第七十一話 暗黒湿原の秘密
暗黒湿原は、ダークの説明した通り行き場の失った魂が集まり、成仏出来ずにスケルトン剣士が徘徊し始める……
実は、ただそれだけではなかったのである。
アーツハンターたちは暗黒湿原に対して、今までずっと見て見ぬ振りをして来た訳ではない。
ルークが浄化を成し遂げる前にも実は、幾度も浄化はされていたのである。
だが……
暗黒湿原は消えなかった。
それは、暗黒湿原特有でもある暗黒の霧に、原因があるのではないかと言われていた。
その場所を、浄化……もしくは封印したとしても、すぐに新たな場所に暗黒の霧は必ず復活するのである。
それが、草原だろうが……
洞窟内だろうが……
街中だろうが……
暗黒の霧は、突如平和で幸せに暮らしている民家に出現。
瞬く間に一家は帰らぬ人へと変貌を遂げたのである。
更に、洞窟内に暗黒の霧が現れたとなれば、難攻不落の洞窟へと変貌してしまうのである。
それは、洞窟内で採取出来る者が取れなくなる為、需要は減り物価は上昇すると言った悪循環が生まれたのであった。
アーツハンターたちは頭を悩ましていた。
しかし、なんとかして洞窟内のある暗黒の霧を浄化する事が出来たのだが、今度はあろう事か貴族の屋敷に出現してしまったのだ。
貴族の屋敷は、当然の如く帰らぬ人へ……
その事がきっかけで、貴族たちは『明日は我が身……』と危機感を持ち、アーツハンターたちに口出しするようになったのである。
アーツハンターたちの手により貴族の屋敷をなんとか浄化する事が出来ると、今度はロールライトの南の湿原に暗黒の霧が出現……
貴族たちは暗黒湿原と名付け絶対浄化させないようにと、言い出してきたのである。
こうして、暗黒湿原は浄化されずに長い年月を経過していたのだが……
ルークの手により再び浄化、封印されてしまったのである。
これは、ロールライトにとって大問題なのであった。
復活した場所が貴族の屋敷だとしたら……?
傲慢で己の事しか考えていない貴族たちが、黙っているはずはないのである。
マーシャルはたまたまロールライトに来ただけであるが、戦闘隊総司令官の立場として……
セルビアはロールライト支部長として……
アルディスは副支部長として……
三人は、責任を取らされるかもしれないのであった。
そんな理不尽な事、アルディスはとてもではないが認めたくはなかった。
だから、セルビアやマーシャルより人一番この事に関して怒っていたのである。
「あの馬鹿っ!! 一体何をやっていやがるんだ!?」
「まぁまぁ、アルディスちゃん少し落ち着きましょうね?」
セルビアの制止にアルディスが、収まるはずもなかった。
マーシャルはアルディスの怒りをセルビアに任し、代わりにシュエに指示を出していたのであった。
「シュエ、それで新たな出現場所は分かったのかしら?」
「いえ、まだです……」
「そう……」
短く答えたマーシャルは考えていた。
仮に、暗黒湿原がルークの手によって封印されていたとして……
新たな暗黒の霧がロールライトの街中に発生したとすれば、それはすぐに報告に上がるはずである。
だが、今はその報告も上がってはいない。
となれば……
『一先ずロールライトに暗黒の霧はない……』
と結論を出したのであった。
一時間後……
ダークはルークを背負いながら、ミリシアと共にロールライトに帰還したのであった。
アーツハンター支部に着いたと思えば、直ちに支部長室に行くようにとシュエに言われドアを開けるとそこには、いつもニコニコのセルビア、物凄い形相で怒っているアルディス。
そして久しぶりに再会するマーシャルの姿が、あったのである。
「おかえりなさい、ダークちゃん」
「あぁ……」
「お久しぶりね、ダーク」
「おぉマーシャルか? 久しいな!?」
「確かに三人で会うのは久しぶりですわね」
お互い久しぶりの再会に会話が弾む中、アルディスの咳払いに我に変える三人であった。
「えっえっと……なにがあったのか。報告して下さい」
「わかった」
ダークは、包み隠さず全ての真実を話したのである。
「ーーーというわけで暗黒湿原は、ルークの手に寄って封印された」
「……」
説明を聞き終え気絶しているルークの姿を見て、セルビアは優しくその頭を撫でながらダークの顔を見ながら、今度はロールライトの現状をダークに説明したのである。
「今は、ロールライトの街に暗黒の霧が出現したと言う報告は聞いてはおりませんわ」
「そうか……ならば、今後も街に出現しないと考えていいだろうな」
「その通りなんですが……それでも貴族たちは、黙ってはいないでしょうね……」
はぁ〜とため息をついたダークは、諦めの境地に立っていた。
「そこは、俺がなんとかするよ」
「えっ!?」
セルビア、アルディス両名は驚きを隠せなかった。
めんどくさい事をセルビア以上に嫌うダークが、そのような事を言うなど殆どないに等しいのだ。
「ミリシアに言われた……『ルークを暗黒湿原に連れて行った責任を取れ』とな……」
「クスッ……」
「そして、もう一つ言われた。『ダーク・フォン・ウォルトとしてならルークを守れるじゃなくて?』とな」
「確かにミリシアちゃんの言うとおりかもしれないですけど、よろしいのですか、ダークちゃんは?」
「仕方ないだろ。こうなっては……」
ダークは更に頭を掻きながらそう言っていた。
「じゃ貴族たちの方は、ダークちゃんに一任しますわ」
「あぁ、気乗りはしないが任せろ」
少しの間沈黙が流れる中、アルディスは怒りながら口を開き始めた。
「ダークが貴族たちをうまく説得出来たと仮定したとしても、俺にはこの大馬鹿野郎は許せない」
「アルディス……」
マーシャルは既にヤレヤレと呆れ顔になっていた。
「こいつのやらかした事、俺なりにけじめとらせますよ」
「アルディスちゃん??」
アルディスは、セルビアに一礼したのちにルークを背負いながら支部長室を後にしたのである。
その後ろ姿を見ながら、この場にいた者全てが同じ事を思っていた。
『生き残れよ……』と。
◆◇◆◇◆
目が覚めた時、目の前には見慣れた天井があった。
“いつの間に、ここに……”
俺が目が覚めた時、既に暗黒湿原にはいなかった。
セルビアの家、そして俺のいつも寝ているベッドの上だった。
身体を起こそうとすると、ピキッと痛みが全身を駆け巡った。
「っ……!」
起き上がる事が出来ず、堪らず呻き声をあげていた。
「黒のアーツと白のアーツを、限界ギリギリまで発動したんだってな」
部屋から外が見える所には椅子が置かれている。
その椅子にアルディスは座り脚を、組んでいた。
だが、その声から察するに何故かアルディスは不機嫌そうだった。
“俺、何も悪い事はしていないけど……”
「そりゃ、身体の負担も大き過ぎるだろうさ……」
フゥ〜と目を閉じため息をつきアルディスは再び目を開ける。
そして、ゆっくりと椅子から立ち上がり俺の側へと近寄ってきたのである。
“なっなぜ……そんなに不機嫌なのですか?”
声にも出せないぐらいアルディスは、激怒しているように俺には見えた。
目と目が合った次の瞬間、仰向けの状態だと言うのに大きな音と共に俺は、アルディスに思いっきり拳で殴られたのである。
口の端からは、一筋の血が静かに流れだしていた。
はっきり言って俺はアルディスに殴られる事も激怒されるような事など、何一つしていないのだ。
こんな理不尽な事、受け入れらるはずもなかった。
「いきなり何をするんですか!?」
俺の声など、アルディスには届いていなかった。
既に竜巻のアーツが、俺の視界に入っていた。
「ひいっ!?」
問答無用と言わんばかりに竜巻は、俺に襲いかかろうとしている。
最早、身体が動かないとか言っている場合ではなくなった。
“動けっ! 動けっ!! 動けぇっ!!!”
念じるように身体を、反転させベッドから転げ落ちる。
顔を強打したが、危機一髪セーフだった。
竜巻をまとったアルディスの拳は、渦を描くように枕諸共ベッドに突き刺さっていた。
側にあった椅子の背を掴み取り、上半身だけを起こしあげる。
“なんなんだょ!?”
「アルディスさん、落ち着いて話をしませんか?」
「落ち着いて話すだと?」
「はい、そうです。俺は、アルディスさんが怒るような事は何一つしていませんよ!?」
「……」
アルディスは突き刺した拳を抜き取り、ゆっくりと俺に近づいてくる。
「俺を怒らせるような事、何一つしていないだとぉ?」
「そうです! していません!!」
「ふざけるなぁ〜〜!!!」
もう何が何だがわからなかった。
取り敢えずアルディスはものすごく怖かった。
これ程までに激怒しているアルディスを俺は、見た事ないかもしれない。
「お前の無知の行いのせいで、今後セルビアにどれだけの迷惑をかけると思っている!?」
「俺のせいでセルビアさんに……?」
そもそも、セルビアを困らせるような事をした記憶は俺にはない。
だが、俺の知らないうちにセルビアに迷惑をかけたとなれば話は別だ。
「アルディスさん、どう言う事ですか!?」
「それは、こっちの台詞だ! なぜ、暗黒湿原を封印した、この馬鹿野郎!!!」
「!!」
アルディスが怒っている理由はわかった。
わかったが、なぜそれでアルディスが怒る?
セルビアになぜ迷惑が……?
それが、俺にはわからなかった。
「アルディスさん、詳しく説明して下さいよ!!」
「よく聞きやがれ! この馬鹿野郎!!」
アルディスは全て教えてくれた……
俺が封印した暗黒湿原の事、暗黒の霧の事……
そして、アルディスがなぜ激怒していたのか。
それもよくわかった。
でも……
「だから、知識はきちんと備えておけ!! と、あれ程言っただろうが!?」
「そんなの本に載っていませんでしたよ!!」
「おいっ! 俺の渡した本に、きちんと載っているぞ!!」
「えっ!?」
「あそこにある本、お前読んでいないだろ?」
アルディスが指差すのは、部屋の隅に邪魔臭そうに置かれている本の山だった。
……図星だった。
言い訳になるかもしれないが、最近アルディスは俺に本を渡さなくなっていた。
だから、もう読まなくてもいいのかな? 大分知識も備わったし、もう充分だろ。
と勝手に思い込んでいた。
そして、それ以来俺は本を読まなくなっていた。
「ルーク!!」
「ふっふぁい!?」
アルディスは、先程までとは全く違った穏やかな空気を放ち始めた。
それが返って、余計に恐ろしく感じていた。
「起こってしまった事は、仕方がない。ダークが貴族たちを説得してくれると言っている以上、大問題には発展しないだろう」
「……はい」
「だがな、お前がきちんと本を読んでいれば起きなかった事だ」
「……」
「それだけはちゃんと理解しておけ」
「はい」
アルディスは、更に話を続けた。
俺が暗黒湿原を封印した事により、もしロールライトに暗黒の霧が出現したらどうするつもりなのか!?
それは、ロールライト支部長でもあるセルビアに責任問題に発展してしまう程の、大きな問題になってしまう事。
更に……
たまたま、ロールライトに来ていただけのマーシャルにもその責任の矛先が向いてしまう可能性もあった事。
尻拭いする羽目になったダークやミリシア……
ロールライトに住む全ての人たちに、余計な不安感を植え付けてしまう可能性があった事。
そして、俺はその責任をまだ取れない事。
懇々と一時間以上、アルディスは語り続けた。
その間、ずっと正座したまま動かず、足のしびれに耐え続けていたのであった。
当にアルディスによるお説教タイムである。
「ーーというわけだ」
「反省したか?」
「はい」
“もういい加減にして欲しい……”
アルディスは俺にも理解出来るように、とてもわかりやすく話しをしてくれる。
だが、如何せん話しが長すぎるのだ……
飽きてきてしまうのも、また事実であった。
「うむ、ではあそこにある未読破の本、全部読め」
「はい……」
「……えっ!?」
うつむいたままアルディスの話しを聞いていたのだが、途中から『はいはい』と返事をしていた。
「読み終わるまで、外出を禁止する」
アルディスは、俺に反論意見を言う暇を与えないまま部屋から出て行ってしまったのである。
“まっマジかよ……”
アルディスは怒ったら怖い。
これは、セルビアの姿をずっと見ていたからよくわかっていたつもりだ。
だが、所詮他人事のように俺は今まで見てきた。
まさか自分に降りかかってくるとは、思いもしなかったのである。
因みに、未読破の本を読み終えアルディスに許されたのは、それから五日後の事だった……




