第五十七話 最強剣士
“ロールライトに帰ろう……”
そう決めてから一週間程経った。
帰る前にどうしても、俺はディアルスに聞きたい事があった。
しかし、ディアルスは俺を避け続けていた。
会いに行っても、忙しいと言って俺に会ってはくれなかった。
今日も会いに行ったのだが、案の定マーシャルが出てきて……
「ごめんね、ルーク坊ゃ。ディアルスは今日も仕事が山積みなの……」
との事だった。
「はぁ〜〜」
深いため息を尽きながら俺は、眠らされていた部屋に戻り椅子に座りながら外を眺めていた。
「なに、深いため息ついているんだ? ルーク?」
「シュトラーフェさん……」
シュトラーフェは右足を引きずりながら歩いてくる。
「どうしたんだ?」
「いゃ……ディアルスさんが俺を避けているんですよね」
「ふむ……」
「まぁ、あいつも忙しいんだろ」
シュトラーフェもそんな回答しかしてくれなかった。
相変わらずシュトラーフェは、ドランゴに殺られた右足を引きずりながら歩いている。
“竜の逆鱗、二連打は物凄い衝撃波だったんだな……”
「シュトラーフェさんの右足……治らないのですか?」
「んっ? あぁ……」
シュトラーフェはベットに腰掛けながら、動かない右足を撫でていた。
「他の傷はほぼ完治している。だが、右足だけは……」
「【回復のアーツ】や、マーシャルの【月光のアーツ】を使って回復を試みたんだが、やはりダメだったな」
「そうなんですか……」
「まぁ、動かないとなれば……
最強剣士の名を下ろして、後任を決めて私は引退だな」
「……」
あっさりとシュトラーフェはそう言いっていたが、右足を撫でている手は小さく震えていた。
“俺に出来る事……ないかな……?”
シュトラーフェ率いる『ウイッシュ』の人たちが増援に来てくれなかったら、『風の街サイクロン』を取り戻す事は出来なかった。
と俺はマーシャルから聞いている。
取り戻す事が出来なかったら、俺はこの場にはいなくドランゴの元にいたはずだ。
魅惑の蠱毒にかかっている俺の姿は見るに耐えられなかったらしい。
記憶にはないけど……
でも、シュトラーフェのお陰で俺は今こうしてここにいる……
だから、何かしたかった。
「あの……」
「んっ?」
「だめ元なんですけど、俺もやってみていいですか?」
「何をだ?」
「【白のアーツ】を……」
「あぁ……【白のアーツ】か……」
それでダメだったら、いよいよ諦めるしかないと言う事になるか……
フフフッ、私も覚悟を決めるか。
と、シュトラーフェは下を向きながらブツブツと小声で言っている。
悩んでいるようだ……
確かに俺の【白のアーツ】でダメだったら、ペリアの【天使のアーツ】でも流石に無理な可能性も高い。
シュトラーフェは顔を上げ、俺の方を見てきた。
「よし……私の覚悟は決まった。
ルーク、済まないが【白のアーツ】……発動してくれ」
「はい」
俺はシュトラーフェにベットに仰向けになってもらうように話し、動かない右足のズボンをめくり上げて行く。
緊張しているのか、心臓の鼓動が激しい……
フゥ……と深い息を吐き呼吸を整え、シュトラーフェに話しかける。
「行きます……」
「おうっ!」
シュトラーフェは慌てたり取り乱したりする事なく、俺に身を委ねてくれた。
そして、俺も【白のアーツ】を発動して行く。
「【白のアーツ】……シュトラーフェさんの右足を治したい、力を貸してくれ」
右手にある【白のアーツ】は光り輝き俺の声に反応してくれた。
再び歩けるように……
と念じていると、白の波動の感覚は右足に流れる血の一部となりゆっくりと巡っていく……
そんな、不思議な感覚がして行く中……
シュトラーフェの触れている右足から、徐々に失わられていた脈動を感じる事が出来た。
「……アルベルト……?」
「えっ?」
その言葉に俺の集中力は途切れてしまった。
“いかんっ! 集中、集中!!’
白の発動が途中で途切れそうになってしまった……
再び集中力を取り戻し、大丈夫。シュトラーフェは歩けるようになっている……
白の波動を感じながら俺はそう思った。
「シュトラーフェさん……多分大丈夫だと思うんですけど、どうでしょうか?」
俺は【白のアーツ】の発動を停止しながら、シュトラーフェに聞いて見た。
「あぁ……今までなかったはずの、右足の感覚が戻ってきた……」
「どれ、立ってみるか」
「はい」
と言い、触れていたシュトラーフェの右足から手を離そうとした時だった……
「シュトラーフェ様! ご気分はどうで………すかぁぁぁぁ!?」
ノックもしないで、そう言いながら入ってきたのはリーサだ……
俺もリーサも見る見るうちに顔が青ざめて行く……
「ちょっとあんた! 何やっているのよ!!」
「リッリーサ!?」
リーサは問答無用で腰にかけてある剣を抜き、俺に襲いかかってくる。
「シュトラーフェ様から、離れなさい!!」
「うわっ!!」
リーサの剣速は、あの時の別れた時からまったく異なっていた。
速くて鋭かった……
咄嗟に避けたのだが、剣先は微かにかすり俺の服だけ斬られていた。
真っ二つに斬られた服だけが、静かに床に落ちる。
“鎖帷子、着てて良かった!!”
『土の街グランディ』で修理してもらった鎖帷子は傷一つついていなかった。
「リーサ! ちょっと待って!」
制止する俺に、リーサは容赦なかった。
「落ち着い……うわっ!?」
「問答無用!!」
リーサは狭い空間の中にも関わらず、俺に剣を向け斬り掛かってくる。
剣速の他にも、剣筋も昔と異なっていた。
昔あった攻撃する前に、剣を左右に動かす癖がなくなっていた。
更に鋭さと勢いに磨きがかかっているのだ。
最初の一刀は、突然の事で対応できなかった。
だが、リーサの剣の動きを俺は捉えていた。
リーサの剣を辛うじて避けている間、シュトラーフェはニヤニヤ笑いながら見ている。
「ちょっと、シュトラーフェさん! 見ていないで止めて下さいよ!」
シュトラーフェは返事してくれなかった。
“くそっ! 知らんぷりかよ!”
「余裕こいているんじゃないわよ!」
「!!」
リーサの怒りに触れてしまったようだ……
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
リーサは気合を溜めだした。
見る見る内にリーサの身体の周りを気合が取り巻いて行く。
「リッ……リーサ。そんなの放ったら、部屋壊れちゃうよ……?」
もはや、俺の声などリーサには届いていなかった。
「はぁっ!!」
リーサの剣から気合が放たれてくる。
「くそっ!!」
気合が俺に当たる前に【黒のアーツ】を発動し気合いを消し去る。
「はぁ??? なっ何それ……?」
「ほぉ……」
驚くリーサに、関心を示すシュトラーフェ。
怒りが納まらないリーサは一瞬呆気に取られた。
だが、すぐさま床に転がっていた椅子を拾い、俺に投げつけてきた。
飛んできた椅子を余裕で避けようと思った。
でも、部屋が狭くて逃げ道が右方向にしか残されていなかった。
逃げ道を一つしか残さずにリーサが、俺目掛けて椅子を投げてきたのはすぐに分かった。
“椅子を受け止めている間にリーサが、詰め寄って来て俺は斬られる”
予測は出来た。
だから、敢えて逃げないで椅子を受け止める事にした。
椅子は俺にぶつかり床に落ちていく。
すかさずリーサは先程放った気合を、再度俺の足元めがけて放ってきた。
身体の中心だったら再び【黒のアーツ】で消し去っていたのだが、足元は流石にキツイ。
飛び上がる事で回避し一安心すると、頭部が痛みと揺れる衝撃が伝わってきた。
“いってぇ〜”
頭を抱えながら天井低すぎ!! と思っていると、プッと笑うシュトラーフェの声が聞こえてきた。
リーサが隙を逃すはずはなかった……
身体を小さく丸め回転しながら天井スレスレをリーサは飛んできた。
「!!」
“リーサ! 器用過ぎるって!!”
俺はそれも避けようとした。
だが、一瞬……
別な殺気が俺に向けられていた。
ドランゴが放つ殺気にも似ており、身体が硬直してしまう……
「だぁっ!」
「くっ!!」
回転の勢いと共にリーサは、俺に斬り掛かってくる。
ここから出来る事は【黒のアーツ】を発動するしか残されていなかった。
【黒のアーツ】を発動すれば、確かに剣を受け止める事は可能だ。
だが、もし剣だけでなくリーサも消し去ってしまったら……?
そう考えると【黒のアーツ】を俺は発動する事は出来なかった。
“一か八かやってみるか……”
回転しながらリーサの剣は、俺に衝突してきた。
それと同時に剣がぶつかり合う音が響き渡る……
咄嗟に【白のアーツ】を発動し、白の剣を作り出してみた。
【黒のアーツ】で出来たんだ……
【白のアーツ】でも同じ事が出来るはず……?
“上手く行って良かった……”
「何そのアーツ!?」
リーサの攻撃を再三受け止めてきたのだが、まだ諦めてはいなかった。
眼にはまだ殺気が残っている……
「はい、そこまで!」
シュトラーフェが両手を叩き合図を送ってくる。
その音にリーサも我に変える。
「!?」
シュトラーフェはゆっくりと歩いてくる。
散らばった椅子を直しながら……
「ふむ、リーサは、まだ気合の使い方が下手だな。もっと精進を積めばいい剣士になる」
「シュトラーフェ様……?」
俺には、リーサがシュトラーフェに戦いを止められた事より、別な事に驚いているように見えた。
「んっ?」
「歩けるようになったのですか?」
「あっ!」
確かにリーサの言う通りだった。
先程までは右足を引きずっていたはずのシュトラーフェは、両足を大地に降ろし右足を引きずる事なく歩いていた。
「おっ確かに歩けるようになったな。ふむ、ルークのお陰だな」
「ルークの……? ですか?」
「あぁ、実はな……」
シュトラーフェは、俺が右足を治す為に【白のアーツ】を発動してくれた事を話してくれた。
その時にちょうどリーサが来た事も付け加えて……
「そうだったのですね……ルークごめんね」
「いっいや……いいよ」
「でもね! あんたも悪いのよ! シュトラーフェ様の身体に触れるなんて大それた事なのよ!!」
「はっはい……ごめんなさい……」
リーサの勢いに思わず誤ってしまう……
「プッハハハハハッ!!」
とシュトラーフェの笑い声が少しムカついてしまった。
「こうしちゃいられないわ! みんなに知らせなくちゃ!」
リーサは他の門弟たちにシュトラーフェが歩けるようになった事を伝えるべく、慌てて部屋を飛び出して行った。
「ルーク、後はよろしくね!」
「えっ??」
その意味はすぐに分かった。
部屋を滅茶苦茶に散らかっていたのだ……
「…………」
俺は渋々片付けをやり始めた。
“なんで俺が……散らかしたのは、殆どリーサなのに……”
ブツブツと文句を言いながら片付けいると、椅子に座り片付けを手伝わないシュトラーフェは、黙ったまま俺を見ていた。
「所で、リーサは強かったか?」
「えぇ、昔とは比べ物にならないぐらいに……」
“元々強かったのに、どうやったらあんな無茶な戦い方が出来るんだ”
「フッ…師匠が優秀だからな」
「!」
“よっ読まれている……?”
「リーサの師匠ってひょっとしてシュトラーフェさんですか?」
「あぁ、そうだ。リーサは筋が言いし物覚えもいい」
「へぇ〜」
「あぁ、そうだ。最後の方、別の殺気を感じたのですが。
あの時はわからなかったけど、あの殺気はシュトラーフェですよね?」
「フッ……」
“フッ……って……”
「もぉ、勘弁してくださいよ〜 リーサが怒ったら怖いの昔っから変わらないんですから……」
「私は、昔のリーサは知らないからな。昔と比べてどう変化してた?」
「前は剣筋の癖と言うか迷いみたいな物があったのですが、それがなくなっていました」
「ほぉ……」
“よく見ているな……”
一通り片付けが終わり、疲れ果てた俺は椅子に座り一息ついていた。
「ご苦労さん」
そう言って冷たいお茶をシュトラーフェは俺に手渡ししてくれた。
「ありがとうございます」
「うむ」
冷たくて美味しいお茶を飲み俺は気分を変える事にした。
「あの、シュトラーフェさん……」
「なんだ?」
「さっき……アルベルトと言いましたよね?」
「……あぁ、確かに言った」
「アルベルトという名は俺の父さんなんですけど、父さんと知り合いなんですか?」
「ほぉ……父か。あいつが?」
「確かに私は【白のアーツ】を発動中のお前を、幼いアルベルトとダブって見えた」
「俺の父さんって一体何者なんですか?」
「なんだ? セルビアやマーシャルから、何も聞かされてはおらんのか?」
「はい……その機会がなくて……」
「ふむ……」
「そうだな……お前の父は私より強かった……」
「強かった……?」
「私があいつの事を過去形で話す事になるとはな……」
シュトラーフェは少しだけ父さんの事、アルベルト・ゼナガイアについて教えてくれた。
シュトラーフェは三歳の頃、剣の聖地『ウイッシュ』に行ったらしい。
その時、父さんは八歳で三歳の時から剣を握り厳しい修業をしていた。
出会った時から父さんは、既に天才二刀流剣士として名を轟かせていたそうだ。
二刀流と言えばアルベルト、大剣使いはシュトラーフェ。
創設者ウイッシュを越える者が、二人同時に誕生した事は奇跡とまで言われていた。
「アルベルトは、私に優しかった」
しかし、最強の名を手にした父さんは、ある日突然剣の聖地『ウイッシュ』から出て行きアーツハンターになると言い出したらしい。
なんでも一目惚れした彼女が、アーツハンターのSランクの人じゃないといやっ!
と言ったらしい……
まぁ、俺の母さんなんだけど……
一目惚れした父さんはあっさりと最強剣士の称号を捨て、周囲の反対を押し切り破門同然の上で、最低ランクのアーツハンターとして再出発をしたのだった。
「惚れた女の為に、そこまでするか? 馬鹿だろ……?」
「……」
「アルベルトと再開を果たしたのは、【アーツ第一次大戦】の時だったな」
“たまに話に出るな……【アーツ第一次大戦】
セルビアさんや、マーシャルさん、そしてアードさんが出会った原点……
そこに父さんとシュトラーフェさんも加わるのか……”
シュトラーフェと再開した時、父さんは【剣のアーツ】使いだった。
元最強剣士にはぴったりのアーツで、瞬く間にSランクアーツハンターとなり母さんと結婚していたそうだ。
俺はまだ産まれていなかったらしい……
「アルベルトは戦争終結後、一目惚れした彼女と旅をすると言って旅立ったな……」
“その後、俺が生まれたと……”
「暫くしてから、噂が流れてきた……
アルベルトがアーツハンターを辞めた。と……」
「その時思ったね、剣を握っていればいつか会えると思っていた気持ちに、諦めがついたのは」
「シュトラーフェさん……ひょっとして……」
“父さんの事……”
シュトラーフェの顔はその先は言うな……
と言っているようなそんな気がしてきた。
“しっかし、父さんが最強剣士? 信じられないや……”
「でも父さんを殺したのは、ドランゴですよ? ドランゴは父さん以上に強いって事ですか?」
「普通に考えたらそうなるだろうな……」
「うへぇ……」
“どんどん勝てる要素がなくなって行く……”
更に、シュトラーフェはマーシャルの他にもセルビアの事を話してくれた。
出会いは【アーツ第一次戦争】が勃発時……
当時のセルビアが十五歳になった時だ。
「あの頃のセルビアは、今のルークと同じく我儘でさっ」
「ぬっ? 俺は我儘じゃないですよ」
「ふっ……セルビアと同じ事を言っているし……」
「そうか……あの我儘娘が、見ず知らずの子供を息子にするとはな……
お前たちは似ているのかもな……」
「セルビアさんには、お世話になりっぱなしです」
「そうか……」
「あっそれでですね。実は俺、ロールライトに帰ろうかと思っています」
「ほぉ?」
「でも、それまでにどうしてもディアルスさんに会いたいんですけど……中々会えなくて……」
「ふむ、そうか。ならば私の足を治してくれた礼をするかな」
「?」
「ちょっと耳を貸せ」
◆◇◆◇◆
シュトラーフェは俺に言った。
「お昼ご飯に私は、飲食街にマーシャルとディアルスを誘って食事にくる。
お前は、偶然あったかのように来い。ディアルスも来ているはずだ」
との事だった。
言われた通りに俺は飲食街に赴く、テントの中にはマーシャルとシュトラーフェが物凄い勢いで食べまくっていた。
その姿に思わず、唖然としてしまった。
「……マーシャルさん、何やっているんですか?」
マーシャルは俺の姿を見るなり、食べようとしていた大きな口を閉じ、大きな骨付きの肉を慌てて皿の上に戻していた。
「ルッ……ルーク坊ゃ、レディの食事を見るものではないですわ」
「……俺には、とてもじゃありませんが、ひとっつもレディの食べ方には見えませんでしたけどね」
冷静に返してしまった。
「コホンッ」
とシュトラーフェは咳払いをし、目線を変える。
俺はシュトラーフェの目線の先を追いながら振り返るとそこには、ディアルスがいた。
気まずそうにディアルスは食事をしていた。
だが、そんなのは御構い無しに、シュトラーフェに頭を下げ俺は、ディアルスの側へと近づいて行く……
「やっと会えました。ディアルスさん……今日こそ俺の質問に答えてくださいね」
「……」
ディアルスは俺と目を合わそうとしなかった。
むしろ俺に、背中を向けている。
「魅惑の蠱毒にかかっている俺を身体を張って、一生懸命助け出そうとしていてくれた事……
マーシャルさんとシュトラーフェさんから話を聞きました」
「ディアルスさん、ありがとうございます」
「……」
「あの時、意識朦朧の俺の側にはディアルスさんがいました」
「……」
「喋りましたよね?」
「……」
「『帰るぞルーク、ロールライトに……』って」
「……」
「ディアルスさん本当は、話せるんじゃないんですか?」
「……」
しかし、ディアルスは黙ったまま話す事はなかった。
重たい沈黙が流れる中、お腹一杯になったマーシャルは、俺の肩を叩いてきた。
「ルーク坊ゃ」
「はい……?」
「ディアルスは、話せない訳がありますわ」
「うむ……」
「訳? 訳ってなんですか?」
三人は俺の質問に言葉を濁している。
言えない理由とはなんだ?
俺は、ディアルスの声を確かに聞いた事がある。
あれは……『水の街ヴァル』でルドベキアと話していた声だ。
初めて依頼を達成させた日の夜、ディアルスはルドベキアと話をしていた。
『正体は明かさないのか?』
『自立して頑張ろうとしているんだ、暫く見守るさ』
この言葉の意味……
今、漸く俺はわかったかも……
ルドベキアの命令で『水の街ヴァル』では、一緒に共にした。
だが、俺が『水の街ヴァル』を出る時、ディアルスが一緒に来る理由は全くなかったはずだ。
砂漠越えはディアルスのおかげで何事もなく無事に超える事が出来た。
でもそれは結果論だ……
他にも色々ある。
ディアルスがいなければ、俺はここまで来れなかったのも事実だ。
考えれば考えるほど、今までのディアルスの言った『暫く見守る』という言葉の意味と行動が、結びつき始めてくる。
ディアルスは言葉の通り、俺を見守り続けていてくれた。
“でも、それはなぜ……?”
初めて会った俺をなぜ見守り続ける必要がある?
俺は黙ったままひたすらディアルスを見つめていた。
「もぅいいんじゃない? ディアルス?」
「?」
マーシャルの言葉にディアルスは、首を横に振り否定している。
「どういう事ですか?」
「もう私は、正体を明かしてもいいと思いますわよ。
ルーク坊ゃも決意しているようですし……」
「正体……??」
「……ダメだ」
小さくディアルスは口を開いた。
この声誰だっけ……
もう少しで思い出しそうなんだけど……
頭の中でひたすら考える……
「あっ!!」
“思い出した!”
「ディアルスさん……もしかして……」
俺が思い出したのと同時にマーシャルは、ディアルスの方に【月光のアーツ】を発動する。
「やめろ……俺はまだ……!!」
制止するディアルスを無視して、マーシャルはごめん、実はもう解けかかっているの……と言い
「月光の幻……解!」
と唱えていた。
マーシャルの言葉に【月光のアーツ】は反応し、ディアルスの身体を変化させて行く……
真っ赤で逆立っているディアルスの髪型は変わって行き、俺の見覚えのある顔へと変わっていく……
銀色に光る鎧を着た青年……
「アッ……アルディスさん……!?」




