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Arts hunter   作者: kiruhi
少年編 ー火の街ロールライトー
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第六十二話 ガーゼベルトへ

 朝霧もまだ晴れず……

 ゆっくりと太陽が登り初めていく。

 商店街では、従業員人たちが開店準備を始めている頃……


 俺はセルビアと共にロールライトを出発し、ガーゼベルトへと向かう馬車の荷台の中にいる。


 両手には手枷をされて………

 逃亡防止と、反逆防止らしい……


 ガーゼベルトに着くと、馬車はそのまま真っ直ぐアーツハンター協会へと向かい手枷をされたまま俺は連行される。

 そして、協会の中ですぐに幹部重役会議が開催される。俺が奴隷なの可、否か審議されるのだ。



 馬車が激しく揺れる中、セルビアは心配そうに俺に話しかけてきてくれた。

「ルークちゃん、顔色真っ青だけど大丈夫です?」

「……はい、大丈夫ですよ」

 と答えて見たものの、実は結構きつかった。




 ◆◇◆◇◆



 出発する前に遡る……


「ルークちゃん、そろそろ出発の時間なんですが、起き上がる事出来ますか?」

「……無理です…」


 昨日の夜俺はセルビアに二回、焼印を押してもらった。

 一回目は耐え切る事が出来たのだが、二回目は終わった直後に気を失っている。


 今まで俺の背中にあった、奴隷の烙印は綺麗になくなり丸い形をしその中に二つの勾玉がくっきりと刻まれていた。

 奴隷と言う証拠は消えてなくなったのだ。


 “無事成功して、良かった……”


 確かに成功はしたのはいいのだが、無理矢理二回も焼き付けたせいなのだろう。

 背中は現在、燃えるような激しい痛みを伴っており、数日間はとても立って歩ける状態ではなかったのである。



 セルビアは腕組みしながら、動けずにうつ伏せに寝転がっている俺の姿を見ていた。

「困りましたわね……怪しまれない為にも期日を伸ばさない方がいいのですが……」

「……」


 “起き上がりたくても、起き上がる事が……”


「仕方がありませんね……

 ルークちゃんには高熱が出て暫く動けないと言う事で、納得してもらいますわ」

「しかし、高熱ぐらいでは、彼らは引かないと思います」

 執事も俺の姿をみながら、セルビアと話をしている。

「そうですわよね……」


「いゃ、セルビアさん。俺、頑張りますよ」

「頑張ると言われましてもねぇ〜」


 セルビアはそう言いながら、俺の背中をチョンと人差し指で軽く触ってきた。

「!!!!」

 言葉にならない激痛が、全身を駆け抜けていった。

 ジタバタと、暴れる姿を見ながらセルビアと執事は話を進めていた。

「無理ね」

「はい、無理ですね」


 “くっくそ……何か手はないか……?”




「あっ!」

 思わず声を張り上げてしまった。


「セルビアさん俺の袋……取って下さい」

「これかしら?」

 セルビアから袋を受け取った俺は、うつ伏せのまま袋を漁る……


 “確かあったはず……”


「あった……」

「これは……?」

 俺は袋から、【鎮痛の札・再生】と【回復の札・再生】と書かれた札を取り出したのである。


「これは『水の街ヴァル』に行く途中にもらった物です」

「ふむ、セルビア様。確かにこの札を使えば、背中の痛み止めと回復には有効ですね」

「本当なのですか?」

「ですが、問題もあります。ルークおぼちゃまもご存じかと思いますが?」

「半日しかもたない……」

「その通りです」


「この二枚の札を使えば、確かにルークおぼちゃまの背中の痛みはなくなると思います。

 ですが、効果が切れた時……その激痛に耐えられますか?」

「怪しまれない為にも、耐え続けるしかないでしょ!?」


 俺の言葉に執事はニコリと紳士的な笑みを浮かべていた。


「じゃ、早速貼るわね」

「お待ちください。セルビア様……」

「何よ?」

「直接貼っては、背中を見せた時に札を貼っている事がばれてしまいます」

「そんなの問題あるの?」


 執事が心配している事は俺にもわかる。

 これを背中に直接貼ると痛みは確かに取れるが、見られた時に「なぜこんなものが!?」と絶対なる。


 そもそも、俺が奴隷なのかどうなのかでガーゼベルトに行くんだ。

 背中を見せろと言われる可能性は十分にありえる。

 だから、俺は考えた。


「セルビアさん、鎖帷子の背中部分は二重構造になっています。

 だから、鎖帷子の間にこの札を……」


 セルビアは、俺の言った通り札を鎖帷子の間に入れてくれた。


「こうかしら?」

「はい、ありがとうございます」


 札を貼ってもらった鎖帷子を着込むと、丁度背中の所に札が当たっていた。

 スゥーと痛みが引いて行く……

「ふぅ……」


「どんな感じかしら?」

「大丈夫です。立ち上がれます」

 そう言いながら俺はベットから起き上がるのである。

「痛くないのですか?」

「今は、札の効果が効いているのでなんとか……」

 それでも、まだ背中はチクチクとして、皮膚が突っ張っているようなそんな違和感があった。

 我慢は出来るが、痛い物は痛い。

 問題は、半日しか持たない事……

 激痛で気絶しない事を祈ろう。




「それでは、行ってまいりますわ。留守は頼みましたわ」

「はい、かしこまいりました」

 執事は深々とセルビアに頭を下げている。


 俺とセルビアの前には、幹部が派遣したと思われるアーツハンターたちが三人ほど目の前に立っていた。

 説明を受けているセルビアに対し、一人のアーツハンターが俺を睨みつけている。


「お前が【黒と白のアーツ】の持ち主か?」

 スキンヘッドで黒服を着た男は、そう言いながら俺を見下ろしている。

「はい、そうです」

「両手を前に出せ」

「?」

 言われた通りスキンヘッドの男の前に両手を出すと、カチャンと音と共に手枷をはめられた。

「!!!」


「なぜ?」

「フンッ、奴隷の疑惑がある者を、護送するのだ。当然だろ?」

「ぬっ!!」


 反論しようかな? とも思ったが、セルビアに迷惑かけるわけにもいかず、一先ず堪える事にした。

「後、おかしな真似をしたら直ちに処刑するから、そのつもりで……」

 釘を刺されてしまった。




 馬車は物凄く揺れながら進んでいた。

 その度に、背中に衝撃がかかり札の効果中だと言うのに再び痛み出してきた。


「ルークちゃん、顔色真っ青だけど大丈夫です?」

「……はい、大丈夫ですよ」

「こっほん……」

 俺を見張りしている男が、ギロリとセルビアを睨みつけてくる。

「奴隷の疑惑がある者に対して、話しかけるのはどうかと思いますよ。セルビア様」

「彼は奴隷ではないですわよ?」

「でも、疑惑はかかっていますよね?」

「それは誤解ですわ」


「うるさいぞっ!!」

 馬の手綱を握っている男から怒鳴り声聞こえてきた。

「貴様ら大人しく黙ってろ!!」

 そう言われてしまえば俺もセルビアも黙るしかなかった。




 アーツハンターたちは交互に手綱を取り、馬車は真夜中でも御構い無しに走り続ける。

 休みなしで走り続ける事で、ガーゼベルトには三日程で着く予定とスキンヘッドの男が話ししていた。

 馬が疲労で倒れないのか心配だった。

 だが、馬に回復を発動しながら行くとの事で心配無用と言われてしまった。



 真夜中……

 案の定、札の効果が切れ始める……

 激し痛みが俺を襲ってくる。


 “いっいてぇ……!!”


 手綱を持っていないアーツハンターの二人は、既に熟睡している。

 背中が燃えるように熱い……

 アーツハンターに悟られないよう手で口を押さえ、身体を丸めながら必死に痛みに耐えるのに精一杯だった。


 それでも次第にガタガタと俺の身体は震え始める。

「くっ……」


 “あっ熱い……”


 身体が火照ってきた……

 何か対処しないと……

 でも、動けば、アーツハンターたちに悟られてしまう……


 札の効果が再開するまでの間、耐え続けるしかない……


 “みっ水を飲みたいなぁ……”


 今思えば、脱水症状に陥っていたかもしれない。

 それでも、俺には何も出来ず……

 目を閉じながらひたすら痛みに、耐え続ける事しか出来なかった。




 ヒンヤリ………


 額がほんのりと冷たい……

 ぼォ〜としているとそんな感覚がしてきた。

「はぁはぁ……」

 セルビアが、こっそりと俺が持ってきた袋の中から冷気の札を取り出していた。

 そして、手綱を持つアーツハンターに対して死角を作りながら、自らの手を冷やしそれを俺の額に当ててくれたのだ。


 “セルビアさんの手……冷たくて気持ちいい……”


「……」

 セルビアは、ニコリと笑ったまま何も言わない。

 アーツハンターたちを起こさない為にも……


 眠りなさい……

 と口パクで話しかけてくるセルビアに、俺は素直に受け入れた。

 札の効果が再開するまでの間、セルビアは一睡もせずに熱が篭っている、俺の身体をひたすら冷やし続けていてくれた。


 そして、日中もセルビアは眠らなかった。


 何度も寝るように話したのだが、自分が寝ている間に俺の身に何かあったら困る……

 そう言ってセルビアは、寝なかった。



 二日目の真夜中……

 回復の札のおかげで、効果が切れてもさほど痛みは無くなってきた。

 ただ、焼かれた部分の皮膚が痒かったけど……

 流石にそれは、我慢すればいい事なのでセルビアに話さず、大丈夫な事を伝え今夜はセルビアに寝てもらう事にした。

 寝不足のセルビアの意志はそれでも起きていると話していたが、身体は正直だった。

 セルビアは俺を見守り続けながら、壁を背にしていつの間にか静かに寝息をたてながら爆睡している。

 毛布を掛けてながら、俺の心は感謝でいっぱいだった。



「やっと支部長殿は寝たか……」

 スキンヘッドの男たちは、どうやら寝たふりをしていたようだ。


 剣を俺に向けながら不敵な笑みを浮かべている。

「お前さん、ここで死んでくれるか?」

「……嫌です!」

「大丈夫、一瞬で済むから……」

「セルビアさんが悲しむ事、俺はしたくありません」

「お前さんが、逃亡したから仕方がなく、処刑したと言えば支部長殿も納得するだろ?」

「セルビアさんにそれは嘘だとすぐに見抜かれますよ」

「なぁにぃ?」

「そしたら、あなたたちはこの世にいるのに、あの世の地獄を味わう事になると思います」

「……」

「だから、俺を殺すのはやめた方がいいと思いますよ」

「ハッタリ言ってんじゃねぇ!」

 スキンヘッドの男は、俺の襟首を掴みながら剣で刺し殺そうとしている。


「やめとけ……」

 側にいたアーツハンターが、スキンヘッドの男を制止し始めた。

「なんで、止めるんだ?」

「そいつの言っている事は本当だろう」

「はぁ?」

「支部長殿……熟睡しているはずなのによ……アーツが発動しているんだよな……」

 男の言う通りセルビアの右手にある【焰のアーツ】が光り輝き始めているのである。

「……」

「ちっ!!」

 スキンヘッドの男は渋々剣を鞘に納めたのである。


「なぜ、俺を殺そうと?」

 ギロリと思いっきり睨みつけられたが、その眼光は対して怖くはなかった。

 色々な怖い目に合ってきたから免疫が出来たようだ。


「ガーゼベルトに着くと、支部長殿が殺されるだろ?」

「えっ?」

「俺たちは、支部長殿を救いたかっただけだ」

「……何それ……?」

「お前の背中には奴隷に烙印があるんだろ?」

「いぇ……ないですよ」


 “今はね……”


「はんっ! そんなの信じられないな……」


 要するにこの人たちは、俺を殺してでもセルビアを守りたいのだな……


「大丈夫です。俺は奴隷ではありませんので、セルビアさんが殺される事はありません」

「……」


「もし、それが嘘で支部長殿が殺されそうになった場合……俺たちは、支部長殿が殺される前にお前を殺す……いいな?」

「えぇ、いいですよ。それで……」


 セルビアが寝ている間に、そんな約束が交わされていた。



 三日目……

 予定通り馬車は、ガーゼベルトに到着したのであった。




 ◆◇◆◇◆



 一方、ロールライトに残っていたアルディスはブチ切れていた。


 まず、セルビアが必要最低限の書類整理の仕事しかしていなかった事。

 空席の副支部長を臨時でもいいから、任命しなかった事。


 これにより、帰還したアルディスの仕事は山済みになっていた。


 思わずアルディスは叫びあげていた。

「支部長ぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 と……



 ブチ切れていたアルディスの叫び声は、支部長室からギルド内全てに響き渡っていた。

 ランクの低い者などはその場で腰を抜かしていた。


「ったく……仕事しないで、何サボっていたんだ? やはり、俺が気を引き締めないとダメなのか?」

 等とアルディスは独り言のようにブツブツと呟いていた。



「あっあの……」

「ああっん!!?」

 アルディスが今、不機嫌だとわかっているのにも関わらず、一人の女性が支部長室の中に入ってきたのである。


 女性はプルプルと震えながらアルディスに一通の書類を差し出してきたのだ。

 書類の山済みに、腹を立てているのに更なる書類の追加……

 アルディスは、女性を見ながら喧嘩売っているのかな? とそう思ってしまっていた。

 しかし、紳士アルディスはそんな事は言わない……

 ニコリと女性に微笑みながら、書類を受け取る。

 これが、男性だったらどうなっていた事やら……


「ありがとう。でも一つ質問してもいいかな?」

「はっはい!」

「君が持ってきた書類は、この山済みの書類の中でも最も重要な書類と判断していいのかな?」

 ニコリと笑ってはいたが、アルディスは嫌味ったらしく女性にそう言うのである。

「わっ私は……ただ、書類を渡せと言われただけなのです……」

 静かな怒りに女性は、震え上がっていた。

「へぇ、誰に?」


「先日捕らえたアーツバスターの事と言っていました」

「なるほど……」

 女性は頭を下げ、逃げ去るようにして支部長室から走り去って行ったのである。

 結局、最後までアルディスにびびっていた。


「ふむ、どれどれ」

 アルディスは書類を読み上げる……


『経過報告……

 先日捕らえたアーツバスターですが、今だに何も話さず……』


「……」


 アルディスは何も言わず、その書類をくしゃくしゃに握り潰しゴミ箱に投げ捨てていた。


「ったく!! どいつもこいつも!!」


 書類整理が終わったのは、それから三日後の事だった……






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