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Arts hunter   作者: kiruhi
少年編ー序章ー
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第六話 火の街ロールライト 〜参〜

 アードの起床時間は早い。

 身支度をさっさと済ませると、火が消えないよう焚き火の火を調整しながら早目の朝食を摂っていたのである。


 パキン!


 アードの背後で小枝を踏みつける音が鳴り響いたのであった。

 しかし、アードは後ろを振り返る事なかった。

 何故ならアードには、後ろにいる人物がアルディスだと言う事をわかっていたからである。

「ーーったくよくここがわかったな、昨日のセルビアといい………」

「セルビアがどうやったのかは知らないが、俺はセルビアから直接聞いたまでだ」

「そうか……」


「それで、今日はルークをどうするつもりなんだ?」

「ここに来る前に、一通の緊急伝令が入った」

「………」

「北の町外れの小屋にアーツバスターが潜伏していると………」

「そこにルークを連れて行くと?」

「あぁ……」


 アードは立ち上がりながらアルディスに言った。

「アルディス、ルークをどこに連れて行こうが俺は一向に構わない。だがな、一人の大人として何かあればきちんと尻拭いはしろよ」

 そうアルディスに言い放ったアードは、荷物を持ち街の方へと歩いて行くのであった。




 ◆◇◆◇◆



 セルビアのお陰か俺は、悪夢を見る事なく久しぶりにゆっくりと寝る事が出来た。

「おいっ、ルーク・ゼナガイア起きろ!」

 寝ていた俺は、突然何者かに無理矢理起こされたのであった。

「アードさん?」

 寝ぼけながら、目をこすりアードの名を呼ぶが返事はなかった。

 代わりに昨日アーツハンターギルドで会った、銀色に光る鎧を着た青年の声が聞こえてきたのである。

「アードは、依頼に行った。さっさと身支度を整えろ」


 昨日一目だけあった男が、突如現れて命令口調。

 俺には、青年の言葉に従う理由が見当たらなかった。

 だから、断る事にした。

「えっと……どこのどなたか知りませんが、アードさんが帰って来るまでここにいます」

「俺の名は、アーツハンターギルド、副支部長のアルディス・ミリシアだ。今日一日お前は俺と共に行動する事になった」


「さっさと行くぞ」

 とアルディスは俺をおいてさっさと歩いて行ってしまったのだが、俺はついて行かなかった。


 “勝手に行って、もう戻ってくるなぁ〜”



 と思っていたら五分ぐらいしてから、アルディスは早足で戻ってきたのである。

 そして、俺の首元の服を掴み怒鳴り出した。

「何故ついてこない!?」

「だって俺は、アードさんから何も聞いていません!!」

 頑なに座り込んでいる俺に対して、アルディスは頭を掻きながら困り出していた。


「【疾風のアーツ】発動!」

 アルディスが右手をパチンッ! と鳴らすと、小さな竜巻は俺の足元に入り込み下から風が吹き上げてきた。

 そう、無理矢理俺を立たせたのである。

「これで最後だ、ルーク・ゼナガイア!! 俺について来い」

 逆らったら殺すぞ。

 と言わんばかりの脅しに、渋々ついて行く事にしたのであった。




 ◆◇◆◇◆



 商店街に着くと、いい匂いがしてきた。

 今日販売する物を作っているらしく、店の住民達は忙しく動き回っていた。


 ぐぅぅぅぅぅっ〜〜


 昨日の昼からなにも食べていない事に気がつき、足を止める。

「あっあの〜………アルディスさん………」

「あぁぁぁんっ!?」

「お腹が空きました………」


 ぐぅぅぅぅぅぅ〜とお腹が鳴るのを押さえながらアルディスに話ししてみた。


「ちっ仕方がねぇな………そこの椅子に座ってろ」

 アルディスは嫌々、商店街の方へと歩いて行った。


 言われた通りに椅子に座り、待っていたら五分ぐらいしてからドカッと袋を俺の目の前に置いてきたのである。

「これでいいか?」


 アルディスは、パンとジュースを買ってきてくれた。


「ありがとうございます」

 夢中に食べている俺を、アルディスは優しい目で見つめていた。

「なんですか?」

「なんでもない。さっさと食え! 行くぞ」

「行くってどこに?」

 アルディスは俺の質問には答えてくれなかった。



 俺が食べている間、アルディスは色々な人達に話しかけられていた。

 が、全てセルビアの話が多かった。

 しかしそれを嫌がる事なく、むしろ誇らげで嬉しそうにも見えた。



「ご馳走様でした」

 手を合わせ頭を下げる。

 食べ終えた物をゴミ箱に入れ終わると、アルディスはスタスタと歩き出してしまった。



「それで、結局どこに行くのですか?」

 早足のアルディスに俺は、駆け足君に話しかける。

「この街外れにある小屋に、アーツバスターが数十人潜んでいるとの、報告があがった。もう何人かは現地に向かい戦闘になっているはずだ」

「そこに行くのですか?」

「あぁ」


 俺は、足を止めた。

「どうした?」

「行きたくありません。戦いたくないです」

「お前に前線に行けとは言わない。ただ負傷者を【白のアーツ】で回復していればいい」


 簡単だろ? と言ってアルディスは、俺の手を無理矢理引っ張って行ったのである。




 ◆◇◆◇◆



 町外れの小屋の中は、確かに戦闘中だった。

 その小屋の前にはアーツハンターが建てたテントがあり、何十人もの負傷者が倒れ苦しんでいた。

 先発隊は更に奥に進んでいるらしい。

 そして、テントの隣りには仮本部が設置され、アルディスと俺は中に入って行く。


 中では、机の上に置いてある地図をジッと見つめ考え込んでいる男がいた。

 その男にアルディスは話しかけていた。

「ご苦労、リンク。首尾は?」

 リンクと呼ばれた男は、使い込んだ鎧をまとい髪の毛が短く逆立っていた。

「アルディス! 遅いぞ」

「すまない、ちょと手間取った」

 リンクは俺の顔を見ながら、

「この子は例の子か?」

 と聞き、アルディスは無言で頷いていた。



「この小屋には、地下室がある。そこからアーツバスターがドンドン出て来やがる。送り込まれている所を発見しない限り、いずれは押し負けて侵入されるな」

「その場所は?」

「わからん!」

「わかった前線には、俺が行って指揮する。リンクは、引き続き送り込まれている所を特定してくれ」

「わかった」

「後、増援が必要と感じたら、俺の許可はいらん。すぐに増援の要請をしろ」

 リンクは頷きアルディスと俺は、仮本部から出て負傷者のいるテントへと移動したのである。



 テントの中では医療班が忙しく動き回り、医療班のリーダー、ウォーク・ビスマルクに俺の事を話し、アルディスはさっさと前線に出て行ってしまった。

「小僧、名前は?」

「ルーク・ゼナガイアです」

「ではルーク早速負傷者の手当だ! 俺についてこい」

 俺は、ウォークについて行った。


 そこには、負傷者が横に一列に寝て順番に手当を待っていた。

「いてぇよ〜」

「早く治療してくれ!」

「…………」

 怪我はしているけど元気な者や足を失ってしまった者、全身火傷の者、瀕死の者等様々だった。


 最初にウォークと共に見た負傷者は気を失い瀕死の状態で、もう手の施しようがない程手遅れだった。

「ルーク!【白のアーツ】を発動してくれ!」

「でも…………」

「苦しまずに逝かせてやれ。それも俺達の仕事だ!」


 気が進まないまま、昨日セルビアとやった感覚を思い出しながら【白のアーツ】を発動。

 傷はみるみる内にふさがったが、その男が目覚める事はなかった。


 ウォークと周りにいた医療班は、静かに手をあわせ黙祷をした。

 死んだ者は別の部屋に運ばれ、後日アーツハンターが責任を持って供養するとウォークは教えてくれた。

「悲しんでいる暇はないぞ! ルーク! その悲しみを背負いながら他の者を救うんだ!」


 俺にはウォークの言っている意味はわからなかったが、後に続き回復を手伝った。


 今度は両足を折って苦しんでいる人だった。

 俺は、足を触りながら【白のアーツ】を発動し、怪我を回復した。

 その男はまた戦いに行けるといい、張り切って前線に走って行った。


 次第に増えていく負傷者をドンドン回復し、前線に送り込んでいく。


「あれこの人、さっき………?」

 先程【白のアーツ】で回復した男がまた負傷し戻ってきていた。

 そんな事をずっと繰り返していた。




【白のアーツ】の能力を全面に出し【黒のアーツ】も【白のアーツ】の欠点を補う様に常に、発動していた。

 次第に眠気が襲ってきた、それでも今俺ができる事を頑張った。

 しかし、その回復力は次第に衰えて行った。


 俺の疲労を心配したウォークは俺に少し休めと、ホットミルクを差し出してくれた。

 ホットミルクを飲みながら椅子に座りテントの中を見ると、ウォークや他の医療班の人達もヘトヘトになりながらも頑張っている姿があった。

 俺は、ホットミルクを一気に飲み干しウォークに合流し、再び負傷者の回復に専念した。




「アーツバスターが一人、出てきたぞぉ!!」

 との叫び声で、負傷者のいるテントは静まり皆が手を止めていた。

 ここには、まだ大勢の負傷者達がおり、とても応戦になど行ける状況ではなかった。


 返り血を浴びたリンクがテントの中に入ってきた。

 前線の激しい戦いを何故か切り抜けここまで来た、アーツバスターを倒さなければならない。

 一人でも街への侵入を許せば、弱い街の住民に被害が出てしまう。

 そして、今まで築いてきたアーツハンターギルドの評判は地に落ちてしまう。

 アーツバスターは、絶対にここで倒さなければならなかった。


「ルーク出てきてくれ!」

 リンクは俺を呼び、俺は立ち上がる。

「頼む! もうすぐ援軍が来るはずだ。それまで持ちこたえてくれ!」

 とだけ言ってどこかへ行ってしまった。

 返り血のみかと思ったリンクのその後ろ姿は、足をひきずり怪我をしている様だった。



 出てきたアーツバスターは、【岩のアーツ】を使い手であった。

 自ら作り出した岩の中に身を潜め、岩の外壁から鋭く尖った岩の柱を作り出し、無数の数がアーツハンターたち目がけて攻撃を繰り出していた。

 残っているアーツハンターたちは、なんとか動ける状態なのだが、まだ怪我の治療も受けていない者たちばかりであった。

 そしてアーツハンターたちの攻撃は、全て岩の壁で防がれてしまい次々へと倒されて行った。


 怪我を負っている、五人ぐらいのアーツハンターが俺に期待の目でみていた。

「あの、あの岩の壁をどうにかして、隙を作りますのでよろしくお願いします」

 とだけ言い、俺は【黒のアーツ】を発動し小さな黒い球体を作り出した。

 岩の壁にぶつけ消滅させる事に成功した。

 岩の壁がなくなったアーツバスターは、アーツハンターにあっさりと倒された。




 テントに戻りウォークに一通りの報告を済ませ、負傷者の回復を再開した。

 そして、ふとっ思い出した。


 “そういえば、前線に行くと言っていたアルディスさんは、無事なのだろうか?”


 と思っていると、担架で運び込まれた男がいた。



 ぐったりとしている男は、こちらの呼びかけに何も反応する事はなかった。

 よくよくみると銀色に光っていた鎧を着ていた。

 その鎧は血の色に染まり心臓付近に大きな穴が空いていた。



 アルディスであった。



 すかさず【白のアーツ】を発動する。

 しかし、何故か発動はしなかった。


「どうしたルーク?」

「あっあれ? なんで?」


 何度も【白のアーツ】の発動を試すが、まったく発動はしなかった。



 そう【白のアーツ】の限界である。



 アルディスの状態はドンドン悪くなり、次第に血の気が引いていくのがわかった。


 “このままでは、死んでしまう!!!”


 そう感じた。


【白のアーツ】をアルディスに当ててながら、発動を何度も試みる。



 “また俺は、助けられないのか………

 村の皆を助けられない………

 夢の中でも助けられない………

 今倒れているのがアルディスさんではなく、アードさんだったら…………?”


 “嫌だ、俺を置いて死なないで………”


「嫌だ………嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」





 ドクンッ!!!!




【黒のアーツ】が発動し、黒い波動が俺の身体を覆い尽くす。

 抑えの効かなくなった【黒のアーツ】は、今すぐにでも爆発しそうな勢いだった。



 “今必要なのは、お前(黒のアーツ)じゃない!! 目覚めろ【白のアーツ】!!!”



 俺の身体を覆っていた黒い波動は、白の波動に変わって行く。

「死ぬな! 目覚めろ!!! ハァハァ! うっうぐっ……」


 無理矢理波動を変えたせいか、身体の至る所がきしみ、肺が潰されたかのような痛みで息ができなくなってきた。

 そんなのお構いなしに発動させた。

「【白のアーツ】発動! 回復!!!」


 アルディスの身体に【白のアーツ】の光が覆い尽くされ、その光はやがてアルディスの中にスウッと吸い込まれて行った。


 次第にアルディスの血の気が戻っていくのがわかった。

「おっ俺は…………」

 気がついたアルディスに、俺はホッとした。


 気を許した瞬間、俺を覆っていた白の波動は、黒の波動に突然入れ替わった。

「あっ!!……うぐぁぁぁ!!」



 意識を一瞬でもっていかれそうになる。

「みっみんな逃げて………」


 最後の力を振り絞ってそう言ったが、急に言われても逃げれる訳がなかった。

 アルディスが何か叫んでいた。


「【白の……アーツ!!!】


 それだけ聞こえてきた。



「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 叫び声と共に俺を覆っていた、黒の波動は大爆発した。




 テント周り、仮司令部、アーツバスターと戦闘中の小屋、そしてあたり一面も消し飛ばしなにもない、大地だけが残っていた。



 俺だけ大地に立ち尽くし、全て消し去ってしまった。





「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 思いっきり叫んだ。


【黒のアーツ】は発動をやめず、俺の身体をまた黒の波動で覆い尽くされ、更に爆発をしそうな勢いだった。



 “止まれ!!! 止まれ!!!!”

 制御しようとするが、制御出来ず俺の意識は【黒のアーツ】に飲み込まれそうになっていた。




 ガクンッ!

 突然、力が抜け地面に足を着いてしまう。


「!?」

【黒のアーツ】の発動は止まり、鎖みたいなのが俺を縛り上げ身動きが取れなくなった。



「そこまでだ、ルーク・ゼナガイア! 俺は、お前を『戒めの剣』で処刑する!」

「!!」

 一人の兵士らしき男は俺に向かってきた。



 気がついた時には、俺の目の前には大きな剣が突きつけられた。

 剣から血は滴り落ち手で触ってみると、真っ赤な血が手についていた。

 俺の胸には大きな剣が突き刺さり貫通していた。


 なにも言えないまま俺は、その場で倒れ込み自分の血の海に沈んで行った。


 次第に意識は薄れてゆく中………


 アードやセルビアが駆けつけてくるのがわかったが、なにも出来ず。

「あっぁぁぁぁああ!!!! ルーーーーーーークゥゥゥゥゥ!!!!!」


 アードの声が聞こえてきたが、それも次第に聞こえなくなっていった…………





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