定番の映画館デートとか?!前編
『瀬名さん。こんばんは。弓弦です。明日、お時間ありますか?映画の半券もらったんですけどよろしかったら・・・』
「はぁ・・・」
金曜の夜、コンビニ前でコロッケ食ってたら弓弦からメールが来た。
別に嫌じゃないんだけど、思わずため息が出る。
なんていうの?俺みたいなのに関わるなんて物好きとしか思えないって感じ。
「なーに辛気臭いため息ついてんの、チーちゃん」
「いや、最近の女子ってのは積極的なんだなーっと思ってよ」
「そーだね。時代は『肉食系女子』だからね。でも、ゆずりちゃんは肉食系って感じでもないけど?」
「肉食系っつーか・・・」
(愛玩動物系っつーか・・・多分そんな感じ)
「最近弓弦が犬に見えて仕方ねぇ・・・」
「犬?」
「ああ、柴犬とかそんな感じの。しかも子犬」
「へぇ、可愛いじゃん」
「まぁ、可愛いって思うときもあるんだけどよー。なんだろーな」
「ノロケなら聞かないよ。馬に蹴られて死にたくないからね」
「豆腐の角に頭ぶつけて死ぬんじゃなかったか?」
「どっちでもいーよそんなの。で、そのメールはデートのお誘い?」
「そんなもんだ」
「いーなぁ。彼女。おれもほしー」
「彼女じゃねーよ」
「またまたァ」
ユージは勘違いしている。
「・・・彼女になるわけねーだろ」
本来、俺と弓弦の人生は交差することすらなかったんだ。
良いトコのお嬢さんと落ちこぼれで不良の俺。
ありえないありえない。太陽が西から登ったとしても。
そんなことを思いながらも、俺は弓弦に了承のメールを送るのだった。
*********
駅前で待ち合わせる。
わざわざこんな人の多いところで待ち合わせなくてもと思ったが、映画館が近いことと、弓弦がどーしても定番の場所で待ち合わせしてみたいといったから、俺は改札前の柱に寄りかかって過ぎる人並みを眺めていた。
「あっ!ごめんなさい、お待たせしてしまいましたか?!」
小走りに駆け寄って謝る弓弦。
「いや、別に。気にすんなって」
「・・・やっぱり瀬名さん優しい。・・・好きです」
「・・・あ、そう」
ここで「俺も・・・」とか言ってやったらコイツは喜ぶんだろうなと、思っているけれど、俺という人間は自分の想像以上にカタいようだ。
「あ、そういえば、あれから病院行ったのか」
「え?あ、忘れてました。あれから別に頭も痛くならなかったので・・・え、えへへ」
「っ馬鹿。ちゃんと行けって!」
思わず強い調子で言ってしまった。
弓弦は驚いたように目をパチクリしている。
「瀬名さん?」
そんな目で見られたらなんか恥ずかしいじゃねぇか。
クソ、柄でもねぇこと言うんじゃなかった。
俺は目をそらした。
「・・・頭痛くなってからじゃ、遅いこともあんだよ」
「・・・わかりました。明日行きます。だから・・・今日は一緒に楽しんでください!」
明日行くとの言葉に心中ホッとして、俺は返事をした。
検査代払わなきゃならねーが、あんな気分にはもう二度となりたくないし。
「ああ、そうだな。じゃ、行くか」
「・・・手、繋いでもいいですか」
「・・・いいぜ。ほらよ」
少し躊躇ったが、グズグズしていても仕方ない。俺は手を差し出した。
「瀬名さんの手、おっきくてあったかーい。うふふ」
そう言って笑う弓弦。
(何だコイツ。・・・ああもうホントに)
「お前、可愛いよな。その趣味の悪さだけなんとかすればいいのに」
「ふぇっ?!き、今日の服装何かおかしいですか?」
そう言って自分の格好を見直す弓弦。
今日の弓弦は膝丈のワンピースと、レギンスて言うんだっけ?なんか黒いぴちっとしたやつに、底がペタンコな靴を履いていた。色も若草色で爽やかないい感じだと思う。そもそも俺はファッションとか全くわからんが。
だって俺、フツーにジーパンとシャツ、それだけだと味気ない感じがしたからテキトーにベスト羽織っただけだし。俺的にはこれでも十分なんかこう、変に気合入ってるよーに見えんじゃねぇかって気恥ずかしいけど。
「いや、そうじゃなくて。好きな男の趣味がおかしいだろってこと」
「どこがですか?」
「どこがって、そりゃ、パツキンのいかにもな不良の俺とお嬢さんのアンタじゃ似合わねーだろ?」
「なんでですか?」
「なんでって・・・」
まっすぐ問い返されると返答に困る。
ああもうホントに。自惚れそうになるから止めてくれマジで。
「瀬名さん瀬名さん。これ、下の階のゲームセンターで使えるってもらいました。行きませんか?」
「あ、なに?ゲーセン?」
「クレーンゲームの無料券だそうです」
「ふーん、クレーンゲーム、ねぇ・・・」
「お嫌いですか?」
「嫌いっつーか、苦手。一回も取れた試しねぇし」
「難しいんですね・・・」
「あぁ。っつか、もしかして、やったこと、ねぇの?」
「はい。ゲームセンターも、初めてです」
「・・・マジで?」
「はい。マジです」
(うわぁ・・・マジで箱入りだ箱入り)
今ドキゲーセン行ったことないやつとかいるんか。
内心驚愕しながら、弓弦の後をついて行く。
嬉しげにひょこひょこ歩いていく弓弦は小動物的な感じがした。
「あ、これ可愛い」
「可愛い・・・か?それ」
弓弦が指差したのは、ちょいブサイクなぬいぐるみ。
なんだ?猫?豚?
「このちょっとにやけた感じの目が可愛いじゃないですか」
「そーいうもん?」
「どうしよう。欲しいなぁワンちゃん」
「え、それ犬だったのか!?」
「?はい」
なんでもないことのように弓弦は言う。
(まだブタネコって言われる方が納得できるビジュアルなんだが・・・)
そういや、俺弓弦の中でこのブサ犬と同列なんだよな。可愛いって。
自分で考えてちょっと凹んだ。
「じゃあ、私、挑戦しちゃいます!すみませーん、これやりたいんですけどー!」
弓弦は一人でさっさと目当てのクレーンゲーム機を決めて係員を呼んでいた。
俺はそれを見ていることにした。
(そもそも操作方法分かるんだろうな?)
弓弦は俺を振り返って言う。
「・・・えっと。とりあえずボタン押せばいいんですよね?」
「・・・ざっくりだな・・・。まぁ、そうと言えばそうだ。やってみれば?」
俺自身得意じゃねぇから、有益なアドバイスとか期待すんな。
「えっと、まずは左右の調整・・・っと。次に前後ね・・・。ん?ちょっとずれちゃった・・・?」
「さて、どーだろーな」
あとは機械に任せるしかない。
ウィーンと、静かな駆動音と共にクレーンは下に降りる。
ガコンッ
「あっ、引っかかった」
「おー。初めてにしてはスゲェな」
クレーンの先がかろうじてブサ犬の胴体を挟んで持ち上げる。
そのまま出口に移動していったのだが。
「えぇ?!・・・取れると思ったのにぃ・・・」
ちょうど出口の一歩手前でぬいぐるみの山に落ちてしまった。
あとほんの少しずれていたら取れていただろう。
「・・・弓弦、あれ、ホントに欲しいのか?」
「え?はい。もちろんです」
瀬名さん?と呼びかけてくるのを無視して俺は係員を呼んだ。
「期待はすんなよ。俺、クレーンゲーム苦手なんだからな」
「え、あのいいんですか?他に瀬名さん欲しいものあったんじゃ」
「ねーよ。いいからちょっと黙っとけ」
集中。
多分、ちょっと左に動かすだけで大丈夫そうだ。
(ってことは・・・そっか)
クレーンの刃が開くときに当たればいいはず。
ちょっと右よりにポジショニングする。
「え?瀬名さん、それかなりズレてないですか?」
「まぁ、いいから」
ウィーン。
クレーンがブサ犬の隣に移動する。
ガコンッ
勢いよく刃が開いた。
「あっ!」
コロンとそんな擬音語が似合いそうな感じで、ブサ犬は取り出し口から出てきた。
取って、弓弦に渡す。
「運が良かったな。・・・ほらお前のだ」
「良いんですか?頂いても・・・」
「そのためにとったんだ。俺いらねーぜ、そんなブサ犬」
「ぶ、ブサ犬って。可愛いですよ!」
「・・・お前の感性って、変わってるんだな。あのさ、もしかして俺もそのブサ犬と同レベ?」
「え?」
「だってお前、前言っただろ。俺のこと『可愛い』って」
「ち、違いますよ!そりゃ、瀬名さんも、このワンちゃんも可愛いですけど、可愛いの次元が違うんです!瀬名さんの方が上です!!」
「あぁそう。とりあえず良かった・・・?」
(可愛いに次元とかってあるんだな・・・よく分かんねぇ)
次回更新は19日の22時を予定しています。
よろしければお付き合いください。