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Arts hunter   作者: kiruhi
少年編 ー風の街サイクロンー
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第五十一話 機転

 マーシャルたちアーツハンターが『風の街サイクロン』に侵攻を開始する前に時は遡る……



『半年以内に戦力を整え強化したのちに、『風の街サイクロン』奪還作戦に移る』

 と話してから、月日は流れ三ヶ月経ったある日、ルークは突然アーツバスターに攫われてしまう。


 その時は、殺される心配はないと判断したマーシャルだったが……

 アーツハンター五十人以上の力を持つルークの存在を、失ったのは痛いと感じていた。


 アーツハンター協会会長ローラ・フォン・ミステリアの名の元、規制緩和がされたおかげで戦力を補給する事が出来たとは言え、実践経験の乏しい新参者が多くを占めている。


 確かに人数を増やせば、犠牲を払ってでも『風の街サイクロン』を取り戻す事は可能ではある。


 可能ではあるが、人数が増えるとなると統制がとれなくなっていくのは明白であった。

 そして、犠牲となるのは新参者である。

 そればかりではない……

 犠牲となるのは更に何の罪もない『風の街サイクロン』に住む、町の人たちも被る事をマーシャルはわかっていた。


 戦争なのだから仕方がない……

 と言われでば、それまでなのだが。

 マーシャルとしては犠牲を少なく最小限に。

 尚且つ統制が取れる少数精鋭部隊で作戦を実行したい……

 そう思っていた。


 しかし、その精鋭部隊というものがそもそも不足しているのである……


 アーツハンターは限られた人にしかなれない、狭き門である。

 一方アーツバスターは来るものは拒まず、去る者は死刑……

 戦力差は広がるばかりであった。


 マーシャルは、古参の者たちに新参者を訓練するように話しをつけていた。

 毎日かかさず、訓練を行うようにしてはいるが……

 彼らが精鋭となるまでには、大分時間がかかるのは明白であった。



 マーシャルは求めていた……

 ギレット並みの破壊力と、ルークの持つ攻撃力を……


「はぁ〜ない物ねだりだわ〜」


 座っている椅子を前後に揺らし天井を見上げながら、マーシャルはこの時だけ半ば諦めかけていたかもしれない。




 半年以内に……

 とリミットを決めたのにも理由があった。


 アーツハンターたちは後、半年程経つと『土の街グランディ』に一年間住んでいた事になる。

 家族や恋人を残しての一年間は、長く辛く寂しいものである。

 一年以上の在籍は、不満と暴挙を呼び込むいい材料になってしまう……



 マーシャルは出発する前、アーツハンターたちの目の前で……

(わたくし)は、一年以内に『土の街グランディ』、『風の街サイクロン』を奪還しここガーゼベルトに戻ってきます! 一年と言うのは長い年月です。

 家族にも会えず……恋人に会えない期間です。 辛いとは思います。

 ですが、皆さん! (わたくし)を信じ最後までついてきて下さい!」


 拍手喝采と大きな期待感をもたらされていたマーシャルはつい……

 大見得を張ってしまったのだ……

 だから一年後はない……



 仮に一年を過ぎたとしても、マーシャルが一声もう少しもう少しだけ待って。

 と言いえば、アーツハンターたちはマーシャルを信じ帰りたい気持ちを抑えて滞在してくれる事だろう。

 しかし、それでも……やがて次第に指揮は落ちていく……


 そうなれば『風の街サイクロン』奪還など不可能となり、結局マーシャルたちはガーゼベルトに帰還する事になってしまう。



 奪還出来なかった場合マーシャルは、奪還出来なかった事を理由に戦闘隊総司令官の任を解かれてしまうのである。


 マーシャル自身、別に任を解かれる事に対して苦には思ってはいなかった。


 しがみつこうとも思っていなかった為、任を解かれたら解かれたでそれで良いとさえ思っていた。

 セルビアのいるロールライトに行き、ルークを虐めながら一緒に仕事をする……

 そんな生活を送るのもいいな……

 とマーシャルは考えていた。



 だが、後任となる者が武力重視の後先考えないタイプとなれば、話は変わってくる。

 力不足の進軍は、余計な犠牲者を生むだけである。

 戦力は無限に補給されるわけもなく、今回のようにアーツバスターたちが突然牙を向く時もある……

 そうなった場合、戦力がいません……

 戦えません……


 となれば、ヴィンランド領はアーツバスターの占領地になってしまう。

 それだけはどうしても避けたかった……



 今回の『風の街サイクロン』奪還作戦……

 マーシャルは、命に代えても成功させなければならなかったのである。


 しかし、決断があっても良案がなければ、作戦は実行される事はない……

 良案が浮かび上がる事もなく、月日だけが無情に過ぎ去って行くのであった。




 そんなある日、ヴァルディアはマーシャルの執務室に行きマーシャルの仕事の一部を手伝いしていた。


 気丈に振舞ってはいたが、マーシャルは殆ど休息を取らずにいた事をヴァルディアは知っている……

 だから、ヴァルディアはヴァルディアなりに考え、自分の出来る範囲内でマーシャルの力になってあげたいと思っていたのである。


 ヴァルディアが手伝う時だけ、マーシャルは一時の休息を手に入れる事が出来た。

 部屋に帰る事はしなかったがマーシャルは毛布に包まり、ソファーで寝息を立てながら気持ち良さそうに寝ている。

 その姿をヴァルディアは、自分も役に立つ事が出来ると思い幸せに感じていた。



 手付かずの書類をヴァルディアは、マーシャルが起きるまでに整理しておく。

 最終的な確認はマーシャルがしなければならないが、ヴァルディアの書類整理は実に役に立っていたのであった。



「んっん〜〜っ!!」

 マーシャルは、腕を伸ばし身体をほぐしながら目を覚ました。

 しかし、すぐソファーから起き上がる事をしないで、ヴァルディアの仕事っぷりを誇らしく見守っていたのである。


「ヴァルディアが、(わたくし)の後任とだと安心できるのにね……」

「えっ?」

 突然の事にヴァルディアはマーシャルが何を言っているのか理解出来なかった。


「なんでもないわ、ありがとう。ヴァルディア」

 マーシャルはソファーから身を起こし、ヴァルディアの方に近づいてくる。

 ヴァルディアはすかさず、椅子を空けマーシャルが椅子に座れるよう譲ったのである。

 マーシャルはニコリと微笑み、椅子に座ったのであった。


「マーシャルさん、いつもより短いですが……大丈夫ですか?」

「えぇ大丈夫よ。それよりもヴァルディア、そろそろ今日の訓練が始まる時間ではなくて?」

「あっ!! マーシャルさんまた来ます!!」

 そう言いながらヴァルディアは部屋から走って出て行き、訓練広場へと慌てて駆けて行くのである。


「やっべぇ〜遅刻だ!!」

 廊下からそんな声が聞こえマーシャルは、クスクスっと笑っていた。




「さてと、本格的に作戦を考えないと……ルーク坊ゃの事もこのまま放置するわけにも行けませんし」



 マーシャルの考えでは、精鋭部隊二十人と考えていた。

 しかし、どう考えても『土の街グランディ』にいるアーツハンターに二十人もの精鋭部隊はいなかった。

 後十人……どうしても足りなかったのである。


 マーシャルは足りない人数は諦め十人でどうやって『風の街サイクロン』を攻め落とすか……

 アーツバスターたちが何人いるのかわからない状態で、奇襲にも似た作戦を考えつかなければならなかったのである。



「あっ!?」

 地図を見ながら、ふとっマーシャルはある事に気がついたのであった……


『土の街グランディ』の砂漠を超え、国境を通り『風の街サイクロン』へと進んでいく……

 山々にが多いこの地方には聖地と呼ばれる物が存在している。



 剣の聖地『ウイッシュ』……

『風の街サイクロン』から山を越えた場所にある。


「これしかないわね……」

 マーシャルの妙案は、上手く行けば作戦を決行させるのに十分な戦力を補充する事ができる。

 訓練を開始したヴァルディアを、マーシャルは再び呼びつけたのであった。




「マーシャルさん……急な呼び出しとの事ですが、どうかしましたか?」

「ヴァルディア、あなたに剣の聖地『ウイッシュ』に赴き、シュトラーフェと言う人物にこの手紙を必ず手渡ししてほしいのよ」

 手紙を受け取り自らの懐に入れたヴァルディアは、

「シュトラーフェさんですね、わかりました」


「これは、今後の作戦において重要な役割を持ちます。

 ヴァルディア……(わたくし)はあなたを信じて作戦の続きを練ります。

 任せましたわよ」

「はい! 必ず渡します!!」


 こうしてヴァルディアは、剣の聖地『ウイッシュ』に向け直ちに出発したのであった。

 マーシャルも精鋭部隊を編成し、最終的な作戦を練り始め『風の街サイクロン』への奪還作戦決行まで、後少しと迫ってきていた。




 ◆◇◆◇◆



 ヴァルディアはひたすら砂漠を歩き、検問を越え剣の聖地『ウイッシュ』を目指していた。



 はるか昔……

 伝説の剣士となったウイッシュと名乗る者が、後継者を育てぬまま年老いていた。

 ある日、自らの死を感じたウイッシュは、弟子をとり後継者を育てようと考え始めた。

 山の上に構えた道場は、入門希望者が後を絶たず……

 厳しい修業を耐え切る事が出来た者は一流の剣士とし成長を遂げて行った。

 剣の道を極めるなら『ウイッシュ』に行け……

 と噂が噂を呼び、いつしか、山の上の道場は剣の聖地『ウイッシュ』と呼ばれるようになったのである。




 そんな場所にヴァルディアはマーシャルの手紙を持ち、十二日間かけ漸く辿り着く事が出来たのであった……


 急な坂道を登り息を切らせながら、道場の門の前まで行くと門弟と思われる一人の男が立っていたのである。

「何用だ?」

「シュトラーフェさんという方にお会いしたい」

「なに? 師範に?」

「アーツハンター戦闘隊総司令官マーシャル・フォン・フライムより、シュトラーフェに手紙を預かってきています」



 門弟はヴァルディアを下から上へと見渡し、暫し待てと話すと奥へと行ってしまったのであった。


 ヴァルディアは、言われた通り暫く門の前で待っていると……

「ちょっと、邪魔!」

 不機嫌な声がヴァルディアの方に向けられていた。

 慌ててヴァルディアは後ろを振り返り、道を空け不機嫌な声をかけてきた少女をじっと見つめてしまうのであった。

「なによ……?」

 少女は眉間にシワを寄せ更に不機嫌になり、ヴァルディアを睨みつけている。


 その面影をヴァルディアは覚えていた……

「リッリーサ?」

 思わず声を少女をそう呼んでしまったのである。

「?」

 名前を呼ばれた、少女はヴァルディアの顔を見つめる……


「あっ! ヴァルディア?」

 リーサは漸く声をかけたのが、ヴァルディアと認識する事が出来たのであった。


「久しぶりだね! リーサ」

 リーサは久しぶりの再会に涙を必死に堪えるのに精一杯で、ヴァルディア質問に答える事が難しく頭を上下に振りながら答えていた。


 リーサとヴァルディアが会話をしている所に、門弟が戻ってきたのである。

 戻ってきた門弟は、泣いているリーサの姿を見て驚き、鬼の形相をしながらヴァルディアを睨みつけ怒鳴りつけてきたのであった。

「貴様! 何をした!?」

 怒り、剣を抜く門弟にヴァルディアは驚きが隠せなかった。

 しかし、リーサが間に入ってきたのである。

「あっ! 待って! 彼は私の幼馴染なの!」

 剣を構えながら、門弟はヴァルディアを変わらず睨みつけている。

「幼馴染だと? リーサと? こいつが?」

「えぇ、そうよ。だから剣を納めて……」

 リーサの言葉に門弟は、剣を渋々納めて行くのであった。



「シュトラーフェ師範が、お会いになるそうだ。ついて来い」

「ヴァルディア、シュトラーフェ師範に何のようなの?」

「色々あってさっ、詳しい事は俺にもわからないんだ。手紙を渡すよう頼まれただけだから……」

 リーサはそう……と返事をし、門弟と共に中へと入って行くのであった。



 中庭を通り、更に奥に進むと木造作りの立派な道場が見えてきた。

 広い道場の中にヴァルディアはポツンと座り込み、シュトラーフェが来るのを待っている。

 壁には門弟の名前が一人ずつかかれており、その中にはリーサは勿論ディア、サン、ゼーンの名前も刻まれていた。


 “みんな、離れ離れになったけど頑張っているんだな……”


 と刻まれている名前を見ながらヴァルディアは感心していた。


 すると、威圧的な空気をまとい、ヴァルディアは鳥肌が立つほど身震いしていた。

 ゆっくりと歩いてくる姿は、背中まで伸びていた艶やかで美しい銀髪。

 透き通るような蒼い瞳。

 優しくヴァルディアに向けられる微笑みは、母性と神秘性とを兼ね備えているかのように思えた。

 そんな美しい女性が、ヴァルディアの前に現れたのである。


「待たせたな。マーシャルが使者を寄こしたと聞いたのだが、お前か?」

 余りにも美しさにヴァルディアは言葉を失い、シュトラーフェの問いに答える事が出来なかったのである……

 リーサに背中を叩かれ、ヴァルディアは正気に戻る事が出来たのであった。

「……えっと初めまして、ヴァルディアと申します。

 アーツハンター戦闘隊総司令官マーシャル・フォン・フライムより、手紙を預かってきました」

 ヴァルディアはそう言いながら懐に手をやると、その瞬間周りから発せられる殺気を感じ、堪らず懐から手紙を取り出す事が出来ずリーサに半泣きしながら必死に訴え始めた。

「リーサ、怖いよ……」

「ヴァルディアが、不用意に懐に手を入れるから暗殺者と思われたのよ!!」

 当たり前じゃない!

 とリーサは続けていた。


「どうした? 何を怖気ついている?」

「しっ……失礼しました……」

 ヴァルディアはリーサの方に身体を向き、懐から手紙を出しリーサに頼む……と言うとリーサは渋々受け取った手紙をシュトラーフェへと渡してくれた。



 手紙を一通り読み終えたシュトラーフェは、ふっと笑っていた。

「マーシャルが戦闘隊総司令官とはな……随分と出世したものだ……ヴァルディア!」

「はっはい!」

「お前はこの手紙の内容知っているか?」

「いぇ、中身は見ておりません」

「そうか……なら読んでやろう」


『シュトラーフェへ

『風の街サイクロン』を取り戻したいので十人程精鋭部隊を『風の街サイクロン』へ派遣して!

 マーシャルより』


「……」

「それだけですか……?」

「あぁこれだけだ」

「……」

 余りにも短い内容にヴァルディアは口をポカンと思わず開けてしまったのであった。

「しかし、暫く会ってはいないが相変わらずだな。マーシャルは…」

 腕を組みながらシュトラーフェはそう話ししていた。


「ヴァルディア、私がこの依頼断ったらどうするつもりだ?」

「えっと……断れた時には、これを渡せと言われました……」

 ヴァルディアは、自分は暗殺者ではない事を示すかのように、頭を床につけ再度一通の手紙をシュトラーフェへと差し出したのである。


 受け取った手紙をシュトラーフェは目を通し始める。

 すると……

「ふっふははははははは!!」

 道場にいた門弟たちの皆は、滅多に笑わないシュトラーフェの大笑いを初めて見たかもしれない。

 それと同時に……


 “手紙の内容を知りたい!!”


 と誰もが思っていた。


「ヴァルディアよ……」

「はい?」

「私はマーシャルに一言、言わねばならぬ事が出来たようだ。我ら『ウイッシュ』は精鋭部隊十名、協力してやる」

「おぉ!! ありがとうございます! シュトラーフェさん!!」

 マーシャルがどんな内容の手紙を書いたのかそれは、誰にもわからず当人同士のみ知る事となったのであっが、ヴァルディアは無事にマーシャルの頼みを叶えてあげる事が出来ホッとしていた。


 ヴァルディアは、更にもう一通の手紙をシュトラーフェに渡したのである。

 これは、最終的にシュトラーフェが協力すると判断した時、渡すように言われていたものであった。

 手紙には、作戦の日時、協力方法が詳しく書かれており、シュトラーフェは早速準備に取りかかったのである。



 作戦成功の知らせをマーシャルに伝えようと、ヴァルディアは『土の街グランディ』に戻ろうと思っていた。

「まて、ヴァルディア……今から帰ると、作戦決行までに着くことはないぞ」

「えっ……?」

「マーシャルの手紙にも追記で書かれていたんだか、お前さえよければ数日間稽古つけてやるが、どうする?」

「はい! よろしくお願いします!!」

 ヴァルディアは、迷う事なくそう答え『ウイッシュ』で生活していた数日間……

 ここに住むたちの強さを目の辺りし、己自身の強さに磨きをかけて行ったのである。

 更にリーサの他にも、ディア、サン、ゼーンと共に剣を交える事が出来たヴァルディアはマーシャルに感謝していた。


 そして、満月の夜が訪れる………



 マーシャルは、ルークに連絡を取り……

 ヴァルディアは、剣の聖地『ウイッシュ』で出撃の準備を始めていた……






第五十二話 『風の街サイクロン』侵攻作戦開始

1月19日19時更新予定です。

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