事故って運命の出逢いとか?!
新連載、始めました。(冷やし中華、始めました的なノリで)
ほぼ書きあがってるので、8月中に完結させたいです。
よろしくお願いします。ペコリ
夜中、ちょっと近場のコンビニまでバイクを転がしたら、事故ってしまった。
「・・・ウッソマジかよ。・・・やっべぇ・・・」
相手は歩行者。
信号もない横断歩道だったが、ちょっとよそ見をしていてぶつかってしまった。
スピードは出してなかったけれどこれはまずい。
そんな俺は瀬名千尋、19歳。職業高校生。
あ?歳がおかしい?っせぇな、ビョーキでダブってんだよ。
プリンになりかけの金髪に酒の入ったコンビニ袋、ポケットにはタバコの箱という、立派な(?)不良である。ちなみに身分証は兄貴のを拝借している。
轢いた相手はどうやら女のようだ。まだ倒れたままだ。
血は出たりしていないが・・・。
「・・・おい。アンタ、大丈夫か」
「・・・んんん。・・・ったい」
声をかけると反応があった。どうやら倒れた時に強く頭を打ったらしい。
(うわ、まじぃよこれ。賠償とか、俺なんも分かんねぇんですけど・・・)
「・・・あれ、私なんで倒れてるんだっけ?というか、ものすごく頭痛い・・・」
「大丈夫か?」
「へ?あの?」
(もしかして、記憶飛んでる?)
瞬間、ラッキーと思った。このままうまく言いくるめれば賠償とかなしにできるかも。
適当に病院連れてって、治療費一部負担ぐらいでなんとかなるか・・・。
「ごめん、アンタ俺のバイクとぶつかったみたいなんだわ。立てるか?怪我とか、してねぇ?」
「た、ぶん大丈夫ですけど・・・」
そう言って立ち上がった彼女の全身をざっと見る。
特に大きな怪我はなさそうだが、足と腕が擦り剥けていた。
あと、頭も打っていたみたいだし、やっぱり病院行ったほうがいいかもしれない。
「頭打ったんだろ?一応、救急車、呼ぶか?」
「え、救急車なんてそんな大袈裟な。立てますし、歩けますよほら・・・ッ?!」
一歩踏み出した瞬間に大きく重心がぶれて体が傾く。咄嗟に腕を差し出して支えた。
「歩けてねぇじゃん。救急車嫌なら、連れてくから、後ろ乗れよ」
そう言ってバイクのサドル下からメットを取り出して渡した。自分はかぶらないことが多いけど一応入れてはいるものだ。
「え、そんなご迷惑かけるわけには・・・」
「ご迷惑ってな・・・。バイクの俺が悪いんだからそれぐらいするだろ。連れてってやるし、少しなら治療費出すから、賠償請求とか、メンドくさいのは勘弁な」
そう言って誤魔化すために笑ってみた。
仲間内では似合わねぇからやめろと言われる笑顔だが、まぁしないよりマシだろ。
「っ・・・わ、分かりました。お、お願いします・・・・」
なぜか、少し赤くなって小さな声での了承の返事が来た。
(・・・俺の顔、なんか変だったか?・・・ま、いっか)
(えーっと、近くのビョーインは、っと)
スマホで検索して場所を確認。夜間外来やってるところは少し遠かった。
(うへぇ。せっかく買ったビールがぬるくなっちまうな・・・)
思わず顔をしかめる。
「あ、あの。場所、教えていただいたら自分で行きます、よ?」
「あ?バイクのほうが早ぇだろ。・・・それに頭は怖ぇから、な」
「え?」
「いや、なんでもない。行くぞ、しっかり掴まっとけよ」
病院に着いて、待合室で待つ。
流石に夜間だから人がすくないかと思いきや、風邪ひいた子供とか酔っぱらいのおっさんとかで意外と人が多かった。
(・・・暇。ってか結構かかってんな。・・・この空気苦手だから早く帰りてぇんだけど)
腕を頭の後ろで組んで天井を見上げる。
シミ一つない真っ白な天井に、非常灯の緑が映っている。
消毒薬の匂いと、なんとも言い難い独特の匂いが鼻をつく。
(この匂い、嫌いだ)
嫌なことを思い出すから。
夕日が反射した窓と白いベッド、白い顔、閉じられた瞼。いくら話しかけても反応しない―――。
(何思い出してんだ。俺)
らしくない。感傷なんて。
頭を振って思考を追い出す。
そこに、女が帰ってきた。
「すみません、お待たせして」
「おう、で?やけに長かったけど、どうだったんだ?」
「念の為にレントゲンとったんですが、骨に異常はないそうです。頭は、後日MRI検査を心配だったらやる方がいいとお医者さんには言われました」
「・・・ああ、そう」
(MRI?あれって結構な値段する検査じゃなかったっけ?)
一瞬財布の中身を思い浮かべた。
(無理だな。5千円ぐらいしか入ってねぇ・・・)
それでもオトコの意地ってやつで、何食わぬ顔で切り出した。まぁ、全額は無理って言うんだけど。
「わかった。で、治療費なんだけど、俺さ、今・・・」
「いえ!そんな、お気持ちだけで」
「気持ちだけってアンタ・・・。俺にもつけなきゃなんねぇケジメってもんがあるだろ?全額は無理だけどさ。いま財布にある分なら渡せるから」
「ホントにいいんです。わざわざ病院まで連れて行ってくださいましたし。・・・あ、でもひとつだけ」
「何」
「・・・お名前、教えてください!あと、連絡先も、だと、嬉しいです・・・」
「は?名前に連絡先?」
「だ、ダメならせめてお名前だけでも・・・!」
「いや、別にいいんだけどさ。・・・アンタ、変わってるな。俺、どこからどー見ても不良だけど?・・・瀬名千尋。連絡先は、メアドでいいか?あ、そうだMRI撮ったら検査料少しだけど払うし、そんとき連絡して」
「瀬名、千尋、さん・・・。素敵な名前ですね」
「そうか?女みたいな名前でメーワクしてるけどな」
アンタは?と、スマホでプロフィール呼び出しながら聞いた。
「わ、私は、柊女子高の3年で、弓弦薫といいます」
柊女子って言やぁ、結構有名な名門女子高だ。なんだ、コイツ良いトコのお嬢さんか。
「ゆずり?」
「弓に弓の弦で、ゆずりです。・・・あ、私スマホじゃないんですけど・・・」
「へぇ、変わった苗字だな。今時まだスマホじゃねぇのも変わってる。どーすっかな。あ、バーコードリーダー使える?」
「はい、それは大丈夫です」
「じゃ、バーコード出すからそれで読み取って俺にメール送って。登録しとくから」
「ありがとうございます」
「・・・礼言われるのもなんか、なぁ。元はといえば俺が轢いたからこんなことになってるんだし・・・。アンタ、そーとー変わってる」
バーコードリーダーで操作している弓弦は下を向いたまま返事をした。
「べ、別に変じゃないです。・・・好きな人の名前とか、知りたいと思うのは当たり前じゃないですか」
「・・・は?今何つった?」
・・・好きな人、とかいう単語が聞こえたんだか?
聞き間違いだな、声小さかったし。
そう思った俺に、顔を上げて弓弦はもう一度言った。
「好きな人の名前とか、連絡先とか、知りたいと思うのは、普通のことですよね?」
「・・・その、好きな人ってのは、だれのことだ?」
「瀬名さんです」
「ほぅ、俺と同じ苗字の奴がいるのか、まぁいるよなそれほど珍しい苗字じゃねぇし」
「瀬名、千尋さんです」
「・・・おいおいおい。待て待て待て。おかしいぞ、それ。なんで自分の事轢いた奴を好きになるかよ?ジョーダンにも程があるぜ?」
「ジョーダンじゃないです。・・・だって、一目惚れだし」
「・・・はあああああ?!!」
一目惚れ?!
人生で初めて聞いたぞ、その単語!実際いるんだな、そういう人間!
俺はしばらく固まったままだった。
なにコイツ。超趣味悪くね?!・・・自分でも言うのもなんだけど!
その金縛りが溶けたのは、会計カウンターからの呼び出しがあったからだ。
「・・・すみません、結局お金払って頂いて・・・」
「別にいーよ。元はといえば俺が悪いんだし。ってか、財布持たずによく外出してたな、しかもこんな夜中に」
病院からの帰り道、再びバイクに乗って車道をゆっくり走った。
夜中だからか、車の通りも少ない。
「ちょっとコンビニで夜食買うつもりだったんで、300円しかポケットに入れてなかったんです・・・。忘れてました。お恥ずかしい」
「・・・あのさ」
「はい、何ですか」
「その敬語、止めてくんねぇ?アンタ、高3なんだろ?俺歳は一個上だけど、学年はタメだからさ」
「あ、そうなんですか。・・・そうなんだ。どこの高校?」
「名門女子高のお嬢さんに言うのは恥ずかしいねってくらいの高校だけど?」
「それ、答えになってないです・・・ないよ」
「・・・ぷっ。ッククク。ァ、アンタ、慣れねぇのな。おもしれー。・・・知ってるかわかんねぇが、黒蓮男子高だ。バカとアホと不良の集まり。いわゆる吹き溜まりだな」
「そ、そんな言い方、してはダメです!」
「敬語」
「っ・・・しちゃダメ!」
言い方が幼すぎて笑える。敬語の時との口調のギャップが激しい。
「しちゃダメって言われてもなぁ。通ってる人間が言うんだから、確かだぜ?一遍見にでも来ればわかる」
「行けばわかるんですね?」
「・・・そうだけど」
なんか、嫌な予感がした。
でもそれを口に出すと本当に起こりそうな気がして、俺はそれ以上は何も言わなかった。
俺が弓弦を轢いた場所からそう遠くない交差点で、弓弦は此処まででいいといった。
「送ってくれて、ありがとう。瀬名さん」
「おう、ここでいいのか?」
「うん。コンビニ行けてないし。すぐそこだから。・・・じゃあ、また」
にっこり笑って手を振る弓弦に無意識に手を挙げて応えていた。
(・・・はっ。・・・なに、やってんだ、俺)
ぬるくなったビールの缶が袋の中でカランと音を立てた。
弓弦は私が書く女の子キャラの中では可愛い部類に入ると思います。
というか、書いてる本人が可愛いなぁっつって書いてます。笑