな。弓弦が心配するのも無理はないかもしれない。


「大役ってーか、袋に書いてるとおりに時間はかるだけだぜ?・・・俺別にアルデンテとか気にしねぇし、お前が丁度いい具合に茹でてくれりゃーそれでいいから」

「う・・・が、頑張ります、です・・・」


緊張しているのか、変な敬語になってる弓弦が可笑しくって、それにすっげぇ可愛かった。








茹でる作業は無事に終わり、皿に盛り付けて早速食べる。


台所は狭いしダイニングなんて洒落たもんもないので(安いアパートだからそんなもんだ)唯一ある部屋(1Kの極小住宅舐めんなよ)のちゃぶ台でという、全く雰囲気のない感じだけども。


「・・・うわぁ、すっごく、美味しいです!まろやかで、ツナも美味しいです!」

「・・・そっか。良かった。スパゲティもちゃんと茹でれてるぞ、ありがとな弓弦。これが美味いのは、そのおかげだ」


ニコニコ笑って食べる弓弦を見ていると、無意識に顔が緩んだ。


和やかに進む時間。


一人で食べる食事は、食事というよりも単に腹にものを詰め込む作業だったけれど、弓弦と囲む食卓はきちんと味わって食べる食事だった。













最近、弓弦と出逢ってから、こういう時間が多かったせいか、俺はすっかり忘れていた。

元々俺がいる世界は、こんな和やかなものじゃないことを。


バカとアホと不良の中での毎日。

血と汗と汚物にまみれた、暴力の世界にいるってことを―――。


そしてその時俺は、忘れていたことに気づいて自分を殴りつけたくなるのだった。


クリームスパ、実は作ったことなくて、ネットで調べて書いたんですが、簡単そうですね。いつかやってみようかなぁ。

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