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Arts hunter   作者: kiruhi
少年編 ー風の街サイクロンー
50/118

第四十九話 約束の三ヶ月……

 ドランゴは俺を無理矢理『風の街サイクロン』に連れてきた。

 そしてドランゴが言った言葉は……


 三ヶ月間『風の街サイクロン』で生活しろ。


 だった。



 この街の人たちは、ドランゴの行った政策のお陰なのか優しい人たちばかりだった。

 納得したくはなかったが俺にとって、実に住みやすい場所なのは事実であった。

 街の皆は差別する事なく、背中の烙印がある俺を誰も贔屓目で見る事はなかった。

 俺だけじゃない、他の背中に烙印がある元奴隷たちをいたぶる者や蔑む者は誰一人いなかった。



 そして、有無を言わさずにドランゴと勝手にされた約束の三ヶ月が、過ぎようとしていた。


 俺はアーツバスターになるか?

 ならないか……?


 その結論を出す刻が迫ってきていた……



 ドランゴの勧誘に乗り、アーツバスターになる。

 俺はロールライトに帰らずにここで生活する……

 それもまたいいのかもしれない……

 と思い考えている自分がいる。


 その一方では俺は、村の皆を殺したアーツバスターたちが憎い……

 セルビアを裏切る事は出来ない。


 板挟みの思いがあり、俺はずっと考えていた……

 考えないように生活を送ってはいたが、やはり考え込まない日はなかった。



 そして、俺が出した結論は……

 ここにいた方が確かに楽なのはわかっている。

 理不尽な言い訳を理由にし処刑される事もないし……

 背中を出して堂々と生活できるこの街はいい所なのもわかっている。

 それでも俺はアーツバスターになる事を、どうしても受け入れる事は出来ない……



 願わくは……

 ドランゴが、今日俺に会いに来ない事……

 マーシャルたちが奪還作戦を開始し『風の街サイクロン』で戦闘が開始される事……

 戦闘が始まれば流石のドランゴも、俺に構っている暇はなくなるだろう……


 お気に入りの風車の中で、薄っすらと見えるロールライトの方を眺めながら俺は、そんな事を考えていた。



 しかし、そんなに現実は甘くなかった。

 風のエレベーターを使いながら、俺の目の前におじちゃんが現れたのである。

「にいちゃん……ドランゴさんが呼んでいたぞ。 約束とかなんとかって言っていたけど……」

「はい……」


 “やはり避けられないらしい……”


 気乗りのしない返事に、おじちゃんは不思議そうな顔をしていた。

「まぁとにかくドランゴさんは、広場のゲートで待っているから早く行くといい」

「……はい」


 風のエレベーターで下に降り重い足取りで、ゲートまで歩いて行く……


 “マーシャルさん早く来て……”


 まだ来るには早すぎるマーシャルを思いながら、俺はドランゴと対面を果たした。

 それは実に三ヶ月ぶりの対面であった。




 ◆◇◆◇◆



 ゲートの中心にドランゴは立っていた。

 ドランゴの後ろには、アーツバスターの幹部と思われる者たちが十名程集まっている。

 中には物凄い形相で俺を睨みつけてくる青年。

【生気のアーツ】を使う女性が、優しく見つめていた。



 暖かい風が吹き付ける中、俺とドランゴの間にゲートを挟み直線的に対面していた。

 その距離約五十m……


「よぉ、今日で約束の三ヶ月だ……覚悟は決まったか?」

「俺は……」

 拳を握り締めながら、俺はドランゴを見る事が出来ずうつ向いてしまう。


「……俺は」


 アーツバスターとして生きるか……

 それとも、アーツハンターとして生きるか……


 ここに来る前に、決めてきた筈だった。

 なのに……

 ドランゴが目の前に立っていると思うと気持ちが最大限に揺れている。


「くっ……」


 ドランゴは俺に近づいてこようとはしない。

 黙って、俺が出す結論を待っているようだった。


 暖かい風は、俺の背中を優しく包み込んでいる。

 背中にある烙印をさらけ出し街中を歩けるなんて、本来なら信じられない事だ……

 だがこの街ではこれが現実だ……


 ふぅ〜と息を吐き出し、俺はもう迷わない……そう覚悟を決めた。



 決意した俺は、顔を上げドランゴの顔を見つめる。

「俺は、アーツバスターにはならない!」

 この場に集まっている全てのアーツバスターたちに聞こえるぐらい大きく堂々と、俺は言い切った。



 俺の出した結論に、ドランゴは目を閉じていた……

「どうしてもか……?」

「はい」

「ならば、俺はお前を無理矢理仲間にする……

 使いたくなかった最終手段に出るが、それでもか?」

「どんな事をされようが、アーツバスターにはなりません」

「わかった……」


 ドランゴは目を開き俺の方にゆっくりと近づいてくる。


 “やはり、力ずくか……

 とても勝てるとは思えないが……

 せめて、マーシャルさんが来るまでなんとか持ち堪えないと……”


 ゲートを通り越し、俺との距離も約十五mぐらいまで迫ってきた。

 ドランゴの放つオーラと言うか、身体を取り巻く波動は脅威的だった。

 俺がいつも使っている黒の波動と、何処と無く違い違和感さえ感じてしまう。


 対峙しているだけで、ドランゴに背中を向けて逃げたしたくなる自分がいた……

 冷や汗と共に両足がガタガタ震えているのを、誰にも悟られないように賢明に立っているので精一杯だった。

 これ程まで殺気を放ちながら、向かってくるドランゴを俺は知らない。


 ドランゴも本気なんだな……と思った。


 でも、俺はアーツバスターにならないと決めた……

 だから、最後の最後まで抵抗してやる!


 頭を横に振り、恐怖を払いのけドランゴを真っ向から俺は構える事にした。




「待って下さい、ドランゴさん!」

 突然後ろの方からドランゴに声をかけてきたアーツバスターがいた。

「?」

 その声にドランゴは振り返る。

 ドランゴに話しかけてきたのは、俺を誘拐した三人のうちの一人……

 生き残りの青年だった。

 まぁ俺が女性も少年も消し去ったんだが……



「なんだ?」

 青年は他のアーツバスターたちの間を潜り抜け前に出てくる。

 そして、ドランゴの目を見ながら俺に指を指してきた。


「ドランゴさん、三ヶ月前に俺と約束しましたよね! 覚えていますか?

『最終的にあいつが俺たちの仲間にならないと結論を出した時、俺は黙ってはいない』と……!」

「……あぁ、憶えている」

「その時ドランゴさんは、『その時はお前の好きにしろ。俺は止めない』と言いました!」

「………」

 ドランゴは青年の目を真っ直ぐ見て、一時も目を逸らさない。

 青年の死の覚悟を、ドランゴは受けとっていたのかもしれない……


「わかった、好きにしろ……」

 ドランゴは青年の肩をポンポンと叩き、後ろの方へと下がり元の位置へと戻る。

 そして、何も言わず俺をじっと見つめていた……



「漸く、俺はお前を殺す事が出来る……この三ヶ月、実に長かった……」

 青年は、そう言いながら俺に近づいてくる。

 抑えきれない怒りを今にも爆発させ、飛びかかってきそうなぐらい殺気が込められていた。


「これで、あいつらも浮かばれる……」


 “あいつら……?

 あぁ……俺を攫った時にいた銀髪で短髪の少年と【誘惑のアーツ】を持っていた女性か……

 そういえば、あの時回収した【誘惑のアーツ】はどこに行ったんだろう……

 目が覚めた時は、持っていなかったけど……”


 そんな事を考えている俺を、無視して青年は【剣のアーツ】を発動してきた。


 “あのアーツは【剣のアーツ】!! アードさん!?”


 青年は俺に結論を出させてくれる暇を与えてはくれなかった。

 片手で大太刀を振り回しながら突撃してきたのである。

「おらっ!!」

 大太刀を振り回しその遠心力で青年は、俺めがけて思いっきり横に斬りつけてきた。

 俺の目には、その攻撃が避けるのも馬鹿らしいぐらいスローモーションに見えた。

 一歩前にしゃがみ踏み込み、大太刀は俺の頭上を音を立てながら通過して行く。

 大太刀の攻撃を避けた俺は一気に距離を詰めて行く。

 青年の後ろを取り、思いっきり腰のあたりを殴りつけた。

 鈍い音と共に、青年は少しだけ後退し片膝を突きながら腰を抑えながら俺を睨んでくる。


 俺は黙って青年を見下ろしていた……


 青年は片膝を尽きながらも、再び剣の柄を握りしめ軽々と俺めがけて振り上げてきた。


 ブオンッ!


 と風切り音と共に鼻先をかすめていく。

 この攻撃も俺には余裕で、避ける事が出来ていた。


「くそっ!」

 悔しそうに青年は立ち上がり、今度は両手で大太刀を握りしめる。

「はぁっ!」

 と青年は気合を入れ、みるみる青年の持っている大太刀だけが波動をまとい始めた。


 どうやら見た感じ【最上アーツ】も波動をまとう事が出来るようだ。

 しかし【レアアーツ】や【神アーツ】と異なり【最上アーツ】は身体全体をまとう事は出来ないようだ。

 触媒としている物……

 つまり剣とか盾とかにしか、波動をまとわせる事が出来ないように俺には思えた。



 大太刀の波動を目にしながらも、俺は焦ってはいなかった。

 青年はアーツバスターの中で幹部の位置にいる。

 普通に考えれば強い部類の人間なのかもしれないが、実際の所俺の相手ではない……


 ギレット爺さんの方が何倍も強いし速い……

 ドランゴの殺気の方が遥かに怖い……


 そして、青年が【剣のアーツ】を使っていたのが俺には許せなかったのかもしれない。


【剣のアーツ】を見ると俺は、村で全体出会ったアードを思い出してしまう……


 青年の持っている【剣のアーツ】は地道に成長し進化を果たした物?

 それとも誰かから奪った物?

 奪ったとしたら、それはアードから奪ったの?


【最上アーツ】は進化系統のアーツだ。

 だから、持っている人は複数いる。

 それがわかっているのにも関わらず、使い手がアーツバスターだけに、俺の中で余計な懸念が生まれてくる……


 “アードを殺し奪ったのでは……?”


 ないかと……



 そんな俺の考えを無視して波動をまとった大太刀は、カマイタチのように三日月の形をしながら、俺に襲いかかってきた。

 俺には青年の考えが手に取るように読めていた。


 まず、間違いなく俺がカマイタチを避ける事を、青年は予測している事だろう。

 そして、俺が避けた隙に青年は間合いを詰め、最高の一撃を放ち俺を倒そうとしている。


 スローモーションに見える、カマイタチの後ろから青年が近寄ってくるのを見ながら、俺の読みは予測から確信へと変わって行った。



 まず俺は、【黒のアーツ】を発動し黒い波動をまとい、左手でカマイタチが当たる瞬間……

 カマイタチごと消し去る。

 間合いを詰めてきていた青年は既に飛び上がり、俺の目の前で大太刀を振り下ろしてきている。


 “隙ありとでも思っているのだろうか……?”


 青年の動きに焦る事もなく、俺は振り下ろされた大太刀を黒の波動で受け止め、柄だけ残し刀身を消し去って行く。


「!!」

 青年は、目を丸くしながら驚き……

「化け物め……」

 苦笑いをしながら吐き捨てきた。


 そんなセリフを吐く青年に、俺が手加減する理由は何一つなかった。


 俺は手の中にあった柄に黒の波動をまとわせ、青年の胸へと投げつける。

 柄は胸に当たり、両手で受け取る形となった。

 そして、自分の身体が徐々に消えて行くのを感じていた事だと思う。

 青年は何も言わず、ドランゴだけを見つめていた。

 黒い波動に飲み込まれ、青年は静かに消えて行った……


 アーツバスターたちは絶句し、何も言わず俺の姿をただ見つめているだけだった。



 再びドランゴは口を開いた。

「なぜ、そこまでしてお前は俺たちアーツバスターを憎む……?」

 ドランゴは、消えて行った青年に対して何も言わなかった。

 目の前で部下が消え去ったのに何も……


 ドランゴのその態度に俺は少し苛立っていたのかもしれない。

 話す気など全くなかったのに、気がついたら俺は口を開いていた……


「アーツバスターは俺の村を焼き払い、村のみんなを全て殺していった……

 そんな奴らと共に歩めるかよ! 俺は絶対アーツバスターを許さない!」


 ドランゴは俺の言葉に平然としていた。

「そうか……お前の村をか……」

 そう言いながら、ドランゴにとって村を滅ぼすのは日常的な事なのかもしれない。


 ふむ〜と言いながらドランゴは考え始めた。

 心当たりがいっぱいありそうな雰囲気を出しながら……俺に再び聞いてくる。

「それで、その村は何という村だ?」

「『ロサの村』」



 ドランゴは顎に手を当てながらブツブツと何やら言い始めた。

「ロサ……ロサの村……何処かで聞いた事があるな…… うーんどこだっけかな……」


「ふざけるなぁ!!」

 思わず俺は大声で声を、張り上げた。


 何も罪もない平穏に暮らしてきた村の皆を平然と殺した上に覚えていない……

 その事がきっかけで、俺の中で今までずっと我慢してきたものが、一気に爆発したのかもしれない。


「あんたたちは、【最上アーツ】へと進化した【火炎のアーツ】を手に入れる為だけに、俺の村を!!」


 一呼吸置きドランゴを睨みつけながら叫んだ。

「俺の村ぉぉぉぉっ!!」


 そう俺は叫んだ。

 思いっきり……

 両の拳を握りしめ力いっぱい叫んだ。

 一粒の涙を流しながら、それは絶叫に近かったかもしれない。



 怒鳴り散らしている俺にドランゴは顎に手を当てたまま、淡々と話しかけてきた。

「うるさい、少し黙っていろ」

「うっ!」

 ドランゴの眼光は鋭く、一瞬にして俺の涙を枯らしていった。

 堪らず腰を抜かしその場で座り込みそうなぐらい、威圧感に満ち溢れていた。

 辛うじて立っていられたのが、奇跡だった……



 顎に当てていた手を外し、ドランゴは何かを思い出したかのようにポンっと手を叩いていた。

「ふむ、あの時か……」


 それは、ドランゴがアーツバスターになり、ヴィンランド領に幾度も足を運び、【最上アーツ】へ進化した事を村を襲い強奪していた時、確かにロサの村も襲っていた事を思い出したのであった。

 しかし、ドランゴはその事をすぐには俺には伝えない。

 伝えないまま黙ったまま憎しみでいっぱいになっている俺を見てながら考えていた。


 “……となれば、あいつの仇は俺か?

 アーツバスターになるのを拒むはずだ……

 しくったかな……

 しゃあない、起こってしまったものは元には戻せない。

 俺も覚悟を決めるか……”


 沈黙が流れる中……

 ドランゴは俺に伝えてきた。

「……確かに俺は、お前の村を襲っている」

「なっ!?」

「村人を一人残らず殺し、アーツを回収したのちに村を焼き払えと命令したのは俺だ」

「!」

「まぁ最も俺に、命令を下したのは総帥だけどな」


 ドランゴの一言に俺の頭の中は真っ白になった。


 “仇が目の前に………いる”


 そして、気がついた時には、地面に仰向けて倒されていた。

 何が起きたのか、さっぱりわからない。

 ドランゴや俺のアーツバスターたちは俺を見下ろしている。


 “俺を……俺を、見下ろすなぁ〜!!”


 再び立ち上がり黒の波動でまとった拳を、ドランゴに向け殴りかかって行く。

 すると、視点が逆転し

「あれ?」

 と思う暇もなく空を見上げていた。

 空には、何も知らない鳥が優雅に羽を広げて飛んでいた。

 右足だけがジンジンとして妙に痛かった……



 “思い出した! ドランゴは俺の拳を片手で防ぎ、右足を払いのけ俺を倒してきたんだ……!”


「……何度もやっても無駄だ」


 “何度も……?”


 どうやら先ほども、同じように向かって行き地面に倒されたようだ……

 覚えていないけど……


 そんな俺の姿を見ながら、【生気のアーツ】を使う女性はドランゴに近寄ってくる。

「もう、無理じゃない? ドランゴ?」


 ドランゴは黙って、俺を見下ろしてくるだけだった。

「私が皆の思っている事を代表して言うわ。

 彼は自らの意思で、アーツバスターにはなる事はない……」


 ドランゴもその事をわかっていた。

 たが、最後の手段をドランゴは取りたくなかった……

 俺の仇がドランゴだとわかった以上、ドランゴは諦めたようだった。

「本当はこんな事したくなかったのだがな……仕方ないか……」



 ドランゴは俺の襟首を右手で掴み身体を宙に浮かせる。

「くぅ……離せっ!!」

 俺の言葉を無視し、見ているだけだったアーツバスターたちの方を向き合図を送る。

 合図を送られた女性は前の方へと現れた……



「!?」

 女性は俺の知っている人だった……

 仲の良かったヤキトリ屋のお姉さん……スフェラがドランゴのすぐ隣に立ち俺を見ている。

「スフェラさん……?」

「ごめんねぇ、ルーク君」

「なぜ……?」

 スフェラはウィンクしながらそれだけ話、なぜ?という俺の質問には答えてくれなかった。


「おいっ無駄口叩くな。俺がこいつを抑えているから、さっさとやれ……」

「……ドランゴさん、ルーク君の心は今、拒絶に満ち溢れているわ……

 この状態で【誘惑のアーツ】を使っても意味ないわよ……」

「なら、どうすればいい?」

「心を折るか、瀕死の何も考えられない状態にして」

「ちっ……」


 ドランゴは舌打ちしながら、小声でやれやれ……

「悪く思うなよ……」

 そう言いながらドランゴは左拳を握りしめて、思いっきり俺を殴りつけてきた。

 俺の身体は、その衝撃に耐えきれるはずもなく、ドランゴの手から勢い良く吹き飛ばされ五、六回転程地面を転げ回った所で受け身を取る。



「はぁはぁ」

 四つ這いになりながらも俺はドランゴを睨みつける……


 ドクンッ!


 身体の節々が悲鳴を上げているかのように、電気が走った。

「うっ……がはっ!!」

 辛うじて意識を失う事はなかったものの、ドランゴの一撃は身体にかかる負担を激しかった事を物語っていた。

 思わず口から血を吐き出していた。


 “この衝撃、ギレット先生並みだよ……“


 久しく会っていないギレット爺さんを、俺は思い出していた。


 “よし……設定をギレット先生と特別訓練している。そう思おう……”


 ドランゴは俺に近づきながら、新たな攻撃をしかけてくる。

 今度は、直径五十cmぐらいの球体を幾つも作り出し、俺めがけて投げつけてきた。


 それを避けつつ、痛みに耐えながらドランゴに近づいて行く……

 ドォーン!

 ドォーン!

 と激しい音が響き渡り土煙が巻き上がる中、【黒のアーツ】を発動し俺も負け時と黒い球体を、ドランゴに当てる。


 “よし!!”


 と思ったのだが、ドランゴは消滅しなかった……

 黒い球体はドランゴの身体をまとう波動の前で、消えて行ったのであった。

「!!」


 “なぜ!!”


 今まで、こんな事はなかった!



「ふむ……竜の闘気の前では、お前の攻撃は効かないらしいな」

「竜の闘気……?」

「波動を更に強化すると、それは闘気となる……

 闘気を超える力を手に入れない限り、お前は俺を……

 いや、アーツバスターを倒す事など夢のまた夢だな……」


 “くそっ……! 俺はドランゴを倒せないのか……!?”


「さてと……」

 ドランゴは、俺に近づいてくる……


 “くっくるな……!”


【黒のアーツ】が効かないとなると、俺には抵抗出来る手段が思いつかない……

 何も思い浮かばず八方塞がりの状態の中、ドランゴから放たれる威圧感に負け、俺はジリジリと後退して行く……

 突然、俺の身体の周りを波動が取り巻いてきた。

「!?」


 しかしその波動は俺がいつもまとっている波動ではなかった。

 ドランゴがまとっている闘気とよく似ている……


 “やばい!”


 と思った時にはすでに遅かった。

 宙に浮いたまま闘気は勢いよく俺をドランゴの目の前に連れていく。

 両手を俺の胸に当て、俺の方を見つめてくる。


 “なんとかして、マーシャルさんが来るまで持ち堪えないと……”


「お前はすぐに顔に出るな……

 この状況でアーツハンター共が来ようが、現れた瞬間後ろのあいつらが攻撃をして終わりだろ?」

「!!」


 “なぜ、それを……?”


 そんな質問をしてしまいそうだった。

 質問をすれば、マーシャルたちがここに来る事を認めてしまう。

 だからここは沈黙するしか俺には、選択肢が残されていなかった……


「なぜ、それを? っていう顔をしているぜ?」

「!」


 言わなくてもばれてしまった……

 ドランゴの洞察力が凄いのか、ただ単に俺の表情が読みやすいのかわからないが、ドランゴにばれている以上、マーシャルが作戦を遂行するのは大変危険である。

 そう思ってはいても、今の俺にはなす術はない……


「昨日の夜、綺麗な満月の夜に一本の光が宿屋の方を指していただろう?

 あんなのを見れば、お前と連絡を取りに来たと考える。

 そしてお前と連絡を取るりたいと思うのは、アーツハンターたちだ。

 となれば、アーツハンターたちはここを攻めてくると言うのは簡単に予測出来た」

「くっくそぉ〜」


「まぁお前は心配するな……

 アーツハンターの奴らと今後戦ったとしても何も感じる事はなく、大暴れできるから」

「!!」


 身動きの取れない俺にドランゴはそう言い、それ以上俺に何も言わせる事をしなかった。

「竜の逆鱗!」

 その言葉と共に、両手から闘気の衝撃波が俺を襲いかかる。


「がはっ!」

 激しい衝撃波はギレット爺さんの使う【衝撃のアーツ】以上に破壊力は強く、衝撃波を喰らった場所は煙を上げていた。

 血を吐き白目を向きながら、身体を痙攣させている。

 衝撃は俺に考える暇を与えてはくれず、深い闇の底へと連れて行かれたのであった。

 力の抜けた俺の身体は、糸が切れたかのようにその場で倒れこむ事しか出来なかったのである………



「永遠に眠れ、ルーク。

 そして、アーツバスターの世界へようこそ。

 俺はお前を歓迎する……」


 ドランゴは倒れている俺を見ながら、声が届かないのを知りながらもそう呟いていた。






第五十話 封じられた意思

1月5日19時更新予定です


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