第五十二話 『風の街サイクロン』侵攻作戦開始
マーシャルは、ディアルスを含む襲撃部隊十名と『土の街グランディ』側で待機する回復専門部隊を連れ、封印されたゲートへと到着していた。
出発する際、最後まで居残り組は『我らも行きたい』と言い反対していた。
その思いをマーシャルは応えたかった。
だが、実力的に太刀打ちできるとは思えない戦闘に出し、彼らを無駄死にはしたくなかった……
あなたたちは足手まといです!
とはっきりいう訳にもいかず……
「後方待機も立派な戦略のうちです」
そう言ってなだめるので精一杯だったのである。
後ろに惹かれる思いをしながら、マーシャルたちは出発したのであった。
ゲートに着いたマーシャルは最終確認を行う。
まずゲートの封印解除と共に、襲撃部隊が同時にゲートをくぐり『風の街サイクロン』へと……
ゲートを囲い、アーツバスターたちにゲートを支配されないよう常に守る。
そして、傷ついたらゲートをくぐり『土の街グランディ』側へ。
待機していた回復部隊に回復をしてもらい、再び戦場へ……
ヴァルディアが剣の聖地『ウイッシュ』の者たちの協力を得る事が出来たとは言え、同時に襲撃出来るとはマーシャルは考えていなかった。
間に合わなくてもいい……
『ウイッシュ』の者たちが、逆転の一撃として……
マーシャルはそんな事を考えていたのである。
「実際、戦力的にかなり厳しいです。ですが無事成功し皆でガーゼベルトに帰りましょう!」
マーシャルの言葉に誰もが頷き、ゲートの封印が解かれて行く。
次々とゲートの中に入っていく襲撃部隊。
「後は頼みましたわ……」
ゲート前で待機している回復部隊に、そういいマーシャルはゲートの上に立つ。
視界がぼやけていく中……
“ルーク坊ゃお待たせ……今、行きますわ……そしてヴァルディア、待っているわよ”
そう思いながら、マーシャルは『風の街サイクロン』へと降り立ったのである。
◆◇◆◇◆
夕刻……
ドランゴの予想通り、アーツハンター襲撃の報告を風車からゲートを監視していた者から、報告を受けたのであった。
ミステリアと、スフィアもドランゴの部屋でその報告を同時に受けていた。
報告をしてきた者にミステリアは、状況説明するように話ししたのである。
状況としては、アーツハンターたちは中央にあるゲートから十名程現れ、それ以上増えている事は今の所ないとの事だった。
「ほぉ〜十名とは随分舐められたものだな……」
鼻で笑うドランゴに、報告してきた者は更に話を続けて来たのである。
ゲートには三名見張り番をしていたのだが、現れたアーツハンターたちに一撃で動かぬ者にされたと報告したのだ。
一通りの報告を受けたドランゴは、報告してきた者を下がらせたのである。
「ドランゴ、作戦に変更なしでいいかしら?」
ミステリアの質問にドランゴは不敵な笑み浮かべている。
「あぁ、どうやら精鋭部隊で来てくれたようだ……願ったり叶ったりだ。
全員殺さず、捕まえろ……」
「りょーかい〜」
スフィアはそう言いルークの方へと近づいていく。
「行ってくるわ。ルーク君」
「……」
スフィアの言葉にルークは黙ったままドランゴを見ながら立ち尽くし、スフィアの顔を見る事は一度もなかったのである。
「ミステリア……」
「えぇ、わかっているわ。作戦通りに……」
ミステリアはドランゴに何も言わせず、ルークをチラリっと見て部屋から出て行ったのである。
そして、ドランゴとルークが部屋に残りドランゴは、ルークの方へと歩いていく。
「おい、ルーク」
「はい、主ドランゴ……」
「アーツを使わずに、アーツハンターたちをお前は捕まえる事が出来るか?」
「ご命令とあらば……」
「剣、槍、斧何が使える?」
「剣をお願いします。主ドランゴ」
「わかった」
ドランゴは壁にかけてある、剣の中から木刀をルークに手渡したのである。
確かにドランゴはルークに捕まえろとは言ったが、生きて捕まえろとは言わなかった。
殺された状態で捕まえられても、ドランゴとしては作戦に支障が出てきてしまう。
その為、ドランゴはルークに木刀を渡したのであった。
「ありがとうございます。主ドランゴ……私は主の為に働きます」
ドランゴの目を一時も逸らさず、決められた定型文を淡々と言うルークに、ドランゴは耐えきれず目を逸らしたのであった。
「ルーク、では行け!」
「はい、主ドランゴ」
ドランゴの部屋を出たルークは、ドランゴの命令を忠実に実行するべく戦闘が行わられている、中央広場へと駆け抜けて行く。
最初にルークが出会ったのは、ヴァルディアと共に訓練を行ってくれた教官たち二名であった。
「おぉ、ルーク! 心配していたのだが、無事で……」
教官が全て言い終える前に、ルークは木刀を一振り……
強烈な一撃をくらい教官は、何も言えずその場で気絶したのであった。
側にいた、もう一人の教官も突然の事に驚きを隠せずにいた。
「おっお前……?」
教官はルークを見ていたはずだった。
だが、ルークは突然視界から消えたのである。
「!?」
教官が再びルークの姿を捉えた時には、激しい腹部の痛みと共にルークが木刀の柄の部分を使い、仲間である自分に攻撃を繰り出してきた事実を突きつけたのである。
「ルッルーク……?」
何が何だがわからない教官は、ルークを触りながら崩れるように気絶していくのであった。
気絶させた二人をルークは、その場にあった長い紐を使い縛り挙げる事にした。
そして、再びルークは捕えた二人をズルズルと引きずりながら、広場へと歩いて行く。
傷つき、まだ息のあるアーツバスターをルークは見向きもせず広場へと辿りいたのである。
ゲートを守るかのように、ディアルスは【竜巻のアーツ】を使っていた。
マーシャルも、その場で傷ついた者を回復したり、アーツバスターたちに攻撃を繰り出しルークの存在に気づく事はなかったのである。
一筋の光が一瞬見えたと感じた時には、マーシャルとヴァルディアを除く残りのアーツハンター精鋭部隊七名が一撃で地を張っているのだ。
「??」
突然の事にマーシャルは理解出来なかった。
すぐ側には久しぶりの再会を果たすルークが、目の前に立っている。
「ルーク坊ゃ……?」
木刀を握りしめているルークは、空虚な眼差しをしていた。
マーシャルもディアルスもすぐにルークの異変に気づく事が出来たのである。
マーシャルとディアルスは顔を見合わせて、二人同時にルークに飛びかかっていく。
ルークはその動きに対し、素早く動きディアルスの後ろを取る。
木刀を振り下ろすと、ディアルスに当たる前に木刀が弾き返ってきたのである。
竜巻に守られているディアルスは、悲しい目をしながら何も言わずルークを見つめていた。
「ディアルス……?」
思わずマーシャルは、ディアルスに話しかけてしまった……
ディアルスはマーシャルを黙ったまま頷き、ルークに向けて【竜巻のアーツ】を発動してきたのである。
ルークの周りは、たちまち竜巻に覆われていく……
風がルークを攻撃する中、身体中が傷だらけになっているのも関わらず竜巻がなくなるのをずっと耐えていた。
耐えているルークの姿を見ながらマーシャルは、ディアルスに話しかけてくる。
「ディアルス……ルーク坊ゃは、操られていると私は思うのですが……
どう思いますか?」
ディアルスは、その質問に頷いている。
「セルビアには悪いのですが、この作戦失敗する事は許されません。
私は冷酷になります」
マーシャルはそう言い【月光のアーツ】を発動し、三日月に似た剣を作り出し竜巻の中で攻撃に耐えているルークを切り上げてきたのである。
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!」
マーシャルの攻撃に寄って切り上げられた、ルークの身体は宙を浮く。
竜巻が更にルークを襲いかかっていく。
攻撃が止むことなく、空高く巻き上げられたルークの身体は、竜巻がなくなるのと同時に急降下で地面に激突するのであった。
激突した音と共に、動けなくなったルークをマーシャルは見つめる。
「ごめんね、ルーク坊ゃ」
マーシャルはルークに背を向け、気絶していたアーツハンターたちに回復を行い始めた。
そして、ディアルスもルークから目を離し後ろを向きながら、ゲートへと歩み寄っている。
ガツンッ!!
ぶつかる音と共に同時に倒れる音……
ヴァルディアは後ろを振り返る。
そこには頭から血を流し左腕は折れ曲がり、左足を引きずりながら苦痛の顔一つせずに木刀を握りしめながら立っているルークと、その場に倒れこんでいるマーシャルの姿があったのである。
不意打ちとは言え、マーシャルを手加減なしに攻撃したルークにディアルスは怒った……
何も言わずディアルスはルークに近寄っていく。
力任せに振り回してくる木刀を、受け止めディアルスはルークを殴った。
ひたすら殴り続けられる中、空虚な眼差しだけがディアルスを見つめていた。
ディアルスに殴り続けられる中、それでも必死に右拳に力を込めルークは反撃したのである。
右拳には力が全く入っていなかった。
だが、反撃した右拳はディアルスのこめかみを正確に捉えていたのである。
ディアルスはふらつき堪らず片膝をついてしまう。
「……!?」
視界がグラングランと揺れる中、ディアルスは顔を上げルークを見つめる。
息一つ乱さず、木刀を手にしたルークはディアルスに向け最後の力を振り絞ったかのように振り下ろしたのである……
マーシャルは精鋭部隊十名投入した。
顔なじみの者が、突如裏切り油断していたと言えばそれまでになる……
だが、ルークはヴァルディアにも勝てず他のアーツハンターにも勝つ事は、滅多になかったのである。
しかし、現実は僅か三十分……
三十分にして精鋭部隊全て、ルークの手によって壊滅を期してしまうのであった。
◆◇◆◇◆
ルークはドランゴの為に、戦闘人形の名に恥じぬよう全ての力を遺憾無く発揮した。
マーシャルやヴァルディアを含む精鋭部隊全て捉え、紐で繋いだ状態で全身傷だらけのまま痛みを訴える事なく、ドランゴの目の前に現れたのである。
命令通り誰も殺さず……
多少の骨折は見られたが、その手際の良さにドランゴは絶句し、自らの高ぶる感情を抑えるのに精一杯だった。
“これでアーツも完璧に使いこなせたら、完全なる殺戮人間だな……”
ドランゴは傷つきながらも、ドランゴに跪いているルークを見ながらそう思っていた。
一番先に気がついたのは、マーシャルだった。
マーシャルたちは、一本の紐でまとめて縛り上げられドランゴの前に座らせれている。
時刻はとうに日は落ち、灯りのみで辺りは照らされて夜になっていた。
「よぉ気がついたようだな……」
ドランゴはマーシャルを見下ろしている。
幹部と思われるアーツバスターたちも側にいる……
そして、身動きを封じられたマーシャル。
絶望的な状況下であったが、マーシャルはピンチだとは思ってはいなかった。
この状況を打破する打開策が、マーシャルの中にあったから……
とりあえず、マーシャルは時間を稼ぎたかった。
「俺の名は、ドランゴ・サーガ。
戦闘隊総司令官マーシャル・フォン・フライムで間違いないよな?」
「えぇ、間違いないわ……」
「所で、一つ質問があるんですけど、ルーク坊ゃにあなたは一体何をしたの?」
「ふっこの状況下で、それを聞いてお前はどうする?」
「あら……彼は私の大切な友人の息子ですわ。
心配するのは当然ではなくて?」
「俺が責任もってその縁を切ってやるから、安心しろ。
まずは自分の心配をしたらどうだ?」
「どうなるか、教えてくれるのかしら?」
「お前らアーツハンターたちは、メシュガロスに連れて行く。
そして、死ぬまで候補生の練習相手になってもらう。
以前こいつがしたようにな……」
「あら、それは嫌ですわっ」
「残念ながら拒否権はないんだよ」
ドランゴはマーシャルから目を離しスフィアの方に目線を向け、
「おいっルークはどうなった?」
「完治したわよ〜」
ルークを連れスフィアはドランゴの側へと歩み寄ってくる……
「ルーク坊や!」
マーシャルの問いかけにルークは答える事なく、目線すら合わせる事はなかった。
「お前、親は俺に殺されたと言っていなかったか?」
「はい、主ドランゴ、確かに殺されました」
「なら、何故大切な友人の息子の言う言葉が出てくるんだ?」
「……目の前にいる方の友人は……
身寄りのない私の、義理の母となってくれました」
「ちょ! そのセリフ聞いたら泣くわよ!!」
「………」
「ルーク坊ゃ!」
ルークはマーシャルの言葉に耳を傾けない……
ドランゴの言葉のみに反応する。
「ドランゴ、ゲートの切り替え作業出来たわ。いつでも行けるわよ」
ミステリアの言葉にドランゴは頷く。
「ルークお前も着いてこい」
「はい、主ドランゴ……」
紐に繋がれたまま、マーシャルたちもゲートのある中央広場へと連れて行かれる。
ゲートの前で、ドランゴはマーシャルを見つめていた。
「ゲートの中に行け。楽しい地獄に連れて行ってやるよ」
「私、そんな所には行きたくありませんわね」
「減らず口を叩くなよ……運命だと思って諦めな」
「うふっ……そんな、運命御免蒙りますわ」
そう言いマーシャルは空高く舞い上がり、その場から脱出したのである。
マーシャルの突然の動きにドランゴたちは一瞬目を奪われ、気がつけば紐で縛られた筈のアーツハンター全ての紐は解かれ、アーツバスターたちに反撃を開始したのである。
マーシャルとヴァルディアを残し、開始された戦いにマーシャルは浮かれる事なく冷静に対処していた。
「あら?逆転かしら?」
「いつの間に……」
「私をあまり甘く見ない方がいいわよ?」
ヴァルディアの右手には竜巻が渦巻いている。
どうやらそれで皆の紐を、断ち切ったのだとドランゴは予想していた。
「おい、ルーク」
「はい……主ドランゴ」
「マーシャルとかいう女は俺が相手をする。お前は【竜巻のアーツ】の相手をしろ」
「はい……」
「腕の一、二本折ってもいいが殺すなよ」
「はい、わかりました」
ルークはドランゴの命令により迷う事なく、再びディアルスに攻撃を仕掛け始めた。
「さてと、あんたの相手は俺だ……覚悟しな!」
ドランゴもまた、マーシャルとの間合いを詰めて行く……
右肩を回しながら、次第にそれは激しく回りだしていく。
「竜の衝撃波!!」
言葉と共にドランゴから発せられる衝撃波は、マーシャル向かって真っ直ぐ向かってくる。
しかし、竜の衝撃波はマーシャルに直撃する事はなかった。
「なにぃ!?」
衝撃波は真っ二つに切られ、マーシャルを守ったのである。
身の丈以上もある大剣を持ち背中まで伸びていた艶やかで、そして美しい銀髪の女性がマーシャルの目の前にいたのである。
「随分いいとこ取りね、シュトラーフェ」
「ふっ…お前に一言、言いたくてな」
「彼氏は出来たかしら?」
「私より強い男など早々おらんわっ!!」
マーシャルの質問にそう答えるシュトラーフェ。
剣の聖地『ウイッシュ』の精鋭部隊十名が合流したのであった。




