第二十九話 水の街ヴァルへ
黙っている俺にフロガは再び話しかけてきた。
「どうした?俺の言う事は、聞くと約束しただろう?」
「いや………でも………」
背中を見せれば、烙印が見られてしまう……
それは、俺の旅の終わりを告げているのと同じ事だ……
フロガは俺から目線を外す事なく、真っ直ぐに俺の目を見てくる。
「背中を見せないのならば、家の者に連絡して迎えに来てもらえ……」
「家にはまだ帰れません……でも背中も見せたくもありません……」
「そうだよな、お前には背中に見られては困る物がある……そうだろ?」
「!!!なぜ、それを………」
フロガは驚きを隠せない俺の頭を片手で突然押し付けながら、無理矢理俺の服をめくりあげてきた。
「フッフロガさん、やめてください」
暴れる俺を無視してフロガは鎖帷子をもめくりあげてしまうのであった。
背中の烙印を見ながらフロガは深いため息をつき、話を続けて来た。
「はぁ〜お前もか………」
“お前も??”
「昔な、俺もある逃亡奴隷と出会ったことがある………」
「俺がこの街に来てから五年ぐらいたった頃だな……
この村の住民の一人が、逃亡奴隷を見つけてきたんだ。
奴隷の女は、すぐさま連れ戻され次の日の朝には、広場中央で足枷をされたまま水槽の中へと突き落とされて、もがき苦しみながら死んで行ったよ………」
「他にも色々な逃亡奴隷が、殺されて行くのを見てきたが聞くか?」
ブルブルと頭を横に降る姿を見ながらフロガは話を続けてきた。
「坊主、逃亡奴隷と言うのは常に死と隣り合わせの物だ。
他人を信頼するのはいい、だがこの背中を見た時大抵の人間は手の掌を返したように、見下してくる………」
「そして、見下してくる人間は大抵警備兵に密告する事だろう」
「じゃフロガさんも、俺の事密告するんですか?」
「そうだな、今すぐ密告してくる事も可能だな……
だが、俺に密告されるのが嫌なら今すぐ口封じしろ………」
「………」
「どうする?
俺はどちらでもいいし、この場でお前を殺す事も出来る………」
そう言ってフロガは一本の細いナイフを取り出し、うつ伏せにされている俺の心臓付近にナイフを当ててきた。
「どうしてもですか?」
「お前の返答次第だ………」
「………俺は、フロガさんを口封じの為に、殺したくありません……」
「口封じをしない限りお前は、死ぬんだぞ?」
「フロガさんは俺を殺さないし、密告もしません」
「なっなぜそう思う?」
「うまく言えませんけど、フロガさんの話は脅しではなく、忠告のような気がしてきました。
そして、フロガさん……
あなたも俺と同じく背中にあるのではないですか……?」
「ふははははははは!!
勘が鋭いな……そうだ、坊主の考え通り俺の背中にも、見られてはならないものがある……」
「!!!」
フロガは語り始めた……
フロガは、元々『水の領地』の住民ではなく『風の街サイクロン』に在住して一つ年下の妻と共に、平和な毎日を送りながら有名な整体師として生活をしていた。
中々子供には恵まれなかったが、結婚して五年目にしてようやく授かった娘は、スクスクと成長する事が出来た。
しかし、八歳になったある日フロガは突然地獄へと叩き落とされたのである。
その日たまたまフロガは隣町まで整体師の仕事で出かけており、妻と娘は馳走を用意するべく市場に赴いたのであった。
しかし、たまたま通りかかった貴族の男は、美しすぎる妻に一目惚れをし娘と共に家へと招待をしたのだが、貴族の男は妻には内緒で娘を奴隷商人に売り飛ばしていた。
妻子の身になにが起きてるかもわからずにフロガは家に帰ったのだが、家には誰もいない事に気が着いたフロガは、突然後ろから殴られ気絶させられてしまうのである。
フロガが気がついた時、目の前にいた妻は裸にさせられ上に身体全体を紐で縛られ見るも無残な姿で、フロガを見つめていた。
フロガは懸命に妻を助け出そうとしたのだが、貴族の男は妻を盾に取り、無抵抗のままいたぶりつける姿を妻に見せつけていた。
妻は必死に貴族の男にやめて欲しい事を泣きながら訴えると、その姿をみた貴族の男は、妻に愛するフロガの背中に奴隷の焼印を押す事を強要し、妻は泣く泣くフロガの背中に焼印を押したのである。
泣き叫びながら二人は引き裂かれ、奴隷にされたフロガはどこかの作業施設に連れていかれる前に、徒党を組み集団で逃亡を果たし、いつか必ず妻と娘を助け出すと心に決め、それ以降フロガは心を許さず誰にも背中は見せる事はなかった。
そして、同じ待遇の人間たちと土地を何度も変えながら暮らしていたが、いつしか一人殺されて、また一人とフロガの目の前で殺されて行き次第に、フロガはひっそりと生活をする事になったのである。
「俺は、この村にたどり着く前色々な場所を転々としながら生活をしていた。
そして、俺の背中を見た人間がいた時には、すぐさまその人間を殺し、その土地から逃げ出してきた………
この村で俺の背中を見た奴がいたら、迷う事なく殺しこの村から出て行くだろうな。
いつか、あの貴族に復讐するまでは死ね訳にはいかないしな………」
「…………」
「これから先、生きて行く上でこれは絶対条件だ、坊主にその覚悟はあるか?
もし、その覚悟がないのなら、やはり今ここで俺が苦しまずに一思いに殺してやる。
これは脅しでもなく、本気だ………」
「………俺は、口封じはしたくありません………
でも最後の最後どうしょうもない時が来た時……その時は………その時考えます」
「………」
「はぁ〜」
フロガは溜息を尽きながらナイフを別な場所へ置き、俺の腰の方へと手を移動させるのであった。
ペタン……
ペタン
と何かを貼られている感触がしてきた。
「俺には到底理解できんな、まぁ坊主の人生だ好きに生きろ……
俺は忠告した……しつこいようだがもう一度言う、決して忘れるな……
人は烙印を見た時、今まで友だった者は敵になる……その時は容赦するな………」
「はい……」
「よし、こんな物かな……服を着て立ってみろ」
言われた通り俺は服を来て、再度立って見ると何と先程の激痛はまったくなかったのである。
「フロガさん……これは一体……?」
「お前の腰に今、痛みを止める札ともう一枚この札を貼った」
そう言いながら、フロガは【鎮痛の札・再生】と【回復の札・再生】と書かれた札を見せて来た。
「この【鎮痛の札】というのは痛みを取り去ってくれる、だから今なにも違和感なく立ち上がる事が出来たんだ」
「おぉ!!」
「しかし、これはその場限りの方法だ。
今は痛みを感じる事はないかもしれないが、坊主の身体の中では着実に負担はかかっている。
だから、負担をなくし悪化させない為に【回復の札】を使うことにした」
「すげぇ〜」
「いいか、この札の効果は基本半日だ、それ以降はその日の旅は何が何でも中止し、ただちに休息を取れ。
痛みがないと思い、過信し歩き続けると………」
「俺の腰は限界を越え、二度と歩けなくなるって事ですね?」
「そうだ……いいな、半日だぞ」
「はい……!!」
大抵の札系は一回使えば消滅するのだが、フロガが用意した二つの札は、特殊加工を施され『再生』が組み込まれていた。
『再生』が組み込まれいる札は、たとえ効果が切れたとしても札は消滅する事なく、札自体の効果を半日かけながら札の能力が復活するのいうかなり珍しい札なのである。
「これ高価な物なのでは?」
「『風の街サイクロン』に行けば腐る程安く売っているぞ」
「へぇ〜」
一通りの話が終わった頃、ここに住む村人達にバレる前感ずかれる前に、フロガと別れを告げ、再び『水の街ヴァル』を目指しひたすら歩き始めたのであった。
しばらく歩くと陽が落ちかけ始め、フロガが言っていた言葉を思い出す。
「よし、そろそろ時間だな………」
無理をせず、その場で【結界の札】を使いながら野宿の準備を始める。
その日は、何事もなく終わり、
フロガの言われた事を守りつつ一週間ぐらい歩いた頃だろうか……
俺はまだ、『水の街ヴァル』に着く事はなかった。
そんなある日の夜、俺はいつも通りに早目に野宿の準備をし、一段落着いた頃だった……
ズキンッ!
ズキンッ!
ズキンッ!
ズキンッ!
と突然俺の両脚は激しい痛みと共にプルプルと痙攣を始めたのである。
「くぅ………なっなんで……?」
“無理をさせ過ぎたかな………”
と考えながらも、もう座っている事もままならず、たまらず横に倒れるかのように寝転がってしまうのである。
両足の痙攣は、やがてこむら返りをしているかのように、筋力が硬くなっていき触っていてもボコっと膨らんでいるのがよくわかった。
「いてっ!!いでっ!!」
転がりながらも痛みに耐え続けるしかなかった。
次第にこむら返りは収まったが、筋肉痛のような痛みが襲いかかってくる。
腰は痛くなかったが、激しい脚の痛みに……その日は一睡も出来なかった……
朝になっても脚の痛みが、引く事はなかった。
「うぅ………まだ痛い……」
動かず大人しく横に寝転がりながら背中を丸め、膝を曲げながら痛みがなくなるのを待つ事にした。
陽が徐々に登るのにつれ【鎮痛と回復・再生の札】は効力を取り戻し、俺の痛みを嘘のように全て取り去ってくれた。
「ふぅ〜なんとか治まった………」
その日は、念の為あまり無理をして歩かずに三十分置きぐらいに、十分の休憩を取りながら先を進む。
しかし、休み休み移動したとしても札の効果が切れれば、再び激痛が俺を襲ってくる……
痛みで眼を覚ます事が続き、寝不足の日々を繰り返しながらも更に一週間経ったが、それでも『水の街ヴァル』にたどり着く事はなかった。
「はぁはぁ……いっ一体いつ着くの………?」
歩いても歩いても着く事がなく、精神的にもだいぶ参っていた連日の寝不足が重なっていた。
俺は遂に【封印の札】を使う気力もなく【鎮痛と回復・再生の札】の効果中である昼間に、両膝を着き前のめりに倒れこみ、その場で寝てしまうのであった。
◆◇◆◇◆
ガタンゴトン……
となにか揺られている感覚がしてきた。
「んっ……んん〜………」
俺が眼を覚ました時には、荷台に幌がかけられている幌馬車の中に横になって寝ており、すぐ側には肩まで伸びているウェーブを少し邪魔臭そうに耳にかけ、女の子が座っていたのである。
「あっ!!おとうちゃん、この人目覚ました?」
「おお!そうか、坊や気分はどうだい?」
「えっと……よく寝ました……」
「そうかそうか、それは良かったな」
「あの……ここは……」
「うんとね、道端で倒れているのをお父ちゃんが見つけね、荷台に乗せてくれたんだよ」
「あのまま倒れていたら、坊や魔物の餌食になっていたぞ」
「そうだったんですか……ありがとうございます………」
「俺の名はセウー、坊やの隣に座っているのはシャンマリンだ」
「ルークと言います」
「よろしくね!ルークちゃん!」
「!!
ルークちゃん!ってシャンマリンさんと俺、そんなに歳離れていないと思うんですけど?」
「そうなの??声が子供っぽいから年下かと思ってた♪」
「えっ?」
シャンマリンと名乗る女の子は、俺の方を見ていたが眼はつぶったまま開く事はなかった。
“この子ひょっとして眼が………”
「ぬぬぬっ俺は、十二歳です……シャンマリンさんは?」
「私も十二歳だよ
同い年だからルーク君って呼ぶね………」
「はぁ………」
馬車で後、二時間程進めば『ヴァル』に着くとの事だったので俺は、セウーの好意に甘えそのまま馬車に乗せてもらい事にした。
二時間後ぐらいには、俺の腰に貼っている札の効果も切れる頃なのだが、そんな事はすっかりと忘れシャンマリンと話し込んでしまうのであった。
話を聞くとシャンマリンは五歳の時に、突然眼に違和感を感じゼウーに話した所、心配したゼウーは色々な医者にシャンマリンを連れていき看てもらう事にした。
しかし、殆どの医者は原因不明と言い、匙を投げだしてしまっていた。
その結果、長い年月をかけながら徐々に視力を落とし、今はもう殆ど見えていない状態であった。
だがシャンマリンは落ち込んでいる様子もなく、すごく元気で明るかった。
「それでね!これから私、ペリア先生の所に行くの」
「えっ!!!?」
「ペリア先生曰くね、私の眼はまだ完全に失明していないから治る可能性は十分にあるんだって!
そしたら、ルーク君の顔もはっきり見えるね」
「うっうん……そうだね……」
「あの、セウーさん!?」
セウーに詳しい話を聞いて見ると、どうやら『水の街ヴァル』に着いたら、まっすぐにペリアの元へ行くとの事だったので、俺もそこまで連れて行ってもらうようお願いしたのである。
「それは構わんが、ルークもペリア先生に看てもらいたい所でもあるのか?」
「はい」
「そうか、わかった。それまで休んでいていいぞ。シャンマリンも少し休んでおけ」
「はーい」
その言葉を聞いたシャンマリンは俺の隣に何故か寝転がり、気持ち良さそうに寝始めてしまった。
“………ねれるかぁ〜!!!”
ドクンッ!!
「うっ………」
気持ち良く寝ていた俺は痛みで、眼を覚まさせられた……札の効果が切れたようだ……
両膝は相変わらず電気が走ったような、痺れと共に激痛を伴い動かす事も曲げる事も出来なかった。
だが、今日の痛みはいつもと違う痛みだった。
「うがぁっ!?」
ハンマーや鈍器などで激しく何度も何度も、腰を叩きつけられ押し潰されて行くような感覚がしてきた。
「おとうちゃん、ルーク君突然苦しみだしてきたよ!」
「なに?」
馬車はもう既に、『水の街ヴァル』へと到着しペリアの元へと向かっている途中だった。
「ルーク、もう少しで着くぞ!頑張れ……!!」
「はぁはぁ……」
“やっやばい……痛すぎる………”
馬車は猛スピードでペリアの診療所へとたどり着き、セウーは俺に、
「ここで待っていろ!!」
と言い荷台に俺を置いたまま、シャンマリンを連れて先に中へと入って行くのである。
「はぁはあ……うぅ……」
動けず、ぐったりとしうなだれながら荷台で寝ている俺に、誰かが近づいてきた。
「セウー……さん?」
なにも言わずそっと俺を抱きかかえながら、診療所の中へと連れて行かれた事だけはわかった。
すぐ側では、シャンマリンを椅子に座らせたセウーが、受付で懸命に俺の事を話ししていてくれていた。
「やばいんだって!!緊急で看てやってくれよ!!」
「例外はありません。そこの椅子に座ってお待ちください。順番にお呼びいたします」
「死んでもいいのかよ!!」
「お待ちください」
素っ気ない態度の受付に対して、セウーは諦めずに交渉をしていてくれた。
その話をぼんやりと聞きながら……
“セウー……さんじゃない……じゃ誰だろう……この人………”
俺を抱きかかえた男は、診察室へと入って行きそのままベットに寝かせると、
「おいっ!!ペリア、ちょっとこっち来い!!!」
と怒鳴り散らしていたのである。
すると隣の部屋から、
「もうルドベキア、私だって忙しいのよ。一体なに……………よ?」
と言いながらペリアは俺の目の前に現れたのであった。
「ルッ………ルーク坊や?」
ペリアは尋常ならざる痛がりをしている俺の姿を看て、すぐに駆け寄ってきたのである。
「どこが痛いの?」
「こっ腰…………」
仰向けに寝かせられていた俺を、ペリアは横に向けようとするが、
「うっうがぁ!」
痛くてとても動かせる状態ではなかった。
ペリアはそんな事は御構い無しに無理矢理、身体を横に向け俺の服をめくりあげてきたのである。
そしてペリアは俺の腰に貼られている【鎮痛と回復・再生の札】を触りながら、
「この札、いつ貼ってもらった?」
「うっ………ぐあっ!!」
もう俺には痛みに耐える事が出来ず、とてもではないが質問に答える余裕など全くなかったのである。
ベリベリッ!!
と勢いよくペリアは【鎮痛と回復・再生の札】を剥がしてきた。
「!!!」
言葉にならない、うめき声をあげるしか出来なかったのである。
ペリアはそのまま、俺の腰に手を当てながら【天使のアーツ】を発動してくれた。
痛みはみるみる内に収まり、スゥ〜と楽になりそのまま眠ってしまったのである。
「とりあえず、応急処置の回復をしたわ……
ルドベキアこの子をアジトに連れて行ってあげて、私が帰るまで絶対安静にしといて」
「おう、わかった。
あっその前にペリア、これを見ておいた方がいいと思って持ってきた」
ルドベキアペリア二通の手紙を渡してきた。
「なにこれ?」
「セルビアから、ペリア宛てだ。またしても緊急と書かれているぞ」
「はぁ〜この状況を見る限りあまり、読みたくないわね………その手紙……」
「まぁ、そうだな………」
渋々ペリアはその手紙を受け取り、読み上げていくのである。
『拝啓
ペリア・ヒーン様
近日中に【黒と白のアーツ】の使い手ルークがペリア様の元へ伺うと思います。
思わしくない状態でのルークの旅立ちでした。
つきましては、大変お手数なのですが、フォローの程よろしくお願いします。
決して我々はペリア様の言われた回復につきましては、
手は抜いてはおりません、毎日マーシャル殿の回復を施しておりました。
ロールライト支部長セルビアより』
読み終えたペリアは深い溜息と共にルドベキアの方を向き……
「なんか、この文章おかしいわよね………」
手紙を見ながら、ペリアはしばらく考え込み、
「あっ!!!!そおいうことね!!セルビア!わかりましたわ」
「んっ?何がだ?」
「ったく…………
あったまにきたわ、ルドベキアちょっと頼みがあるんだけど……」
「またか?今度はなんだ?」
ペリアはルドベキアの耳元に囁き、その話を聞きながらニヤリと笑っていた。
そしてルドベキアは気絶している俺を、背負いながらアジトへと連れて行くのである。
診療所の受付ではセウーが諦めずに、未だに受付の人間にお願いをしていた。
応用が効かない受付は相変わらず、
「その場で待機していろ」
の一点ばりだった。
その姿を見ていた、ペリアは、
「えっと、シャンマリンちゃんのお父さんのセウーさんでしたっけ?」
話しかけられたセウーは振り返り、ペリアの姿を見た途端駆け寄りながらルークを今すぐ看てあげて欲しい事を話ししてきたのである。
「セウーさん、ご心配なく。
先程の少年は応急処置を施し別な所で休んでいますわ」
「おぉ!助かります!!」
「いえ、助かったのは私の方ですわ。
あの少年は私の友人??の息子です、あの子になにかあっては、大変な事になっておりました。
送り届けていただき、ありがとうございます、セウーさん」
「あっいえ……とんでもない……です」
「じゃシャンマリンちゃんお待たせ、診察室にいきましょ。
今日の治療をしましょうね」
「うん、でもねペリア先生ルーク君ね、すっごく痛そうだっけど大丈夫なの?」
「えぇペリアお姉さんに任せなさい!!
帰ったらちょっときつ〜〜ぃお仕置きをしなくちゃ!!」
「??」
そう言ってペリアとシャンマリンは診察室へと入って行くのであった。
◆◇◆◇◆
夜遅くにペリアは、ルドベキアのアジトへと帰って来たのである。
「あぁ〜疲れた〜あの後大変だったのよぉ〜」
「そりゃ何ヶ月も開けていたんだ、しゃぁないだろ?」
「それは、そうなんだけどねぇ〜
あっ所で、ルーク坊やは?」
「ペリアに言われた通り、奥の部屋で誰も入るなと命じて、寝かせている。
そろそろ気が付くんじゃないか?」
「そう……
じゃ早速会ってくるわ……」
眼が覚めている俺に、ペリアは部屋の中に入ってきたのである。
「気分はどうですか?」
「んっ……?あっペリアさん?」
まだ身体を動かす事が出来ず、仰向けになったままペリアを見つめ、ペリアもまた俺の側に座ってきたのである。
「ゼウーさんに話を少し聞きましたわ、そしてこれ……」
ペリアはそういいながら、俺に一通の手紙を見せてきた。
「この手紙は、セルビアからの物よ
『あなたの事よろしく』
と書いてありますわ。
全くと言って状況は掴めませんけど、随分勝手な事をしてきたものね……」
「えっ?いや、その……」
「言い訳は聞きたくないです」
「ごめんなさい…………」
「謝るのは、私ではなくセルビアにでしょう?
どれだけセルビアに心配をかけさせるおつもりですか?」
「はい……」
はぁ〜と深い溜息を尽きながら、ペリアは俺の今の状態を話ししてくれた。
まず、状況はかなり悪いらしい。
マーシャルの治療を途中で辞めた俺は、中途半端な状態で旅立ってしまった事でよくなるどころか悪化しているようだ。
それでもなんとかたどり着けたのは、【鎮痛と回復・再生の札】のお陰との事だ。
「まず、無事にここまで辿り着けた事に感謝して下さい」
「はい……」
「無理をした結果、ルーク坊やの両足の筋肉は完全に断裂しています」
「えっ!!!」
「痛みがないのは【天使のアーツ】で痛みを抑えているだけに過ぎません」
「要するに………?」
「はっきり申し上げます【天使のアーツ】ではもう手の施しようはありません」
「!!!」
ペリアの話は衝撃的だった。
「もう俺は……立って歩けないのですか!!?」
その質問にペリアは答える事なく、なにも言わず出て行くのであった。
「そっそんな………」




