第四十八話 揺れる想い、ドランゴの秘密
俺は『風の街サイクロン』で生活するようになった。
ここにいればいる程、心地いいと感じてしまう自分がいた。
そして、ドランゴの元へと駆けつけしまう……
気持ちが揺らいでいるのが良く分かる。
その度に、俺は気持ちを再確認する……
“俺はアーツバスターには絶対ならない!”
と……
しかし、それでも精神的に少し参ってきた。
なので、俺は考える事をやめた。
三ヶ月後にドランゴは、再び俺に聞くと言っていたんだ。
そして、俺の答えはもう決まっている。
ここにいるのは、ドランゴに脅され仕方がなくいるのだ。
マーシャルたちが立てた、『風の街サイクロン』奪還作戦ももうすぐ開始されるはずだ。
必ず成功させる。
アーツバスターは一人残らず俺が………
何故かその後の考えに、一瞬止まってしまった……
“何故、一瞬考えが止まる……
消し去って、村の皆の敵討ちだ…!!”
疑問符が浮かび上がりそうだったが、俺は自分にそう言い聞かせていた。
奪還作戦が始まれば俺は、街の皆の裏切り者になるのかもしれない。
マーシャルが立てた作戦に、街の人たちを傷付けるような作戦を立てないとは思うが……
何が起きるかわからないのが戦いだ……
最終的に俺はここの人たちに裏切り者と言われ罵られるのかもしれない。
それでも……俺は、ここに住む人たちに少しでも恩返しをしたかった。
強風で屋根が吹き飛んだら、総出で修理に当たる中に入り一緒に修理したり。
店の品出しの手伝いや店番……
果実の仕分け……
風車の修理の手伝い……無理を言って見張り番をしてみたり……
取り敢えずなんでもやった。
「ルークが手伝ってくれると助かるよぉ〜」
そう言われると、少し照れなが手伝う俺がいる……
色々な事を手伝いながら俺は『風の街サイクロン』で生活を送っていた。
そして、あっという間に三ヶ月が経とうとしていたのであった……
ヤキトリを売っているお姉さんともいつの間にか仲良くなっていた。
お姉さんの名前はスフェラと言い元奴隷だった。
だから、スフェラにも背中に烙印がある。
スフェラは、優しくどこか惹かれるものがあった。
だからなのだろうか……?
俺がここに来て、ドランゴにアーツバスターになれと勧誘されている事を、ついぽろっとスフェラにだけ話してしまった……
スフェラの店の手伝いをいつも通りにしていた時だった。
デーブルを拭いている俺に、
「ルーク君、働かなくていいのに……」
とスフェラは言ってくれる。
それは俺には背中に烙印があるから?
言わせている言葉なのだろうか?
「ぼぉ〜としているより動いていた方が、気分が紛れますから……」
ヤキトリを網の上に置きながら、スフェラも疑問を聞いてきた。
「気分を紛らわすって……ドランゴさんの申し出まだ悩んでいるの?」
「………」
スフェラの言葉は、核心をついていた。
“俺は、アーツバスターにはならない!”
と、心に誓いこれ以上考えないようにしながら、この三ヶ月過ごしてきた。
でも………
どうしても考えずにはいられなかった。
だから動きまくって、気を紛らわそうかと思ったんだけど……
スフェラに見透かされてしまったようだ。
「私ならすぐオッケーだすのになぁ〜
アーツバスターになる事で、なにか心残りな物でも出来るの?」
「うん……」
「………それはなに?」
スフェラの質問に俺は答えたくなかった。
今まで黙っていたのに、答えたら負けのような気がしたから……
スフェラはヤキトリを焼きながら汗を拭いながら察してくれた。
「まぁ話したくないなら、それ以上聞かないわよ。
でもドランゴさんと約束した三ヶ月の猶予はもう少しでしょ?
そろそろどうするか決めた方がいいわよ」
「……うん」
それ以上スフェラは、この件について何も言わなかったし、何も聞く事はなかったのである。
“揺らぐな……俺の心!
俺はアーツバスターにはなりたくない!”
でも……
と頭のどこかで疑問符が浮かび上がってくるのは事実だった。
浮き沈みながらも、結局俺は考えずにはいられなかった……
ドランゴにはあれ以来会っていない。
俺から行く理由もないし、会えば俺は何を言ってしまうかわからなかった。
そして、ドランゴも俺に会いに来ることはなかった。
監視しているのかもしれないが、鈍感な俺にはわからないし、街から出ればセルビアを殺すと脅している以上、街から出ないだろうと思っているのかもしれない……
宿屋の窓から満月を見上げながらそんな事を考えていた……
すると突然、満月から一本の光が俺に降り注いできた。
「!?」
驚き数歩後ろに下がると、透き通ったマーシャルが俺の目の前に現れたのである。
「マッマーシャルさん……!?」
「ルーク坊ゃ、元気そうでなによりですわ」
“あっ坊ゃに変わっている……”
そんな事を思っていると、マーシャルは話を続けきた。
「時間がないので、手短に説明します。
今、私は【月光のアーツ】を使い、意識だけ飛ばしルーク坊ゃと会話しています」
「意識だけ……ですか?」
「えぇ今日は、満月なのでこの技を使う事が出来ました」
ヴァルディアから聞いた事がある。
マーシャルさんが使う【月光のアーツ】が最大限に発揮できるのは、満月の日だと……
“意識だけ飛ばして、透明だけど姿を保てるって凄いな……”
俺が感心していると、マーシャルは本題に入り出したのである。
「私たちアーツハンターは、明日『風の街サイクロン』奪還作戦を敢行します」
「!!」
“遂にその日が来た!!”
そして、ドランゴとの約束の三ヶ月……
タイミングいいな……
「私たちは、こちら側……
つまり『土の街グランディ』側のゲートの封印を解き、再び再稼働させます」
「はい!」
「我々が到着するまで、アーツバスターたちに悟られないよう、ルーク坊ゃはいつも通りの生活をしていて下さい。
そして、我々が来た時には、直ちに合流を……」
「はい! わかりました、マーシャルさん」
「では……明日……」
そう言い、マーシャルは満月の方にゆっくりと消えて行ったのである……
“結構は明日……!!”
マーシャルの顔を見て、俺の揺らいでいた心は再び決心へと変わっていった……
◆◇◆◇◆
ドランゴは自分の部屋に、スフェラを招き入れ話をしていた。
「それで、どんな感じだ?」
「ん〜見るからにかなり揺らいでいるわね。
でも、やはり何か心残りなのがあるようね……
アーツバスターになりたいけど、でもやはりなりたくない。
そんな感じがしましたわ」
「ふむ、心残りか……」
「ねぇ、もう面倒いから一層の事、その心残り奪っちゃえば?」
「そんな事をすれば、あいつはアーツバスターにならない……だろうな」
「あら? そうなの?」
「人間という者はそんなもんさっ」
ふぅーんとスフェラは、ドランゴの顔を見ていた。
スフェラもドランゴと長い付き合いだが、ドランゴの過去を知らない……
ドランゴが何も己の事を語らないから……
「なら、この譲り受けた【誘惑のアーツ】で完全に落としちゃう?」
キラリッと光輝く【誘惑のアーツ】をドランゴに見せながら、スフェラは微笑んでいた。
「それをやると、あいつは何も考えないただの殺戮人間になってしまうだろうが……
俺としては、自らの意思で決別しアーツバスターになってもらいたい。
だから、それは最後の最後……本当の最後切り札として使いたいな」
スフェラは甘いわね……と小声で言いながらクスッと笑い別な事を話してきた。
「まぁその時は声をかけてね、ドランゴ……」
「あぁ……」
そう言いスフェラは、ドランゴの部屋から出て行ったのである。
ドランゴは、ルークとここ『風の街サイクロン』で再会を果たした際、ルークの手に握りしめられていた【誘惑のアーツ】を回収していたのである。
そして【誘惑のアーツ】をスフェラに渡し、監視の命令を降していた。
更に、ルークには【誘惑のアーツ】を発動し、いつでも虜に出来るようわからないぐらい、軽く【誘惑のアーツ】を発動するよう話していた。
その結果三ヶ月かけ、ルークにわからないよう気持ちをアーツバスターになるよう、仕向けていたのである。
「帰りたい場所か……」
ドランゴは忘れてはいなかった。
メシュガロスでルークが言った言葉を……
ドランゴには帰りたくても帰れない場所がある。
彼は元々この世界の人間ではなかった……
十歳の時だった……
ドランゴは地球という惑星の日本という場所で生まれ育っていた。
しかし、生を授かった際、心臓に難病を抱え生まれてきてしまったのである。
その為、幾度も入退院を繰り返す生活を余儀なくされていた。
学校にも満足に行く事が出来ず、友達も出来ぬまま……
病室で窓から外を見ながら過ごす事が多かったのであった。
そんなある日の夜、消灯時間になりドランゴは、いつものように病室で眠りについていた。
しかし、目が覚めるとドランゴは何もない白い部屋に立っていた。
突然の出来事に最初は夢かと思っていた。
だが……
羽の生え、天使の輪っかを頭上に浮かべる天使が目の前に現れたのである。
天使はドランゴに驚くべき真実を伝えてきた。
『貴方は眠っている間に、突然の心臓発作を起こし苦しむ事なく息を引き取りました』
ドランゴは最初、こいつ何を馬鹿なことを言っているだ?
と思い信じなかった……
信じないドランゴを無視し、天使は話を続けてきた。
『私は、あなたの事をずっと見てきました。
懸命に耐え続けるあなたの姿を……
そして、もう一度言います。
あなたは今、息を引き取り死にました。
これは変えられない真実です』
ドランゴは今にも天使に飛びかかり、怒鳴り散らそうになる自分を抑えるのに精一杯だった。
その悔しい顔を見ながら天使は、微笑みながら話しかけてくる。
『ですが、これから先のあなたの人生、価値ある物に変えてあげたい……
と私は勝手に考えました。
そして、実行致します。
あなたを別な世界へ転生いたします。
実りある人生を送って頂ければ良いと思います……』
ドランゴはなにも言えぬまま、グルグルの渦に飲み込まれ意識は、そこで途切れたのであった。
目が覚めた時、ドランゴはそのままの年齢と姿で見知らぬ場所に寝かせられていたのである。
背中が焼けるように痛くかった。
ドランゴは奴隷としてガルガゴス帝国で転生を果たしたのである。
【竜のアーツ】を持って………
見た事もない世界……
ドランゴは、天使が言っていた事を暫く受け入れる事が出来なかった。
しかし、現実は厳しくドランゴに襲いかかってくる。
ドランゴは、集団奴隷の一人として生活をする事になった。
確かに生まれつきあった心臓の難病もなくなり、体力もあり余っていた。
だが、何日も食べ物を与えらず、次第に現実を受け入れ始めたドランゴま我慢の限界を超えてしまったのである……
遂に雇い主を【竜のアーツ】で殺し、反逆を起こし逃亡したのである。
逃亡したのはいいが、行く当てもなく彷徨い続けた結果、ドランゴはすぐに捕まってしまうのであった。
半殺しに合い、意識朦朧としながら処刑されそうになった時……
『何が、人生を価値ある物に変えたいだ……
こんな思いをするぐらいならあの時、あのまま病室で死んでいたほうが、まだましだった……』
そう思いながらドランゴは、この世界に転生させた天使を恨みながら覚悟を、決めるしかなかった
だが、ドランゴは死ななかった。
たまたま処刑に、立ち会ったアーツバスターが【竜のアーツ】を持つドランゴを、気に入り引き取ったのだ。
その出会いは、ドランゴの人生を変えて行った……
アーツバスターの元に行ったドランゴは、次第に実力を発揮し今では、立派なアーツバスターへと成長していた。
そして、ドランゴを救った男も今では、アーツバスター最高責任者である総帥にまで昇りつめていた。
総帥にもドランゴは、恩返しをしたかった。
アーツハンター壊滅……
もしくは、降伏……
という名の恩返しを送りたいと思っていた。
十五歳になり、アーツバスターとなったドランゴは、順風満帆な生活を送っていく。
何不自由のない生活を送っていたドランゴだった。
ヴィンランド領に幾度も足を運び、【最上アーツ】へ進化した事を確認できた村があれば、仲間を連れて行き逆らう者全て殺し村ごと焼き払い、滅ぼして行ったのである。
気がつけば、二十歳になりドランゴは功績を認められ、『メシュガロス』最高司令官となっていた。
しかし、ふと思う時がある。
『元の世界へと帰りたい……』
とドランゴは思うようになっていた。
そんな時……ドランゴはメシュガロスで奴隷として連れて来られたルークと出会う。
【黒と白のアーツ】を持つルークとの出会いは、総帥への恩返しと共に、元の世界へと帰る事が出来る唯一の光に変わっていった。
そもそも【黒のアーツ】は、触れたものを消し去ってしまう。
ならば、元々この世界の人間ではなく転生という形で存在しているドランゴは【黒のアーツ】で、この世界から消え去り、もしかしたら元の世界へと戻れるのでは……?
まだ、ルークは【黒のアーツ】を上手く扱えていない状況ではあるが、それでもいつか……
と、そんな事を考えていたのである……
だから、ドランゴはルークの力を必要としていたのである……
「そうだよな……帰るべき場所へ、帰りたいよな……
お前……俺を返してくれよ……」
そう呟きながらドランゴは、満月を見上げていた。
満月は美しく光輝き、一本の光が宿屋の方へと指しているのをドランゴは確認していた。
そして、夜が明けて行く………
第四十九話 約束の三ヶ月……
12月29日 19時更新予定です。




