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Arts hunter   作者: kiruhi
青年編 ー序章ー
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第六十八話 暗黒湿原の下克上

 俺の予測通り白のアーツは、暗黒湿原の魔物たちに有効だった。


 愛刀に白のアーツを発動させる事により、黒かった刀身は光り輝く白の剣へと変貌を遂げたのだ。

 魔物たちを斬りつけた所、光り輝きながら消え去って行く……

「ほぉ〜凄いな……」

「流石、白のアーツと言った所かしら?」


 ダークもミリシアも、興味津々だった。

 魔物たちはただ消え去って行くのではない。

 白のアーツによって浄化されて行くのは、見てすぐにわかった。


「この調子で頼むわぁ〜」

「ダークさん、後方支援してくれるんですよね?」

「あぁ、任せろ」

「……後方支援、今までの戦闘で一っつもありませんでしたよ?」

「そりゃお前が、一瞬で倒すからさ」

「……」


 “俺のせいかよ?”


 疑問に思いながらも、白の剣を使いながら更に奥へと進む事にした。




 暫く歩くと、ダークの言っていた通り暗黒湿原の中心地点に着いたのだろう。

 明らかに今までと違った場所にたどり着いた。

 中心地点と思われる場所は、円形状に直径約50mぐらいの範囲内で黒くモヤモヤとした靄みたいな物が、更にどす黒く地面から湧き出していた。


「ここだ。ここに魔物の親玉がいる」

「……」

 コクンッと頷き霧の中へと入って行く。


 ブオォォォォンッ! と音が聞こえてきた。

「何ですか今の音は??」

「あぁ、言い忘れていた。魔物の親玉を倒さない限り出られないからな」

「……」


 “そう言う事は入る前に言ってほしい……”


 地面から湧き出ている霧を触ってみると、先ほどは何も違和感もなく手を触れ中に入る事が出来たのに、今は違う……

 目の前に何か物を触っている、そんな感触がしていた。

 まるで、それは俺たちをここから出させないような結界みたいな感じだった。


 中に入れるが、出る事は不可能……

 典型的な罠の一つではないか……


 “はぁ〜アルディスさんが聞いたら、怒られそうな展開だな……”


 と、考えていると背中がムズムズとしてきた。

 悪寒……に俺は後ろを振り返る。

 そこには、見上げる程大きな魔物がいたのである。

「マジかよ……」

「マジだ……」

「マジよ」

 驚く俺に、ダークとミリシアは冷静に返していた。


「ぎぃしゃああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 全長約約10mぐらいの魔物は雄叫びを上げ牽制してきた。

 そして、六本の腕。六本の腕には全て剣が握りしめられていた。


 俺は目の前にいる魔物を見上げながら、ダークに話しかけた……

「ダークさん、ひょっとしてこいつ……?」

「ふむ……お前さんは実に優秀な奴だな。魔物に関しても知識が豊富だ」


 それは、幼い頃アルディスがに『本を読め!』と言って半強制的に読ませてくれたお陰でなんだと思う。

 だからこいつがなんなのか、俺にはわかる。


 スケルトン剣士(妖魔var)


 幼い頃、魔物大図鑑と言う本の中に出ていた記憶がある。

 魔物大図鑑はその名の通り、有名な魔物からあまり知られていない魔物から色濃く多彩に載っていた事を良く覚えている。その中にスケルトン剣士(妖魔var)は最後の方に載っていた。


 そして、スケルトン剣士(妖魔var)のページを開いていた時、アルディスとの会話を思い出す……

「アルディスさん、こいつの特徴は?」

 本を読んでいる時、セルビアやアルディスは暇になると俺の邪魔をしてくる。

 こいつの特徴はなんだ? とか、聞いてもいないのに事細かく説明してくれる事もあった。


 だから、俺はアルディスに聞いて見たんだ。


「あぁ、こいつか……前に言ったと思うが、スケルトン剣士はいわば魔物に殺された者たちだ。怨念と言う呪縛に囚われ続けいつしかスケルトン剣士に変貌するって、言うのは覚えているよな?」

「はい」

「じゃ、そのスケルトン剣士がお互いに侵食しあったらどうなる?」

「へっ? 侵食ってなんですか?」

「ぬっ……? それはな……」

「……プププッ」

 俺の素朴な疑問にアルディスは、返答に困っていた。

 そんな姿をセルビアは微笑ましくも嬉しそうに笑っていたのだ。

「セルビア、何がおかしいのですか?」

「ルークちゃんに難しい言葉は植え付けないでね。アルディスちゃん」

「ぬぐっ!?」


「要するにだ! スケルトン剣士同士にも弱い強いってのがある」

「はい?」

「強いスケルトン剣士が、弱いスケルトン剣士を倒すのは当然の事だ」

「アルディスさん……」

「なんだ?」

「なんで、スケルトン剣士はお互いに倒し合うのですか?」

「!?」

 その質問にアルディスは、これ以上話が進まないから黙って聴いていろ。と言われてしまった。


「だが、逆はどうだ?」

「逆??」

 俺の理解力が足りないのか、アルディスの話が難しいのかはわからなかったが、アルディスは俺が理解出来ない話ばかりしていた。

「そうだ、弱いスケルトン剣士が強いスケルトン剣士を倒す! するとどうなる!?」

「う〜ん」


「わかった! 下克上ですね!?」

「!?」

 アルディスは、俺の言葉に目を丸くし暫くしてからセルビアを睨みつけていた。

「……ルークに変な言葉を教えたのはセルビアですか?」

「てへっ♪」


 その後、俺を放置してセルビアとアルディスが懇々と何かを言っていたのをよく覚えている。


「ふわぁ〜」

 放置され眠くなっていると再びアルディスは話を戻してきた。

「つまりだ、ルーク!!」

「ふっ……ふぁい」

「弱い者が強い者を討ち果たした時、強い者の力は弱い者の糧となり更なる力を手に入れる事が出来るんだ。長い年月をかけ浸食していくと、最終形態のスケルトン剣士(妖魔var)が生まれるんだ。最終形態は怨念は強く凶悪だから、よく覚えておくといい」

「……??」


 結局この時の俺は、下克上は合っていると聞いたがそれ以外の事は何一つ理解出来なかった。




 でも今の俺は、あの時言っていたアルディスの言葉を理解出来る。


 “目の前にいる魔物は下克上を成し遂げ続け、そしてスケルトン剣士(妖魔var)になったんだ!”



「ダークさん、魔物の親玉がスケルトン剣士(妖魔var)って報告したのですか?」

「獲物の横取りは俺は好かん!」

「……」

 要するにダークは、報告していないようだ。


 “アルディスさんが聞いたら、また雷が落ちそうな話だな……”


 10mぐらいの大きさになるまで、下克上を繰り返してきたとしたらそれはもう一個人で倒せる物ではない。

 だが、ダークは報告はせずに自分の手柄にしようとし、数々の失敗を繰り返していた。

 そこに最低ランクの俺がタートルジェネラルを倒したと聞けば、余程強いアーツを発動させた。というのは納得出来る。後は、Aランク体験とか理由をつけて俺をその気にさせて……


 “全く迷惑な話だ……”


「と言う訳で後は任せた!!」

「えっ!?」

 クルッと後ろを振り返ると、ダークは既に自らが作り上げた頑丈な岩の中にミリシアと共に隠れていたのだ。

「ちょ……! ダークさん!? ミリシアさん??」

「心配するな。骨は拾ってやる」


 “おいおい……”


「大丈夫よ。回復はかけてあげるわ」

「……」


 セルビアやアルディスがダークに対する態度を、今更ながら思い出し俺は後悔していた。

 だが、俺の後悔なんぞ知る由もなく、スケルトン剣士(妖魔var)は六本の剣を器用に振り回し始めていた。

 そして、左右の二本の剣が俺めがけて振り下ろされた。

「!!」


 受け止める。

 なんて、とてもではないが無理。

 剣の聖地『ウイッシュ』にいるシュトラーフェなら片手で難なく受け止めそうだが、俺にはそんな技術も力もない。

 せいぜい飛び上がる事でしか回避する事は出来ない。

 しかし、三本目の剣が空中に滞在している俺目掛けてなぎ払おい、吹っ飛ばそうと狙っていた。

 それを剣の刃を滑らせるようにしながら三本の剣をいなす。

 ビリビリ……と両手の衝撃は凄まじかったが耐えきれない訳ではなく逆に反動がついていた。

 その反動を利用し更に空高く上昇すると今度は、四本目、五本目の剣が上と下から交互に俺を切り刻もうとしてきた。

 これもなんとか身体を捻じ曲げながらよける事が出来、反撃だ! と思っていたのだが、そうは行かなかった……

 スケルトン剣士は俺に向かって大きな口を開いていた。

「!?」

「破っ!」

 黒い炎みたいな物が俺を直撃。

「ぐはっ!」

 更に六本目の剣が振り下ろされた。

「くっくそっ!」

 黒い炎に包まれながらも、剣を構え六本目の剣を受け止める。だが、スケルトン剣士は御構い無しに剣ごと地面に叩き落としたのであった。


 土埃が舞う中、六本目の剣はそっと俺から離れていく……

 衝撃で大きな穴は空いた物の、咄嗟に身体の周りに黒のアーツを発動したお陰で、地面に激突した時のダメージは防ぐ事が出来た。


 それでも、黒い炎のダメージ分は確実に残っていた。

「いってぇ……」

「ーー可の者を回復せよ! 【癒しのアーツ】発動!!」

 ミリシアの言葉に癒しのアーツは反応し、傷ついた俺の身体を回復させてくれた。


「ありがとうございます! ミリシアさん!」

「頑張って!!」

「今の避け方、実に良かったぞ!」

「……」

 有言実行してくれるのはありがたいが、岩の中に隠れている時点でなんかあの二人が、俺には臆病者にしか見えなかった。


 “さてと、どうやって倒すかな……”


 スケルトン剣士を見上げながら考え込む……


 が、そんな暇を与えてはくれなかった。

 六本の剣を無差別にスケルトン剣士は振り下ろしてきた。

「うおっ!?」

 波状攻撃となって無差別に振り下ろされる剣を辛うじて、避けてはいたが流石にきつかった。


 そのうち一本の剣だけ、俺の急所を正確に捉えていた。


 “くっ……間に合うか!?”


 剣で防ぐには、到底間に合わない速さだった。

 再び黒の波動を展開させたのだが、黒のアーツ発動もギリギリだった。

 満足にも受け止める事も出来ず、踏ん張る事も出来ずに後方へと吹き飛ばされたのであった。


 結界の壁に激突しズルズルとずり落ち地面に這いつくばりながら、スケルトン剣士を睨みつける。

「げほっ……流石に、一人はきつい」


 “くそっ! 黒のアーツで消し去りたくないのに……”


 最大限までに高めた黒のアーツを、スケルトン剣士にぶつければ簡単に消し去る事が出来る。これ以上痛い思いもしなくて済むのだが、俺は黒のアーツを発動したくなかった。

 スケルトン剣士(妖魔var)の怨念は強く凶悪とアルディスは言っていた。

 怨念が強いって事は闇が強いって事だ。

 黒のアーツで消しされば、その魂は……どうなる?

 俺には更なる闇に追い込むような気がしてならなかった。


 逆に白のアーツを黒のアーツと同様に限界まで高めれば、スケルトン剣士を浄化する事は出来ると思う。

 これが一番いい方法だ。だが、それをすれば確実に俺の寿命は減る。


 “どうする……どうする!?”


 三度目のスケルトン剣士の攻撃が始まった。


 “……ったく考える時間くれよなっ!?”


「余計な事考えるなよ! 骨は拾ってやると言っているだろう? 思う存分暴れろよ!!」

 ダークの無責任な声が聞こえてきた。

 余計な事、前にも誰かに言われた覚えがある。誰だったか……


 “そんなに、俺は余計な事を考えているように見えるのだろうか?”


「ふぅ〜」

 スケルトン剣士を見上げながら息を思いっきり吐き出し、覚悟を決めた。


 何もやらずに殺されるぐらいなら、白のアーツで寿命を減った方がまだマシか!? とこの時、半分投げやりになっていたかもしれない。


 開き直った俺は、黒の波動で全身を包み込み、愛刀ブラックに再び白のアーツを発動させ構える。

 そして、次々に襲いかかってくるスケルトン剣士の剣を、一本ずつ白の剣で浄化し消し去って行ったのだ。


 “よしっ、残り一本!”


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 黒の波動を足元に集中させ空高く舞い上がり、残り一本の剣に向かって剣を振り下ろした時だった。


 俺の身体は、黒の波動に包み込まれていたというのに、スケルトン剣士の攻撃による衝撃で一瞬視界が真っ暗になった。

 僅か数秒で我に返ったが、再び吹き飛ばされている事に気がついた。

「がはっ!!」


 “なっ何が起きたっ!?”


 空中に吹き飛ばされながらもそんな事を考えてしまった。

「ーー【癒しのアーツ】発動!!」

 すうっと痛みが消え去る。


 “全くタイミングがいい……”


 いつの間にか空中には岩の足場が出来上がっていた。

「ほれっ頑張れ!」

 ダークの【塊のアーツ】によって岩の足場は、スケルトン剣士まで続いていた。

「……」


 スケルトン剣士は、五本の腕を浄化された事により危機感を感じたのだろう。

 残りの一本の腕には先程とは、違って身長と同じぐらいの大剣に変わっていた。

 吹っ飛ばされた理由がよくわかる。

 あんなので吹っ飛ばされれば、一瞬視界が真っ暗になったのも頷ける。


「ダークさん! いい加減、一太刀入れてくださいよ!」

「俺は攻撃力ないってさっきから、言っているだろう?」


 攻撃力がないないと叫ぶダークに、流石に頭に来ていた。

 そんな逃げ腰アーツハンターなんかいらないだろ? とも思ってしまった。

 でも、そんな事を言えばダークからの協力の可能性は益々なくなる。


 だから、懇願してみた。

「一人では無理なんだって! 気づけよ! 一瞬でいいから注意をそらせて!! それくらい出来るだろ!?」

 敬語ではないタメ口に、ダークもカチンときたのだろう。

「お前っ! 後でみてろよ!?」

 と俺の挑発にダークは大人気もなく乗った。


 ダークから作り出した空中に浮かぶ岩を飛び乗り移動しながらスケルトン剣士に近づいて行くと、ダークの弱々しい岩の弾丸がスケルトン剣士の片膝を直撃。

 カクンッ!! とバランスを崩し始めた。


 “やれば出来るじゃん!!”


「おりゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 上から下まで勢いよく、白の剣で斬りつけてみた。

 手応えは充分だったが、倒せただろうか?


「グオォォォォォォ………」

 スケルトン剣士は片手を空に向けながら、崩れ去りる。

 そして、動かないただの骨となり塵となって行く……

 塵は風に吹かれ何一つその場に残さなかった。


「ふぅ………」

 俺はスケルトン剣士の消えゆく様を、黙って見ていたのであった。

 そして、スケルトン剣士は一本の剣を残していた。






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