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二日目からお付き合いとか?!

早速の評価、さらには感想までありがとうございました。


次の日。


眠い目をこすって登校する。

流石にもう一年留年すんのはやばいから、出席だけはする。


まぁ、授業の大半は寝てるか、早弁してるかだから成績は超低空飛行だけど。


(だりぃー・・・。昼飯のあととか、授業なんていらんだろ。誰も聞いてねぇし)


机の上に伏せながら、教師のだるそうな声を聞く。


そんな授業するくらいなら休講にすればいいのに。

そうすれば皆喜ぶし。もちろん俺も。


「・・・おい、チーちゃん」

「・・・んあ?なんだよ。チーちゃん言うなって言ってんだろ」


隣の席の辻方つじかた悠二ゆうじが小声で話しかけてきた。


ちなみにこいつはバカとアホと不良の中の、バカの方だ。俺より成績悪い。

3歩歩けば忘れるっていうニワトリが前世なんじゃねぇかと俺は疑っている。


「校門のとこにさ、柊女子の制服、いるぜ?すごくない?俺初めて見るんだけど、チョー可愛いんだけど!」

「お前、その馬鹿そうな喋り方、直せ。俺が言えた義理じゃねーが」

「そんなんどーでもいいって!な、あの娘何しに来たんだろうな。もしかして、誰かに会いに来たとか?!ウヒョォォォォォコーフンしてきたァァァ!!」

「るっせーな!大体、そんな名門女子高のお嬢さんが俺たちみたいなのに用があるわけねぇだろ」


えー、そんなーなんて言うユージの声を聞きながら、俺は昨日の出来事を思い出した。


まさか・・・。


「・・・柊、女子?おい、ユージ。さっき柊女子っつったな?」


嫌な予感がする。ものすごくする。


おいおいおい。マジかよ。


弓弦じゃありませんよーにと祈りながら覗いた窓の向こうの校門には、案の定、柊女子の制服に身を包んだ弓弦が立っていた。

時折背伸びして様子を伺っている。


白いブラウスに紺のブレザー、同色のプリーツスカート、ベレー帽に胸元に赤いリボン。

清楚さと可愛らしさを兼ね備えた柊女子の制服は、かなり目立つ。

特に男子校の校門では悪目立ちも甚だしかった。


「うわ、何アレ。女子がいるぜ?!」「マジかよ。うひょーアレ柊女子じゃね?」

「ケッコー可愛くね?」「誰か会いに来たとか?!」「俺、ちょっとナンパしてこよっかなー」「えーずりぃぞ。俺も行くし!」


この教室からもほかの教室からも、気づいたやつらが窓から身を乗り出している。


・・・頭が痛い。


ブーンブーンブーン


一応マナーモードに設定しているケータイが鳴った。


見てみると、メール。しかも弓弦から・・・。


『こんにちは。弓弦です。見ればわかるとおっしゃってたので、来ちゃいました。てへ』


(な・に・が『来ちゃいました、てへ』だ?!馬鹿だろう、いや馬鹿だ!)


不良男子どもの巣窟に一人で、しかも女子高の制服のままで来るとか正気の沙汰じゃない。

飢えた狼の群れに子羊を放り込むようなものだ。


「センセーちょっと腹痛いんでトイレ行ってきます」


早口でそう言って、教師の返事も聞かず俺は教室を飛び出した。


「チーちゃん?!」

「瀬名、抜けがけかよ!?」


(うるせー。抜けがけもクソもあるか。アレは俺の客だ)


廊下を全力疾走して、階段も2段飛ばしで駆け下り、校庭を砂埃を上げながら駆け抜けた。


「わー、すごい。瀬名さん走るの早いんですね・・・早いんだね!」

「おっまえ、・・・一言目がそれか。なんで来たんだよ?馬鹿じゃねぇの」

「ば、馬鹿とはなんですか。・・・なんなの。だって見ればわかるって。来るなとも言われてないし」

「・・・確かに言ってないけどな。男子校に女子が来るとか、年一の文化祭であるかどうかなんだよ。男はみんな出会いに飢えてんの。狼なの!・・・あぶねぇってことくらい気づけよ。ってか気づくだろフツー。いや、その前に黒蓮とかに来るのがありえない」

「そこまで言わなくったって。別に校門前に立ってただけだし。・・・好きな人の学校に行くのっていけないこと?」


まっすぐこっちを向いて言う弓弦に言葉が詰まった。


「・・・っまたそんなこという」

「そんなこと?」

「・・・俺のこと、好き、とか、そういう変なこと」

「変じゃないですよ。だって瀬名さん格好良いし、可愛いもん」

「・・・は、はあああああ?!か、可愛い!?誰が!?」

「瀬名さん。瀬名千尋さん」

「どこがだよ?!気持ちわりぃこと抜かすな!」

「だって実際そうなんだから仕方ないじゃないですか」

「いやいやいや。ちょっと待て。昨日会ったばかりだぜ?俺たち」

「俺たち・・・なんて素敵な響き」


恍惚とした表情をする弓弦。


「おーい、弓弦?」

「わ、私の名前も覚えていてくださったんですか?!う、嬉しいです。瀬名さん大好き!」

「・・・待てっつてんのが聞こえねぇのか?」


何だ、コイツ・・・。


使ってる言葉がもしかして違うのかもしれねー、なんて思う。


「・・・うわぁ。見た目可愛いのに、中身チョー残念だね、この娘」


背後から呆れたような声が聞こえた。

ついて来てたのかよ。


「ユージ、いつからいた?」

「好きな人のくだりから、かなぁ。その娘、チーちゃんの彼女?」

「っちげぇよ!こんな変態、彼女でたまるか!」

「!チーちゃんそれは」


ユージの制止に振り返ると、涙目になっている弓弦がいた。


「へん、たい、ですか?私・・・」


な、泣かせてるのか?俺が?

でもここで違うと言ったらまた変な方向に調子に乗りそうだしな・・・。


「う、・・・そーだよ。不良の典型見てーな俺捕まえてそんなふざけたこと抜かすんだから、変態だろ」

「へ、変態じゃないですもん!だって、ホントに瀬名さん可愛いし優しいし、格好良いし素敵だから!!」


弓弦の叫びに生暖かい微笑みを浮かべたユージが俺の肩を叩いた。


「熱烈だねぇ、チーちゃん。えっと、ゆずり、ちゃん?」

「はい、なんでしょうか」

「チーちゃんのこと、好き、なんだよね?悪いけど、どこで知り合ったのか教えてくんない?チーちゃん硬派だからさぁ、ゆずりちゃんみたいな可愛い子とどうやって知り合えたのかなぁって」

「え、ちょっと待て。それは・・・」


他人が聞くとマズイだろ、ちょっと待て!


俺の制止は届かなかった。

何でもないことのように、弓弦は言う。


「昨日、瀬名さんのバイクに轢かれて、それで知り合いました。それで私の事心配してくれて・・・瀬名さん、すっごく優しかったんです」

「え。あ、そ、そうなんだ。ふーん」


引きつった笑顔で言ったユージはそのまま俺の首根っこを捕まえて校門から遠ざかった。


「おい!ユー、ジ!バカお前窒息する!!」

「あ、ごめんごめん。さっきのが衝撃的すぎて、つい」

「で、なんだよ」

「お前、サイッテーだな」

「は?いきなりなんなんだよ」

「バイクで轢いたにも関わらず、あんなにお前を好いてくれてる娘に『変態』とか。鬼かお前は。ゆずりちゃんちょっと泣いてたじゃねーか。男の風上にもおけんやつだな」

「え、いやでも俺のこと可愛いとか、ありえんだろ」

「ありえん。しかし恋する乙女フィルターにはそう見えるんだから仕方ない。姉貴もそう言ってた」

「お前の姉貴も変態ってだけじゃねーの」

「俺の姉貴を侮辱するのか?!」

「あーごめんごめん。悪かったって」


そうだ、コイツ、シスコンだったの忘れてた・・・。


心なしかいつもの馬鹿っぽい喋り方じゃなくなってるし。

もう、コイツもメンドクセーな。


「で、どーすんだよチーちゃん」

「何が」

「彼女と付き合うのか?」

「はぁ?・・・付き合う?」

「だって、彼女、お前のこと『大好き』って」

「・・・そんなこと言われても、まだ会って二日目だぜ?俺は全然ついてけねーよ」

「ゆずりちゃーん!まずは『オトモダチ』からにしようって、チーちゃんが言ってるよー!」

「っ馬っ鹿ユージ!勝手に何言って」

「馬鹿はチーちゃんの方だ。ココは男子校だぜ?ちゃんと手元に置いとかないと、ハイエナどもに取られちゃうよ?」

「取られちゃうって、お前な・・・」

「まー、まずは健全なお付き合いでも始めたらどーですか?幸い、証人には事欠かないし」

「は?」

「うしろうしろ」


そう言われて振り返ると、全校生徒が窓から身を乗り出していた。

皆一様にギラギラした目で俺たちを見つめている。


もしここで俺が弓弦を振ったら、一斉に襲い掛かる気満々だ。


「わーい、やったぁ!『お付き合い』ですね、瀬名さん!」


校門のところで呑気に喜んでいる弓弦ならあっという間に餌食になってしまうだろう。


「・・・はぁ」


俺は腹をくくった。


なぜか知らないし成り行きとしか言い様がないが、仕方ない。

あいつらよりも俺の方がましな自信もまるでないが、弓弦が喜んでいるんだから良いんだろう。


(知り合いがここの男に泣かされてるのとか、見たくねぇし)


「おい!お前ら!いーか、コイツは俺のだからな!勝手にちょっかいかけたら絞めるぞ!」


そう俺が宣言すると、奴らは一斉にシラけたようなため息をついて、窓から消えていった。


現金なやつらだ、全く。わかりやすくていいけど。


「せ、瀬名さん・・・」

「わりーな。ここのやつら馬鹿だから、宣言しとかねーと。メーワクだったか?」

「いいえ、いいえ!とんでもないです。瀬名さん、大好きです!」

「あー、はいはい。あまり連呼しないでもらえると助かるんだが。・・・それに一つ言っとくぞ弓弦」

「はい、なんですか?」

「別に俺はお前の彼氏でもなんでもねーから。あいつらの手前そー言っただけでまずは『オトモダチ』からだ。わかるな?」

「瀬名さん、瀬名さんの、そういうきっちりしているところも好きです!」

「・・・あーそう」


こいつ、俺の嫌いなところねーんじゃねーの。

てかそこまで好かれることしてねーし。逆に怖いんだけど・・・。


「あまり好き好き言っちゃダメだよ?ゆずりちゃん。男はみんな狼だからね。そんなことばっか言われると、むっつり紳士なチーちゃんだっていつかオオカミに・・・」

「てめぇちょーしにのって何言ってやがる?!誰がむっつりだ!」

「俺の貸した雑誌返してから言ってもらおーか?」

「・・・っ」


ぐぅの音も出なかった。


次回更新は17日の22時を予定しています。

よろしければお付き合いください。

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