第四十一話 ある日の街中で
次の日、目が覚めるともう陽は真上近くまで昇り、お昼近かった。
久しぶりのベットは、砂漠の長旅で疲れた身体を充分に癒してくれたようだった。
「ん〜〜〜っ、良く寝たぁ〜」
両腕を上げ身体を伸ばしながら、ディアルスの姿を探す。
「あれ? ディアルスさん?」
ディアルスはすでに部屋にいなかった……
ベットから降りた俺は、机の上の方に目線を向けるとそこには一通の手紙が置かれていた。
[臨時司令官室に行ってくる。今日は別行動をとろう]
とだけ書かれていた。
「ふむ、ディアルスさんはマーシャルさんの所か……」
意思疎通が難しい分、俺にはディアルスが何を考え、何をやろうとしているのか理解出来なかった。
頭をポリポリとかきながら早速身支度を済ませた俺は、酒場の方へと降りて行き遅い朝食を摂る事にした。
カウンターにいた亭主に食事をお願いし椅子に座って待っていると、若い男二人が俺に近寄り話しかけてきたのである。
「おっにいちゃん……昨日の【竜巻のアーツ】の使い手と今日は、一緒じゃないのか?」
「今日は、別行動です」
「へぇ〜」
「あっお兄さん方、もし食事がまだでしたら一緒に食べながらここの街の事について、詳しく教えてくれませんか?」
おごりと聞いた男たちは俺を気に入ったのか、椅子に座りだし話し始めた。
話をまとめると……
まず『土の街グランディ』は土の街というだけあって、土系統のアーツが多く揃っている。
そして、この街は他の三つの街とは少し変わっていて、生産系の物を豊富に取り扱っており身体を守る防具や、武器となる剣などは、ここで作られ各街へと産出されている。
後は……他の街で、取り扱っていない武器や防具もここに来れば、職人に依頼する事で作成や修理する事が可能らしい。
“こんな所かな……”
食事を食べ終わった俺は、これ以上この人たちから街についての情報は、掴めないと判断し席を立つ事にした。
「んっ……もう行くのか?」
「はい、お腹いっぱいでもう入りません……」
「そうか……」
「お兄さんたちは、気にせず食べて下さいね」
「わかった……
あっそうだ、もし生産系を頼みに行くつもりなら、商店街にあるメインストリートにアルヒミーって言う店がある。そこに行くといい」
「あぁそうだな。この街で一番の店だ、腕もいいしな」
「はい、わかりました。お兄さん方ありがとうございました」
一礼を、俺は男たちと別れカウンターにいる亭主にこれ以上の食事は、あの方達の自腹で……
と話、商店街へと向かう事にしたのである。
◆◇◆◇◆
商店街のメインストリートと言われる道を歩きながら、アルヒミーという店を探し始めた。
とりあえず、俺は武器には興味がなかった。
だが、ドランゴに壊された鎖帷子……
これだけは、どうしても直したかった。
ドランゴと『水の街ヴァル』で再開を果たした時、ドランゴは俺を右肩から左腰にかけて綺麗に斬った。
即死しなかったのは、鎖帷子のおかげだろう……
それにこの鎖帷子は、ローリンアウェイが特注で作り上げてくれた。
軽くて丈夫な上に俺の命綱とも言える、背中の部分を守ってくれる二重構造……
流石にここで捨てるのはもったいない……
「あっあった……」
考え事をしていると、この街で一番と言われるアルヒミーに着く事が出来た。
有名な所だけあって、建物は大きな岩で出来ていた。
そして、岩かと思っていた建物は看板の説明書きを読んで、間違いな事を知らされた……
看板には、
『百年前に起きた、一つのアーツ暴走事件。
そのアーツは宇宙から隕石を降らし、各大陸を火の海に変えていった。
この隕石は、その時の名残である』
「宇宙から隕石って………」
“嘘くさっ……”
思わず言葉に出しそうになったが、周りの人たちに睨まれて鎖帷子を修理してもらえなくなるのは、それはそれで困るので黙っておく事にした……
“まぁこれが隕石にしろ、普通の岩にしろ。
それを加工して、街にしたり店にするって発想もすごいけど、それを現実に出来る技術もすごいな……”
これが、『土の街グランディ』と言われる由縁かぁ〜と感心しながら、俺はアルヒミーの中へと入る事にした。
店の中は、岩がインテリアのように一部がむき出しに出ていたり、壁となっている岩がツルツルのピカピカに磨き抜かれていた。
剣や防具も綺麗に陳列され、ケースの中に入れられ触る事は出来なかった。
そして、カウンターには長蛇の列……
アーツハンターの大半が並び、アーツバスターの襲撃の為に装備を整えているのだろうか………
修理を依頼する者や、新しく装備を新調する者等様々いた。
アーツバスターの襲撃のお陰で、生産系の職人さんたちは仕事に困らなさそうだった。
待つ事二時間………
「お次の方どうぞ………」
漸く、呼ばれた……
カウンターにいる、受付のお姉さんの所へ行くと、
「本日のご用件は何用でございますか? 修理ですか? それとも新調ですか?」
「えっと、修理をお願いします」
そう言いながら俺は、壊れた鎖帷子をカウンターの上に置いたのである。
「確認いたしますね」
お姉さんはルーペを取り出し、鎖帷子の壊れた断面を色々な角度からジッと見ていた。
そして、お姉さんはルーペと鎖帷子を置き、俺の方を見つめてきたのである。
「残念ですが、これは修理不可能です」
「えっ!?」
「この鎖帷子、プラチナを利用しておりますよね?」
「えっえぇ……はい」
お姉さんの話曰く……
どうやら、原因は鎖帷子の原料がプラチナを使用している事らしい。
プラチナが『土の街グランディ』にない訳ではない。
ただ、プラチナを使っている事により、ドランゴに真っ二つに切られた場所をプラチナ同士で繋ぐのが高難易度らしい……
これがプラチナ素材ではなく、普通に鋼系で作成されていた場合修理は可能との事だが、でも鋼系だと俺はドランゴのあの一太刀で即死していた……
プラチナだから今、こうして立っていられるのだ……
その事をわかっているからこそ、諦め切れなかった……
「あの……なんとかなりませんか?」
「申し訳ございません……変わりの鎖帷子をご新調する事をオススメ致しますわ」
“そりゃ、まぁ修理より、売った方が金は儲かるだろうけどさ……”
「こちらの鎖帷子も、丈夫で軽い素材を使っておりますわ。如何ですか?」
「いえ、結構です。この鎖帷子を使いたいので、他を当たります」
鎖帷子を手に取り、出て行こうとするとお姉さんは、
「何処の店も不可能でしたら、またのご来店をお待ちしております」
頭を下げてそう言うお姉さんに、ちょっとムッとしながらアルヒミーを後にした。
“メインストリートに防具屋さんはいっぱいあるんだ、ここがダメでも他なら出来るさっ!”
そう思いながら片っ端から防具屋さんを回る事にした。
だが、アルヒミーにいたお姉さんと同様に鎖帷子を見るなり、直す事は不可能だと言われ続け、どの防具屋さんも修理が可能な所はなかったのである。
「はぁぁぁぁぁ……」
はっきり言って困った。
鎖帷子がないとなると、いつ背中の烙印を見られるか……
常に背中を意識していなければ、ならないとなるとハッキリ言って落ち着かない……
今は、戦闘中ではないのでそれほど背中を意識しなくてもいいが、念の為にサラシを巻いている。
服をめくり上げられても、サラシのお陰でなんとか誤魔化せるのだが……
いつアーツバスターが攻め込んでくるかわからない、この状況下で戦闘中となると俺だけ参加しません……
という訳にも行かない……
「いらっしゃーい」
元気よく俺に話しかけてきたのは、なんでも屋のおばちゃんだった。
道具屋と違ってここの露天商は、回復アイテムとか札とか旅に必要な必需品は、何一切置いていなかった。
その代わり、岩や木材、金属などで出来た棒や、ベットや椅子、デーブル等さまざまな物が無造作に置かれていた。
「これ……なにに使うんですか?」
すぐ側にあった、長い木の棒を掴みながらおばちゃんに聞いて見た。
「にいちゃんが持っている木の棒はね、ケヤキの大木から出来た物の一部だね」
「ケヤキの大木………?」
「ケヤキの木はね、硬くていい木材よ。ちょっとやそっとの攻撃で壊れる事はないわ」
「えっ? この細い木の棒が防具になるの???」
「長さ的に、分割して繋げれば丸い盾ぐらいにはなるわよ」
「へっ……へぇ……」
「にいちゃん、買ってくれるのかい?」
「いらないです……」
“鎖帷子を直したい……です”
いらないと即答した俺に、おばちゃんは少しだけ睨みをきかせてきた…
その目線を感じ慌てて岩を指差しながら、話しかけて見た。
「こっこの岩は……なにに使うんですか?」
「……にいちゃん……その岩の説明を聞いても買う気あるのかい?
はっきり言って、冷やかしならさっさと帰っておくれ」
「うぅ……あっそうだ!!」
俺はおばちゃんの店の物を物色し始め、鉄の棒を二本と丸い金属をおばちゃんの目の前に出したのである。
「あのですね、鉄の棒とこの丸い金属をくっつけて、こんな物作る事って出来ますか?」
俺は、おばちゃんに紙とペンを借りて、図を書きながら作ってもらい物を説明し始め、おばちゃんもマジマジと見てくれた。
「なにこれ………?」
「もう一つ……こんな形も作って欲しいのですが……」
呆れながらもおばちゃんは、再び俺の書いた図を見てくれた。
「まぁ正式に依頼すると言うのなら、なんでもわっちは作るけど………?」
「ほっほんと!? じゃ是非お願いします!!」
「……ってかこんなの作って何に使うのさっ?」
「それは、秘密です」
「あっそう……まぁいいわ。
ちゃんとお代を払ってくれるのなら、追求はしないけどさっ……」
「勿論、払います!」
「わかったわ、にいちゃんの依頼の物作ってあげるわ。
これなら簡単だから、すぐに出来るけどここで待っているかい?」
「いえ、もう少し街の中見てきます」
「そう……じゃ作っておくわね」
おばちゃんに再度お願いします。
と頭を下げた俺は、露天商よろず屋から出て再び商店街を歩く事にしたのである。
やはり……本来の目的である鎖帷子の修理は難しかった……
困り果てながら商店街を歩いていると、陽はすっかりと落ちかけていた事に気がついた。
半ば諦め気味になり、よろず屋に頼んでいた物を取りに行こうかと思い、踵を返した時だった。
ふと、メインストリートから離れた場所に、小さなボロ屋の防具屋を見つけたのである。
最後のダメ元と思い、小さなボロ屋の中へと入って行く事にした。
防具屋の中は、四方全て鎧でびっしりと埋め尽くされていた。
そして足の踏み場もないぐらい乱雑に置かれていた。
乱雑に置かれてはいたが、防具の一つ一つは綺麗に磨き上げられていた。
「何かようか? それとも冷やかしか?」
ハンマーを持ち熱い金属を打ち付けながら、おっちゃんは俺に目を合わさずに話しかけて来た。
「あの……この鎖帷子なんですけど、直せますか?」
乱雑に置かれた鎧の道をなんとか通り抜け、持っていた鎖帷子をカウンターに置きながらおっちゃんの方を見つめる。
しかし、おっちゃんは金属を打ち付け続けていた。
「帰れ……俺は修理屋じゃない。他のでかい防具屋にでも持って行けばいいだろう?」
「いや、どこも無理と言われまして……」
「ほぉ〜」
そういいながらおっちゃんはハンマーを置き、カウンターに置かれている鎖帷子を渋々見始めた。
手に取り、入念に前部分や後ろ部分を見ていた。
そして……
「小僧……この鎖帷子を斬った奴は誰だ?」
「アーツバスターのドランゴです」
「ほぉ〜あいつか……」
「ドランゴを知っているのですか!?」
おっちゃんは質問に答える事なく、なにやらブツブツと言い始め俺の声が届いている様子はなかった……
「ドランゴに斬られたのに、小僧は生き残っている……
と言う事は、この鎖帷子は本来の役目を果たしたといえる……
更なる補強として考えられるのは……ここをこうして………」
「あっあの〜」
夢中になって考え事をしているおっちゃんは、俺の問いかけにようやく気がついてくれた。
「あぁ……小僧悪かったな。良かろうこの鎖帷子直してやる」
「ほっほんとですか!」
「ただし条件が一つだけある。次ドランゴと戦った時、その結果を必ず報告する事」
「何故ですか?」
「ドランゴはアーツバスターの中で、最強の剣士と言われている。
その男に斬られて坊主は、生き残っている……
となれば、この鎖帷子を更なる補強し、その結果どうなったか?
職人心の血が騒ぐだろう?」
「はぁ〜?」
おっちゃんは説明してくれたけど、俺にはその職人魂という物を理解するは無理だった。
取り敢えず、鎖帷子を直してくれるとの事なので、直してもらう事にした。
明日には出来上がるとの事だったので、俺はおっちゃんに明日取りにくる事を伝え防具屋を後にし、露天商なんでも屋に寄る事にした。
「おっさっきのにいちゃん! 取りに来たのかい?」
「はい、出来上がりました?」
「もちろん! にいちゃんの言われた通りに作ったけど、こんな感じでいいのかい?」
そう言いながらおばちゃんは、俺に渡してきたのであった。
二本の金属の棒は、五センチぐらいの長さになっており、その棒の尖端には丸い金属板が接着されていた。
おばちゃんは俺のお願いしていた物を、きちんと仕上げていてくれていた。
「ありがとうございます、これでいいです」
「そう良かったわ」
おばちゃんにお金を渡し、それを袋の中に入れた俺は露天商よろず屋を後にした……
後は、明日おっちゃんの所に鎖帷子を取りに行く事で鎖帷子の修理は完了する。
そうなれば、取り敢えず俺的に『土の街グランディ』でのやりたかった事は、終わった事になる。
“さて、これからなにをしようかな……”
と、悩んでいた。
鎖帷子は明日だし、今日は特にこれからやる事もない。
そして、いつの間にか夜になってしまい、取り敢えずディアルスと合流するべく俺は臨時司令官室へと向かう事にした。




