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俺のトラウマ的な昔のこと

お気に入り登録、ありがとうございます。

八月中の完結目指して頑張ります。

「・・・な、笑っちまうだろ?よりによって惚れた相手が住む世界が違うお嬢さん、なんだぜ?・・・母さん」


命日の12日、俺は墓前で母さんに語りかけた。


兄貴はもう午前中に来ていたらしい。

俺は新しくなった花に買ってきた数本の菊を足して、更に母さんが好きだったラベンダーのアロマキャンドルに火を点けた。


「世界が違う相手と付き合ったら苦労するって、アンタら見て知ってたのにな」




母さんはお嬢さん育ちだった。

よく天然ボケの言動で俺ら親子を呆れさせたものだ。

親父は元不良の警官だったけど、俺がまだ小学生だった頃に殉職しちまった。

学生結婚で、ただでさえ苦労していた母さんは親父の死後、俺と兄貴の二人のガキを抱えてさらに苦労しなきゃなんねぇ羽目になった。

その時高校生だった兄貴は卒業と同時に就職して家計を助けてた。


俺は高校なんか行かなくていいって言ったんだ。

だけど、高校くらいは卒業しておきなさいって母さんが言って。

俺、馬鹿だったから、黒蓮ぐらいしか行けるとこなくて。

でも進学先が決まったって脳天気に喜んでいたっけ。


その頃から、母さんはよく頭痛がするって言って、毎日のように市販の鎮痛剤を飲んでいた。


『バカ息子の俺の進学先も決まったから、頭傷めなくたっていいんじゃね?』なんて、冗談言ったら、それに合わせて笑ってくれた。


そんなこと言った二、三日後だった。


母さんが仕事先で倒れてそのまま救急車で病院に運ばれたって、兄貴から切羽詰った電話があったのは。




脳溢血だった。



急いで病院に駆けつけたけど、俺は間に合わなかった。



病室に入った時には、沈痛な顔した兄貴がベッド横の椅子に座り込んでいた。

母さんの顔には真新しい白い布がかけてあって、俺は目で見えているその風景が信じられなくてその布を剥ぎ取った。


『・・・っ!かーさん?母さん?!母さん!!』


・・・こんなこと言うのおかしいけど、母さんは綺麗だった。


死んでるってのが、信じられないくらいに。

揺すって起こしたら、起きると思った。

あら、寝坊しちゃった?なんて呑気に笑いながら。


『っ千尋!止めろ・・・母さんはもう、亡くなったんだ』


俺の腕を掴んだ兄貴が言った。沈痛な顔のまま、首を横に振る。


『あ、兄貴・・・嘘、だろ?なんかの間違いだろ?だって!ちょっと前まで元気だったじゃねぇか!?今日の朝だって、別に・・・』

『・・・嘘じゃない。現実だ。・・・千尋』

『嘘だ!俺は信じない!!』

『千尋っ!!』


俺の両腕を掴んで兄貴は大声を出した。

俺は体を震わせて黙った。


『千尋、母さんは死んだ。体はもう冷たい。母さんの魂は天国に行ったんだ』

『あ、兄貴はそれでいいのか。そんな簡単に死ん・・・とかそんなの』


兄貴はやるせないような笑みを浮かべていた。


『俺だって淋しいよ。でも、残された俺たちが母さんの死を否定するばっかじゃあ、母さん心配して天国に行けないだろ?・・・早く父さんと逢わせてやろうよ、な?千尋』


そこまで言われて、しかも兄貴も淋しいんだってわかったら、それ以上駄々はこねられなかった。

かすかに頷く俺に兄貴はよくやったとでも言うように頭を撫でた。


『辛いのはわかる。俺もだ。千尋、泣いていいぞ。いっぱい泣いて、涙が涸れるくらい泣いて、悲しめばいい』


でも結局俺は、通夜でも葬式でも一度も泣けなかった。


悲しくなかったわけじゃない。

泣いて、スッキリしてしまうのが、怖かったんだ。



それから今までずっと、俺は母さんの死を抱えて生きてる。




*********



「・・・もう、4年目か。早いな・・・」


高校入学の時から一人暮らししてるアパートの部屋に帰って、ソファに身を投げ出した。


墓参りだから一応ちゃんと制服を着ていったので、いつも緩めてテキトーにしてるネクタイがキツくてたまらない。乱暴に指で引っ掛けて緩めた。


なんか飲みたい気分になって、ビールを数缶空ける。

空きっ腹にアルコールを流し込んだからか、少しフラフラする。


(・・・疲れた・・・もう飯はいいや・・・)


ピピピ


「・・・ケータイ?」


弓弦から電話だった。


(珍しいな、いつもはメールが多いのに・・・)


「・・・はい?」


『瀬名さんですか?夜遅くにごめんなさい。あの・・・』


「なに?どーした?」


『いえ、メールを何通かお送りしたんですが、お返事がなかったので・・・』


「あ?・・・あー悪い。昼間電源落としてた」


『あ、もしかしてアルバイトでしたか?』


「・・・いや、そーじゃねぇけど・・・」


墓参りだとは、なんとなく言いたくなかった。

それにアルコールのせいで頭が回らない。

言葉を濁すのがやっとって感じだ。


『瀬名さん?』


「・・・悪ぃ。また、今度にしてくんねぇ?・・・今は、お前の相手出来そーにねぇわ」


弓弦の返事も聞かずに、ケータイを切った。


今は、誰とも話したくない。


毎年こうなる。昔の思い出に引きずられて、何もしたくない。

非生産的なことぐらいわかってる。

けど、寝てしまうぐらいしか対処法がなかった。


(・・・気持ち悪ぃ・・・明日二日酔い決定だな・・・)


吐き気を我慢しながらソファにいたのが最後の記憶だった。



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