第八十七話 闘気
「くはぁぁぁ……」
意識を取り戻したのと同時に、身体が痙攣を起こしていた。
どうやら、回復のアーツによって俺は死は免れたらしい。
それと同時に何故、回復のアーツの人たちが待機していたのかが、納得出来た。
「どうじゃ?」
「どうじゃと言われましても……」
回復を受けている俺に、ギレッドは話しかけてきていた。
“って言うか闘気を覚えるのに、なぜ俺は死ぬ目に合わなければならないのだ?”
「儂の闘気喰らい続けておれば、嫌でもお前の内に眠っている闘気は目覚めるじゃろ」
「はぁ……」
……
………
「ん? ひょっとして俺が闘気に目覚めない限り、ずっとその衝撃波を喰らい続けるって事ですか!?」
「無論じゃ」
「そんなの、命が幾つあっても足りませんよ……」
「じゃから、死なないように回復のアーツ使いが待機しておるじゃろうが? それとも、もう闘気は諦めるか?」
「そうなれば、ギレッド先生はヴァルディアに闘気を教えるんですよね?」
「うむ……」
「ヴァルディアには負けたくありません。だから、闘気覚えたいです!!」
「フハハハハハハ!!」
ギレッドは突然笑いだした。
そして……
「ライバルと言う者は良いな。離れていても互いを意識しより一層高めてくれる」
「……」
“ライバルかどうかはわからないけど、ヴァルディアとはいつまでも同じ目線でいたい”
「では、次行くぞ」
「まっ待って下さい!!」
「なんじゃ?」
「コッ……コツを教えて下さい……」
「……黒のアーツを発動させれば良い」
「わっわかりました……」
「ぐへぇぇぇ!!」
容赦無く俺を襲う衝撃波を、今度は吹き飛ばされずに耐え切る事は出来た。
出来たが……
黒のアーツは発動する事はなかった。
回復を受けながら再びギレッドに問う。
「ギッギレッド先生……黒のアーツ発動しませんでしたよ?」
「そりゃそうじゃろ。先程儂は、黒のアーツと契約をしたからのぉ」
「?」
「儂が闘気を授けるから、黒のアーツで闘気を身につけ抵抗せよっと」
「……」
確かに話ししてたね……
ちょっと待て!!
じゃ俺は黒のアーツ闘気を身につけない限り、ずっと生身で耐え続けるのか!?
“……無茶じゃない!!”
「さて、次いくぞ」
ギレッドは肩をグルグルと回しながら、楽しそうな顔をしながら構え始めている。
「ギレッド先生、あの……なんか物凄く楽しそうですよ……」
「フワァッフワァハハハハ!!
当然じゃろ、教え子に教える喜び。それはお前も儂と同じ立場になった時わかるじゃろうて……」
そうなのか?
俺が教える立場になるなんて、来る日があるのかな?
「今はわからずとも良いわ」
そう言ってギレッドは容赦無く俺に衝撃波をぶつけてきた。
当然、黒のアーツは発動する事なく、防ぎきれる筈もなく派衝撃が無慈悲にも俺を襲うのであった。
そのたびに、回復のアーツで回復をしてもらう。
闘気を身につけるまで、何度でも何度でも……
と思ったのだが回復のアーツ使いたちの体力の限界になり、この日は午前中で終わってしまった。
“いっ命拾いしたぁぁ〜”
と思ったらギレッドに午後からは、無心となりひたすらラッセルの外周を走り込めと言われたのであった。
“なんで今更……”
◆◇◆◇◆
それから三日経った。
出発まで後六日……
この三日間ひたすら闘気を覚える為、その身をもって叩き込んでいたのだが全くもって変化は訪れなかった。
「ふぅ〜今日も派手にやられたな……」
回復のアーツのおかげで、怪我はある程度回復している。
だが、ここ三日間の間に溜まった疲労は蓄積されていた。
節々を押さえながら、その日の走り込みを終え眠りについたのであった。
四日目……
少し変化が起きた。
前日までは、無防備状態でギレッドが繰り出す衝撃波を受け止めて弾き飛ばされていたのだが、一瞬だけ……
本の一瞬だが、防いだような気がした……
だが、それ以上の事は何も起きず、倒され回復してもらう。
このパターンを繰り返し、回復のアーツ使いたちの体力の限界になってしまい、またまた走り込みさせられた。
その日の夜、クタクタにくたびれ眠りについていると、体内を熱い物が巡り回る感覚があった。
すぐに不死鳥が悪さをしていると感じ、追い出すぞっと脅すといじけて大人しくなった。
ったく、ただでさえ精神的に参っているんだから、余計な事考えさせないでくれよな。
五日目……
一瞬だけ防いでいたのが、十秒ぐらい防げるようになった。
ギレッド曰くこれは、俺の中で少しずつ闘気が目覚めつつあるとの事だ。
もう少しなのかな?
と思っていたら、回復のアーツ使いたちが体力の限界となり、その日は終了。
またまた、走り込みの午後だった。
最近、午前中は闘気、午後からは走り込み。
こんな毎日を送っているのだが、果たして俺は闘気を会得出来るのだろうか?
不安になりながらも、眠りにつくとまた不死鳥が体内を巡り回っていた。
連日の走り込みにより、俺の身体は疲れ切っていた。
怒る気も失せて、放って置く事にした。
六日目……
突如、吹き飛ばされなくなった。
痛い事には変わりないが、それでも何とか衝撃波を耐え切る事は出来るようになった。
回復のアーツ使いたちもマーシャルの計らいで人数を増やしてくた。
そのおかげもあって、夕方近くまでずっとやり続ける事が出来た。
だが、まだ闘気ではないとの事だ。
最終的には、衝撃波を相殺しなければならないらしい。
難しいな……
またまた不死鳥は、俺の体内を巡っている。
連日のように不死鳥は何かをやっているようだが、何をやっているのかさっばりわからん。
わかった事は、黒い光の粒みたいな物を楽しそうに集めていた。
俺を焼き殺す準備も着々と進行しているようだな。
七日目……
ギレッドは、毎日のように衝撃波を俺に放っている。
疲れをしらないのだろうか?
俺はもうヘトヘトなんだけど……
だが、昨日よりも更に変化が起きた。
「むんっ!!」
いつも通りに放たれる衝撃波を俺は、左手で受けた止めた。
ビリビリと受け止めた左手の痺れは残ってはいたが、ほぼ無傷に近い。
「ほぉぉ〜もう少しじゃの」
受け止めて無傷でもダメなのだ。
相殺しなければ……
今日は、今までの中で一番良かったかもしれない。
回復のアーツを発動してもらわなくても良かったのだから……
終了時、ギレッドは俺に言った。
「ルークよ」
「はい」
「明日までに闘気を会得出来なければ、儂は公言通りにお前を置いていく」
「……」
「闘気は着実に目覚めつつある。あと一歩じゃな」
「……」
「だが、その一歩は高い……今、一度お前の中に眠る闘気を見つめるといいじゃろ」
「はい」
“明日までになんとかしないと……”
闘気の会得。
この為に俺は数日間ずっと衝撃波を耐え続けていたのだが、ある事がわかった。
それは、闘気を使えば使う程、身体にかかる負担は大きい。
まだ目覚めていないとは言え、体力が極端に失わられていくのが良くわかった。
とにかく疲れやすいのだ。
“だから、ギレッド先生は俺に走り込めと言ったのか……”
「ふぅ、寝るか」
明日の為、少しでも早めに就寝して体力を整えようと思った。
いつもなら、ベットで横になると、数秒で眠りに着く事が出来るのだが、今日は睡魔が訪れる事はなかった。
気分が高揚していたのかもしれない。
眠れない俺は、マーシャルの元へと赴く事にした……
司令官室に行くと、マーシャルは相変わらず何か考えこんでいた。
メシュガロスの作戦を考えていたのかもしれない。
あと数日だしな……
「あら? ルーク坊ゃじゃない? どうかしまして?」
「いや、気がついたらここに来ていました」
「あらあら、そろそろセルビアが恋しくなって来た頃なのかしら?」
「ちっ!! 違いますよっっ!!」
「きっとセルビアは、寂しがっているかと思いますわよ」
「……」
“どうしてこぉ……マーシャルさんはセルビアさんの事が絡むと俺をいじめて来るのだろうか……”
「メシュガロスの件が終わったら、ロールライトに帰りますよ」
「そうね。きっとセルビアは喜ぶかと思いますわ」
「むぅぅぅ……」
「そう言えば、明日で終了だ。とギレッド殿から報告を受けていますけど、闘気は修得出来そうかしら?」
「微妙……です」
「……あら? 随分弱気発言なのね」
「ギレッド先生は、俺の中に眠る闘気を見つめるといい。って言ってましたけど……」
「けど? なんですの?」
「実感わかなくて……」
「……」
「……実は私も昔ですが、闘気を取得しようとした事がありますわ」
「結果は……?」
「……残念ながら」
“やっぱり難しんだ……”
「その時、私が教えてもらったのは……」
マーシャルの話しをまとめると……
まず第一に、アーツ発動時に全身を纏う波動、これを体内でも感じ取る事。
そして、体内で感じ取った波動を一箇所に集め、そこから更に圧縮し練り上げる事。
さすれば、波動は自然に闘気へと変化していく。
解き放つ闘気は、その絶大な威力や尋常ではない防御力を瞬発を備わる事が出来る。
「ーーと言う事ですわ」
「波動を感じるか……」
「私は、一つに集める事までは出来ましたが、練り上げる事が出来ませんでしたわ」
「……なるほど」
“あと一歩だったと思うんだけど、練り上げる事は難しいのか?
因みに俺はどうなんだろう……?
体内で波動を感じる事は出来ているのかな……?”
「フフフ……ここでやらないで、お部屋でやってね♪ ルーク坊ゃ」
「あっはい……すみません」
マーシャルにお礼を言い俺は、自分の部屋へと戻る事にした。
そして、先程言われた事を早速やって見る事にしたのだ。
「えっと……まず波動を体内で感じる事だったな」
正座し目を綴じる。
そして、全身に神経を集中させて行く……
……
………
五分後……
「無理〜!!」
全くもって波動を感じる事は出来なかった。
「はぁぁぁ〜」
深いため息を尽きながら、ベットに寝転ぶのであった。
「……時間がないのになぁ〜」
“やっぱり俺には無理なのかな〜”
黒のアーツを見つめながら、ぼやき次第に眠気に任せ目を閉じて行った……
眠るのかなと思ったらそうではなかった。
真っ暗の暗闇の中で、ブリュットから授かった不死鳥は黒い光の粒を集めるかのように、必死に動き回っているのだ。
“最近ずっとそれをやっているけど、お前一体何やっているんだ? 本当に俺を焼き殺す為の下準備か?”
黒い光の粒を集め終わった不死鳥は、今度はそれを一つに纏めようとしていた。
だが、不死鳥は一つに纏める前に力尽き、俺にやれ。
と言わんばかりに羽を羽ばたかせていた。
“ったく……しゃあないな、手伝ってやるか……”
両手を伸ばし黒い光の粒と不死鳥を包み込むように、握りしめた。
すると、不死鳥は俺の手のひらの中で暴れだし動き回っている。
それは集めた黒い光の粒を、一つに纏めようとしているような感覚だった。
“何をやっているのやら……”
左手にある黒のアーツから違和感を感じ、目が覚めた。
まるで早く発動させろと、ムズムズしているのを必死に押さえ部屋から飛び出し、闘技場へと駆け抜けて行く。
「はぁはぁ……」
まだか? まだか? と抑えきれない左手を、もう少し待て。
と言い聞かせる。
呼吸を整え、握り締めた拳を静かに地面へと降ろして行く。
ボンッッッ!!
と大きな音と共に、ギレッドが作り出すのと同じぐらいの大きなクレーターが出来上がっていった。
「……」
きょとんと立ち尽くす事しか出来なかった俺に対して、黒のアーツの中で不死鳥はとても嬉しそうに、動き回っている。
それはまるで俺の役に立てたのが嬉しそうにも見えた。
「まさか……これが闘気……なのか?」
感覚を忘れないうちに、もう一度同じような事をしてみようと考えた。
気のせいかもしれない。
俺の事だからたまたま出来て、二度目は出来ない。
なんて事がありえそうで怖かった。
だが、二度目もきちんと出来た。
すぐ隣に同じぐらいの大きさのクレーターを作り出す事が出来、ホッと胸を撫で下ろしていた。
「……」
だが、あまりにも衝撃的な出来事で暫くの間、考えがまとまらずにいた。
“闘気……これはきっと闘気だろ? そうだよな……?”
自分に何度も言い聞かせていた。
そして、今思い起こせば……
不死鳥は、俺を焼き殺そうとはしていなかった。
不器用な俺の変わりに、マーシャルが言っていた事をやっていてくれたのだ。
“……不死鳥、追い出さなくてよかった”
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
叫び声を上げていた。
俺はブリュットと不死鳥に感謝してもしきれないぐらい、凄く嬉しかった。
◆◇◆◇◆
「今の轟音……」
「儂がここにおる以上、やりおるのはただ一人しかおるまい」
「と言う事は……?」
「うむ、メシュガロス行き決定じゃな」
マーシャルとギレッドは、司令官室で最後の打ち合わせをしていた。
明後日には、ラッセルを立ちメシュガロスに向かう。
マーシャルはメシュガロス奪還作戦について、ギレッドの意見を組み入れながらも作戦を立てていた。
その最終調整をしていた時に起こった轟音であった。
「ではプランAで決まりですわね」
「うむ……」
現在、ラッセルにはアーツハンター総勢百五十名いる。
その中でメシュガロスに向かうのは、百名。
五十名はラッセルに残る形である。
これはマーシャルたちがメシュガロスに向かった直後に、アーツバスターたちがラッセルを取り戻そうとするかもしれないと言う懸念があり、折角手に入れたラッセルを奪われず撃退する為に用意したのであった。
そして、メシュガロス奪還作戦。
まず、メシュガロスの入り口は一箇所存在せず、四方には高い壁に囲まれている城塞である。
街中にはアーツハンター専用の探知機が街中、至る所に張り巡らされておりいつ如何なる場合でも、アーツハンターが潜入すれば、探知機は発動し警報は鳴り響くのであった。
一番初めに解決しなければならないのが、アーツハンター専用の探知機であった。
マーシャルも当初、探知機に見つからずに侵入を果たそうと考えていた。
だが、ギレッドの一言でマーシャルはその考え自体を諦めた。
「マーシャル殿、儂がドランゴを倒せばアーツバスター共は、ガルガゴス帝国領に逃げ帰る事じゃろ」
「ひょっとして、真っ正面からドランゴと向き合うおつもりなのですか?」
「無論じゃ……」
その瞳は、真剣な眼差しだった。
マーシャルはすぐに諦めた。
何を言っても無駄だと悟ったのであった。
そして、ギレッドとドランゴの一対一の戦いに邪魔が入らないよう、マーシャルは配慮する事したのである。
警報機が鳴れば、即座にアーツバスターたちは集まってくる。
ならば、四方同時に警報機を鳴らせアーツバスターの殆どは出撃する事になるはず。
さすれば、ギレッドとドランゴの一対一の戦いとなる図式だ。
これが、マーシャルの立てた作戦プランAであった。
「だが、これにルークは入っておらんぞ?」
「……最後まで悩みましたわ」
「どう言う事じゃ?」
「私たちと一緒に誘導するべきか……それともルーク坊ゃの希望通りにするべきか……」
「ふむ、してその結論は?」
「丸投げになってしまいますが、ギレッド殿に一任させますわ。ルーク坊ゃがギレッド殿の戦いの邪魔にならないのでしたら、連れて行って下さいませ」
「……では明日、結論出す事にするかのぉ」
「わかりましたわ」




