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Arts hunter   作者: kiruhi
少年編 ー火の街ロールライトー
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第六十話 セルビアとの再会

 再開を果たしたセルビアは何も言わなかった。

 驚いて立ちつくしていた。

 でも、俺にはすぐわかった。


「セッセルビアさん……? まずは落ち着いて話をしませんか……?」


 俺の話しなど聞かずに、セルビアの黄色のクリクリッのくせ毛は、真っ赤なクリクリの髪の毛に変わっていく……


 “やばい! 暴走だ!!”


「よしっ! ルーク、俺はアーツハンターギルドに戻る。後は任せた」

「えっぇぇぇぇぇ!! アルディスさん???」

「魔法の言葉とやらが何なのか俺は知らないが、燃えカスにされないよう早目に言う事だな」


 “簡単に言えるなら、苦労しませんよ!!”


「後、一つだけ言っとく……この家、監視されているぞ」

「えっ?」

 そう言いアルディスは、逃げ去るかのように馬車に乗り込みアーツハンターギルドへと向かって行くのであった。


 “監視されているってどういう事?”




 セルビアは俺を睨みつける……

 監視されているとアルディスは忠告をしてくれたが、今はそれどころではない。

 なんとかして、セルビアの暴走を停めなければ……

 俺は間違いなく殺されてしまう。



「焰大火球!」

「!」


 “いきなり大技!?”


 焔大火球が俺に当たる前に【黒のアーツ】を発動し、焰大火球を消し去る。

 しかし、セルビアは攻撃の手を緩める事はなかった。

 無数の焰の球が次々と、俺に襲いかかってくる。

 それを全て避ける。

 避けていたつもりだったのが、いつの間にか前回と同様に周りは焰の海と化していた。

 しかし、俺には対して苦ではなかった。


 焰の海を【黒のアーツ】で全て消し去って行く。


 “なんとかして、暴走モード解除しないと……”


「セルビアさん、落ち着いて……下さい」

 声が届いていないとわかっていても、気がつけばセルビアに向かって俺は叫んでいた。


「【焰のアーツ】……奥義……」


 “くそっ……ダメか……

 マーシャルさんの言っていた言葉……

 言わないとダメなのだろうか?

 でも、言うのもの凄く恥ずかしいし……”


 等と考えていると、セルビアの手にはいつの間にか、直径六十cmぐらいの焰の球が出来上がっていた。

 焰の球は高速回転しながら小さく小さくなっていし、最後には無くなってしまった。


「?」


 “失敗したのかな……?”


 チリチリ……

 焼ける音と共に背中が熱く燃え始めた。


「あっちぃ!!」

 後ろを振り向くが、焔の火はどこにもない。


 今度は右腕が突然、焔に包まれて行く……

 見えない焰の攻撃が俺に襲いかかってくる。


 見えなければ、【黒のアーツ】で消し去る事も出来ない。


 たちまち俺の体力は消耗して行く。

「はぁはぁ……」

 堪らず片膝を着く……

 俺の目の前には、大気がぶれる程の高温の熱気が感じられた。


 “大きいのが、俺の狙っているのだろうか?”


「セルビアさん! ごめんなさい! はぁはぁ……俺が悪かったです!!」

「……」


 “ダメだ! 聞いちゃくれない!”


 今度は急激に息が出来なくなってきた。

「くっはぁっ!」


 “大きいのがくる……”


 セルビアは地面に両手をつきながら、

「【焰のアーツ】奥義……大爆発!」

 焔の炎が轟音を立てながら、俺の足元から沸き上がってくる。

 一瞬にして、俺を逃がさないように渦を巻きながら、ドーム型の形をし焰が俺を取り囲って行く。

 焰の渦は、じりじりと縮まりながら俺を焼き尽くそうと迫ってくる。


 “残りの体力から考えると、大きなドームを一気に消し去る力は俺には残ってはいない……

 熱いが小さくなるまで耐えて【黒のアーツ】で消し去ろう”


 セルビアは外で焰のドームを見ながら呟いていた。

「さよなら……ルークちゃん」




 焰のドームは渦を巻きながら小さく小さくなってきた。

 そろそろ頃合いだろ。


 俺は【黒のアーツ】を発動する……

 だが、何故か発動はしなかった。

「あれ……?」


 息苦しさと頭痛、めまいが俺を襲ってきた。

「はぁはぁ……なっ何これ……?」


 堪らずその場にしゃがみこんでしまう。

 いや、うつ伏せに倒れこんでいた……

 渦は俺を焼き殺そうと目前にまで迫ってきていた。


 “やっやばいかも……”


 と考えていても身体は指一本、俺の思い通りには動いてくれなかった。

 次第に意識は朦朧とし始める……

 マーシャルのニコリとした顔だけが、思い浮かび上がる。


「……お…母」



「…さん……」


 息を吸う事を忘れたかのように、力が次第になくなって行く。

 そして、俺は静かに瞼を閉じた……




 ---------------------------



 “アルディスちゃんが帰ってきたと思ったら……ルークちゃんが(わたくし)の目の前にいるわ……

 何年ぶりの再会かしら……

 でも何かしら、この気持ち……

 ルークちゃんを、今すぐめちゃくちゃにしてしまいたいわ……”


 今、思えばそれはルークに対するセルビアの怒りだったかもしれない……

 手紙一つ横さず、ヒョコと帰ってきたかと思えば、『お久しぶりです』もっと他の言葉があったのでは?

 そう思うと、セルビアの身体の奥から今まで我慢していた物全てが弾け飛んでいた。


 黄色の髪の毛は、真っ赤に変わっていく。

 身体の周りに、焰をまといつつゆっくりと片手をルークへと向けていく。

 そして……

「焰大火球!」


 その言葉に【焰のアーツ】は従いルーク目掛けて、猛スピードで向かっていく。

 だが、焰大火球はルークに当たらなかった。

 当たるどころか、目の前で影も形もなく消え去ってしまったのだ。


 “なかなかやりますわ……次はこれね……”


 無数の焰の球が次々、ルークに向け発射して行く。

 焰連弾……である。

 しかし、それもルークは全てよけていた。


 ルークに当たらなくとも、発射された焰はその場で燃え広がる。

 そして、前回と同様にルークの周りを焰の海と化す。


 “息もできず苦しいわよね……でも何故かしら。

 (わたくし)は発動を停止しようとは考えてはいないわ”



 焰の海の中心地点から黒の波動がおおいつくし始めていく……

 そして綺麗に消し去ったのであった。

「セルビアさん、落ち着いて……下さい」

 ルークの声が聞こえてくる。


 “これはどうかしら……?”


「【焰のアーツ】……奥義……」

【焰のアーツ】から直径六十cmぐらいの焰の球が出来上がる。

 そして、高速回転しながら小さく小さくなり、最後には無くなっていく。

 見えない焰の攻撃がルークを次々へと焼いて行く。


「はぁはぁ……」


 片膝を尽きながら苦しんでいるルークの姿を、見ていてもセルビアは冷静だった。


 “大分弱ってきたわね……”


「セルビアさん! ごめんなさい! 俺が悪かったです!!」

「……」


 “ごめんなさい?

 (わたくし)が聞きたいのはそんな言葉ではなくてよ……”


 見えない焰をルークの周りのだけ発火させ、酸素を急速に失わらせて行く。

「くっはぁっ!」

 苦しそうもがき苦しむ姿を見ながら、セルビアはトドメを刺そうとしていた。


「【焰のアーツ】奥義……大爆発!」

 セルビアの声に、見えない焔の炎はルークを四方に囲み出す。

 そして、一気に足元から沸き上がっていく。

 一瞬にして、逃がさないように渦を巻きながら、ドーム型の形をした焰がルークを取り囲う。

 焰の渦は、じりじりと縮まりながらルークを焼き尽くそうと迫って行く。


「さよなら……ルークちゃん」

 焰のドームを見ながらセルビアはそう呟いていた。

 渦を巻きながら焰は次第に小さく小さくなっていく。


 “中は酸欠状態……そろそろ意識は混濁し【黒のアーツ】で消し去る事は不可能よ”



 焰のドームの中から消え入りそうな小さい声が聞こえてきた……

「……お…母」



「…さん……」


 微かにそう聞こえてきた……

「!!」

 その言葉にセルビアの髪の毛は見る見るうちに元に戻って行く。


 “ルークちゃん……??”


 そして、焰のドームも慌てて発動停止する。


 “ルークちゃん! 聞き間違いかもしれないから今の言葉、もう一度言って!!”


 セルビアはルークに駆け寄るのであった。



 ◆◇◆◇◆



「ゲホッゲホッ」

 突然、息を吸えるようになった。

「はぁはぁ……」


 “いっ今、俺……なんて言った?”


 はっきり言って覚えていないぞ。


 焰のドーム型は綺麗に消え去っている。

 螺旋状の焦げ跡を残して……


 俺はまだ動けず、うつ伏せに倒れたままだ。

 まだ、頭がボォ〜として、状況判断が出来ない……


 俺の目線にはセルビアの足元だけが見え、ゆっくりと俺に近づいてきている。


 “近距離で焰大火球は流石に無理だな……”


「ルークちゃん……?」

「はぁはぁ……」

「今、なんて言いました?」

「?」

 セルビアは、ゆっくりと俺を起こしあげていく……

 先程まで、真っ赤なクリクリの髪の毛で暴走モードだったセルビアの髪の毛は、黄色のクリクリッのくせ毛に変わっていた。

 どうやら暴走モードは解除されたらしい……


「もう一度言って頂けます?」


 “なにを……?”


「先ほど言いましたよね?」

「??」

 セルビアは何故か涙目になっていた。

 泣かせるような事しただろうか?

 というか今、この状況で泣きたいのは俺の方だ……


 “マジで死ぬかと思った”


「お母さん……と」

「!!!」


 セルビアが何故泣いていたのか。わかった……

 嬉し泣きだ……


 以前俺はセルビアに『いつかお母さんと呼んでね♪』と言われた事がある。

 恥ずかしくて今まで言えず、忘れていたのだが、セルビアの嬉し泣きを見て思い出す事が出来た。


 セルビアの顔は嬉しさと、喜びと……期待に満ちあふれていた。


 マーシャルが教えてくれた魔法の言葉は、確かに間違ってはいなかった。

 暴走中のセルビアをたった一言で正気に戻してくれたのだから……

 意識が朦朧だったから言えた言葉だと思うし……

 今更、面と向かってなんて言えないよ!


「ルークちゃん、お願い」

「うっうっ……」


 “いやです!!”


 と声を張り上げて拒絶したかった。

 でも言わなかったら、また暴走して……

 今度こそ殺される……

 そんな予感がした。


「おっおっおっ……」


 “ううっ……”


 ごっくん!

 と唾を飲み込む、そして目を思いっきりつぶる。


「……ただいま……お母さん」


 耳まで赤くしながら俺は、それでも聞こえるか聞こえないかわからないぐらいの小さな声で言った……

 その言葉を聞いたセルビアは、俺を力強く抱きしめてきた。

「おかえりなさい、ルークちゃん」


 俺の声は、セルビアに聞こえていたらしい……

 穴があったら入りたい………




 感動の再会を果たしている中、空気を読めない無粋な人影を捉えてしまった……

「何ようですか? 今、久しぶりに息子(・・)と再会を果たしているのですが?」

「セルビア様、その少年は【黒と白のアーツ】の持ち主ですよね?」

「えぇ、そうですわ」

「ならば、約束の日が来たかと思います」


 “約束の日……?”


「わかっていますわ。ガーゼベルトには、明日の朝向かいますわ。問題ありまして?」

「あります。帰還したらすぐに向かうようにと、命令を受けています」

「……この一晩が、(わたくし)にとって息子との今生の別れになるのかもしれないのですよ?

 多目に見てくれないかしら?」


 セルビアの目はウルウルとなり、真剣にお願いしていた。

 こんなセルビアを見る事など滅多にないのだろう。

 監視していた男の腰が引けている……

「うっ……私は……今日は【黒と白のアーツ】の少年を見ておりません」

 監視していた男はそう言い、その場から離れ再び監視し始めたのである。

「ありがとうございます」


 セルビアはそう呟き、俺の顔マジマジて見ている。

「熱かったでしょ?」


 “えぇ、物凄く……”


「ごめんなさいね。(わたくし)、ルークちゃんの顔を見た途端……

 プツンと何かが弾け飛んじゃったの」

「……」

「あの一言がなければ、(わたくし)はルークちゃんを焼き殺している所だったわ」


 “うん、本当に死ぬかと思いました!」


「ねぇ、もう一度言って♪」

「……」

「お母さんって……」

「もっもう……無理です!!」

 セルビアのお願いを俺は叶えてあげたかった。

 でも、それだけは言いたくなかった。

「お・願・い♪」

 セルビアは俺を押し倒しながらそう言っている。

 ある意味これは脅迫なのでは??


 コホンッ……

「!!!」


 執事が後ろに立っていた。

「セルビア様、そろそろお許しなられたらどうですか?」

「あら、まだダメよ。これからもっとお仕置きしようと思っていたのに……」

「その体制でお仕置きと言われましても……ね」


「誰かに見られましたら、無用な誤解を生みますよ」

「あら、(わたくし)は構わなくてよ?」

「セルビア様が構わなくても、ルークおぼちゃまが困ります」

 確かにそうだ。

 俺の着ていた服は殆どセルビアに燃やされ、辛うじて鎖帷子とズボンが生き残っているぐらいである。

 こんな所をアルディスに見られたら、今度はアルディスに俺は殺されそうだ……


「……はいはい。わかりましたわ、諦めますわ」

 渋々セルビアは立ち上がり、俺を起こしあげてくれた。


「ささっセルビア様、そしてルークおぼちゃま中へ……これ以上ここにいると風邪を引きますよ」

 執事に言われるがまま、俺とセルビアは家の中へと向かって行く……



「あっ……あの、今生の別れって……どういう事ですか? セルビアさん……?」

「詳しい話は、家の中でしましょう」

 セルビアはニコッと笑い俺を家の中へと招き入れてくれた。

 俺は、懐かしい我が家へと足を踏み入れるのであった。






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