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Arts hunter   作者: kiruhi
少年編 ー風の街サイクロンー
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第五十五話 マーシャルの苦悩

 俺が魅惑の蠱毒から解放されディアルス声を初めて聞いた後、腕の中で再び気絶している間にマーシャルは勝利宣言を行っていた。


(わたくし)はアーツハンター戦闘隊総司令官マーシャル・フォン・フライムと申します。

『風の街サイクロン』に住む全ての者たちに知らせます。

 アーツバスターは、ガルガゴス帝国領に帰還しました。

 よって、我々アーツハンターは再び『風の街サイクロン』を取り戻しました。

 繰り返します……」


 勝利宣言により、戦闘に参加していなかった元貴族たちは喜び。

 庶民や奴隷は肩を落としていた。


 また元の生活が戻る……


『風の街サイクロン』に住む全ての人たちは、そう思っていた。


 だが、解放された『風の街サイクロン』は、現在何事もなかったかのようにいつも通りの生活を送っている。


 それには訳があった。

 マーシャルの勝利宣言を聞いたのちに、一早く駆けつけたのは元貴族たちだった。

「今すぐ元の生活に戻せ!!」

 そう懇願してきたのだ。

 理由も何も語らず……

 マーシャルがなぜ? と聞くも元貴族たちは焦っていた。

「いいからはやく、そう言え!」

 と怒鳴り散らしているだけだった。


 マーシャルは元貴族たちのいいなりになっていたら、『風の街サイクロン』は再び貴族社会が始まっていただろう。

 だが、マーシャルは街の人たちの話を聞いた……


 ドランゴが行っていた政策……

 貴族制度と奴隷制度の廃止……

 皆が皆、平等の生活……



 声を出せば反乱分子と処分されてしまうから、マーシャルは声には出さなかった。

 だが、その誰も考えつかない事を行ったドランゴに対し、敵とはいえ凄いと感心すら示してしまっていた。



 伸び伸びと幸せな顔をし、平等な生活をしている人たちを見てマーシャルは決断した。


 こういう街が一つぐらいあっても良いのでは……?

 と……


 マーシャルは貴族制度の復活より、今まで行っていた政策を引き続き行う事を指示したのである。

 元貴族たちは、猛反発し他の皆は両手を挙げて喜んでいた。


 しかし、他にもマーシャルにはやる事が山済みだった。


 取り戻した『風の街サイクロン』にアーツハンターの派遣……


 マーシャルは一通りの残務処理が終われば、ガーゼベルトに帰還しなければならない。

 そうなれば、派遣する者に寄って再び貴族主体の街に戻ってしまうかもしれない……

 この街を見る限りマーシャルは、それだけはどうしても避けたかった。

 人選が乏しい状況で、要領が良く人望も厚い優秀な人材などいない……

 もし、いたとしても『風の街サイクロン』に回せる余裕など今のアーツハンター協会にはなかったのである。

 なら、今ここにいる者たちの中から……?



 他に上げられるのは、ゲートの今後の対応……


 今、ゲートはガルガゴス帝国領に直通している。

 一方通行でなく、ガルゴス帝国領と『風の街サイクロン』が行き来き出来るとなれば……

 再び『風の街サイクロン』はアーツバスターの膨大な戦力の前に、平伏す可能性は十分に考えられた。

 だから、マーシャルはとりあえずゲートを封印した。

 封印してしまえば、国境である『メシュガロス』を通らなければアーツバスターたちは『風の街サイクロン』に来る事はできない。

 その前には、察知し対策を練る事は充分に出来るはずだ。


 しかし、今後このゲートを使うのかどうか……

 このまま壊してしまうべきなのか……



 更に元貴族たちだ……


 貴族制度復活が叶わなかった一部の元貴族たちは『風の街サイクロン』から出て行きたいと、マーシャルに申し出てきたのだ。

 出て行くから、他の街で住む家を用意しろと……

 元貴族たちはそうマーシャルに、言ってきたのであった。

 住み家も限られている中、他の街に住む貴族たちが『風の街サイクロン』から出た元貴族たちを、受け入れてくれるとは到底思えなかった。


 ざっとあげただけでマーシャルは、考えるのが嫌になってしまう……



「こんなの(わたくし)の専門分野ではないですわ〜」

 と愚痴をこぼしてしまう。


 マーシャルは、愚痴をこぼしながら隣の部屋に目を向ける……




 マーシャルが頭を悩ましている最後は、隣の部屋で寝かされているルークの事だ。


 街の人たちは、奴隷だろうが元貴族だろうが関係なしにルークに話しかけてくる。

 だが、他の者たち……

 アーツハンターやウイッシュの者たちはそんな事をしない。


 逃亡奴隷で裏切り者……

 そんなレッテルをルークは今、背負っている。


 逃亡奴隷だけであったらマーシャルは、何とか揉み消す事が出来たかもしれない。

 しかし、ルークはあの時……

 魅惑の蠱毒にかかりアーツハンターやディアルス、そしてマーシャルに手を出してしまった……

 それが裏切り者……として認識されてしまったのだ。

 マーシャルはルークを庇いきれなくなっていた。


 そんな話をウイッシュの門弟たちが聞けば、ルークの見る目はアーツハンターだけではなく、ウイッシュの門弟たちの間で立ちどころに悪くなって行く。


 アーツハンターたちとウイッシュの門弟たちにマーシャルは、板挟みの状態で攻め続けられていた。


 シュトラーフェだけは、気にする事はない……

 と言ってくれたのが唯一の救いだった。


 シュトラーフェは、眠らされているルークの隣のベットでドランゴに殺られた傷を癒している。

 これも門弟たちは猛反発を起こした。


 目覚めた時、本当にルークは魅惑の蠱毒から解放されているのか?

 解放されたように思えて実は、解除されていないのでは?

 もしそうなれば、目覚めたルークは師範であるシュトラーフェを襲うのでは?


 そんな、話が門弟たちの間に広まり直ちにルークをどうにかしろ!

 という苦情がマーシャルに飛び込んでしまう。



「なぜ師範が奴隷と一緒の部屋で静養しなければならないんだ!」

 だが、マーシャルはそんな門弟たちを、なだめてくれていた。

「彼はそんな事はしませんわよ」

 マーシャルの言葉に、門弟たちは誰一人納得する事はなかった……

「もし、あの奴隷が師範を殺そうとしたらどうするのですか!?」

「責任とってくれるのですか!?」

 困り果てているマーシャルの姿を、見かねたシュトラーフェは一言……

「黙れ……お前ら……」

 たった一言でその場は納まるのであった。


 マーシャル自身は、もう魅惑の蠱毒は解除されていると思っていた。

 だが、それは誰も信じていなかった。



 納得できない門弟たちは、遂にマーシャルを脅し始めた……

「対応しないというのなら我々は師範を守る為、アーツハンター協会に奴隷の事を報告し、しかるべく処置をしてもらう」

 そう脅されるとマーシャルは何も言えなくなってしまう。

 悩んだ末にマーシャルは渋々ルークに手枷をはめ、ガーゼベルトに帰還するまでの間ルークを無理矢理眠らせる事……

 そして、帰還後は本部より何かしらの処遇を受けてもらう事を話し、アーツハンターと門弟たちを納得させたのであった。


「ごめんね……ルーク坊ゃ」

 マーシャルは、頭を抱えながらルークに謝っていた。




 コンコンコン……

「シュトラーフェ様、ご気分はどうですか?」

 そう言いながらリーサは、ドアを叩き部屋に入ってきた。

「あぁ、大事ない」

「よかったですわ……」


 リーサは、隣に眠らされているルークの顔を一切見ない……


「所でリーサ……お前も、ヴァルディアと同様こいつと知り合いだったんだな?」

「はっはい……」

「そうか、ならば私に気にしなくても良いのだぞ?」

「いえ、立場はわきまえませんと……私も、そして彼も……」


 シュトラーフェの質問にリーサはルークの顔をチラッと見て、すぐさま目線を逸らしてしまったのである。


「リーサ……」

「……はい」

「知り合いの中に立場をわきまえるとか、そう言う物は必要なのか?

 まぁ、お前がルークについて、どう捉え様がお前の自由だ。

 だがな、久しぶりに会えた友人には、もう少し感動みたいなものをだな……」

「……シュトラーフェ様……申し訳ございません…… 私は貴族の名を捨てた者です」

「その話は、最初に聞いたな」

「貴族の名を捨てましたが、私の家にも奴隷はいました。

 私は……彼らを蔑んで……見下した態度をずっとしていました。

 彼を……ルークを見ると、私は……」

 リーサは泣きそうになっていた。

 自分が今まで奴隷の人たちにやっていた事を、リーサは苦いていた。


「お前は貴族の名を捨てた時に、そう言う気持ちも捨ててきたと思っているが?

 だから、こいつ(ルーク)が今までどんな苦労をしてきたのか。

 お前が一番わかってやる事が出来ると思うぞ?」

「すみません……シュトラーフェ様。私には、まだ心の整理が尽きません」

 リーサは逃げるかのように部屋から出て行ってしまったのである。

「ふむ、まだまだ未熟……だな」


 奴隷だろうがなんだろうが、一人の人間だろ?

 皆死ねば、土へと還る……


 あいつ(リーサ)はわかっているはずだ。

 頭ではわかっていても、心が追いついていないか……


 シュトラーフェは、将来もしかしたら自分を超えるかもしれないリーサの後ろ姿を見ながら、そんな事を考えていた。




 ◆◇◆◇◆



「はぁはぁ………」

 シュトラーフェの元を慌てて飛び出したリーサは、息を切らしていた。


 ルークは友達……

 でも、彼は奴隷……

 私たちとは、もう立場が違う人になってしまった。

 歩む道も違う……



 リーサはそんな現実を叩きつけら、中央広場にある風車に大声で泣きすがっていた。

「うっ……うわぁぁぁああん!!」

 両の拳を握りしめ、何度も何度も風車を叩き八つ当たりしている。

「ルークが……ルークがっ!!!」



 リーサの声をヴァルディアは、新しく新設されたアーツハンター支部でその声を聞いていた。


 “今の声は……リーサ?”


 しかし、ヴァルディアはマーシャルに頼まれた仕事は山積みである。

 とてもじゃないが、それを放ってリーサの元に行くわけには行かなかった。

 気にはなったが、ヴァルディアは再び手を進めるのであった。


 ふと、目線の先に人影が見え、顔を上げて見た。

 ディアルスがクイクイッとリーサの方を指差している。

「ディアルスさん……行けと?」

 コクンとディアルスは、頷く。

「でも、この仕事終わらせないと……」

 ディアルスは、ヴァルディアを無理矢理立たせ外へと追い出す。

 ヤレヤレ……という感じでヴァルディアの仕事を代わりにやりながらディアルスは少し微笑んでいた。




「リーサ……?」

「ヴァルディア……?」

「どっどうしたの?」

「なんでもないわ! 少し空気を吸いに来ただけよ!」

 泣いていたとバレないように慌てて涙を拭き、誤魔化すリーサ。

 その瞳には、まだ微かに涙が残っており、目も赤い……

 誤魔化しきれないはずなのに、ヴァルディアは察してあげた。


「そう……」

「……」

 ヴァルディアは風車を背にしながら、リーサを見つめる。

「ここの人たちは、みんな伸び伸びとしていて幸せそうだね」

「………」

「貴族の人たちは、そう思っていないみたいだけど……」

「………」

「リーサ………」

「………」


「俺たちアーツハンターや、ウイッシュの人たちがこの街からいなくなれば、あいつ(ルーク)はここで何不自由なく生活できると思うよ」

「………」

「だからさっ……」


 涙を必死に堪えながら、ヴァルディアの話を聴いていたリーサをヴァルディアは優しく抱き寄せてきた。

「!?」

「もう泣くなよ……」

「……ヴァルディア?」

「俺、あいつ(ルーク)の友達だと思ってた……

 でもさっあいつ(ルーク)『土の街グランディ』で再会した時、何も……言わなかったんだ……」


「俺……俺……」

「ヴァルディア……」

 リーサは抱きしめられている、ヴァルディアの背中に手を回し暫く動かなかった。



 暫くしてお互い気持ちが落ち着いたのか、二人は座りながら話をしていた。

「先程、シュトラーフェ様に会いに行ったわ。隣でルークは眠らされていたわ」

「うん……」

「私ね……ルークの顔見る事出来なかったの……」

「うん」

「もう前みたいに笑い会えないのかな? 私たち……」

「……」


 そんな事はないよ……


 と、ヴァルディアは言いたかった。

 だが、ヴァルディアもまた、リーサと同様にルークに会う事を戸惑っていた。

 会ったら何を言っていいのかわからなかった……

 普通通りに……

 今まで通りに接すればいいはずなのに、二人には奴隷と言う名が重くのしかかっていた。




「ふぅ〜私、そろそろ戻るわ……」

「一人で大丈夫か?」

「えぇ大丈夫よ……ヴァルディア……」

「んっ?」

「貴方もルークに会いに、行ってあげなさいよ」

「俺は……」

 行けない……会ったらルークを罵ってしまうのがわかっているから……

「ヴァルディア!」

「仕事が落ち着いたらね……」

「……」


 リーサは、ヴァルディアは逃げている……そう思った。

 でも、逃げ出したい気持ちは確かにリーサ自身にもあった。

 だから、リーサは何も言えなかった。

 ただ、

「そう……」

 とだけ言葉を返しリーサはヴァルディアの元を離れていく。




 ◆◇◆◇◆



 マーシャルは、ディアルスを呼びシュトラーフェの部屋でルークを見つめながら話をしていた。

(わたくし)は、ルーク坊ゃをガーゼベルトに連れて行こうとは思っていません。

 取り敢えず、今は……」

「では、どうするんだ?」

 ディアルスは黙ったままルークを見つめている。


「後、五日経てば満月になります……」

「ほぉ?」

「ルーク坊ゃを救う為にも、(わたくし)は奥義を使おうと思います……」






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