第三話 旅の始まり
アードと一緒に旅を始めた。
俺は、いつも足を引っ張っていたのにアードは、文句一つ言わずにいてくれた。
険しい山道を幾つも超えた。
その中で五歳の俺には過酷な旅とも言えた。
身体が成長しきっていない為、体力などほぼないに等しい。
疲れから高熱が出て、何日も寝たきり状態になる事が幾度もあった。
アードは、その度に俺を看病をしてくれていた。
またある日の夜は、悪夢にうなされ泣きながら目が覚める事もあった。
寝ていたアードは俺を心配してくれていた。
話は変わるが、両手の【アーツ】使いは大変珍しい。
そして、同時の発動は更に難しいらしいが、アードは簡単に発動していた。
マネしてみようと頑張ったが俺にはまだ出来なかった。
アード曰く同時発動はコツがいるらしい。
アードは、【神アーツ】を持ってはいなかった。
【最上アーツ】の一つ【剣と盾のアーツ】を持っていた。
同時に発動すれば、剣と盾を装備する事が出来、立派な剣士になる事ができる。
剣の腕がなければ、当然使いこなせるはずもなく弱いのだが、アードは強かった。
どんな攻撃も盾で全てを弾き、敵の懐に入り込み一撃必殺の如く敵を倒して行った。
一度師匠と呼びたいと話ししたら、師匠の柄ではないと断られたので、心の中で呼ぶ事にした。
◆◇◆◇◆
村を出てから一ヶ月ぐらい歩き続けただろうか。
一ヶ月も経てば、靴や着ている服もボロボロになってきていた。
草木が生い茂り踏み荒らされていない獣道も、アードは造作もなくどんどん進んで行く。
俺はそれについて行くので精一杯だった。
たまに後ろを振り返り、俺を待っていてくれる。
「はぁはぁ……」
やっとの思いで森を抜けるとそこには、人里離れ僅か百人程しか住んでいない小さな農村があった。
アードは村の入り口で停止してしまった。
「?」
アーツハンターというのは、独特な雰囲気を感じ取れるらしい。
足を一歩村に踏み入れた時点で、アードの顔が険しい顔になって行く。
「ふむ……ここは、アーツバスターが支配しているな………」
アーツバスター以外にも人の気配はするが、一箇所に集まっているのを感じるとアードは言うが、俺には全然わからなかった。
そして、アードはなにやら悩んでいるみたいだった。
この村に、入るべきか入らないかべきか?
それを考えているようだ。
この状況化で関わるべきなのか……どうなのか………?
旅の途中の通り道にあった村であって、目的地ではない。
ただ、そこに村があって、まともなご飯、寝心地の良い布団。
一時の休息を取ろうと思い立ち寄ろうとした村だった。
だが、アーツバスターがいるとなれば話は別になる。
アーツバスターは、略奪、殺害を欲しいままにし人々を苦しめている。
そして、大集団になると村を占拠し支配者になる。
村人は奴隷のように働かされ、逆らう者には女子供でも容赦なかった。
この村が良い例である。
そんな村に子供連れの冒険者が一人で彼らに立ち向かっても、普通は返り討ちになるだけである。
アードならなんとかやりそう。
と思ったけど、俺はアードの判断に従うつもりだった。
暫く黙っていたアードは、村を背にして立ち去ろうとしたので、俺もなにも言わずに後を追う事にしたのだが………
弱々しい声に呼び止められたのであった。
逃げ出してきたのか、それともアーツバスターの命令で外に出たのかはわからないが、ボロボロの服を着て、何日も風呂に入らず過酷な労働をさせられガリガリに痩せ細り、今にも倒れそうな姿をしていた、一人の少年が立っていた。
「助けて…」
とだけ少年は言い、その場で倒れこんでしまった。
アードと俺は、そこまで非道な人間にはなれなかった。
少年を背負いアードは再び歩き出したのである。
周りにある家一軒一軒声をかけながら歩いたが、誰一人いなかった。
村から少し外れた所に、木陰があったのを思い出した俺たちは、そこまで移動し少年を休ませる事にしたのである。
少年をそっと降ろしたアードは、俺を見ながら話しかけて来た。
「ルーク、俺は水と食糧を探して来る。だから火をおこして待っていてくれ」
「はい」
そう言いアードは、森の奥の方へと歩いて行った。
俺は言われた通りに周りに落ちている木を集め、火をおこし始めた。
【火のアーツ】がないので手作業でおこす。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
中々おきながったが、悪戦苦闘しながらも火はなんとかおきてくれた。
ふぅ〜とため息をつき、座り込む。
少年は、変わらず気絶しており、よくよく見ると俺よりも年上のように思えた。
ガツン!!!!
「いっ!!」
急に目の前が真っ暗になった。
なにがなんだかわからないまま、その場に倒れこんでしまう。
殴られた所を押さえ薄れゆく意識の中、目の前に立っている人間は見ようと頑張ったが見る事が出来ず、目を閉じてしまった。
◆◇◆◇◆
激痛に目が覚めた。
何故か後ろに両手両足を縛られ横になっていた。
ジタバタと動くが意味はなかった。
見慣れない天井、見慣れない壁でおおいつくされ、その部屋の中央には一人の男が椅子に座り、踏ん反り返っていた。
その周りに四、五人の男たち、二、三人の女たちが立って俺を見下ろしていた。
「リーダー気がついたみたいよ。坊や」
「おぉ、そうか………」
リーダーと呼ばれた男は椅子から降りて、俺の目の前でしゃがみこんだ。
「俺の名前は、ギーク・ヒューズ。子供に手荒なマネはしたくない。正直に答えろよ。なんの目的でお前とあのアーツハンターはここに来た?」
“アーツハンター? アードさんの事か?”
「えっと………旅の途中でたまたまここに………」
話をしている途中で、俺はギークにおもいっきりお腹を蹴飛ばされた。
「うぐっ!!」
俺の髪の毛を掴み持ち上げ、睨みつけてくる。
「正直に答えろと行ったはずだ、旅の途中でたまたまここに来ただと? ふざけんじゃねぇぞ! そんなの建前に決まっているだろうが!」
「まあまあ、ギークそんなに怒るなよ。アーツハンターの一人ぐらい、簡単に倒せるだろ?」
「普通のアーツハンターなら簡単に殺せるがな……しかし、あいつ【アーツ第一次戦争】の時に見た事がある顔なんだ!」
「生き残りですか……そいつは、ちょっと面倒いですね」
“【アーツ第一次戦争】? なんだろう、それは?”
後でアードに聞いてみようと思った。
ギーク・ヒューズは女の人に指で合図した。
女の人は、俺のそばに近づき身体に触り目を閉じた。
ブツブツと言い出すと、女の人が装着している【読】と刻まれていたアーツが光だした。
「ギークこの坊や、本当になにも知らないみたいね。どうやら、アーツハンター協会に行く途中みたいよ」
「!!」
“話していないのに、はぜわかるんだ? アーツの性能なのかな?”
と不思議に思った。
「ふむ、そうか。では小僧、もう一つの質問だ」
ギークは立ち上がり俺を見下ろす。
「小僧、その両手にあるアーツは【黒と白のアーツ】か?」
「!!」
俺が答えるよりも先に、女の人はギークの目を見てうなづく。
すると、ギークの目はどんどん欲望の目の色に、変わっていった。
「ハハハッ!! 本当に存在したとはなっ!! フハハハハハ! 坊主そのアーツ俺がもらおう……」
ギーク・ヒューズは、水系の中での【最上アーツ】の【零度のアーツ】を発動した。
氷は、鋭く尖り無数の矢になって俺に前に広がっていく。
「待ってギーク、この坊や殺しちゃダメ!」
ギークを静止しながら、女の人は話し出す。
「どうやら、この坊やを殺したら【アーツ】は元にあった場所に戻り、自らが認める人間を何年も待つみたいよ。ギーク、貴方見つけだして、認められる自信はあるの?」
「ふむ、それは【読みのアーツ】からの情報か?」
「えぇ……】
「ちっ……ならば、殺すのは諦めるしかないか……」
発動した氷の矢をギークは消し去り、ドカドカと歩き椅子に座り腕を組みながら目を閉じ、なにかを考えはじめた。
そして、ギークは突然話をはじめた。
「よしっ! お前、俺の仲間になれ! 一生俺がこきつかってやる!」
ギークはニヤリと笑いながらそう言った。
「お断りします」
「……俺、本当は子供相手に、こんな事したくないんだよなぁ〜」
ギークは、再び俺の側へと近づき両手両足に縛っている紐を解きいた。
解いたのと同時にギークは俺の右腕をへし折った。
ゴキャ!
鈍い音と共に言葉に出来ない激痛が走る。
「っ!」
「もう一本逝くか?」
「!!!??」
左腕を掴みながら、ギークは俺を脅して来た。
うまく出来るかわからなかったが、【黒のアーツ】を発動しようと思った。
「あれ?!」
何故か【黒のアーツ】は発動しなかった。
「坊主無駄だ、俺の仲間には、アーツを発動させない【封印のアーツ】の持ち主がいる。大人しく仲間になれや、そしたら存分に可愛がってやるぞ」
「ぜっ絶対嫌だ!アーツバスターの仲間になんて、死んでもなる………」
ボキッ!
「!!…………ぐあああああ!!」
言い終わる前に左腕も折られた。
「さて………次は肋骨逝くか?」
と言いいギークは俺を蹴飛ばし、仰向けにさせてきた。
「何本いくかな〜?」
ギークは俺のお腹目指して、思いっきり足を振り下ろしてきた。
ボキボキ!
「ぐはっ!!」
呼吸が出来ない程の痛みが全身を駆け巡る。
「ほぉ……子供の骨は折れずらいんだな。さてと、小僧考えは変わったか?」
「はぁはぁ…」
俺は、黙ったままギークを睨みつけていた。
「その根性嫌いではないが、もう二、三本逝っとくか?」
ギークの足が振り下ろされる直前だった。
バン!
とドアが突然開いた。
「ギーク! 侵入者だ! アーツハンターだ!」
「!」
「侵入者は、俺たちに任せろ」
「うふ、私たちに任せて早くその坊やを、仲間に引き入れてね」
と言って大人達はみんな出て行き、俺とギークのみになった。
ギークは俺の折れた左腕を、掴みながら身体を持ち上げてきた。
「ぐあぁぁぁ!」
思いっきりギークは俺を壁に、投げつけてくる。
ズルズルと崩れさり、激しい痛みと共に俺の身体が動かなくなり、目の前が暗くなっていく……
◆◇◆◇◆
「ルーク! ルーク! しっかりしろ!!」
「うっ…………」
気がつくと目の前には、心配しているアードと、俺に【回復のアーツ】を使って回復をしてくれている女の人がいた。
「ルークすまなかったな、迎えが少し遅くなった」
どうやら、アードは水と食糧を採って戻ると俺と少年はいなくなっていた。
何かが起きたのだと思い、この村で一番立派な家に侵入したアードは、村人を解放、奪われたアーツも回収しアーツバスターを追い詰めたと話してくれた。
この部屋に入ると、俺だけ倒れていたらしい。
「えっ? 俺だけなのですか?」
「あぁ……そうだが、何かあったか?」
“俺が気絶するまで確かに、ギークはいたはずだ。ではどこに行ったのだろう? アードさんが来た時には、ギークはいなかったとの事だけど…………”
俺は目の前にある壁をジッとみつめて、ギークが消えてしまった訳がわかった。
「あっあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
突然叫びあげると、まだ傷は塞がっていないらしく身体中痛かった。
身体中の痛みよりも、目の前にある壁の方が俺には重要だった。
壁には黒く人の形のみが焼け焦げて残っていた。
「どうしたルーク!?」
「アードさん!! おっ俺は…!! ………俺は!!!」
俺はアードの胸の中でひたすら泣き続けた。
“ギーク・ヒューズは俺が殺った…………!”
ギークというリーダーを失った残りのアーツバスター達は、散り散りに去って行き村は解放された。
村人達からお礼を言われ、村長からはお礼にとささやかながら宴会をしたい。
との事だったが、俺の落ち込み具合を見たアードが丁寧に断ってくれた。
そして俺の傷が癒えた頃、村を後にした。
ボーっとしている俺にアードは文句もなにも言わずに、背負って旅をしてくれた。
かなり気を使って話かけたりしてくれたが、俺の耳には何も入ってはこなかった。
始めて人を消し去ってしまった。
アードの背中の上で、俺は後悔ばかりしていた。
「ルーク、俺はお前がいつまでも、お前の落ち込んでいる姿は見たくない。自分の意思でない【アーツ】の発動に振り回されるな。それが嫌なら使いこなせるよう努力しろ!」
アードは大事な事を教えてくれたような気がした。
まだ、立ち直れる自信はない。
それでも……
“強くなりたい!!”
とそう思った。
良く気絶するし、弱々ルークですが暖かく見守ってください。
そのうち強くなるはず?です。
ではでは感想お待ちしています。