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Arts hunter   作者: kiruhi
青年編 ー逃げ場のない戦闘への誘い
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第八十話 トドメの一撃

 一方、司令官室を占拠したマーシャルは次の行動に移していた。

 見張りに数名残し、マーシャルは司令官室からしか行けない地下へと進んで行く。



 闘技場内での不吉な気配を感じ取り、マーシャルはルークの身を案じ今すぐにでも駆けつけたいとの思っていた。

 ルークの身に何か起こった場合、無理を言ってまでラッセルに連れてきたしまった自責の念と、セルビア自身にマーシャルは顔向け出来なくなってしまう。

 だが、それは一個人の想い……

 戦闘隊総司令官として、それはやってはいけない行動だった。


 今回ルークは、自ら行くと言ってくれた。

 だから今は一人のアーツハンターとして、ルークが耐えていてくれる事を信じる。

 そして、戦闘隊総司令官マーシャルとして一個人の想いは一先ず封印し、己のやるべき事を優先したのであった。


 “ルーク坊ゃ、もう少しだけ耐えてね……”



 石作りの螺旋状の階段をひたすら降りて行く。

 すると、自然石を積み上げて作った祭壇が一つ設置されていた。

「ここかしら?」

「はい」

 マーシャルの質問に先遣隊の男は頷く……

 この先遣隊の男は、アーツハンター協会長ローラを守る精鋭部隊の一人。

 ローラの命により彼は、密かにラッセルの内部を調べ尽くしていた。

 そして、彼はローラに報告。

 報告を元に作戦を考えるローラ。

 ローラの指示を受け、実行するマーシャル。


 元々、ラッセル解放作戦にアーツハンター50名で遂行するなど無理な話なのである。

 アーツハンター50名と言っても突入時には僅か10名足らず……

 それに対して、アーツバスターたちは100名以上いる可能性も考えられた。

 死に行くような場所にアーツハンターたちに対して行けと、命令を降す事はローラもマーシャルも出来なかった。


 だが、それでもやらなければならない。


 考えた末にローラはラッセルも、ガーゼベルトと同様にアーツハンター以外の者たちにはアーツを発動させないようにすればいいのでは? と、考え着いたのである。

 アーツが発動出来なければ、アーツバスターたちもただの人……

 それは、被害を最小限に食い止める事が出来る唯一の手段と言えたかもしれない。


 ローラが次に考えたのは、なぜガーゼベルトは一時の地域しかアーツは発動出来ないのか?

 これは、地下奥深く眠る宝珠がアーツを発動させていない。

 と言う噂を聞いていたが、ローラは確認した事もないし確認する事も現実に的に不可能だった。

 だから、ローラは封印のアーツを基にして作った。

 実験に次ぐ実験。

 最初は、失敗ばかりしていたがラッセル解放作戦敢行前にラッセル全体を覆い尽くす範囲の宝珠の模造品を完成させたのである。

 実践投与は初めてだが、マーシャルはローラから今回の切札とも言える物を直接手渡されたのであった。

「精鋭部隊の一人からですが、地下よりも更に深い場所を発見した。と報告がありました。そこに赴き、これを……」

「はい、必ず……」

 マーシャルは宝珠の模造品を胸にしまい込む。

「この模造品の性能が成功すれば、メシュガロス奪還にも有効と実は考えています」

 その言葉にマーシャルは目を丸くし驚きが隠せないでいた。

「ローラ会長はラッセルを陥落後には、メシュガロスも……とお考えなのですか?」

 ローラはマーシャルの質問に即答はしなかった。

 ただ、ニコリと微笑むだけであった。


 “それ以上の事を考えているようですわね……はぁ〜(わたくし)も忙しくなりそうですわ”



 そんなローラとのやり取りを思い出しながら、マーシャルは祭壇の前に立っていた。


 ローラからの受け取った切札を取り出し、マーシャルは模造品を祭壇へと乗せる。

 薄青い光が輝き始め一筋の光となって立ち昇ってゆく。

「……」


 “終わりですの!?”


 疑問に思っていると、先遣隊の男は満足そうな顔をしていた。

「マーシャル殿、成功のようです」

「えっ!? ……これだけでいいのですの!?」

「はい、ローラ会長の狙い通り我々アーツハンター以外全ての者は、ここに模造品(これ)がある限りアーツを発動する事は出来なくなりました」

「……そう」


 短く答えたマーシャルは、呆気ないと感じていた。それと同時に“(わたくし)が赴かなくても良かったのでは?”と言う疑問が生まれてしまった。


 マーシャルの疑問に答えてくれる者がいるわけもなく来た道を悶々としながら戻るのであった。

 司令官室へと舞い戻ると、見張りをしていた者たちはアーツの封印が成功した事に喜んでいた。

「あっ、マーシャル様! 無事成功したみたいですね」

「えぇ、次に(わたくし)たちは闘技場に行きますわよ」

「あっ!?」

 一人のアーツハンターのあっ!? にマーシャルは嫌な予感しかしなかった。

「なにかありまして……?」

 何もない事を祈りながらマーシャルは聞く事にしたのである。

「マーシャル様が地下に行く前に、闘技場内を監視している者から報告を受けたのですが……」


「見張台で観戦していた、アーツバスター総帥らしき男は忽然と消えたそうです」

「……(わたくし)たちの事、勘付かれたようね。他には何かありまして?」

「……」

 アーツハンターはマーシャルの質問に対し、言いづらそうに言葉に詰まらせていた。

「どうかしまして?」

「……現在闘技場内で戦闘中の青年が、死にかけている。と……」

「なっ!?」

「報告がありーー」

 マーシャルは、最後まで話を聞かずに司令官室から飛び出して行ったのであった。


 “ルーク坊ゃ!!!”




 ◆◇◆◇◆



 闘技場内では、突然起きた現実を理解出来ずにいた。

 ラッセルの中心地点の地面から薄青い光の柱がそびえ立ち、拡散。

 すると見る見るうちにラッセル全体を一気に覆い尽くしたのであった。

 それと同時にアーツは発動を停止。

 ブリュットの手のひらにあるフェニックスも、ルークにトドメを刺す。と言う役目を果たせぬまま光となり、消え去っていく……

「!?」

 訳も分からずブリュットも混乱。

 遂に決着が着くだろうと確信していたアナウンサー。

 そして、激しい戦いに終止符が打たれる瞬間を、今か今かと静かに見守る観客たち。

 闘技場内にいた、全ての者たちは辺りを包み込む薄青い光に対して疑問に思い、ざわめき始めたのと同時にアーツハンター数名が押し寄せ、あっという間に闘技場内を包囲したのである。

「こっこれは一体!?」

「なんなんだ? 貴様ら!?」

「戦いの邪魔をするなよ」

 観客たちによる暴動が起きそうになる。


 カッン……カッン………と足音が聞こえてきた。


 現れたのはマーシャル。


「俺会った事があるぞ! あいつはアーツハンターだ!?」

「何っ!? 何故アーツハンターがここに!?」

 アーツバスターたちがアーツを発動しマーシャルを倒そうと企む。

 だが……アーツが発動する事はなかったのである。


 マーシャルは、目配せをしながらゆっくりと舞台へと姿を現す。

 そして、呆然と立ち尽くすアナウンサーの元へと近づいて行くのであった。

「今から、何が起こったのか説明致しますわ。マイクを貸して頂けるかしら?」

「……あぁ、はい」

 言われるがまま、アナウンサーは素直にマーシャルにマイクを渡してしまう。

「ありがとう……」

 マイクを受け取ると、今度は舞台中央へと歩み始める。

 ガヤガヤ……とざわつき始める中、マーシャルはピクリとも動かないままでいるルークの姿を確認したのである。

「回復のアーツを……」

「はっ!」

 マーシャルの言葉を受け回復のアーツを持つ者たちが、ルークの回復を始める。

「ちょっ何を!?」

 折角勝負が決する程のダメージを負わせたのに、突然乱入し死にかけているルークに対して回復を行おうとしている。

 そんな者たちに対して、アナウンサーは怒り狂いながら制止しようとしていた。

 だが、彼の目の前には有無を言わせぬアーツハンターの男が立ち塞がるのであった。

「黙って話を聞け。もう終わったのだ」

「ぬぐっ……」


 マーシャルは中央に立ち観客席を見渡しながら話し始める。

「……ここにいる全ての者たちに伝えます。『闘技場(コロッセウム)ラッセル』は現時刻を持って我々アーツハンターの支配下に置かれました」

 その一言にアナウンサーを始め、その場にいたアーツバスターたちはアーツを発動させようと構えた。

「アーツの発動は無駄です。我々アーツハンター以外(・・)の者たちは、アーツの発動は叶いません」

 更なるざわめきが会場内を埋め尽くして行く。

「もう一度言います。『闘技場(コロッセウム)ラッセル』は現時刻を持って我々アーツハンターの支配下に置かれました。我々アーツハンターは無駄な戦闘は好みません。大人しく投降して下さい」


「本当だ、アーツが発動しないぞ!?」

「くそっ捕まってたまるかよ!」

「……こんな所で」

 アーツバスターたちの声が響き渡り暴走して行く……

 入り口から近かったアーツバスターたちは逃げ去り、それを阻止するべく立ち塞がるアーツハンターたち。

 更に逃げ切れないと悟り、諦めるアーツバスターたちもいた。

「逃げる者は追わなくてもいいです。まずは現状把握を優先!」

 マーシャルの叫び声に一時混乱しそうになるも直ぐに落ち着きを取り戻し、アーツハンターたちは各々の責務を遂行して行く。

 実に優秀と言えた。


 “もっと、実戦投入出来る人数がいれば……アーツバスターの逃走も防ぐ事は出来た筈”


 そう思ったが、マーシャルは後悔はしていなかった。

 逃走を図ったアーツバスターたちが向かう先は、メシュガロスしか残されてはいない。

 ローラの考えでは、メシュガロスも近いうちにラッセルと同じ運命を辿る算段をしている筈。

 命令書はまだマーシャルの手元には届いていないが、『ラッセル解放は成功』とガーゼベルトに報告が届けば、次に来る命令書はメシュガロス奪還。

 その戦闘指揮を取るのも自分であると言うのは、簡単に予想出来た。

 ならば、今逃走を図ったアーツバスターたちが辿る道は同じである。

 違うのは遅いか早いのみであった。


「マーシャル様、ヘルプですっ! 我々の回復では追いつきません!!」

 ルークを回復している者たちから悲痛の叫びが聞こえてきた。

「今行きますわ!」

 踵を返し慌ててルークの元へと歩み寄りマーシャルは、動揺を表には見せずに月光のアーツを発動させる。


 “これは、ひどいわね……セルビアに(わたくし)怒られるかも……”


「おいっ」

 立っているのもやっとな状態のブリュットはマーシャルに話しかける。

「はぁはぁ……いい所をなぜ邪魔をした?」

「……」

 マーシャルはブリュットの質問に答える事はなく、黙ったままルークの回復を続けていた。

「くっ……本当に終わったのか?」

「えぇ戦いは終わったのよ。そして、あなたも自由になったわ」

「……自由?」

 ブリュットはその言葉の意味が本当に訪れたのか、いまいち理解する事は出来ずにいた。

 だが、ブリュットは考えるのをやめた。

 自由になる為と自分に言い聞かせ、心を鬼にし目の前の男を殺そうとした。

 でも、殺さなくて済んだ……


 良かった。


 と気を許した瞬間、糸の人形の糸が切れたかのように崩れて行く。


「……やれやれですわ」

 何処と無くルークと同い年のように見えるブリュットの顔は、安らかだった。

「回復しなければならない人が、もう一人また増えてしまいました」

 マーシャルはブリュットの回復も行う事にしたのであった。




 ◆◇◆◇◆



 ラッセルが解放され、アーツバスターたちの大半は捕まっていた。

 だが、死神は捕まらなかった。

 そもそも死神の姿は、誰も見る事は出来ない。

 死神自身が姿を現そうとしない限り……


 死神は、月光のアーツで回復中のルークの姿を黙って見ている。

(ふむ、この少年。悪運強いねぇ〜)

 その気になれば今この場で、死神が直接手を下せばルークを殺す事も可能だった。


 月光のアーツや回復のアーツでは回復は間に合わない程、重症で手遅れであった。


 と言う誰もが不思議には思わず、自然の流れに見える。

 だが、死神はそうしなかった。


(また、別な機会にしようかな……)

 楽しみは先に取って置こうと言わんばかりに呟き、死神はそっとその姿を消したのであった……






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