表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Arts hunter   作者: kiruhi
少年編 ー土の街グランディー
45/118

第四十四話 仕掛けられた罠

 訓練にも大分慣れて来たのか筋肉痛になる事も少なくなってきていた。

 自分の身体が、再び鍛えられて行くのを実感する事が出来てきた。

 そんな中、訓練内容も日増しに増えて行き、アーツの発動時の注意点や対処方法等、様々な事を俺は学んでいた。


 それはアーツハンター訓練施設、通称『ラグナロク』に行けなかった俺にとって、凄く勉強になる事ばかりだった。

 ヴァルディアは少しつまらなさそうに受けていたけど……


 個別の訓練にも、アーツハンターではない俺は参加する事が出来た。

 それはひとえにマーシャルの口添えもあった事だと思う。

 当の本人のマーシャルは、

(わたくし)は何もしていませんわ」

 と言っていたけど……

 マーシャルにもいつか何かの形で恩返しがしたいな……

 そう思っている。


 個別訓練では、まず【黒と白のアーツ】の特徴の再確認から始まり、色々な技の発案。

 実に楽しかった。

 元々アーツには固有の技がある。

 例えば【炎のアーツ】には炎の矢とか【氷のアーツ】だと氷の粒とか【回復のアーツ】には回復……などと決まった固有技が存在している。

 そして【神アーツ】になれば固有技の他に、創作して技を作り出す事が出来るらしい。

 例えば、ペリアの使う【天使のアーツ】。

 奥義と言われているフェアリーヒーリング……

 あれは、ペリアのオリジナルの創作技である。

 もう一つ考えられるのは、セルビアの焔大火球……

 創作技の一つではないかと俺は、思っている。


 しかし、【黒と白のアーツ】に関しては、固有技それ事態が何も記録に残されてはいなかった。

 だから、俺自身が自由に色々な技を考え編み出して行かないといけないらしい。

 勿論、メリット、デメリット全て考慮して……

 それはそれで少し面倒かもしれないが、発想のひらめきは大切にしようと思っていた。


 俺としてはやはり【黒のアーツ】の特徴でもある、攻撃を受けたら消え去ってしまう……

 これをどうにかしたかった……

「詭弁だな……その考えはいつかルークの身に降りかかるぞ」

 とヴァルディアに言われたしまった……

 詭弁なのかもしれない……

 でも、そして今の俺にはそれをどうやったらいいのかもわからない。

 それでも俺はいつかそのうち、そんな能力になればいいな……

 と思っている。




 本日の訓練も無事に終えた俺とヴァルディアは、宿屋にある酒場に来ていた。

 きっかけは俺が作り出した。

 たまには、ヴァルディアと晩の食事でもしたいな、と思い持ちかけたのだ。

 ヴァルディアも断る事なく了承し、色々な話をしながら食事をしていた。


「マーシャルさんは半年以内に、作戦を実行するって言ってからもう三ヶ月経つけど結局どうなったのかな?

 ディアルスさんに聞いても、何も答えてくれないしさ」

「あぁ……俺たちの訓練の状況とその人員……

 そして、やつら(アーツバスター)に悟られずにどうやって『風の街サイクロン』に行くか……

 その話を今煮詰めている状態らしいぞ」

「へぇ〜」

 俺はヴァルディアの話を肉を頬張りながら、聞いていたのである。

 ヴァルディアは以外と結構食べっぷりが良い!

 俺の奢りだからだろうか?

 まぁそれはいいんだけど……


「ルーク、お前いつかロールライトに帰るよな?」

「うん、今はまだ帰らないけど……その考えは頭の片隅にはあるよ」

「そうか……なら、一つ頼みがあるんだ……」

 そう言ながらヴァルディアは、少し寂しそうな目をしていた。

「俺は、ロールライトに帰る事は出来ない……だから、お前が帰った時……

 父と母に俺は元気に暮らしている……そう伝えてくれないか?」

「……ヴァルディア」

「実は手紙のやり取りも禁止されていて、俺はなに一つ親孝行する事が出来ない……

 なら無事に生きている事だけでも、伝えたいと思ってさ……」

「わかった……。帰った時、必ず伝えるよ」

「ありがとう……」


「さて、気分を変えて食べようぜ」

「うん」


 ヴァルディアは本心では本当は帰りたいのでは?

 そんな疑問が残り、帰れる場所……

 待っていてくれる人がいる俺は、幸せなのかもしれない……

 しかし、ヴァルディアには離れ離れになってはしまったが、両親は健在である。

 両親はいないが、待っていてくれる人がいる俺と、両親はいるが帰る事は許されないヴァルディア……

 一体どちらが幸せなのだろうか……?

 そんな疑問に対して一瞬思いついた答えが、いつか帰れるといいね。だった。

 だが、俺には俺なりの考えがあるように、ヴァルディアにはヴァルディアの考えがある……

 そう思うとその言葉を、話す気にはなれなかった……




 お腹も大分膨れ、ヴァルディアと談笑をしている中お酒に酔った女性が一人、ふらりふらりと歩いて来たのである。


 “危ないなぁ〜”


 と思いながら、その女性を見ていると俺のテーブルの前で突然バランスを崩し、前に倒れて来たのである。

 慌てて手を差し出しながら倒れて来た女性を支えるのであった。

「大丈夫ですか?」

「ありがとう……でもまだ、少し眩暈が……」

 その女性は大変美しく、栗色の少し癖っ毛なのかクリクリとした髪色をし、すらりと背の高く男を誘惑する程の肉付きのいい身体をしていた。


 その女性と目が合った瞬間、もう俺は目をそらす事が出来ず彼女の虜になっていた。

「ご迷惑でなければ、部屋までエスコートしてくれるかしら?」

「はい、僕でよければ……」

 いつもなら、女性への誘惑は跳ね除けられる自信があったのだが、なぜかその時は彼女からひと時も離れたくない……

 そんな衝動に駆られてしまったのだ。

 いつもなら、俺と言っているはずが、何故僕と言ったのかもその時の俺には理解できなかった。

 既にその女性の罠に嵌っているとも知らずに……


「ヴァルディア……彼女を部屋まで連れて行くから、少し待っててくれるか?」

「あぁ、わかった」


 ヴァルディアにそう話した俺は、彼女の部屋へと行くのであった。




 ◆◇◆◇◆



「流石【誘惑のアーツ】は強力ですね」

 そう話ししているのは、先日監視していた男女の一人の色黒の少年であった。

「あいつの【誘惑のアーツ】は来る物は拒まず、拒む物には更に強力に……だからな」

 色黒の少年の質問に淡々と答えていたのは、同じく赤みかがった茶髪の青年だった。


「あいつがうまく、あの小僧部屋まで誘導に成功したようだな。

 さてと、俺たちも早速作戦を実行しようか……」

「はい」

 二人の青年と少年はそう言い監視していた部屋から、闇を潜み誰にも見つからないように駆け抜けて行ったのである。




 女性の部屋まで連れて行く途中、胸の奥から溢れんばかりの気持ちを抑えるので精一杯だった。

 女性は飲みすぎたのか、頬は赤くそれが益々大人の女性の魅力を発揮し更に色っぽく見えてしまうのだ……

 この溢れんばかりの気持ちは、俺にとって初体験だった。

 次第に抑えが段々効かなくなってきたのが、よくわかった。

 理性に負けて欲望のまま彼女を……

 そんな事を考え始めていた。

 たが、辛うじて残っていた理性が、その気持ちに対して蓋を閉じ抑えつけていた。



 ドアを開けた俺に彼女は優しく微笑み、

「うふっ……まだ眩暈がするのよね……宜しければ部屋の中まで運んでくださるかしら……?」

 いつもの俺なら部屋のドアを開け、

「飲み過ぎには注意して下さい」

 とか偉そうな事を言う筈なのに、彼女一言は俺の閉じ込めていた蓋を、いとも簡単に壊してしまった。


 彼女に言われるがまま、その(うしろ)姿を見ながらいつの間にか部屋へと入り彼女の長い髪、綺麗な身体……

 全て触りたくなっていた。


 月明かりが差し込み、窓も開けられた状態の部屋の中、灯りもつけずに彼女は俺を見つめて来ている。

 少しだけ冷んやりとした彼女の指先が、俺の頬を触りそして、俺も一時も目を話す事が出来ず彼女の腰に手を回していた……

 そして彼女は耳元でそっと俺に囁いてきた。

「もっとこちらに来て……」

 その彼女の言葉に俺は、落ちた……


 彼女もまたその気なのか、俺を置いて数歩後ろに下がりベットへと座り込み手招きしている。

 もう俺は、拒否する事なくベットで手招きしている彼女の元へゆっくりと、何も考えずに歩いて行くのみであった。




 中々戻ってこない俺にヴァルディアは、少し変だなと思ったが美味しいご飯の前に、まぁそのうち戻るだろう……と考えていた。

 しかし、宿屋の亭主がヴァルディアの前に現れ、その表情は何処と無くなにやら問題が起こったような顔をしており、ヴァルディアもそれを感じ取っていた。

「あんたアーツハンターだよな?」

「えぇ、そうですけど……?」

「あんたの連れが連れて行った女性は、あの連れの部屋に行ったんだよな?」

「彼女の部屋に行ったのではないのですか?」

「いや……実はよ、女性の宿泊客……今日いないんだよ。

 それによ、部屋の鍵が一本紛失しているんだ」

「!!」

 勘の言いヴァルディアは宿屋の亭主が言っている事が、俺への罠だとすぐに理解してくれた。

「その部屋の場所は!?」

「二階の右側の一番奥の部屋だ」

 亭主から聞いたヴァルディアは、椅子から立ち上がりたちまち二階へと駆け上がっていた。

「ルーク!?」




 女性の手巻きに逆らえない俺は、ゆっくりと一歩ずつ歩いていた。

「もう少し近くにきてぇ……」

 コクンコクンと頷きながら、窓から街並みが見える所に丁度立った時だった。


 突然窓から少年と青年の二人の男が、俺の目の前に現れたのだ。

 そして素早く俺の身体全体を縄で縛り上げ、顔だけ出した簀巻き状態にされたのだ。

「!?」

 彼女は俺を見下ろしながら

「捕獲完了♡」

 そういいながら彼女は俺に右手を見せてきた。

 右手には【誘惑】と刻まれており、それを見た時俺は正気に戻り嵌められた事が理解出来た。


 なぜこんな事が起きたのか、なにがなんだがわからないまま、青年は俺を担ぎ上げ窓から出ようとした時……

 タイミング良いのか?

 悪いのか?

 ドアが開きヴァルディアが、担がれている俺を見て一言……

「なにやっているんだ? ルーク?」

「ヴァルディア!! 助けて!!」

「おっおぅ……」

 と言いながらヴァルディアは部屋の中に入ろうと一歩足を踏み入れた途端、潜んでいた少年に後ろから殴り倒され、その場で気絶してしまったのである。

「ヴァルディア!!」

 俺の叫び声はヴァルディアに届かなかった……

 そして俺を担ぎ上げている青年は、窓から飛び出しあっという間に街中を駆け巡り、誰にも見つからないまま俺を『土の街グランディ』から連れ出して行ったのである。




 ◆◇◆◇◆



 俺を攫った青年たちは『土の街グランディ』から北にひたすら進んでいた。

 そして、俺とヴァルディアが以前に封印したゲートに辿り着たのである。


 青年は俺を木に寄りかかるように降ろし、俺の喉元に剣先を向け何も話すなと言わんばかりに黙ったまま見下ろしていた。

 青年は少年と女性の方を向き後は任せると言い、俺に向けられていた剣を鞘にしまい別な場所で、休憩を取り始めたのだ。


 俺を誘惑してきた女性は、俺と目線を合わせるようにしゃがんできた。

 その目線は俺にとって胸の谷間が見える位置だった。

「あら? もうアーツは発動していないのに、なぜそんなに興奮しているの?」

「胸、丸見えだからですよ……」

 少し呆れながら言う少年に、女性は

「あら、嫌だわ……」

 と淡々と答えていた。


 休んでいた青年の咳払いに、少年と女性はようやく本題に入ってくれるようだった。

 少年は、俺の顔を見ながら

「この状況……どう言う事かわかるよな?」

「……俺を誘拐ですか?」

「うふっ私の【誘惑のアーツ】の目の前にすればどんな男もイチコロよ!」


 “はい、その通りです。落ちました……だから今、このような目にあっています……”


 そう思いながら、俺が口を開いたのは別な言葉だった。

「あの感情は俺があなたへ向けた思いではなく、その【誘惑のアーツ】のせいなのですか?」

「まぁ、そうなるな」


 “そうなのか……”


 あれ程の高ぶった思いをしたのは初めての事だった。

 俺の中でそれはもう一度、味わいたい感覚だったのだが【誘惑のアーツ】のせいだと知るとちょっとだけショックだった……

 今後【誘惑のアーツ】以上の思いを再び体験できるのかな?

 などと馬鹿な事を考えていた。


 今回のこの状況と言うか誘拐について、俺をそれ程焦ってはいなかった。

 逆に冷静さを保っていたかもしれない……


 それは、この三人……

 どう見てもアーツバスターだ。

 俺を誘拐したいと思っているのは、俺の知っている中で一人しかいない……

 そう思うとまたか……

 と思い身動きは取れない状況ではあるが、命は取られないだろうと予想していた。


 予想を確信に変える為にも俺は、聞いて見たのである。

「それで、俺はここで殺されるのですか?」

「殺しはしないわよ〜あなたを連れて来いっと命令されたのよねぇ〜私たちは……」


 “あぁ……やはりあいつかぁ……”


 俺の予想は確信へと変わって行った。

 だが会いたくないとの思いと、やはりどこかで外れて欲しいとの思いから、敢えてその名前を俺は言わなかったのである。

 そして、もう一つ思っていたのはゲートは封印されている。

 俺をあいつの元に連れて行くには徒歩で検問所を通り向かわなくてはならないはずだ。

 その間にヴァルディアが目を覚まし、ディアルスに話をしてくれる事だろう。

 話を聞いたディアルスは、きっとまたか……

 と思いながら、あいつの所に着く前に助けにきてくれるはず……


 俺は、そう思っていた。

 だから少しでも時間稼ぎをしようと考えていた。

「後ここは、封印されたゲートですよね? なぜここに……?」

「封印なんてものはな……」

 少年が説明をしようとしたのを、女性は敢えて静止し俺の方を見つめてきた。

「あなたもう少しこの状況、理解した方がいいわよ。

 確かに私たちはあなたを連れて来いと命令されたわ。

 でもね、殺すなとは言われていないのよね……」

 そう言いながら、女性の背後で青年が俺を睨みつけ殺気を、放ちながら剣を向けていた。

「ごっごめんなさい……」

 その迫力に威圧され俺はそれ以上何も言わず黙っている事にした。

「わかればいいのよぉ〜」

 女性はニコニコと俺に笑いながら、ボソリと呟いた

「あの続きがしたかったら、【誘惑のアーツ】なしで相手してあげるわ」

「!!!」

 少年はまたか……という目で女性を見ながら、青年は行くぞ……と話し俺を再び抱え上げ封印されたゲートへと近づいて行くのであった。




 封印されたゲートは、確かに光を失い起動してはいなかった。

 しかし、三人と俺がゲートの中に入ると光は再び取り戻し、ぼんやりと青白く光り輝き始めたのである。

 一瞬にして俺は、前に見た風景……

 風車が建ち並ぶ『風の街サイクロン』へと連れていかれたのであった。


 そしてゲートは再び光りを失い封印されたように俺には見えた。

 なぜゲートが再び起動したのか……

 俺の考えはまだ浅はかだったらしい……

 さっぱりわからない状況だったが、これだけはわかった……


 俺は、ドランゴの命令によってこの三人に誘拐され『風の街サイクロン』に連れてこられた………

 そうこれだけは理解出来た………






少年編 ー最終章その二 土の街グランディー 完


次章

少年編 ー最終章その三 風の街サイクロンー

に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ