第五十四話 闇の住民
身動きを封じられた俺は、ドランゴの竜の逆鱗と言う名の闘気の衝撃波を受けた。
激しい衝撃波は、ギレット爺さんの使う【衝撃のアーツ】以上の破壊力だった事を覚えている。
血を吐き白目を向きながら、身体を痙攣させながら俺の意識は深い闇の底へと連れて行かれた。
そして、気がついた時には真っ黒な暗闇に中に俺は立っていた。
“あぁ……俺は死んだんだな……”
ここに着いて最初にそう思った。
明らかに天国ではない事は明白で……
地獄かどうかは分からないけど、取り敢えず何もなく真っ暗な場所は俺が死んだ事を、認識させてくれた。
どこに行ったらいいのかも分からず、途方に暮れていた……
“以前もこんな事があったな……”
そう、あれはいつだっただろうか……?
あぁ、そうだ。
あれは、セイントと言う男に戒めの剣を刺された時……だ。
あの時は……
確か……
一面真っ暗な所を、ひたすら走っていた。
闇が俺を襲って引きずり込もうとしていたから、必死に逃げていたんだ。
“俺は、そこからどうやって抜け出したんだっけ?”
逃げ回っていると、段々五感が麻痺してきて……
それから……
なにも考えられなくなって……
闇に全て身を委ねようとしたんだ……
でも、俺は完全に闇に落ちる事はなくて……
思い出した……
アルディスさんや、セルビアさんたちが俺の手を握り締めて闇の中から助けてくれたんだったな……
今回もまたそんな都合良く助けになんて、来てくれるはずないよ……
俺はドランゴに殺されたんだし……
「ドランゴ……強かったなぁ~」
結局俺は、何も出来なかった……
ドランゴを超える事も出来ず……
村の皆の仇も打てず……
「……強くなりたかったな」
無音の世界は、俺の神経を研ぎ澄ましてくれていた……
遠くの方から何か音がしてくる……
「?」
コツンコツン……
とその音は、ゆっくりと俺に近づいてきている。
“こんな場所に?
俺だけしかいないと思っていたけど……誰だろう?”
対して警戒心は芽生えなかった。
俺の方に歩いてきているのは確かだが、殺気は全く感じられなかった。
どのみち俺は、ドランゴに殺されたんだし……
もう死ぬ事もないだろ……
俺の目の前に現れたのは、杖をつきながら腰の曲がった白髪のご老人だった。
ギレット爺さんよりも遥かに年を取っているように俺には見えた。
「闇が騒いでおったから、辺りを散策に出てみたのじゃが……
こんな所に、二代目【黒と白のアーツ】を使う者が現れるとはのぉ~」
「二代目……?」
「一代目は、儂じゃから……」
「!!!!」
白髪のご老人は、とんでもない事を言ってきた。
とてもではないが、俺には信じられなかった……
「しっ……失礼なんですけど……証拠は?」
「フオッフオッフオッ……証拠は、ほれ……お主の持つ【黒と白のアーツ】が喜んでおるわい……」
「よっ喜んでいる……?」
“どこが………?”
【黒と白のアーツ】の事を知っていたのは以外だったが、俺にはこのご老人がどうしても怪しい人にしか思えなかった。
そもそもここにいる時点で………ねぇ……
白髪のご老人は、ヴィンランド・ガーゼベルトと名乗ってきた。
「………」
「なんじゃ?」
「その名前、街の名前と国の名前なんですけど………」
「あいつら、儂がいなくなった後……勝手に名前を使ったようじゃな」
「いなくなった後………?」
「信じる気になったのか?」
「うっ!!」
怪しさたっぷりの、このご老人をとてもではないが信じる気にはなれなかった……
「ここで話しておっても、落ち着かんのぉ……
二代目の使い手よ、十分程歩いた先に儂の家があるのじゃが、ついてくるかのぉ?」
「………はい」
ここに居ても何もできないし、どうしたらいいのかわからない俺は取り敢えず、怪しさ全開のご老人の後をついて行く事にしたのである。
ご老人の家は確かに十分程歩いた所にあった……
問題はここに来るまでの間だ!
俺には全然感じる事が出来なかったのに、ご老人は闇の中に潜む敵の気配に気づいていた。
そして、的確に敵の方向と【黒のアーツ】の強さ加減を的確に指定して俺に攻撃をさせたんだ……
その方向には闇の塊が蠢いて俺たちに襲ってきたんだ。
半信半疑だった俺は取り敢えず、ご老人の言う通りにやったよ。
悲鳴のような怒号のような声を上げて闇の塊は消えて行ったんだ……
「今のは一体……?」
「現世で溜まった、憎しみ、未練、憎悪全ての負の連鎖は、その死後ここに集まってくるのじゃ……
お前さんはその、思いを浄化したのじゃよ……」
“浄化……? さっぱりわからん!!”
「どうしたんじゃ? 入らんのかぁ?」
「あっいや……入ります……」
促されるまま、俺はご老人の住む家……
岩と木で出来、手作り感満載の家の中へと入る事にしたのである。
家の中も、継ぎ接ぎでだらけで後から付け足された金具や、木の板が所々に貼られていた。
“崩壊しないのかな……”
「放けていないで、そこの椅子に座るといいのじゃ」
「あっ……はい」
言われるがまま、木で出来た椅子に座る。
少しギシギシ言って壊れるんじゃないかと思ってしまった……
ご老人は、俺に暖かいミルクの入ったコップを手渡ししてきたのである。
「ありがとうございます……」
一口……
ホットミルクは暖かく、俺の気持ちを少し落ち着かさせてくれた。
「さとて……聞きたい事がいっぱいあるように、儂には思えるのじゃが?」
ご老人のその言葉に、俺は飲んでいたコップをテーブルの上に置き、一呼吸置く……
「確かにいっぱいあります…… まずここは何処ですか?」
「闇の世界じゃのぉ」
「なぜ俺はここに来たのですか?」
「知らん」
「………」
「元に戻る方法は知っていますか?」
「知らん」
「本当にあなたは【黒と白のアーツ】の初代持ち主なのですか?」
「そうじゃ……」
「………」
はぁ〜……
俺はため息と共に、頭を抱えてしまった。
取り敢えず、わかった事は……
ここは闇の世界で、なんでここに来たのかもわからないし、帰る方法もわからない……
そして、目の前にいるご老人はヴィンランド・ガーゼベルトと言うらしい。
この名前事態怪しいけど……
さらに怪しいのが、昔【黒と白のアーツ】の持ち主だった。
そんなの信じられないって……
本で軽く読んだ限りでは、百年前に【黒と白のアーツ】は存在していたって事だけど………
暴走して人類滅亡の危機に陥った……
としか……
この人が……?
本当かな……?
「まだ、信じられないと言う顔をしておるのぉ〜」
「そりゃまぁ……確かに……」
「どれ少し昔話をしようかのぉ」
ご老人は語り出す……
三百年前の事を……
三百年前、ヴィンランド領と言う名の国も、ガーゼベルトと言う首都も存在していなかった。
更にガルガゴス帝国領、国境の街『メシュガゴロス』も同様に存在しなく、世界は大陸一つ陸続きに繋がっていた。
そんな中、一つの隕石がこの星に落下したのである。
隕石が落ちた場所へと、直ちに調査隊は派遣されていく。
派遣された調査隊が隕石を調べると、隕石の中には沢山の鉱石が眠っており、一つ一つ違った力を持っている不思議な石が発掘されたのだ。
この隕石から発掘された石の事を、のちにアーツと命名されたのである。
隕石落下から、百年程経つと人類は目まぐるしい進化を遂げていた。
技術の進歩が進んで行く中、アーツも次第に格付けされるようになってきたのである。
強さを求めるあまり、ランクの高い物を求めて国同士が戦争を始め、何千人もの人間が死んで行く中……
それでも戦争を辞めると言う声は一度も上がらなかったのである。
そして、今から百年前……
アーツを求めてヴィンランド・ガーゼベルトもまた、隕石が落ちた場所……
アーツの聖地へと足を踏み入れていた。
隕石から生み出されるアーツは、目の前に立った者に相応しい物を与えてくれる。
同時に目の前に立つ者がいなければ隕石はアーツを生み出す事はない。
隕石の目の前に立ったヴィンランドは、そこで【黒と白のアーツ】を手に入れるのである。
【黒と白のアーツ】を手にしたヴィンランドは、国の為貢献し続けていた。
戦争となれば前線に一人で立ち、全ての敵を消し去り……
傷つく者がいれば、直ちに回復したりし不思議なアーツを使うヴィンランドは、この国にとって無くてはならない英雄とまで名を轟かせたのであった。
ヴィンランドはそのアーツの能力を誰にも話す事はなかった。
以前、親友と思っていた男に能力の事を話すと、男は豹変しヴィンランドを殺してでもアーツを奪おうとする行動に移したからだ。
それ以降、ヴィンランドは何も語らなかった。
だが……各国に噂が流れ始めた……
なんでも消し去る力を持ち、更に死人以外ならどんなに無茶な怪我でも回復させてしまう【黒と白のアーツ】が存在している……
そんな噂が大陸中を飛びかう中、ヴィンランドは使えていた国王とその重臣たちに真実を打ち明け、戦争中止を呼びかけたのである。
すぐに答えは出せぬと言われ、その場を退出を命じられたのであった。
打ち明けた真夜中、王は忽然とこの世から消え去り……
重臣たちは、それをヴィンランドのせいにしたのだ。
一言の弁明を聞いてももらえず、ヴィンランドはその日に処刑された。
宿主を失った【黒と白のアーツ】を奪おうとした重臣たちは、消え去り。
【黒と白のアーツ】はヴィンランドの身体を依り代にし暴走を起こす。
闇の塊をいくつも作り出しその威力は国を消し去り、世界の一部を消し去って行く……
暴走は半日程続き、瞬く間に人類の半数以上は消え去って行く。
暴走が治まった【黒と白のアーツ】は自らどこかへと飛んで行き……
奇跡的に生き残った者たちは、大陸が分かれた大地に新たな国家を作り出していく。
ある大地はヴィンランド・ガーゼベルトと言う英雄の名を取り、ヴィンランド領と名付け、更に首都にはガーゼベルトと言う名にしたのだった。
また、ある者はガルガゴス帝国領と名付け、実力主義の絶対君主制度を樹立させたのであった。
世界が再び目まぐるしく進化を遂げている時、殺されたヴィンランドも代償を受けていた。
肉体を失ったヴィンランドの意識体は闇の力に飲み込まれ、気がつけば闇の世界へと連れて来られたのである。
闇の世界は、何もなく孤独だった……
死ぬ事も許されないヴィンランドは、いつしかここで生活をするようになり、そして今に至る……
ヴィンランドは、俺に語る……
闇に飲み込まれてはいけないと……
「どうじゃ……信じる気になったか?」
「………いまいち…… 話が壮大すぎて……理解出来ません」
「今の子供達は創造力が乏しいのぉ〜」
“余計なお世話だよ!!”
「世界がどーのこーのってのは、イマイチ俺には理解出来ません。
でも、あなたが【黒と白のアーツ】の持ち主だったという事は、信じようと思います」
「ほぉ……それはなぜじゃ?」
「さっきから両手にあるアーツが熱いんですよね……
あなたに会えた事への嬉しさと懐かしさを、アーツから感じられます」
両手は確かに熱かった……
今までこんな事はなかった……
ご老人の話は、怪しい所と謎が多すぎて理解出来なかった。
でも、【黒と白のアーツ】はかつて見た事のない程に輝きに満ちていた。
だから、持ち主だった……
それだけは信じてもいいのでは?
と俺は思った。
そして、本当に【黒と白のアーツ】の持ち主だったとしたら、俺はこの人に色々と聞ける……
答えられなかったら、嘘だと思えばいい……
「あの……先代の持ち主としてお願いがあるのです……」
「なんじゃ……?」
「俺はもっともっと強くなりたいです。いえ、強くならなければならないのです……
だから、俺に教えてくれませんか? 更なる力を……」
俺はご老人の目を逸らさず、真っ直ぐ見てそう言った。
ご老人も、俺の目を逸らさずに見ていてくれている。
「何の為に?」
「倒したい男がいるんです……
越えられない壁とも言うんですけど、その壁を俺は超えたい……」
「……ダメじゃ」
「えっ?」
「タイムリミットのようじゃのぉ」
ご老人の言葉と共に、俺の身体は光り輝き薄くなって行く……
「こっこれは……?」
「戻るべき場所に戻るようじゃの」
「俺……殺されたんじゃ……?」
「フォフォフォ……元気に生きとるわい……
また来い……少年。その時色々と教えてやろう……」
「また来いって……ここに来る方法俺知りませんよ!!」
生きていた事の喜びより、話の途中でこの場に留まれない方がよっぽど辛い……
まだ、ご老人から俺は何も聞いていない。
そんな思いを無視するかのように、どんどん俺の身体は薄くなりこの場に留まる事を、許してくれそうになかった。
「死にかけたら、また来れるんじゃたいかのぉ〜」
「あんな痛い思いもう嫌です!!」
いやです〜
いやです〜
と残響を残しながら俺の身体は、闇の世界から消えてなくなった。
「……若いっていいのぉ〜フォフォフォ」
◆◇◆◇◆
「がはっ……」
闇の世界から戻った俺の意識は、吐血してしまう程激しい痛みを伴っていた。
目の前には悲しい顔をしたディアルスが【竜巻のアーツ】を使いながら俺を殺そうとしている。
“なぜっ!??”
「ディ……」
小さくか弱い声でそう上げると、ディアルスは竜巻をすぐさま停止させてくれた。
身体中が痛く、呼吸を整えるのに精一杯だった。
漸く声が出せるようになった俺は、再びディアルスの名を呼ぶ。
「ディアルス……さん?」
「…………」
ディアルスは、ヤレヤレと言う顔をしながら俺を見つめている……
「あまり世話をかけすぎるな……帰るぞルーク、ロールライトに……」
「!!!」
久しぶりに出会ったディアルスは、この時始めて口を開いたのである。
その声はどこかで聞き覚えのある声だった……
“どこだったっけ……?”
俺は、誰だったか思い出せずにいた……
“というか……話せるなら、最初の出会いの時から話ししてよ!!”
と思った。
それと同時に俺はその言葉を発する事なく、ディアルスの腕の中で気絶したのであった。
◆◇◆◇◆
ガルガゴス帝国領、ガルガゴス帝国に戻ったドランゴは死にかけていた。
直ちに医療班の手当てを受けたドランゴは、何日も生死の境を彷徨い目を覚ましたのである。
「あっドランゴ!!」
ミステリアとスフィアが心配そうにドランゴを見つめている。
何日も交代でドランゴの看病をしていたのであろう。
「大丈夫? ドランゴさん……?」
「あぁ、もう大丈夫だ」
身体を起こし平気で立ち上がるドランゴ。
【竜のアーツ】緊急回復が発動していたとはいえ、驚くべき回復力であった。
「動けるようになったら、総帥が顔を出せと言っていたけどどうする?」
「総帥が……?」
珍しいな……
とドランゴはその時、思ったのである。
「わかった。 総帥の所に行こう……」
医療部屋から出たドランゴは、身支度を整え総帥の所へと向かう。
煌びやかな廊下を通りドアをノックする。
「ドランゴ・サーガ参りました」
「入れ……」
その言葉を聞きドランゴはゆっくりとドアノブを回していく……
中に入るとドランゴよりも年上の中年男性が窓際に立ち外を見ている。
彼はアーツバスター最高責任者と同時にガルガゴス帝国を統治する者……
通称、総帥と呼ばれる者である。
噂によれば総帥は【黒と白のアーツ】を超えるアーツを持っているとか……
「ドランゴよ……」
「はっ!!」
「ヴィンランド領の件話を聞いた…… 結果的に失敗と捉えて良いか?」
総帥は後ろを振り返らず、ドランゴにそう話しかけてくる。
威圧感をヒシヒシと感じながらも、ドランゴは弁明をする。
総帥は結果が全ての人だ。
前提がどんなに良くても、結果が伴わない者は排除していく……
失敗した者を総帥は、幾人も排除してきた姿をドランゴは見てきたからわかっている。
認めれば……殺される事を。
だが、ドランゴはここで殺される訳にはいかなかった。
「総帥、まだ作戦は遂行中であります」
「ほぉ……」
「確かに『風の街サイクロン』を始め四つの街を落しきれなかった事は、私のミスでございます。
ですが、ヴィンランド領には私の命令の元、次の作戦に移っております」
「その作戦とは……?」
「首都ガーゼベルト陥落…… そして、アッシュ・フォン・タルトの死……
でございます」
「ふむ、よかろう……」
ホッ……と胸を撫で下ろすドランゴに総帥は、振り返りドランゴを見てくる。
その両目の瞳には赤黒く禍々しい光を放っていた。
目があっただけで殺される瞳を総帥はドランゴに向けている。
「ドランゴよ……次はないぞ……」
「ははっ!」
緊迫した部屋を後にし、ドランゴは部屋から出て行く……
はぁ〜やばかった……
あの目の他にも総帥は、更なる力を持っているんだから敵わんよな……
竜の闘気を持ち、絶対的な力を持つドランゴですら総帥との対面は身を削るほどの重圧に苛まれる。
そして、総帥には妻と子供がいる。
彼らには、総帥に対する恐怖心はないのだろうか……?
ふと、そんな疑問が溢れてきてしまった……
季節は巡り巡る……
ドランゴはその後、総帥の後を継ぐことになる。
しかし、それはまた別の話なのであった……




