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Arts hunter   作者: kiruhi
青年編 ー最後の教えー
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第九十三話 力の行く末……

「さて、次は白のアーツの破壊だね」

 死神は両膝をついてたまま動かないままのルークに対し、白のアーツも消し去ろうと右腕を握り締めようとしたその瞬間、異変に気付き後ろへと飛びのいていく。

「……」

 疑惑にも似た目線を、ルークへと向けるのであった。




 ルークの身体からは黒の闘気、波動とは全く違った形でドス黒い物が全身の毛穴から吹き出ているかのようにただれ流れ出ていた。

 ドス黒い物は空気に触れると煙へと変化を遂げ、まるで触れる者全て飲み込み消し去る。

 そんな威圧感を、死神は感じずにはいられなかった。


 死神は総帥と同じ感覚を醸し出しているルークを見ながら、なぜ総帥が初対面でもあるルークに対して殺せと命令してきたのか?

 その謎を、この時理解出来たのであった。


 無意識の中に眠る力。

 この力を少年が完全に制御出来た時、総帥の時代は終わりを迎え新たなる王の誕生と変わる。

 だからこそ、その前に……そう言う事ね


 そう結論を出したのと同時に、どうやってルークを殺そうかと考え込む死神であった。




 ギレッドも死神と同様に、すぐルークの異変に気付く事が出来ていた。

 だが、今ギレッドは雷の鞭によって捕縛中であり、身動き一つ取れない状況であった。

 少しでも動こう物なら、雷の鞭は容赦なくギレッドに食い込み肉を断ち骨を引きちぎろうと襲いかかってくる。


 まず、これをどうにかしなければならなかったのであった。




 ドランゴはと言えば、相変わらず仰向け状態で指先一本まともに動かす事は出来なかった。

 そして、視界の端で起こった黒のアーツの破壊に落胆していた。

 唯一戻ると信じていた黒のアーツが目の前で破壊されたのだ。

 ドランゴは死神を今すぐにでも八つ裂きにしたい気持ちと、死神に命令を降した総帥に対して怒りすら覚えていた。

 だが、ルークの異変にドランゴも気がついたのである。

 ドス黒い煙を見ながらドランゴは……


 そのドス黒い煙の力では、俺は帰りたい場所には帰れない……


 そう感じとっていたのであった。



 やがてルークを取り囲んでいたドス黒い煙は、空へと登って行く。

 星空満天の空はドス黒い空はへと変貌を遂げて行く。



「こいつはヤバイのぉ」

 空がドス黒い変わる様を見ながらギレッドの小声に呟いていた。

 体験した事はない。

 だが、ギレッドにも師匠と言う者は存在している。


 師匠がいたからこそ、今の儂がおる。


 と思える程の強さと知識の持ち主であった。


 ギレッドの師匠は、数百年前に起きたと言われている世界の一部を消し去った黒のアーツ暴走の体験生存者でもあった。

 その話を師匠から聞かされた時、ギレッドは信じる事は出来なかった。

 普通に考えて、生存者が生きている筈がないのだから。


 だが、ギレッドの師匠は不死のアーツと言う名のアーツの持ち主である。

 喧嘩別れしたお陰で、今も尚生きているのか?

 死んでいるのか?

 それすらわからない状態ではあるが、多分不死のアーツのお陰で今も健在だとギレッドはそう思っていた。


 聞かされた時は、老人の妄想と聞き流していたギレッドではあった。

 だが、今この時点で師匠から聞いていた話と全く同じ状況が目の辺りにして起きていた。


 この時、初めてギレッドは師匠の話しを信じたのであった。




 そして、ドランゴもただ事ではない事が起きると察する事が出来ていた。

「おいっ、このままではメシュガロス所か、ヴィンランド領……いや世界全て消し去ってしまうぞ」

「お主にとってそれは都合が、いい話しなのではないのか?」

「……俺すら消え去ってしまえば、意味がないだろうが」

 冷静に返すドランゴに対し、ギレッドは納得させられた。

「確かにそうじゃな」

 と言うしかなかったのである。


「だが、この状況下どうする事も出来ん……儂もお主も覚悟するしかあるまい」

「……」

 この時、ドランゴはルークを止める方法たった一つの方法を思いついていた。

 だが、それと同時にドランゴは元の世界に帰る事を諦める事を意味していた。


 ドランゴは元の世界に帰る事を諦めるか、諦めないか?

 時間の残り少ない決断に迫られていたのであった。





(死神……)

 ルークに対してどうするか考えていた死神に、総帥の声が脳裏に走ったのであった。

(おや、総帥。ドランゴ君の意思は通じたのかな?)

(先程から何度も連絡が入っている)

(流石話しは早い。でもね、ちょっとやばい事になりそうなんだよね?)

(……?)

(このままじゃ君、黒のアーツの暴走に巻き込まれて消し去ってしまうかもね)

(おぃ、死神。貴様何をした?)

 総帥の声は低く、ドスの聞いた声で死神を責めたてようとしていた。

(何って黒のアーツを破壊し、僕は、今まさに君の依頼を叶えようとしている所だよ?)

(俺が、いつ何処で黒のアーツを破壊しろと言った?)


(……確かに少年を殺せとは言ったけど、黒のアーツについては触れてはいなかったね)

(立派な契約違反だぞ、死神。俺はその状態で殺した、と言われても一切報酬は払わん)

(えっ?

 まじっ?)

(黒のアーツを元に戻した上で殺せ)

(……)

(貴様ならそれが可能だろ?)

 そう言って総帥は、死神との交信を途絶えたのであった。


(確かに元には戻せるけど……どう考えても黒のアーツ邪魔なるだよねぇ〜)

 死神はルークに目線を向けながら、諦めたのであった。

(まぁ契約だし、しゃあないか……)


 死神は、ゆっくりとルークの側へと近づいて行く。

 その行動に、ギレッドとドランゴは気づいたのであった。

「貴様っそれ以上ルークに何をするつもりじゃ!?」

 ギレッドの怒鳴り声に、死神は己の人差し指を立て口元に当てながら構わず歩みを止める事はなかった。


 流れ出ているドス黒い煙に触れても死神は消えない。

 それは、まるでそこに死神自体が存在していない。

 だから消し去る事が出来ない。

 そんな違和感を、ギレッドは抱いていたのであった。


「何者なんじゃあいつは……?」

「……死神さっ」

 ギレッドの疑惑にドランゴは当たり前のように答えていた。

「本物の死神なぞいるはずが……」

「普通の人間なら、あそこにいるだけで消え去る。俺もお前もな。だが、奴は死神。だから消えない」

「……」


 “そんな馬鹿な……”


 ドランゴの言う事は、ギレッドには理解出来る。

 理解出来るが、普通に考えても死神なぞ存在する筈がないのだ。


 だが、現実に死神は消え去る事なく、ルークの側まで辿り着く事が出来ている。

 最早、ギレッドには目の前にいる男が本当に死神だと思わずには要られなった。



 当の死神と言えば……

(ふぅ〜このアーツ、結構辛いんだよねぇ〜)

 余裕は見せつつも、死神はそんな事を悠長に考えていたのである。

 死神は、誰も触れる事が出来ないアーツ『無のアーツ』を使いルークの側へと辿り着いていた。


 無のアーツは、気配を消す事から始まり誰にも気づかれる事なく対象者の側に行く事が出来る。

 正に暗殺向きのアーツであった。

 他にも空気を無に返したり、火を無にしたり。

 言わば、何でも無にする事が出来るアーツであった。


 白目を向き視点の定まらないルークの姿を見ながら、死神はそっと黒のアーツに触れて行く。

 そこから発動されたのは『修復のアーツ』であった。

 黄金色に輝き、見る見るうちに割れていた黒のアーツは修復の果たし元通りの形へと戻って行くのであった。


 だが、黒のアーツの変化は修復と言うきっかけを掴んだのだが、何も変化する事はなかった。

 空から、降り注がれる黒い一筋の光は、ルーク目がけて降り注がれようとしていた。


(遅かったかも。まぁ僕は死なないからいいけど、ドランゴ君が死ぬのはちょっと今後の展開的には不味いかな)

 また、契約違反だ。

 と総帥に言われると思った死神は、ルークに黒い光が着弾する前にケリを付けようと考え、次の行動に移すのであった。

 指を真っ直ぐに伸ばし、手刀へと変化させて行く。

 ……狙うは、ルークの心臓一突きである。


(さすれば、黒のアーツも一時的に発動を停止するでしょ)


 死神の手刀がルークの心臓に突き刺さる時、紅炎(プロミネンス)を纏った不死鳥が黒のアーツの中から姿を現す。

「ほぉぉぉ。綺麗だねぇ〜」

 不死鳥は、死神の手刀を受け止め睨みつけながらもその姿を、再び黒のアーツの中へと舞い戻って行くのである。

 そして、黒い光はルークに着弾。


 そこから巻き起こるのは、数百年前に起きた事の再現である。


 街を消し。

 人類全てを消し。

 大地すらも消し去る。


(流石の僕も無事では済まないねぇ〜仕方が無い。ここはドランゴ君だけでも助けて、この場から逃げ出そうかな)


 咄嗟に死神は、暴発寸前であるルークの側を離れドランゴの側へと姿を現し、ギレッドを置き逃げ出そうとしたのだが……


 暴走は、起きなかった。


「あれ?」

 なぜ、事が起きない。

 不思議に思う死神であった。



 着弾した黒い光は黒のアーツの中に入り込み沈黙。

 静かにルークはその身を、うつ伏せに倒れたまま動かないのであった。



「凄いねぇ〜」

 死神は、倒れ意識のないルークに再び歩みよりながらも関心していたのであった。

「貴様っそれ以上ルークに近づくなっ!!」

 ギレッドの叫び声に死神は歩みを止めない。

 動かないルークの頭を掴み取るのであった。

「やめるんじゃっ!!」


「僕の仕事はこの少年を殺す事。仕事はきっちりと達成しないと信頼関係が崩れてしまうからねぇ〜」

 死神は、先程黒のアーツを破壊したのと同じように電磁波をルークの頭に直接叩き込んでいく。

 そう黒のアーツを破壊したのは、見えない電磁波による物であった。


(電力が足りない。少しばかり無茶し過ぎたかな?)


 これは死神の最も好む暗殺方法であった。

 電磁波を浴びた脳は、頭の中で破裂。

 簡単に死に至る暗殺方法である。

 仮に運良く生き延びたとしても、廃人。

 何も考える事のない、生きた死人へと変貌を遂げるのである。

 その様を死神は、快感なのであった。


 だが、今回ばかりは電磁波を形成するだけの体力は死神には残ってはいなかった。

(このままでは、廃人する事も出来ないなぁ〜)

 時間を掛けてでも確実にルークを、殺したいと死神は思うのであった。




「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 ギレッドは叫ぶ。

 ルークの死に行く様を最早見てはいられなかった。

 なりふり構わず、無理矢理雷の鞭を引きちぎり、ギレッドは怒りに任せて死神に殴りかかって行く。


「おっとっ!!」

 突然の出来事で、死神は途中でルークの頭から手を離しギレッドの攻撃を避けて行く。

「きっさまぁぁぁぁぁっ!! 許さんっ!!」

 ギレッドはルークのを庇うかのように身を呈しながら、鋭く死神を睨みつける。

「ってか凄いねぇ〜全身血だらけの状態だと言うのに。それでも僕に向かって来るなんて……」


(うーん、残念。もう少し電磁波を続けていれば、殺すには事は出来なくても何もかんがえられない、廃人には出来たのになぁ)

 ルークとギレッドを見つめながらも死神は考える。

 先ずは邪魔なギレッドを殺さなければ、目標であるルークを殺せない事。

 そして今の死神には、二人を殺す力は残っていない事を悟ったのであった。


(仕方が無い今回は諦めるかぁ〜ドランゴ君を連れて退散するかな。他にも仕事一杯あるのに……)



 そう決断した死神の行動は早かった。

 一瞬にして姿を消したのである。

「どこに行ったっ。逃げる気か!!」

「クスクス……取り敢えず、今日の所は時間切れのようだし、ドランゴ君を連れて退散するよ……」

 目には見えず死神は、ギレッドに語りだす。

「なにっ!?」

 死神の声を聞いたギレッドは、ドランゴのいる場所へと振り返ると既にドランゴは消えていたのであった。

「くっそっ!!」


「また再びトドメを指しくるよぉ〜あっメシュガロスは、取り敢えず今は君たちアーツハンターに返す事にするよ」

「きっさまっ!!」

 どこまで嘲笑うのか。

 ギレッドは、腑が煮え繰り返る程の怒りを抑えるので精一杯だった。

「僕たちの本来の目的も、達成出来そうだしねぇ〜」

「どういう事だっ!?」

 意味深な言葉を残し死神の声は、それ以降捉える事はギレッドには出来なかった。

 やに雲にギレッドは、死神を追いかけ今後の為にも死神を倒したかった。

 だが、ギレッドはそうしなかった。

 いや正確には、出来なかったのだ。

 ギレッド自身全身傷だらけ。

 満足に動く事は、叶わなかったのである。

 そして、何より目の前で動かないルークが、ギレッドには一番の気がかりだったからであった。


「おいっルーク。ルーク!! しっかりしろっ!!」

 ぐったりと動かないルークを抱きしめながらギレッドは更に声を掛けていた。

「すまなかった。儂がついておりながら。なにが必ず儂が守ってやるじゃ!! 儂は……儂は……何も出来んかった……!!」





 ルークは死神によって受けた電磁波の後遺症を何一つ残さず、目覚める。

 だが、その場所はメシュガロスではなく、全く別な場所で目覚めるのであった。






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