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Arts hunter   作者: kiruhi
青年編 ー最後の教えー
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第九十四話 ガーゼベルトの危機

『メシュガロスを統治していたドランゴは、ガルガゴス帝国に撤退した』


 と言う報告は、忽ちメシュガロスに駆け巡った。


 アーツバスターたちをドランゴの元に戻らせない為、奮戦していたアーツハンターたちは既に疲弊。

 敗北感を漂わせていた。

 だが、それでも己の出来る事をやり遂げようとアーツハンターは奮闘していたのである。

 そして、諦めかけている時ギレッドがラッセルで言った唯一の言葉が彼らを支えていたのであった。


『向かってくるアーツバスターども全て、儂だと思え!! さすれば、お前たちは誰にも負けんわっ!!』


 ギレッドの模擬戦闘を体験した者は、その言葉の意味を知っている。

 これだけで、彼らはまだほんの少しだけ戦えるのである。


 その結果、互いを励ましあう。

 結果的に、運良く一人の死者も出さずにアーツハンターたちは、持ち堪える事が出来ていたのである。

 彼らの元に届いた朗報は喜びと達成感に満ち溢れていたのであった。




 だが、そこにはドランゴと戦ったギレッド。

 二人の戦いを見守っていたルークの姿は、既になかったのである。




 ーーーーー



 ギレッドはマーシャルの前に現れたのである。

 それは、マーシャルを驚かせるのに十分な光景であった。

「ギレッド殿……?」

 なせか、ギレッドは意識を取り戻さないルークを、両腕で抱きかかえていたのである。

 その姿にマーシャルは、目を丸くし驚いていたのであった。

「あっあの……?」

「……マーシャル殿。ドランゴは、いずこかへ行きおった。多分、ガルガゴス帝国にでも戻ったのじゃと儂は思っておる」

「では……?」

 作戦は成功? とマーシャルは言葉を続けたかった。

 だが、ギレッドは全身傷だらけ。

 そして腕の中で動かないルークの姿を見て、マーシャルはその言葉を紡いだのであった。


「その前に聞きたい事が……あの……一体、何があったのですか?」

「……すまんが、説明しておる暇はないのじゃ」

「えっ?」

「儂は、ルークを一先ず安全な場所に隠す」

「??」

 マーシャルには、ギレッドが何を考えているのか?

 何をやろうとしているのか?

 理解する事は出来ず、むしろ益々訳がわからなくなるばかりであった。


「マーシャル殿、ドランゴはここにおらん。これだけは真実じゃ」

「はっはぁ?」

「これ以上の戦闘は無意味。直ちに戦闘行為を中止させるのじゃ」

「はっはい。わかりましたわ。ですが、ギレッド殿……もう少し詳しく説明して頂きたいです。(わたくし)はわからないのですから……」

「確かにその通りじゃな、だが……」

 ギレッドは、言葉を防ぎ綺麗な満月を見つめている。そして……

「……満月にでも、聞いてくれ」

 申し訳なさそうにそう言い放ったギレッドは、何も告げずにルークと共にその姿を消したのであった。

「……」




 ギレッドと別れたマーシャルは、暫し放心状態に陥っていた。

「はっ!! こうしてはいられませんわっ!!」

 マーシャルは、己のやる事を再認識し行動に移すのであった。


 まず、マーシャルが足を踏み入れたのは、ギレッドとドランゴが戦った場所だった。

 その場所は既に原形をとどめてはいなかった。

 激しい戦闘だった事を満月に聞かずとも安易にマーシャルは想像する事は出来た。

「……一体どれ程の死闘を繰り広げ、ここで一体何が起こったのですか?」

 そう呟きながらも、マーシャルは空に浮かぶ満月を見上げる。

 ふぅ〜と軽く息を整え、マーシャルは月光のアーツを発動させて行くのであった。


 満月は、全てを見ていた。

 と言わんばかりに、ここで起きた出来事をマーシャルの脳裏に全てを映し出す。


 激しい戦闘の行く末に訪れた決着の刻。

 突如、現れた死神と名乗る男。

 そして、ルークに起こった出来事。


 冷や汗を掻きながらも、マーシャルは全てを理解する事が出来たのであった。

 それと同時に、ギレッドの謎の行動について……

 理解する事が出来た。

 ルークを殺そうとしている死神の存在は確かにヤバイ。

 と言う事はマーシャルはわかった。

 だが、その結果ギレッドの取った行動に対してマーシャルは悔しかった。


 安全な場所に隠す。と言うのもわかる。

 それでも……

 マーシャルはギ満月ではなくレッドの口から聞いて、今後どうするか言って欲しかった。

 そう、マーシャルは、ギレッドに相談してもらいたかったのだ……



 二人は知らない仲ではない。

 ……だが、友人と言う仲でもない。

 それでもマーシャルはギレッドを信じ、慕っている。

 ギレッドもまた、マーシャルを信じていてくれいる。とそう思っていた。


(わたくし)ではあなたの相談相手にも慣れないちっぽけな存在のですか? ギレッド殿……」


 マーシャルは、満月を見上げながらそう呟く事しか出来なかったのであった。




 だが、いつ迄も干渉に浸っている場合ではなかった。

 今も尚、アーツハンターたちはアーツバスターたちと戦闘中なのであるから。

 マーシャルは静かにこぼれ落ちそうな涙を振り払い、気持ちを切り替える。 

 まずは、作戦成功を知らせる。

 そして戦闘中止させる事を決意したのであった。



 満月を媒介とし、メシュガロスにいる全ての者たちにマーシャルの声は響き渡る。


(わたくし)はアーツハンター戦闘隊総司令官マーシャル・フォン・フライム。

 メシュガロスにいる全ての者たちに伝えます。

 戦いは終わりました。

 現在ドランゴ・サーガは、メシュガロスにはいません。

 これ以上の戦闘は無意味です。

 直ちに戦闘行為を停止して下さい。

 繰り返しますーーー」


 だが、マーシャルの声にアーツバスターは誰一人として信じる者はいなかった。

 アーツバスターたちか戦闘行為を中止しなければ、アーツハンターたちも戦闘態勢を崩す事はなかったのである。


 マーシャルは何度も戦闘行為を停止するように呼びかけていた。

 しかし、納まるどころか過熱する一方である。

 戦闘が終息したきっかけは普段あまり怒らないマーシャルの激怒であった。

 しかし、それでも終息を迎えたのは二時間後の事である……


 生き残ったアーツバスターたちは、ドランゴがいない事を知り諦めたのか素直に投降する者もいる。

 投降は自らのプライドが許さないと言い、自ら死を選ぶアーツバスターたちもいたのであった。


 全ての後処理を終えるまで、マーシャルに休む暇ないのである。

 だが、それでもアーツハンター協会長ローラに喜びの報告をしたかった。


 メシュガロス奪還作戦成功!!


 との一報をマーシャル記載し、仮説テントにいる者にローラに伝えようとしたのだが……

 マーシャルは、そこでとんでもない事を聞かされたのであった。

「今、なんと仰いましたか?」

「……我々がメシュガロスに侵入したのとほぼ同時刻に、アーツバスターはガーゼベルトに総攻撃を仕掛けてきました」

「なっ……!?」

 そう、ガーゼベルトは今、メシュガロス奪還成功に両手を挙げて喜ぶ、それどころではなかったのであった ……


 マーシャルは今すぐ直ぐにでも援軍に行くべきか?

 それとも、体制を整え準備万端な状態で行くべきか?

 それとも、行かないべきなのか?

 頭を悩ませるのであった。


「うぅぅ……胃が行くなりそうですわ」

 泣き言を言いながらも、戦闘隊総司令官としてマーシャルは次にやるべき事を決定しなければならないのであった。




 ◆◇◆◇◆




 現在、ガーゼベルトにいるアーツハンターは僅か二十人足らず。

 その一方、アーツバスターの数は約五百人以上いたのである。

 幾ら選りすぐりのアーツハンターとは言え、五百人も相手にするのは至難の技。

 いや無謀とも呼べた。


 唯一の救いだったのは、 アーツバスターたちがアーツを発動出来なかった事。

 アーツを発動出来ない以上アーツバスターたちは、武器を持っての攻撃を仕掛けてきたのであった。


 ガーゼベルトは、アーツを発動する事は出来ない。

 その為、アーツバスターに命を脅かされる事のない安全な街である。


 今までずっとそう言われ続けていた。


 しかし、アーツバスターたちの手に寄って安全と言う名は消え失せてしまう。

 至る所にあるゲートを使いアーツバスターたちは、一気に姿を現し狂気を振るい始める。

 当初彼らが狙っていたのは、アーツハンターではなく力を持たぬ、街人たちであった。


 その事を知らされた、アーツハンター協会長であるローラは的確に命令を降していたのだが……


 一時間も経たずに、アーツハンター協会とセルビアの父、アッシュ・フォン・タルトが住む星型要塞を残し、全ての場所はアーツバスターの手に堕ちてしまうのである。


 そんな状況下にも関わらず、ローラは諦めてはいなかった。

 まず、アーツハンター協会内とその周辺では、アーツを使う事は出来ないからだ。

 アーツを使う事が出来れば、武器しか持たぬアーツバスターたちの侵攻を食い止める事が出来る。


 後、ローラはアッシュのいる城も持ち堪える事が出来るだろうと予想していた。

 ガーゼベルトの城は特徴的な星型要塞である。

 敵襲があった場合、一目で見渡せるような造り。

 多方面に突き出した部分を作り出し星型の形をし、死角をなくしている。

 見晴らし台は中央に建っており、四方何処からでも敵襲に対処出来るようになっているのである。

 この見晴らし台を超えると、アッシュの住む城。

 城門へと通じるのであるが、それまでの道のりそうやすやすと進める筈はない。

 とローラは考えたのであった。



 ならば……やるべき事は、一つ。

 持ち堪える事だった。



 ガーゼベルトがアーツバスターに襲われている。


 そう報告が各街に通達されれば、アーツハンター支部長たちはアーツハンターたちを集め反撃の狼煙を上げる。

 だが、ガーゼベルトに到着するのは早くても一週間はかかる。

 とローラは予想していた。


 アーツハンター協会が陥落すれば、アーツハンターは滅亡の道を進み。

 アッシュが暗殺の手に寄って打たれる事があれば、ヴィンランド領は混沌の道を歩む事となる。

 そうなれば、内政問題で一杯一杯になり。

 アーツバスター打倒とかそう言う場合ではなくなってしまうのだ。


 ローラはアーツハンターたちに命じる。

「他の支部の者たちは必ず来ます。それまでの間、ここ(協会)も城も死守ですわ」

「はっ!!」

 更にローラは命じる。

 城と連絡を取るべく、協会から城へ通じる通路を開放したのであった。


「……あなたたちも、行って」

 ローラは、常に影で自分を守り続けている精鋭部隊に対して命令を降したのであった。

「ですが、我々の目的は……」

「アーツハンター協会が占拠された。アッシュ王が倒された。なんて未来、見えていないわ」

「……」

「だから行って。そして、皆が来るのまでの間、持ち堪えて……」

 ローラの命令に、精鋭部隊も渋々だった。

 彼らの本来の目的は、ローラを守る事なのだから……

 だが、ローラの懇願に精鋭部隊は折れたのである。

 絶対部屋から出ないようにとローラにお願いた精鋭部隊は、ローラの元を離れ前線へと赴いたのであった。



 刻々と変わる戦況の中、ローラは五日間なんとか……


 多くの死者を出しながらも、持ち堪える事に成功したのであった。

 予想よりも早く到着した事に、ローラは心から感謝するのである。


 それはローラの存在意義と、アッシュのカリスマ性の由縁であったかもしれない。




 ーーーーー



 ミステリアは、順調に事が進んでいる事に当初はほくそ笑んでいた。

 だが、アーツハンター協会と星型要塞を中々責め墜とせずに長期戦になってしまった事に、歯がゆい思いをしていたのであった。


 暴動を起こしてから五日後、各街のアーツハンターたちが集合。

 武器同士がぶつかり合う激しい戦闘が街中で起こり、街の外では街に侵入させないアーツバスターと街に侵入しようとするアーツハンターとの間で戦闘が開始されていた。


 その戦況を見た時ミステリアは切り上げるべきかな?

 とも思いはしたが、当初の予定通り策を進めようと結論を出したのであった。


 そして更に五日経ち、十日後……

 しぶとく抵抗を続けるアーツハンターたちに、こちら側も流石に疲労感は否めなかった。

 指示を出しながらもミステリアは、なにか強力な一撃を起こすきっかけが欲しいと感じてさえいたのである。

 強力な一撃を放てる、ドランゴがいない事にミステリアは憤りを芽生え始めていたのであった。

「ったく肝心な時にいないんだから……」

 ぼやくミステリアに対し背中から呑気な声が聞こえて来たのである。

「ここは随分と騒がしいねぇ〜」


 前線に行けっ!! とミステリアは怒鳴り散らしてやろうかと思った。

 だが、声の主の姿を見てミステリアは、その言葉を飲み込んだのである。

「死神……」

「あれ? 貴女とは初めてお会いするかと思っていましたけど?」

「……確かに話しした事はないわ。でも一度だけドランゴと共に会った事が……」

「そうでしたか。それは、それは大変失礼致しました」

 陽気に語る死神をミステリアは、嫌っていた。

 死神自体不気味で何を考えているのかわからず、ドランゴの足を引っ張るのではないか?

 と感じずにはいられなず、早くこの場から立ち去って欲しいと願っていた。

 だが、状況を知りたいのもまた事実であった。


「それで、どうしたのですか?」

「あぁ……うんうん。仕事しに来たの〜」

「?」

「仕事ですか?」

「うんうん、結果的には……そうだね。君たちが今やっている事の、手助けになると思うから顔だけ出しに」

「……さっ左様ですか」

「じゃそう言う事で〜」

 死神は言いたい事だけミステリアに言いその姿を静かに消していく。


 ふぅ〜


 とため息をつき気を許した途端だった。

 再びミステリアに死神は姿を表さず、声だけで話かけてきたのである。

「そうそう、メシュガロスは陥落したよぉ。ドランゴ君は、ガルガコス帝国で治療中〜」

「!!」

 どう言う事? とミステリアは言葉を続けた。

 だが、死神はその答えを教える事はなく、何処かへと行ってしまったのであった。


「もっと詳しく説明して欲しい物だわ……」

 ミステリアは、呆れながらもそれしか言えなかったのであった。




 ーーーーー



「むんっ!!」

「ぐあぁぁぁっ!!」

 街中ではアーツを使えない筈。

 だが、この年老いた老人だけは違っていた。

 アーツは使えず共に、闘気の力だけでもアーツに似た力を発揮する事が出来るのであった。

 老人と言ったら怒られそうだが、この老人は年相応にも幾度も死線をくぐり抜けた百戦錬磨の猛者。


 城門からアーツバスターたちを蹴散らしながら老人は、アーツハンター協会へと進んで行く。

「師匠っ少し無理しすぎなのでは?」

 黄色のクリクリッのくせ毛の持ち主は、師匠と呼び老人の身体の事を心配するかのように言葉を述べていたのであったが、老人はそんなのお構いなしで不敵に笑みを浮かべ叫ぶ。

「心配無用じゃぁぁぁぁぁっ!!」

 その元気な声を聞き、まだまだ現役ですわね。と感心してしまうのであった。


 アーツハンター協会の門に辿り着いた老人は、アーツが発動出来る事を再確認するのであった。

「うむ、儂のアーツがアーツバスター全てを吹き飛ばす!!」

 闘気を全開まで高めた、衝撃波がアーツバスターたちを次から次へと叩きのめして行くのである。

 そんな師匠の姿を見ながら、知ってはいたものの改めてその強さと偉大さを再認識するのであった。

 だが、黄色の髪を持つ女性もまた足を引っ張る事なかった。

 焰のアーツを使い応戦するのである。

 そんな背中を任せらるまでに成長した事に老人は、口には出さないが幼い頃の面影を思い出し立派に成長したものだ。

 と感じていたのであった。


「師匠、怪我の具合はどうですか?」

「大事ない!」

 先程と同様の質問を再度、質問してしまうのである。

 老人は普通に振舞ってはいるが、本来なら疲労困憊で立っているのも困難な状態なのだ。

 なのにも関わらず、平気な顔をして衝撃波を繰り出す老人。


 そもそも、老人はここに到着する前、アーツバスターの中で最強と呼ばれる男。

 ドランゴと激しい戦闘を行っていた。

 確かに傷自体は、ガーゼベルトに到着する前に回復する事が出来た。

 だが、回復途中で暫くは静養した方が良いと、老人は忠告されていたのであった。

 当初老人は言われたとおり自分の歳も考え、静養しようと考えていた。

 しかし……

 ガーゼベルトの窮地を知った老人は、身体に鞭を打つかの如く真っ先に駆けつけたのであった。


 それを知っているだけに、彼女は心配してしまうのであった。




「支部長!!」

 支部長と呼ばれ、老人と一緒に現れた焰のアーツを使うセルビアは振り返る。

「なんですの?」

「一部攻撃を受けていない場所があります」

「それはどこですの?」

「貧民街です!!」

「……確かに怪しいですわね」

 セルビアは少しだけ考え込む。

 自分がどう動くべきか……


 今、この場で命令する者はいない。

 そもそも自分が、命令を降す立場である。

 セルビアは普段考える事を嫌う。

 だがこの時ばかりは、嫌いな考えて毎ではあるが慎重に考えるのであった。

 そんなセルビアの考えている姿に、老人ギレッドは即座に判断を降すのである。


「セルビア、ここは儂に任せろ。お前は貧民街に行け!!」

「ですが……師匠?」

「まだまだ若い者に、儂は負けんわぁ〜!!」

 そう言いギレッドはぐるぐると腕を振り回し、勢い良く地面を殴りつける。

 ボコッと地面はへこみ衝撃波が、アーツバスターたちを吹き飛ばして行くのであった。

「行けっセルビア!!」

「師匠……」

 報告したい事、相談したい事、セルビアは沢山胸の内に秘めていた。

 だが、今は悠長に話し込んでいる場合ではなかった。

「ご無事で……」

「任せろっ!!」

 セルビアは名残惜しそうに、ギレッドに背を向け貧民街へと走り去って行く……




 これが二人にとって永久の別れになるとも知らずに……






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