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Arts hunter   作者: kiruhi
青年編 ー逃げ場のない戦闘への誘い
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第七十九話 決着

「「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」


 アナウンサーは実況するのを忘れ、煩くうざいぐらいだったブリュットよりの大声援もいつの間にか静まり変る。

 この場にいる全ての者たちは、もうすぐ決着が付くであろう結末を息を呑みながら、見守っていたのである。


 この戦い、先に引いた者が負ける。と……

 短いようで長かった戦いは勝負を決し、公約通り敗者に待ち構えているのは()……である。


 それは、俺もブリュットも戦う前から……いや最初からわかりきっていた事。

 こんな理不尽な話をジルベッタから聞かされた時、俺は受け入れたくなかった。

 だが、ブリュットは受け入れていたのだ。

 自分の未来の為に……

 辛く過酷な奴隷時代に終止符を打つ為に……

 死に物狂いで……命がけで、俺に戦いを挑んでくる男……ブリュット。

 ブリュットを俺は救いたかったのかもしれない。

 いや、ブリュットだけではない。ラッセルにいる全ての奴隷たちを俺は救いたかった。


 だが、それは俺一個人の力では力では何一つ出来ず、変える事も出来ない歯痒さ……

 何も出来ないのならば、責めてマーシャルが来るまで……

 と思い耐え忍んできたが、それも体力の限界と言う名のリミットが押し迫ってきていた。


 やはり、マーシャルが来る前に雌雄は決するのでは? 

 頭の片隅に、疑問が駆け巡る……


 俺はまだ死にたくない、でもそれでも……

 ブリュットにも俺は死んで欲しくはない。

 そして、殺したくもない……

 心の奥底でマーシャルが早く来てくれる事を願い、戦いに邪魔な考えを再び封印する。


 血吹雪が幾度も飛び散り勝利を手繰り寄せるべく、俺もブリュットも一歩も引く事はなかった。

 アーツを発動する余力は既になく、拳と拳が交互に互いの肉体に深く突き刺さる。

 俺も引かないし、ブリュットもまた引かない……

 互いの意地と意地のぶつかり合いの攻防は、決着を着かずに静かに繰り広げられていく……




 ◆◇◆◇◆



 殴り合っていた俺たちの拳が、突如目標物を失ったかのように空を切り制止する。

「はぁはぁ……」

「……ゼェゼェ」

 俺もブリュットも呼吸は荒く、残された体力も残り僅かと言った所だろうか?

 それでも御構い無しに突き出す互いの拳が再び激突。

 ミシミシッ!!

 と互いの拳から嫌な音を立てていた。


 “骨が砕けようと、ここは引けないよなっ!”


 腰を落とし、力一杯拳を前に突き出す。

 二度目の激突。


 ゴキャッ!!


 はっきりとそう聞こえてきた。

 骨の砕ける嫌な音を……

 だが、俺の拳には全く痛みはない。

 そう先に砕けたのは、俺ではなくブリュットの右拳だった。


「ぐあぁぁぁぁっ!!」

 砕けた右拳を押さえながらブリュットは、二歩、三歩……と後退して行く。

 そうブリュットは、後退(・・)したのだ。


 “今だっ!!”


 前に一歩踏み出そうとすると、ガクガクッと震える両足。

 視界がグラングランッと周りだし急激な眠気……

 アーツを発動しなかったとはいえ、度重なるアーツの発動により白のアーツで黒のアーツを、補えなくなってきているようだ。

 それと同時に、俺の体力の限界も近い事を悟った。

 だが、それは今は関係ない事、勝機を掴むチャンスはここしかない。


「うぉぉぉぉぉっ!!」

 残っている力、全て出し切るつもりで雄叫びをあげ黒のアーツを発動。

 上空にはラッセル全て覆うぐらい大きな黒い雲となり、辺りを暗くしていく。

 水の街ヴァルで発動した黒い(いかづち)だった。


 確かに黒い(いかづち)を発動すれば、勝利を掴む事は出来るだろう。

 だが、これは広範囲過ぎる。

 最悪の場合、アーツハンターたちを消し去ってしまう。

 今の俺には黒のアーツと同時に白のアーツを発動し、アーツハンターたちを守る。

 とてもではないが、そんな余裕は持ち合わせてはいなかった。

 だから、俺はブリュットだけを狙う……


 すると、黒のアーツは俺の意を汲み取るかのように形状を変え始めて行く。

 黒い(いかづち)は消え去り、変わりにバチバチと高速回転しながらブラックホールを圧縮させた黒い球体が、出来上がって行く。

 それは……

 俺が、今まで黒のアーツを発動してきた中で最も禍々しかった。


 “ーーったくなんでもありだな……”


 これで、決着をつける!


 そう心に決め、痛みに悶えているブリュットに向かって、黒の球体を放とうとしたその時だった……

 突如、俺の意志とは関係なく身体は金縛りにあったかのように、身動き一つ出来ずに停止した。

「!?」

 体力が尽きたのではなく、見えない何かが俺の動きを封じている。

 そんな感覚だった。


(………ブリュットは、消し去るには惜しい人材だよね?)


 今まで聞いた事のない、低く冷たい声が耳元で囁かれる。

 近くにいるのは、目の前で痛みに悶えているブリュット。

 そして、臆病風に吹かれ舞台のから降りたアナウンサーのみであった。


 “なに? これ!? 身体が……動かない!”


 身体は全く動かず、俺は勝負を決める最大のチャンスを逃したとも言える出来事だった……




「っ!!」

 何とか金縛りを解こうとしている、その一瞬にブリュットは叫ぶ。

「はぁはぁ……目覚めよ、ありったけの力を込め我の敵、目の前にいる者……塵も残さず焼き尽くせ!! ヘル・フェニックス!!」

 ブリュットの声に反応するかのようにアーツは光り輝き始め、不死鳥のような形をした鳥が、紅炎(プロミネンス)を纏いし俺に襲いかかろうと迫ってくる。

「くっ!?」


 “間に合う!”


 そう、俺はブリュットのこの攻撃に対して、黒の球体でフェニックスを消し去り、その勢いのままブリュットも消し去る。

 それだけこの戦いは、終わりを迎える。

 ……そう思っていた。


 なのに……身体が俺の意志通りに動いてくれない。

「!?」


 再び低い声が、聞こえてくる……


(君が、死んでよ……?)

 “誰なんだよ!? さっきから!??”


 俺の心の声が聞こえたのか、低い声は答えた。


(君を死に導く者……死神)


 と……


「!?」

 クスクス……と嫌な笑い声が耳に残る。

 俺の意志とは裏腹に身体は、一っつも動いてはくれなかった……

 フェニックスは、地を這うように低空から無防備状態の俺に、直撃し空高く急上昇していく。


「っぁ……」

 スッ……とフェニックスが直撃しな直後に身体の自由が戻った。

 同時にヨロヨロと二.三歩後退し、力が抜けたかのように尻餅を突き身体は後方の方へと静かに倒れこむ。

「??」

 何が何だかわからなかった。

 フェニックスは確かに俺を直撃した。

 なのに傷みとか一切感じる事はないのだ。

 ただ、身体が思うように動かない。

 黒い球体もフェニックスに飲み込まれたのか、消え失せていた。

 そして、空高く急上昇したフェニックスは舞い戻り、再び俺に向かって急降下して来る。


「……綺麗だ」


 紅炎(プロミネンス)を纏った不死鳥は、綺麗な羽ばたきを見せながら容赦無く俺に直撃したのであった。


『直撃だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 長かった死闘は遂に、遂に決着を迎えるのかぁぁ〜!!』


 熱風が吹き荒れ、紅炎(プロミネンス)がプスプスと燻っている中、アナウンサーの声が妙にうざく耳障りに残っていた。




 紅炎(プロミネンス)はありとあらゆる俺の体内を万遍なく巡り、荒れ狂うかのように内側から焼き尽くすような……

 そんな感覚だった。


「ぁっ……ぁぁぁ……」


 ガクガクッ!! と身体を震わせ、息を吸う事すら許されず言葉も発せず……

 思考回路が一気に停止しそうな、激痛が全身を駆け巡る。



「……はぁはぁ。感服するよ……」

 ブリュットは、俺を見下ろしながら話しかけていた。

 先程と同様に掴まれて白のアーツで回復する事を警戒しているのか、俺に近づいてくる事はなかった。

「フェニックスは確かに直撃した。……なのに……はぁはぁ……即死せずに、辛うじて息があるなんて」


 キーーーーーーンッ!!


 と耳鳴りが聞こえ始めた。

 もう、ブリュットが何を語っているのかすら、俺には理解する事は出来なかった。


「だが、はぁはぁ……最早、虫の息……」

 ブリュットは御構いなしに俺に話しかけ、左手に手のひらサイズの小さなフェニックスを作り出す。

 先程のフェニックスとは、大きさがまるで違う。

「くっ!! はぁはぁ……俺もこれが精一杯らしい」

 よろめきながらも、喋るのも辛そうなのにも関わらずブリュットは踏ん張り倒れない。

「これで、本当に最後だ!!」

 今だに俺の身体からは、紅炎(プロミネンス)がプスプスと煙は燻り立ち込めている。

 ピクリッ……とも動けぬ俺にブリュットはトドメを刺そうとしてくる事だけは、ボンヤリとわかった。


 結局、マーシャルは間に合わなかった。

 来る事を信じて耐え続けね来たと言うのに……


(……チェックメイトだね)

 再び死神と名乗る声が、クスクスと笑い声が聞こえてきた。

 ブリュットとの戦いに水を差した死神……

 勝てた戦いを邪魔した死神……

 何故か怒りとかは、湧いて来なかった。


 ブリュットの手のひらにある小さなフェニックを見上げながら、思考はどうでも良い無用の長物へと変わりゆく。

 やがて、重たい瞼を開けている事も叶わず……


「悔しいな……」


 消え入りそうな声で、はっきりとそう言葉にしたのか?

 それとも心に思っていただけなのかは、わからないが瞼の重みに耐えきず静かにその瞼を閉じたのであった。






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