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Arts hunter   作者: kiruhi
少年編 ー火の街ロールライトー
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第六十五話 アーツハンター

 ロールライトに到着した俺たちは真っ直ぐ、アーツハンターギルドへと向かった。


「あっ支部長おかえりなさい」

 そう言いながらセルビアの元に駆けつけたのは、受付嬢のシュエ・フェアトラークだった。

「ただいまですわ」


(わたくし)の留守中、何か変わった事はありまして?」

「いえ、特にありませんでしたけど……」

「けど?」

「副支部長が、鬼のように怒っています」

「……」


 セルビアはポンっと俺の肩を叩きながら、シュエに話し始めた。

「シュエちゃん、(わたくし)は急用を思い出しましたわ。

 お手数ですが、ルークちゃんにアーツハンターになる為の手続きして下さいね」

「はい、わかりました」

「それでは……!」


 逃げるように去ろうとした時、殺気が……

 全身怒りの(オーラ)を放ちながら……

 セルビアの姿を見た途端、耐え切れずに爆発し……


「支〜部〜長〜」


 それでもその声は静かだった。

 込み上げてくる怒りをかろうじて堪えながらも、アルディスは現れたのである。


 “こっこわっ!!”


 それは、俺にとって初めて見るアルディスだったかもしれない。


「アッアルディスちゃん……只今、戻りましたわ」

「どちらに行かれるおつもりで?」

 怒りを押さえながら、ニコニコと笑っている。


 実に不気味な笑みだ……


「もっ勿論、支部長室に戻るつもりでしたわよ」

「左様でございますか。ですが支部長、そちらのドアは外に出るドアですけど?」

「えっ? あら? (わたくし)、少し疲れているみたいですわ。間違えましたわ」

「ですよね? では、暖かいお飲み物をお持ち致しますので、どうぞこちらへ」


 “ひぃぃっ!”


 アルディスは、怖かった。

 セルビアは敵前逃亡も出来ず、肩を落としながら支部長室に入って行くのであった。

「……」


「ルーク……」

「はっはい!!」

「後で支部長室に来い」

「わっわかりました!!」

 直立不動のまま、俺はそう答えるしかなかった。

 アルディスは怖すぎた。

 支部長室のドアをバンッ!! と激しく締めながら中へと入って行くのであった。


 “セルビアさん、一体何をやらかしたのですか!?”



 一連の流れを一部始終見ていた、周りの者たちも何も言えず……

 し〜んっと静まり帰ってしまった。

「えっと……アーツハンターになる為の手続きだったわね?」

「あっはい……」

 先に、我に返ったのは俺ではなく、シュエの方だった。

「ローラ会長から発行された、アーツハンター認定許可証持っていると思うんだけど?」

「あっはい。あります」

 シュエに言われるがまま、俺は書類を渡す。

 その後も、シュエから差し出された必要書類に記入して行く。

 書類には、名前、歳、使用アーツ名といった項目が並んでいた。


「これでいいですか?」

 一通り書き終わった書類を、シュエに渡すと内容を確認し始めていた。


「うん、記載漏れもないし。書類はこれで大丈夫よ」

「はい」

「次にカード発行準備に入るわね。

 まずは、このカードに【アーツ】を発動してみて」

 そう言いながら、シュエは掌サイズぐらいの透明なカードを俺に渡してきた。

「俺、アーツ両手なんですけど、どっちでやればいいですか?」

「その場合は、同時発動出来る?」

「えぇ」

「じゃ、同時に【アーツ】を発動して」

「了解です」


 シュエに言われるがまま俺は、カードをテーブルに置き動かないように固定しする。

 そして、両手をカードの上に置き【黒と白のアーツ】を同時に発動する。


 パキンッ!! と音ともに透明だったカードから、名前、現在のランク、現在地などの文字が浮かび上がってきた。


「シュエさん、これでいいのですか?」

「えぇ、それで手続き完了よ」


 その後も、シュエはアーツハンターとしての注意事項を延々と説明してくれた。

 まず、カードは身分証も兼ねているらしい。

 国境とか超える時、これがあればフリーパスとの事だ。

 さよなら、通行手形。

 お前は実に役に立ったよ……


 カードを無くすと再発行出来ずに、新規でカードを作り直す羽目になる。

 そうなれば、ランクも最低ランクからの再出発となる。

「カードは肌身離さず! いいわね?」

「はい」

「話を続けるわ……次はアーツハンターランクについて」

 アーツハンターランクには、最高のSS〜最低のFランクの合計八つに分かれている。

 当然の俺は最低ランクのFだ。

 そこから依頼を達成すると、カード内にポイントが溜まって行き、上限まで達すると次のランクに、ランクアップするのだ。

 後、受けられる依頼は、その時のランクの一つ上まで。


「依頼が達成出来なかったら、どうなるんですか?」

「その時は……」

 期間内に依頼が未達成の場合、キャンセル扱いにされる。

 違約金などは、アーツハンターギルド側で支払ってくれるそうだが、それなりのペナルティを与えられる。

 依頼が達成出来なかった毎に、透明なガードは少しずつ黒くなって行く。

 最終的には真っ黒になってしまう。

 そうなると、ブラックリスト扱いされカードは没収。

 五年間はアーツハンターに復帰する事は出来ず、復帰後も最低ランクからの再出発になってしまう。


「真っ黒ですか……」

「ええっ気をつけてね」

「はい」

 ビビっている俺にシュエは続けて何十回も未達成を繰り返さない限り、真っ黒にはならないと補足してくれた。


「……とっ、まぁこんな所かしら」

「ふむふむ」

「理解出来た?」

「なんとか……」

「まぁわからない事があったら、その都度聞いていいわよ」

「はい」


「じゃ、さっそく依頼を受けてみる?」

 シュエは、掲示板のほうを指差しながら依頼を進めてきた。

 でも、取り敢えず俺は怒られる前にアルディスの所に行こうと思う。

「先に、アルディスさんの所に言って顔を出してからにします」

「あっそうね。うん、それがいいわ」

 シュエにそう言いながら俺はお礼を言い支部長室へと入って行く。


 そこには真っ白になったセルビアが、一生懸命書類書きをしていた。


 “なっ……何があったの……?”


 セルビアはアルディスよりも先に、俺の存在に気づいていた。

 でも、俺に話しかける事なくひたすら大量に積まれている書類の山を相手していた。

 アルディスは両腕を腰に当て、懇々とセルビアに何かを言っている……


 “見なかった事にして、帰ろうかな?”


 アルディスに見つからないように部屋から出て行こうとすると、セルビアが俺の方を指差してきたのだ……

 当然、見つかってしまった……

「おっルーク? 来たか?」

「………はい」


 “セルビアさんめぇ〜!!”


 と思いつつ、アルディスを怒らせないよう冷静に受け答えする。

「手続きは出来たのか?」

「カード、発行してもらいましたよ」

「そうか、ならばお前も今からアーツハンターだな」

「はい!」


「アーツハンターとして、俺はこれからお前に接するがいいか?」

「はい、よろしくお願いします。」

「うむ」


 “嫌っと言ったら、セルビアさんの二の舞になりそうだ”


「では、今からセルビアの事を支部長と呼び、俺の事を副支部長と呼ぶ事」

「えっえぇぇぇぇぇぇぇぇ?」

「えぇっじゃない、今からルークと俺たちは部下と上司!

 後、ランクの高い者に対してそれなりの礼儀と態度を示せ」

「……」

「返事はっ!?」

「……ふぁ……い」


「アルディスちゃん、(わたくし)は別に今まで通りでもいいのよ?」

「……手、止まっていますよ。支部長?」

「いっ……今すぐやるわ!!」

 一度は手を止め俺への援護射撃をしてくれたはずのセルビアだったはずが、アルディスの一言で慌てて止めていた手が高速に動き始めている。


 “アルディスさん、一体何を……”


「でっ? 説明は聞いてきたのか?」

「カードは無くしたらダメな事と、依頼の受け方を軽く……」

「ふむ、日常的な注意事項を聞いてきたか。では、緊急時の注意事項を説明してやる」


「そもそもアーツハンターと言うのは……」

 アルディスは、アーツハンターの歴史から始まった……

 それは、アルディスから貰った本の中の内容で何回も読んでいた事だらけであった。

 既に、俺の頭の中に入っている内容ばかりでる。

 あくびをすれば、即カードは叩き壊す!

 そんな殺気を感じながら、アルディスの講義は二時間続いていた。

 その間、俺は真面目に聞き、セルビアも死に物狂いで、書類書きに追われていた……



「……というわけだ」

「……」

「ルーク、理解できたか?」

「……」

「ふむ、では最初からもう一度言うな」

「うわぁぁっ! 待って下さい! わかりましたからっ!!」

 いつの間にか終わっていた。

 危ない危ない。


「そうか? 俺は何度でも構わないぞ?」

「いえ、本当に大丈夫ですから……」

「そうか。なら話を続けるぞ。」


「以上の事から、我々アーツハンターは緊急招集がかかった場合……

 いかなる理由を持ってしても、その要請に我々は従わなければならない」

「はい」

「本部の人たちは、偉そうに踏ん反り返っている人たちばかりなのよね〜」

「……書類は終わったのですか?」

「まっ……まだよ!?」

 再びセルビアは、書類書きをし始める。

 俺とアルディスの会話が気になって、書類書きに集中できないようだ。


「わかったか? ルーク?」

「はい」

「ならば、説明は以上だ。下がっていいぞ、ルーク」

「あの、アルディスさん……」

「……」

「……」


「副支部長……」

「なんだ?」


 “わかりやすっ!!”


「アーツハンターになった事、ギレット先生に知らせたいのですが……

 先生はまだ、パラケラルララレ学校ですか?」

「ギレット殿は……」

 アルディスは即答してくれなかった。


 “何かあったのだろうか? いやいや、ギレット先生に限って……”


「師匠は旅に出ましたわ。多分」

「多分……ですか??」

「えぇっ、(わたくし)たちに何も言わず、いつの間にかいなくなってしまわれましたわ。

 だから、今どこで何をやっているのか全く見当もつきませんわ」

「なるほど……」


 ピキッッピキッ!!

 空気が、凍った。

 一瞬……そんな気配がした。

 それと同時にアルディスは【竜巻のアーツ】を手に巻きつけるように発動している。

「アッアッアルディスちゃん……?

 落ち着きましょうね……?

 折角整理した書類が……全て風で飛んでいるわよ……?」

「!?」

 思わず俺は、後ずさりした……


「じゃ……失礼します!!」

「ちょっとルークちゃん!!」

 逃げ去るかのように支部長室から飛び出していた。


 “ごめんなさい!! セルビアさん!!”


 その後、支部長室から激しい怒鳴り声が聞こえて来た事は、言うまでもなかった……




 ◆◇◆◇◆



 家に戻った俺を執事は暖かく迎え入れてくれた。

「おかえりなさいませ、ルークおぼっちゃま」

「ただいまです! パトレルさん」

 執事のパトレルは、セルビア個人に使える使用人である。

 王宮にいた時からの付き合いだと知ったのは、帰りの馬車の中での事だった。


 幼いセルビアが飛び出した時、パトレルは責任を取らされ王宮から追い出されてしまう。

 パトレルは行く当てもないまま、ロールライトに流れ着き……

 仕事に明け暮れるも、長続きする事はなかった。

 そんな時、セルビアがロールライトに来て再開。

 再びパトレルはセルビアに使えているのだ。


 パトレルと話するようになったのは、俺がセルビアの息子になってからだった。

 それまでは、客人のような対応をされていた。

 でも、今は俺をセルビアの息子として見てくれている。

 当時は反対していたのかもしれないが、今は俺の事を大切に扱ってくれる。


 “感謝しないと……”


 パトレルは機嫌がいい時と、セルビアの幼い頃の出来事とか良く話してくれていた。

 機嫌が悪いと……

 口すら聞いてくれない。

 でも大半は俺のせいもあって、理由を言いながら謝ると顔をくしゃくしゃにしながら許してくれる。


「無事のご帰還のご様子で何よりでございます」

「なんとかなりました!」

 パトレルは、積極的に話しかけてくる方ではないが、俺の話を嫌な顔一つしないでいつも聞いてくれる。

「見てください! 俺、アーツハンターになる事が出来ましたよ!!」

「おぉ、それはおめでとうございます」


「ささっ外は寒いです。暖かい飲み物をお持ちいたしますよ」

「はい!」

 パトレルに促されるがまま、俺は家の中へと入って行くのである。




「それでは、セルビア様はまだお帰りにならないのですね?」

「はい、多分終わるまでアルディスさんが帰さないと思いますので……」

「かしこ参りました」

 パトレルが持ってきたコップを受け取り、一口飲んでみる。

 熱くもなく、温くない……

 飲みやすい温度だった。

 よくわかっているなっと感心してしまう程だ。


 ふと、思う事がある。

 パトレルは、いつかセルビアに王宮に戻って欲しいと思っているのかな?


 “流石にそれは、ないか……”


 王宮から追い出されたのだ。

 考えすぎだろ?

 聞いてしまったら、後戻りできない……そんな質問をするような気がしてきた。


 義理の息子とは言えセルビアの息子になった俺にも王位継承権があるとか?

 そんな事、一度も思った事はないし。

 興味もない。

 無用な誤解を招くぐらいなら最初から聞かない方がいい。

 今の生活を俺は壊したくないし。

 だから、聞く必要はない……そう思った。


「パトレルさん、そろそろ寝ます」

「かしこ参りました」

 俺が持ってきた、コップを受け取り頭を深々と下げてくる。

「おやすみなさいませ、ルークおぼっちゃま」

「おやすみなさい」



 パトレルと別れ、階段を登りドアを開ける。

 そして、ベッドに寝転がりながら手に入れたカードを手に取り眺めていた。


 “やっと俺もアーツハンターに……!!

 明日から沢山の依頼をこなして、ランクを上げるぞぉ〜”



 今思えば色んな事があった。

 俺には支えてくれる人が沢山居た。

 だから、ここまで来れたんだと思う。

 そして、これからもその人たちは俺の事を支え続けてくれるだろう……

 これから先、俺にも支えたいと思える人が出来たら……

 その時は……

 皆がしてくれたように俺も支えたい……

 そんな人間になりたいな。


 初めて手にしたカードを手に取りながら、そんな事を感じながら俺は眠りについた……




 ◆◇◆◇◆



 セルビアは今までとサボっていた書類の山の前に、逃亡したかった。

 逃亡して、めでたくアーツハンターになったルークにお祝いをしてあげたかった。

 しかし、目の前には過去最高点にまでに達している、怒りのアルディスがいる。

 彼は、セルビアが全て終わらせるまで決して目を離さないだろう。


 その甲斐もあって、書類は後三分の一程になってきた。

 セルビアがこの調子で続けて行けば、明日の朝には終わるペースであった。

 だが、もうセルビアにはやる気がなかった。

 集中力が切れたのだ。


「アッアルディスちゃん……?」

「……」

 アルディスは何も言わずセルビアを、見下ろしていた。

「今日は、そろそろ終了させませんか?」

「……」

(わたくし)の体力は、限界ですわ」

「……」

「お願い♪」

「ダメです!

 俺がいない間、怠けていた分のツケが回ってきたのだと思って下さい」

「どうしても?」

「えぇ……それに後三分の一程ですし、もう一踏ん張りして下さい」

「あっ明日にしましょ?」

「明日では、遅いです」


「三分の一の書類の期限は、明日の朝一にまでの物を集めてあります」

「!!」

「今、休むと間に合いません。手を動かし続けてください、支部長」

「うぅ……」


 諦めきれないセルビアは、その後もなにか理由をつけては逃亡を図ろうとしていた。

 だが、結局最後にはアルディスに見つかり、渋々支部長室に戻るのであった。


 アルディスは、一切手伝わない……

 手伝えば、半分の時間で終わっていた事だろう。

 だが、ここで手伝えば確かにルークのお祝いは出来るかもしれない。


 アルディスは今でも戦慄に覚えている。

 久しぶりの支部長室の中に入った時の書類の山……

 歩く空間もないまでに、溜まりに溜まっていた書類……

 あれは、恐怖としか言いようのない代物であった。


 それを、セルビアが帰還するまでにほぼ全てを終わらせた、アルディス。

 アルディスも睡眠時間は、ほぼないに等しかった。


 それが後、三分の一で終わるのだ。

 目を閉じれば一瞬で寝れる自信がアルディスにはあった。

 しかし、それをセルビアに悟られないよう、毅然とした態度をとっていた。


 最後ぐらい支部長としての仕事を果たして欲しい……

 それと同時に、もう二度とあの書類の山は見たくない……

 これに懲りて少しは自分が、いなくてもきちんと仕事をできて欲しい……


 そう思うアルディスであった。






次章より青年編スタートです。

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