第四十話 マーシャルのお願いごと
「俺たちの力が役に立つのでしたら、是非……」
そう答えた俺にマーシャルはニコリと笑い作戦の話を始めてきた。
どうやらチャンスは今らしい……
マーシャルの話曰く、アーツバスターは『土の街グランディ』を幾度も攻め続けていた。
そして、ある程度までの被害数に達すると、無理をせずに一時撤退を図り再び戦力を補給したのち侵略を開始してくる……
これはマーシャルが陣頭指揮を取りアーツバスターを三度撤退させた事により、次も同じ行動を取るだろうと予測していた。
となれば………先程アーツバスターは撤退を開始した。
奴らは今、戦力を補給中である事は明白であるとマーシャルは結論を出し、懐に忍び込み叩く事で『土の街グランディ』を守る、もしくは時間稼ぎを行いこちら側も戦力を補充したい、とマーシャルは考えていた。
しかし、マーシャル一人での力を持ってして、アーツバスターの懐に忍び込み壊滅させるのは、絶対的に不可能であった。
それはマーシャルの持つ【月光のアーツ】の攻撃力の低さにある。
確かに【月光のアーツ】は、【神アーツ】の一つであるのだが、本来の力を発揮するのは真夜中でしかも満月の時にしか、その能力は最大限に発揮される事はなかった。
タイミング良く、【月光のアーツ】が最大限に発揮される刻に、アーツバスターが撤退するはずもなく、マーシャルはギレッド爺さん並の破壊力を持たない自らのアーツに悔やみ、破壊力申し分なしのアーツ使いを待ち望んでいた。
そんな時、俺の【黒のアーツ】とディアルスの【竜巻のアーツ】は、マーシャルの作戦を実行できる鍵となっていた。
まず、アーツバスターが戦力を補充していると思われる駐屯地は『土の街グランディ』から北に、二時間程歩く距離にある。
この駐屯地を破壊する事により彼らは『土の街グランディ』に侵略したくとも、陥落した『風の街サイクロン』か本国のある『メシュガロス』からしか派遣する事は出来なくなる。
そうなれば、こちら側としても事前にアーツバスターたちの動きを察知する事が要因に出来、対応策を取りやすくなるのであった。
「マーシャルさん……」
黙って俺は、マーシャルの話を聞いていた。
横槍を挟んでは行けないと思ったのだが、どうしても聞きたかった。
「はい?」
「よーするに、俺たちはアーツバスターたちがいる駐屯地というのを、破壊すればいいのですね?」
「えぇそうよ、それも早急に……」
チラリと見たディアルスは、俺の言いたい事をわかってくれているかのように……
何時でも行けるぞ。
と合図を送って来てくれている。
俺は立ち上がりマーシャルを見下ろしながら……
「わかりました。マーシャルさん、では今すぐ出発します」
「えっ!?」
確かに早急にとは言ったが、今すぐ行くと言うのは予想外だったらしい。
「ちょちょっと待って! 他にも部隊を編成しないとダメよ!」
マーシャルの静止に俺は、首を横に降り否定した。
「二人で行くつもり?」
「はい………もし、仮に明日アーツバスターが攻め込んできた時、応戦出来る者がいなければ俺たちの行動は無駄になります」
「撤退した次の日に、攻め込んで来るなんて今まで一度もなかったわ!」
「マーシャルさんは、俺の事一人前の男として一応は認めてくれたんですよね?
そして、戦闘隊総司令官として俺たちに、駐屯地の破壊の話をしたのですよね?」
「まっまぁ……そうですけど……でも、少し無茶すぎではないかしら?」
「だってチャンスは今なんですよね?」
「チャンスなのは、間違いありませんわ」
「なら、一人前と認めてくれた俺を信じて待っていて下さい」
そう言い静止するマーシャルを背にし俺は、臨時司令官室から出て行く事にした。
マーシャルはやはり納得出来なかったのか、再び俺を呼び止めようとしていたがディアルスはマーシャルを見ながら黙って頷いていた。
臨時司令官室を出た俺たちは、入口へと歩き出す。
ディアルスの顔を見上げながら、
「ディアルスさん、勝手に今行くと決めてしまってごめんなさい……」
ディアルスは首を横に降ながら、大丈夫と合図を送ってきてくれた。
少しだけカッコつけすぎたかな?
と思っていたから、ディアルスの合図を見て俺は少しだけ安心する事が出来た。
◆◇◆◇◆
出発する前に簡単な打ち合わせをディアルスと行い、早速駐屯地へと出発する事にした。
二時間かけ、ひたすら北へ歩き 駐屯地の全体を一望出来る場所へ到着した。
崖の上から俺たちは、駐屯地の様子を見る事にした。
しかし、そこにあったのはマーシャルが話していた、駐屯地と言う物は存在していなかった。
あったのは、地面にぼんやりと青白く光り輝くサークルのみだった……
サークルの内側には七芒星の形をしており、その七芒星の中に更に三角形の魔法陣と四角形の魔法陣が、グルグルと時計周りに動いていた。
その周りを、警戒するかのように三人のアーツバスターがサークルを守っている。
「なにあれ……?」
思わず呟いてしまった……
その言葉に、ディアルスは慌てて俺の口を塞いできた。
慌ててコクンコクンと頷き、ディアルスに両手を合わせてごめんなさいの合図を送る。
暫く黙って様子を見ていると、傷ついたアーツバスターが数人サークルの中へと入って行き、吸い込まれるように姿は消えて行ったのである。
「!!!」
不思議な現象に、俺は呆気に取られていた。
“なにあれ! 今、人が消えて行った!!”
更に見ていると、今度はサークルの中から人が現れ見張り番のアーツバスターたちと、交代をしていたのである。
“おぉ〜!! すっげぇ〜”
感心している俺に、ディアルスは砂で文字を書き始めた。
[あれは、ゲートと言われる転送機だ。あれを破壊すれば奴らの足止めは成功する]
小声で、俺はディアルスに了解と言い転送機を破壊する事にした。
転送機と言われるものを、破壊するのはちょっと気は引けたが……
“本来の目的を忘れては行けない!”
と気を取り直し【黒のアーツ】を発動し始めた。
まず最初にディアルスと打ち合わせた作戦はこうだった。
駐屯地に到着したら、崖の上から現状把握をする。
現状把握をしたのちに、ディアルスの【竜巻のアーツ】を発動し自然災害と見せながら破壊する。
生き残ったアーツバスターたちは、俺が【黒のアーツ】を発動し倒す筈だった……
しかし、俺たちが予想していたのと全然違っていた為、急遽作戦を変更したのである。
取り敢えず、ゲートを見張っている三人のアーツバスターを黒の波動で消し去らないように調節しながら一瞬で気絶させ、木陰に移動してもらう。
俺はゲートを見ながら、好奇心に駆り立てられワクワクしてしまった。
ディアルスはゲートを念入りに調べて、どのように破壊しようか考えていた。
「ねぇ、ディアルスさん。このゲートの先に何があるのかすっごく気になりません?」
えっ!?
という顔しながらディアルスは、顔を見上げたのだが俺は既にゲートに乗っていた。
慌ててディアルスは手を伸ばし俺の手を掴もうとしていたが、一歩遅く俺は消えていた。
「!!」
はぁ〜と頭を抱えつつディアルスもそのゲートの中に、入って行くのであった。
◆◇◆◇◆
ボワァ……
と周りの景色が変わって行った。
そこは見た事もない所で、見上げる程高い風車が幾つも建ち並び、綺麗な花壇で埋め尽くされる広場に俺は立っていた。
「こっここは……?」
俺の後をすぐに追いかけゲートに入ったディアルスも隣に現れ、ビックリした様子だった。
「あっディアルスさん……ここどこだかわかります?」
ディアルスも俺と同様に周りを見渡しながら、なにも言わず驚いていた。
しかし、ディアルスは俺を無理矢理ゲートの中に再び入れようとしていた……
だが、やはりというべきなのだろうか……
片手に槍を持ったアーツバスターに、俺たちは見つかってしまったのである。
「なんだ! お前たちは!! ひょっとして新たに補充された仲間か………?」
ディアルスの怒りの目が、俺に突き刺さってくる。
はっきり言って、もの凄く怖かった……
「むむむっ、怪しい奴らだな………」
「そっそんな事ないですよ……実は俺たち新たにここにくるように命じられまして……」
「そうだったのか、ならその書類渡して貰おうか」
「えっ?」
アーツバスターはニヤリと笑い口笛を吹き、笛の音がけたたましく鳴り響きあっという間に数十人のアーツバスターは集まり、俺たちを取り囲うのであった……
「どっ……どうしましょ……ディアルスさん………」
ディアルスは呆れ果て目も合わせてくれなかった……
アーツバスターたちは一斉に俺たちを捕まえようと、襲いかかってきた。
それをディアルスは、【竜巻のアーツ】を発動し応戦。
巻き上げられ地面叩きつけられるアーツバスターたちは、次々と倒されて行く中俺も【黒のアーツ】を発動しディアルスに続く……
先程脳裏に浮かび上がってきた、不思議な語りは聞こえてはこなかった……
そのお陰で何の迷いもなく、アーツバスターを倒して行く事が出来た。
しかし、アーツバスターたちは一向に減る様子はなく、どんどん増えているような気がしてきた。
そんな中、俺の背中に突然ゾクゾクッと悪寒が走った。
「ふむ……中々捕まらない侵入者がいると聞いたから、来て見ればお前か……坊主……」
「!!」
ドランゴだ!
ドランゴはゆっくりと歩きながら、俺の目の前に不敵な笑みを浮かべながら現れたのである。
「坊主、俺の元に来る決心はついたのか……?」
「まっまさか……」
冷や汗をいっぱいかきながら、精一杯虚勢を張りながら声を上げる。
しかし、ドランゴの恐怖に俺は後ろにジリジリと後退していた……
「そうか……」
「ならば、捕まえてゆっくりと説得するかな……隣にいる【竜巻のアーツ】使いと共に……」
そう言いながらドランゴは剣を振りかぶる。
俺の足は、大地に根が張ったかのように全く動かなかった……
そして、ドランゴの剣の動きに瞬き一つ出来ず、目を離す事が全く出来なかった。
振り下ろされる剣を前にして、ただ見ている事しか出来なかった。
某然と立ち尽くしている俺に対して、ディアルスは【竜巻のアーツ】をドランゴの剣を持っている手に竜巻を絡みつけ、ドランゴの剣のスピードを落とす事に成功していたようだった。
「ぬっ!!」
そんなのは御構い無しにドランゴは俺とディアルス諸共斬りつけようと、振り下ろしてくる。
しかし、その一瞬の隙をディアルスは活かした。
ディアルスは俺を抱え込みながら、再びゲートの中へと飛び込むのであった。
ドランゴの剣は俺に当たる事なく地面に突き刺さり、少し悔しそうに見えた。
「ふむ、逃がしたか……」
「後を追いますか?」
アーツバスターの問いかけにドランゴは少し考え込んでいた。
多分、見張り番をしていた奴らを殺しあいつらはゲートを通って来た。
ならば、向こう側はアーツハンターで待ち構えられているな……
そう結論を出したドランゴは、追跡する事を諦めたのである。
もっともドランゴの予想は外れてはいたのだが……
「いや、いい……それよりも例の作戦を遂行しよう……」
ドランゴは自分の剣を鞘に収めながら、
「小僧……お前は俺の物だ……」
と呟いていた。
ディアルスの起点のお陰で、元の場所へ戻る事が出来た。
連れ戻された俺は、ディアルスに思いっきり頭を殴られてしまう。
「いっいてぇ〜」
何も言わないディアルスはすごく怒っている……
それだけは見てすぐわかった。
「ごめんなさい……」
謝る俺にディアルスはまだ怒っている様子だったが、俺の荷物を降ろし袋の中から何やら探し始めた。
「ディアルスさん、何をやっているんですか?」
その質問に答える事はなかったが、ディアルスは残っていた『封印の札』五枚全て取り出しゲートに置き始めた。
そして『封印の札』を使うと、ぼんやりと青白く光り輝いていたゲートは光を失ったのである。
ディアルスはゲートの上に乗り、ゲートが起動しないのを確認し木陰で気絶しているアーツバスターを、拘束しその紐を渡すと糸が切れたかのように、その場で崩れ落ちるのであった。
「ディアルスさん!?」
慌ててディアルスを、受け止めると背中には綺麗な切れ口で斬られ血が大量に流れていた。
「はぁはぁ……あっぁぁ……」
“おっ俺のせいだ……俺がゲートに入らなければ………こんな事には……”
ディアルスの血がついた手を見ながら、震えてしまう……
はっと我に返り、自分の頭を叩きながら反省する。
反省し俺はディアルスに【白のアーツ】を発動し、傷の回復をする事にした。
何度も何度も謝りながら………
ディアルスの傷は塞がり心臓の鼓動もきちんと聞こえるのを確認した俺は、まだ目を覚まさないディアルスを抱え、拘束したアーツバスターを連れ『土の街グランディ』へと帰還したのであった。
◆◇◆◇◆
街に着く頃にはディアルスも目を覚まし、もう一度俺はちゃんと謝った。
無鉄砲な行動をとった事。
考えもなしに敵の本拠地に突っ込み、俺のせいで危険な目にあった事……
謝っても許してもらえない事をした俺にディアルスは、それでも許してくれた……
ディアルスは優しすぎた……
気を取り直した俺たちは、一連の事を報告するべく臨時司令官室に顔を出す事にした。
俺たちの姿を見たマーシャルは流石に驚いていたけど……
「ずっ……随分早かったですわね……」
「はい、まぁ……色々やっちゃいましたけど……」
俺はマーシャルが話していた場所には駐屯地はなく、変わりにゲートがありそこからアーツバスターが来ている事。
ゲートを通ると、風車が沢山ある所に飛ばされた事。
そして、ゲートは今『封印の札』で起動しないの事を、掻い摘んで説明したのである。
相談もなく、ゲートをくぐりディアルスに怒られた事は除いて………
「ふむ、沢山の風車ですか?」
「はい……」
マーシャルはディアルスの方を向きながら、今自分が考えていたいる事を確認するかのように問いかけていた。
「ディアルスさん、そこはもしかして……『風の街サイクロン』でしたか?」
ディアルスは、その問いかけに頷いていた。
その返答を確認したマーシャルは、頭を抱え深いため息をついていた。
取り敢えず今は、ゲート自体は封印を施されている為『風の街サイクロン』から、ゲートを使っての侵略は防ぐ事は出来た。
壊滅させる本来の目的は叶わなかったが、時間稼ぎには成功した……
と結論を出したマーシャルは、俺たちにご苦労様と伝えてくれた。
「私はこれから、拘束したアーツバスターから情報収集したいと思います。
あなたたちも今日は疲れたでしょう。ゆっくり休んで下さい」
マーシャルの言い方は、まだ何か裏があるような態度と言い方だった。
そして、今は詮索しないで欲しいような態度もとっていた。
確かに聞きたい事はあった。
でも、その言葉を濁し俺たちは臨時司令官室から出て行き、宿へと移動したのである。
宿泊街は、アーツバスターたちの侵攻を完全に失くなったわけではない為なのか寂れていた。
沢山ある宿で営業を行っていたのは五、六軒ぐらいしかなかった。
その中で俺たちが入った宿屋は酒場と一体化している所にした。
情報収集する為に……
酒場と一体化していた為、酒場の中はそれなりに賑わいに満ちている。
そこで、お腹いっぱい食べ終え情報収集は明日にする事に決めた俺たちは、部屋に戻り長旅の疲れを癒すかのように深い眠りに落ちたのである。




