第六十七話 暗黒湿原へ……
更に一週間たった。
それでも俺は今だにFランクのままだった。
やる気がしない、採取ばかりで飽きたのだ。
自分の部屋のベッドでゴロゴロと寝ていると、セルビアにアーツハンターギルドで待っているわ。と言われ漸くやる気を奮い立たせて向かう事にしたのである。
アーツハンターギルドの中に入り、いつも通り採取系の依頼を手に取りシュエに渡そうとすると、男が俺の腕を掴んできた。
「よぉ……」
先日、俺がタートルジェネラルを倒したと報告した時に絡んできた男だった。
「こんにちわ……」
「兄ちゃん、俺と一緒に依頼やらないか?」
「依頼ですか?」
男の名はダーク・フォン・ウォルトと言いAランクのアーツハンターだった。
他にも一人仲間がいるとの事だ。
ダークは、どうやら暗黒湿原の調査.もしくは魔物の討伐を受けていたのだが、どうせなら魔物は倒したいと思っていたらしい。
“ヒョッコの俺をなぜ声をかける?”
「本当にタートルジェネラルを倒したのなら余裕だろ?」
俺としては断る理由は何一つないのだが、シュエが猛反対していた。
「ちょっとダーク、何無茶な事言っているのよ!? この子はつい最近アーツハンターになったばかりなのよ?」
「だが、上層部の連中はこいつがタートルジェネラルを倒した事……信じているんだろ?」
「うっ、それは……」
「お前はどうなんだ?」
「俺……ですか?」
“俺は、依頼受けたいな……”
でも疑問もあったのでシュエに聞いて見る事にした。
「ねぇ、シュエさん?」
「なぁに?」
「俺がダークさんと同じ依頼を達成させた時、カード内のポイントはどうなるのですか?」
「……」
シュエは実に答えにくそうな顔をしていた。
「FランクがAランクの依頼を受けるなんて前代未聞だわ……私には判断つかないから、支部長に行ってきてよ……」
頭を抱えながらシュエはセルビアに丸投げしたのであった。
「……」
「おっ麗しいのセルビア長に会えるのか、実に久しぶりだな……」
ダークは大層喜んでいた。
Aランクでもセルビアに会う事は滅多にないらしい。
“俺は幸せ者だな……”
コンコンとドアをノックしたのち支部長室へと俺はダークと共に中に入って行くのであった。
いつもの重たいなんとも言えない雰囲気が部屋中を充満していない事から、どうやら今日のセルビアは書類整理を追われていないらしい。
「あら、ダークちゃん。お久しぶりね」
「支部長も相変わらず美しいな」
「まぁ嬉しいわ」
どうやらセルビアは、誰にでもちゃん付けで呼んでいるらしい。
「それで、どうした?」
アルディスはダークをギロリと睨みつけていた。
「おいおい、アルディス。そう睨みつけるなよ」
「生まれつきだ……」
「まぁいい。今日はこいつにAランクの依頼って奴を体験させたくて仲間に誘おうと思ったんだ。そしたらシュエの奴が、支部長室に行けと言ってきてよ。こいつどれだけお前たち上層部の連中に可愛がられているんだ?」
「別に可愛がってはいない」
「そうかぁ?」
ダークはニヤニヤと笑い、何かを探ろうとしているように俺には見えた。
「ただそいつは【黒と白のアーツ】の使い手だ。将来期待はしているな」
「ほぉ〜じゃ将来期待の星に、Aランクの依頼体験させてもいいか?」
「……」
判断を降すのは支部長であるセルビアがしなければならない。だからアルディスは黙っていた。
セルビアはアルディスから書類を受け取り、今ダークが受けている依頼に目を通し始めた。
暗黒湿原の調査.もしくは魔物の討伐……
ダークは実は既に数回暗黒湿原へと、足を踏み入れていた。
調査は順調に進み魔物の生息など事細かく調べ上げていた。この時点で依頼達成はしているのだが、ダークは満足しなかった。奥地にある魔物の親玉をなんとかして倒したいと思い、幾度も挑んでいたが敗北……
仲間を見捨てて逃走を繰り返していたのだ。
自分が生き残る為に仲間を置き去りにして逃げ帰るなど、アーツハンターとしてやってはならない事だ。
だが、規約には実は書かれていないのだ。
常識的に考えて、普通はやらないであろう事を書く必要はない。との事で書いていないだけなのだが、ダークは規約には書いていない事をいい事にこの行為を繰り返していた。
更にもう一つ問題があった。
ダークは貴族の人間だ。
それも、ウォルト卿の親族だ。
言うなればダークは、俺のパラケラルララレ学校での同級生でもある、ライト・フォン・ウォルト。
ライトの父とダークの父親が兄弟な為、ライトとは親類に当たるのだ。
彼を罰しようとするのなら、それはウォルト卿に喧嘩を売る事になるのは目に見えており歯がゆい思いをしながら、セルビアはダークを注意する事しか出来なかったのである。
「……ダークちゃんはルークちゃんにAランクの体験をさせてあげたいのよね?」
「そうだ」
「なら、きちんと生きて連れて帰る。約束できるかしら?」
「それは無理な話だな。もし仮にこいつが俺の制止を無視し、突進した場合どうなる?」
「無理矢理止めるのがお前の仕事だろ?」
「だが、止めるのが間に合わず返り討ちに合うのならそれは事故だ。俺のせいにはならんぞ?」
「……ルークちゃんはどうなの?」
「えっ? 俺ですか? 俺は、行きたいです」
「お前、話しわかるねっ!」
アルディスは俺に睨みつけながら話しかけてきた。
「お前が、今のランクに不満を抱いているのはわかっている」
「はい……」
「だが、これは誰もが通る道。お前はそれに耐えると覚悟したから、最前線には行かなかったのだろう?」
「その通りです」
「ならばなぜ急ぐ必要がある?」
「……」
アルディスの問いかけに反論出来なかった。全て俺が決めて来た事だから……
「どうしても行きたいのか?」
「はい……」
「支部長……」
「なんですの? アルディスちゃん」
「Aランクの依頼やらせましょう」
「ほぉ〜」
ダークはアルディスの出した結論に意外そうな顔をしていた。
俺も最後まで見てアルディスは反対すると思っていただけに、出された結論は意外だった。
「ですが、カード内のポイントはルークの活躍に応じて増やす事にしましょう」
「例えば?」
「そうですね。何もできず逃げ帰ってきたのならEランクと同様のポイントを……」
この時セルビアは、“結局アルディスちゃんもルークちゃんに甘いわ”と思っていたのである。
最強と言われている【黒と白のアーツ】を持つルークが何も出来ずに、逃げ帰って来る事などまずあり得ない事だ。
「そして、もし仮にこいつが奥地にある魔物を一人で倒した場合……その時、また考えましょう」
「わかりましたわ。それでいいわ」
「そして、ダーク」
「なんだよ?」
「ルークを必ず生きて連れ帰れ!」
「だから、それはっ!?」
「いいやこれは、連れて行く者の責務だ」
「……ちっ、わかったよ。努力はするさ」
こうして俺はダークと共にAランク任務を体験する事が出来た。
ダークは確かに口は悪いし、柄も悪い。性格も悪いのかもしれない。置いてきぼりにされるのかもしれない。
でもそんな事ばかり考えていては、本来ならありえない体験など出来る筈もないのだ。
◆◇◆◇◆
アーツハンターギルドを出るとダークは宿屋の方へと足を向けていた。
「あの、どこへ?」
「もう一人の仲間が宿屋にいるんだ。合流して早速向かうぞ」
早歩きのダークを追いかけながら、宿屋へと向かう事にした。
宿屋に着くとダークは、一人の女性を連れてきた。
腰まで伸びた銀髪の碧眼の美しい女性だった。
「あらあら、今度は随分と若い坊やを連れてきたのね。ダーク」
「ルークと言う。【黒と白のアーツ】の使い手だ」
「あらぁ〜噂の……私は、ミリシア・パトレインよろくしね」
「はっはい。よろしくお願いします」
短く挨拶を交わしたのち、ダークとミリシア、俺の三人は馬に乗り暗黒湿原へと向かう事にしたのである。
ダークは【塊のアーツ】の使い手だった。
塊のアーツは土のアーツが進化した最上アーツだ。
元々は土なので、土や岩を操る事が出来なんでも側にある土や岩、更に高密度な硬い塊にして己の身を守る壁を作ったりする事が出来るらしい。
ミリシアは【癒しのアーツ】の使い手。
傷ついた仲間の傷を回復する事が出来るのである。
確かに絶対的に攻撃力は、不足しているなと思ってしまった……
ロールライトから南の俺がいつも採取に赴いている平原より、更に進むと暗黒湿原はあった。
今はまだ昼過ぎだと言うのに、暗黒湿原一帯はその名の通りの陽をあまり差してはおらず薄暗かった。そして俺の今いる場所と暗黒湿原の切れ目には、地面から黒いモヤモヤとした靄みたいな物が湧き出していた。
「あの黒い霧みたいな物見えるか?」
「はい」
「あれが、ここと暗黒湿原の境界線だ。一歩足を踏み入れた瞬間、魔物が襲ってくるぞ」
「わかりました……」
最終打ち合わせを行なう事になった。
まず、暗黒湿原はゾンビ系や骸骨系の魔物が多く生息しているらしい。
前回は火炎のアーツの使い手を前衛にして来たらしいが、奥地ではなく中央にいる魔物の親玉に呆気なく重傷を負わされ撤退したようだ。
別にダークは仲間を見殺しにして、逃げ帰ってきているわけではなかった。
ただ攻撃手段もなく鉄壁の防御、故に生き残っていただけなのだ。
攻撃力の高い俺を先頭にダーク、ミリシアの戦列で行く事になった。
ランクは確かに俺は低いが攻撃力は一番高く、ダークやミリシアも援護アーツを発動しやすいとの事だ。
「では行きます……」
「あぁ、目指すは魔物の親玉だ」
「はい……」
高鳴る胸を押さえつけながら、暗黒湿原へと足を踏み入れたのであった……
足を踏み入れた瞬間、ダークの言われた通りの、刃の欠けたボロボロの片手剣を持った骸骨が現れた。
「ルーク、こいつは何者かお前は知っているか?」
「ソードスケルトンですか?」
「そうだ。そして、お前ならどう倒す?」
「えっ?」
“どう倒すと言われても、俺には消し去る事しか出来ないけど?”
「こいつらは、魔物に殺られ死に切れずにこの世に未練を残したまま彷徨い……奥地にある魔物の霧の影響で魔物へと変貌してしまった者たちばかりだ」
「……」
「ただ倒しただけでは、復活するぞ」
「ダークさん何が言いたいのですか?」
「……出来る事なら成仏させてやってくれって事よ」
ダークの代わりにミリシアはそう言ってきた。
“成仏と言われても俺は聖職者ではないし、出来るわけがない……”
ダークの言葉に戸惑いながらも、左手で黒のアーツを発動しガーセベルトでセルビアに買って貰った愛刀『ブラック』に流し込む。
元々黒かった愛刀は、光り輝く漆黒と変化して行った。
ソードスケルトンの攻撃を受け止めると、黒い波動に身を包まれたソードスケルトンは、苦しみもがきながら消えて行ったのである。
その声が俺の耳にいつまでも残っていた。
ダークは、何もやらない。見ているだけで口を出してくるだけだった。
「あれは、闇に飲み込まれたな……」
「……」
俺もそれはわかっていた。だから思わずダークを睨みつけていた。
「なんだよ? お前なら闇に飲み込まる事なく出来ると思ったから、話したまでだ」
「……」
ダークが言いたい事はわかる。ダークは、白のアーツを発動しろと言っているんだ。
だが、実際俺は白のアーツを使いたくはなかった。
黒のアーツは使えば使う程、眠気が襲ってくる。
一方、白のアーツを使えば寿命が縮んでしまう。
それを同時に発動する事で、欠点を補う事が出来る。
これは、最初に【黒と白のアーツ】を手に入れた時にわかっていた事だ。
黒のアーツを全開まで発動すると、幾ら白のアーツを発動していたとしても眠気が来てその場で昏倒したのを覚えている。
だから、俺は黒のアーツを発動する際、感覚的に黒のアーツを8割ぐらい、白のアーツを2割。と言った感じで発動していていた。
黒のアーツはこれで眠気を起こす事なく、発動出来るから問題はない。
問題は白のアーツだ。
仮に黒のアーツと同じような感覚で発動したとして、それは本当に寿命を減らさないのだろうか?
体験する事でわかる黒のアーツ違い、白のアーツはそれがわからない。
だから、今まで俺は白のアーツを発動時には、黒と白のアーツは同等ぐらいの感覚で発動しそこからほんの少しだけ白のアーツを強めに発動していた。
それに以前俺は、ロールライトで枯れ果てた花を浄化させる事が出来たから、骸骨たちを浄化する事は出来るとは思う。
だが、今回ダークの言うとおりの事を俺が行おうとするのなら、同等では無理だ。
黒のアーツと同じ感覚で発動しなければ、浄化する事は不可能だと思う……
「……」
「どうした? 怖気付いたのか?」
「あぁ〜もうっ!! わかりましたよ!!」
“黒のアーツで眠気は来なかったのだ、白のアーツも寿命は減らない!!”
自分に言い聞かせるように、愛刀に白のアーツを発動させる。
黒かった刀身は光り輝く白へと変貌を遂げたのだった。
「おぉ〜」
ダークは白の剣に驚いていた。
「ダークさんも、【塊のアーツ】を発動すれば出来るのでは?」
「俺は態度はでかいが、根っからの臆病者だ」
「……」
“よく、それでAランクに慣れたものだな……”
「俺の秘密を知りたかったら、この依頼完遂する事だ」
「見てるだけですか?」
「俺は火力重視ではなく、サポート重視なんでな……」
「危なくなったら助けてくれるんですよね?」
「骨は拾ってやるよ!」
「……」
親指を立ててながらニヤリッと笑ってくるダークを見て、少しばかり今ここに来てしまった事を後悔していた……




