第二話 黒と白のアーツ
どれくらい気を失っていたのかわからなかった。
だが、身体中の痛みに目が覚めた。
「ここは、どこだっけ?」
辺りは薄暗く、目の前には階段とそのすぐ後ろに地下室があるのがわかった。
両手には、【黒と白のアーツ】が装着されている。
身体を動かそうとすると、ビリビリと電気が走りだした。
「うっ!!」
“痛い!”
また気を失い欠けたが、右手に装着されていた【白のアーツ】は発動し暖かい光が、俺の全身の痛みを取り去ってくれた。
「あれ……痛くなくなった……?」
それよりもなぜ発動したのか、さっぱりわからなかった。
立ち上がり、階段を登る。
地下室から出ると、そこから急激な異様な臭いがし思わず口と鼻を手で抑えていた。
「なにこの匂い……?」
屋根があったはずの家は屋根がなく、焼け焦げた柱が数本立っているのみで周りを見渡すと、辺り一面焼け野原だった。
全身の血の気が引いて行った……
「父さ〜〜ん!! 母さ〜〜ん!!」
大きな声で叫ぶ、しかし反応がない……
走りながら叫ぶも、やはり反応はなかった……
しばらく立ちすくんでいると、後ろから足音がしてきた。
「ほぉ………子供の生き残りがいたのか。ボスの言った通り、待っていたかいがあったぜ」
全身が凍りつき、俺は男から目が離せなかった。
“こいつやばい! 逃げなきゃ!”
でも足は震えその場から動こうとはしてくれなかった。
“怖い!”
直立不動のまま動けない俺を見ながら、男は近づいてくる。
そして、俺の両手のアーツに気がついた。
「ほぉ〜小僧随分と変わったアーツを持っているな。それも珍しい、両手アーツ使いか…」
「……父さんや母さんは……? みんなは………?」
「生きている奴は、お前だけだな。俺たちがみ〜んな焼き払った」
男はニヤニヤ笑いながら、手に装着している、【炎のアーツ】を見せ話しを続けた。
「焼き払った……?」
「あぁ、ようするに、ここの村はお前を残し全滅だな」
「!!」
その言葉以降もう俺の耳には、男の言葉は何一つ聞こえてはいなかった。
“父さんがいない…母さんもいない………?”
「まぁどこに隠れていたのか知らないが、お前だけ生き残っていても、しゃあないよな…」
男はそう言いながら【炎のアーツ】を発動し右手に、炎の塊が形成されていった。
「ファイアボルト!」
と男が唱えると、炎の槍が俺目掛けて飛んでくる。
それを俺は、無意識に左手で消し去っていく。
男はびっくりし、何かを話ししていたが、俺の耳には入っていなかった。
“みんな死んだ………? 俺を残して……”
俺の中で何かが弾け飛んだ。
そこまでは、覚えていた。
「うわあああああああああっ!!!」
叫び声と共に、我を忘れた。
【黒のアーツ】が発動し、左手にバチバチと高速回転をしながら、ブラックホールみたいな黒い球体が出来上がっていく。
「ちょ……! ちょとま………!!」
男の話し終わる前に、黒い球体は男は飲み込み、影も形も何も残さず消し去ってしまうのであった。
俺の勢いは、止まらなかった。
感情に全てを任せる、いわゆる暴走状態である。
今度は両手を広げ頭の上に、大きな黒い球体を作り出した。
破裂寸前まで大きく大きく作り上げて行く。
これを解き放ったらどうなるかなんて、もうすでに考えられなかった。
そんな状態の時、突然後ろの方から俺を静止する者が現れた。
「やめろ………あの男だけではなく、ここ一体全て消すつもりか?」
灰色の服を着ている男に、腕を掴まれた。
「父さん、母さんがいない。村がなくなった……誰もいなくなった……」
見ず知らずの男に泣きながら訴える。
「今は、辛いかもしれない。だがそれが今起こっている現実だ、受け入れろ!」
「………」
男の顔を見ながら我に返り、気がついたら俺は泣きながら見ず知らずの男に泣きついていた。
「いやだぁぁ〜返してよ、父さん、母さん……みんなを返してよぉぉ〜」
作り上げていた大きな黒い球体は、次第に徐々に小さくなりやがて消えて行った。
【黒のアーツ】を使った反動なのか俺の意識は急激に薄くなり、その場で本日2回目の気を失っていた。
◆◇◆◇◆
目が覚めると、辺りはすっかり暗くなっていた。
満天の星空は綺麗で、天体観測が出来そうなぐらい透き通っていた。
だが、焼け焦げた臭いはまだその場に残っていた。
目が覚めた俺は、起き上がりマントのような物がかけて掛けてある事に気がついた……
すぐ側では、焚き火がパチパチとなっており、周りを見渡すとやはり焼け野原になっており、誰一人いなかった。
「やっぱり夢じゃないんだ………」
悲しいのに虚しいのに、何故か涙はでなかった。
今、起こっている現実を無理矢理納得しようにも、五歳の俺には流石に難しい問題であった。
先程の男が戻ってきて、ドカッと焚き火の前に座り込んだ。
目の前にいる男に聞きたい事は一杯あった。
なのに……何も聞けなかった。
しばらくの間沈黙が続くと、先に話しかけてきたのは男の方だった。
「ふぅ〜俺の名前は、アード・フォン・ルフ。アーツハンターだ、お前は?」
「…………………ルーク・ゼナガイア.五歳…………………」
聞こえるかどうかわからない小さな声で、返事をする。
「五歳か。そうか……」
アード・フォン・ルフと言う男はしばらく黙り、再度俺に話しかけてくる。
「さっき、それが現実だ、受け入れろ! と言ったが、五歳の子供に言う言葉ではなかったな……すまない」
その言葉を聞いた時、目が熱くなり大泣きしそうになったが堪えた。
現実を受け止めるのは、怖かった。
しかし、これから先……父さんも母さんもいない、金もない。
そして、誰も俺の面倒をみてくれる人はいない。
それでも、俺は生きていかなければならなかった。
生前父さんは、俺が立つようになった時から安全でモンスターのでない森に、俺一人だけ残し歩いて帰って来いと言う、かなり無茶振りな事を何回も繰り返していた。
母がその度に血相を変えて俺を、迎えにきてくれていた。
「ルークごめんね! ごめんね! 怖くなかった? 怪我はない?」
その事で、父さんと母さんはよく喧嘩していた。
結局最後には父さんが、折れて仲直りしていた。
「今度は別な所に連れていくか!」
全くもって反省しない父さんは、三日も持たずに同じ事を繰り返していた。
ある日父さんが母さんがいない時に、話をしてきてくれた事を思い出す。
『母さんは、ルークを思いっきり甘やかしているよな。
だが、もし父さんがいなくなった場合……
母さんを守るのはお前しかいないんだ。だから強い男になれ!』
と父さん、良く言っていた。
父さんは三歳の時に起こった暴走事件の前には、アーツの使い方、発動方法等を俺に教えてくれていた。
まぁ暴走事件後俺はアーツを取り上げられてしまったから、父さんは母さんに内緒でアーツの変わりに剣の使い方を教えてくれた。
全てを受け入れられるとは、思っていなかったがここで死んでは父さんが、今まで俺に教えてくれた事、全て否定してしまうような急がした。
だから俺はアードに聞いた。
「あの、なぜこんな事が起きたのか、わかりますか?」
アードは少し困った顔をしていた。
「俺はこの村に住んでいる、アーツハンターのラニシェル・シャリーに会い来たんだ。」
ラニシェル・シャリーは、アルファの父親だ。
嫌いな奴だったがアルファは、しぶとく生き延びていないのかな〜と期待してしまう。
「しかし、俺が着いた時にはこの有様だったからな、詳しい事はわからん………すまんな………」
「ただこのやり方をする奴らはわかる……」
「誰ですか?」
「やつらは、集団で村を襲いいくつもの村を滅ぼしている。その名は……アーツバスターだ」
アード淡々と話してくれた。
アーツバスターは、なぜそのような事をしているかわからないが、アーツ全てを奪い取るかのような活動をしているらしい。
その中でも【最上アーツ】まで進化したアーツは、アーツハンター協会もアーツバスター達もすぐに察知する事が出来るらしい。
アーツハンター協会は、必ずその者、村や街をアーツバスターから保護しなければならない、という条約があった。
そして、アーツバスター達は、強奪。
そんな事が、繰り返し行わられており、今回はアーツバスターの方が早く到着し、奪われ、壊滅させられてしまった。
“では、父が【最上アーツ】まで進化させなければ?
それは俺の為にやった事で……
俺が………俺が…………俺のせいでこの村は…………!?”
「自分を責める必要はない……お前のせいではない……」
「でも……」
「悪いのは、アーツバスターよりも早くに駆けつけられなかった、アーツハンター協会だ……それよりも……問題は、ルークお前のこれからだ……」
確かにそうだ、村がなくなり親が死んでしまった俺にはもうどこにも行く所はなかった。
「親戚はいるのか?」
「……………」
父さんと母さんには確か兄弟はいたはずだけど、今は会いたくない。
それに、どこにいるのかもわからなかったし………
アードは何度も何度も俺のせいではないと言ってくれたが、でもこんな事になったのは、やはり俺のせいだ……俺のせいなんだ……
なんとか一人で生活できる方法はないのだろうか…………
……………
思いつかなかった…………
「ふむ、どうするかな…………」
アードは腕を組みながら眉間にしわを寄せながら、考え込んでしまった。
パチパチとなっている焚き火をみながらしばらく沈黙が続く。
「………所でルーク、お前はどこかに隠れていたのか?」
「えっ?」
突然の質問にびっくりし、うろたえてしまった。
「えっと、父さんが隠れていろって、言われて無理矢理…………」
「ふむ、良ければ、そこに連れて行ってはくれないか? 俺の疑問に思っていることがわかるかもしれん」
「??」
アードがなにを考えているのかは、わからなかったが俺は地下室へと案内した。
◆◇◆◇◆
「ここか?」
「はい」
そう答えるとアード【アーツ】を使い辺りを明るく照らしてくれた。
真ん中にある台座を指刺し聞いてきた。
「ここには?」
「えっと二つの【アーツ】が置いてありました。」
「ほぉ」
「あっそういえば、確かあの時声が聞こえました………
『我は黒のアーツ』
『我は白のアーツ』
『汝、力を求めし者か?汝、我を受けいれる者か?』
『汝につき従おう……』
………と。」
「!!!!」
アード俺の肩を掴みながら聞いて来る。
「確かに、黒と白のアーツと言ったのか!?」
「はっはい……そう聞こえました…けど?」
アードは、ゆっくりと台座の周りを歩き出した。
なにもなかったが、【黒と白のアーツ】が置いてあった場所に、隠されてはいるが探せば見つかるように封筒は置かれていた。
アードはその手紙を、俺に渡してきた。
「読んでみろ」
その封筒には……
『ルークへ』
とのみ書かれていた。
『ルークへ
この手紙を読んでいるという事は、父さんや母さんになにかが起こっている時だと思って書いておく。
話は長くなるが、このアーツは使い所を間違えると大変な事になってしまう。
だからこそ、この事を知っているのは父さんと母さん、そして今この手紙を読んでいるルークだけになる。
父さんも全てを知っている訳じゃないが、わかる事は全て書いておこうと思う。
ここにある二つのアーツは、【黒のアーツ】、【白のアーツ】と言って、【神アーツ】の中でも最もレアなアーツと言われている。
父さんや母さんは使いこなせなかった。
というかこの【アーツ】に認められなかった………
とういのが正解だな。
だから能力とか一切わからないんだ。
この【黒のアーツ】と【白のアーツ】は祖父の話いわく、アーツが誕生した時からあるらしいぞ。
なぜこの地下室にかるのかは、わからないが昔からここの地下室に置いてあって、アーツハンター協会も知らないし、察知する事も出来ないみたいだな。
そして、100年ぐらい前に【黒と白のアーツ】に認められた人間が一人だけいて、各地を色々と旅をしたらしい。
そして……
その人間が死んだ時、【黒と白のアーツ】のアーツはここに戻ってきたんだ。
それ以来ずっとここに保管されている。
父さんが知っている事は、こんな所だな。
もし、ルークが【黒と白のアーツ】に認められてもっともっと更にこのアーツの事が、深く知りたいと思った時……その時は、【アーツの聖地】に行け! そこで全てがわかると言われているぞ。
父さんは行った事ないから、どんな所かは知らないけどな。
最後になったが、ルーク強くなれ! そして幸せになれ!
父より」
読み終えた俺にアードは、
「なんと書いてあった?」
「よければ読んで下さい」
といい俺はアードに手紙を渡した。
「いいのか?」
黙って頷くと、アードは読み始めた。
この手紙の内容は多分、秘密の事なんだろうなと思った。
そして、ここで欲に目がくらんだアードに、俺は殺されるかもしれない。
とも思った。
でも俺は、この男……アードを信じたかった。
「ずっとここにあったのなら、誰もわからず幻のアーツになるだろうな……」
俺は、どうなるんだろう、殺されるのかな? と考え足元が震えだした。
それに気がついたのか、
「んっ? ルーク、トイレか? 我慢しなくていいぞ?」
「違います………」
「そか、なら別な心配事だな…………… 安心しろ……俺はお前を殺して、その【アーツ】を奪うつもりはない。俺は【黒と白のアーツ】には認められないだろうし、今持っているこの【アーツ】を気に入っている。だから安心しろ」
俺の頭を、撫でながらアードはそう言ってくれた。
アードは、更に壁を調べ出した。
念入りに、探し周っていると一箇所だけ壁がへこむ所を発見した。
「押してみていいか?」
「はい……」
壁を押すと、ガタンゴトンと言い真ん中にあった、アーツ台は下にさがりガタンゴトンと大きな音を立てながら、大きな石碑が出てきた。
その石碑には、俺にはまったく読めなかった。
「ここの石碑の文字ルーク、読めるか?」
「読めません」
「では、読んでやろう。ルークが受け継いだ【黒と白のアーツ】の事が書いてある。」
『【黒のアーツ】己の眠気と共に全てを消し去り
【白のアーツ】己の寿命を犠牲に死者以外の者、全ての傷を治癒すべし
同時に発動する事でお互いの欠点を補う。
ゆえに、【黒と白のアーツ】は二つで一つ』
(アルベルトさん、ひょっとしてこうなる事予想していたのですか。だから、ラニシェル・シャリーさんに連絡して、俺をここに来いと……)
俺とアードは地下室から出て、焚き火の前に戻った。
もう寝ろと言われ、毛布を渡された。
言われるがまま横になり空を見上げると、そこには満天の星々あった。
激動の一日がこうして終わった。
朝方肌寒くなり、目が覚めた。
焚き火の火が消えかかっているのを見て、慌てて周りにある木を集める。
アードはまだ眠っていた。
取り敢えず風邪は、ひかないかな?
濃い霧が周りにを全て隠しているように思えたが、火事の焼け跡は生々しかった。
俺は、ある事をしようと思い動きだした。
罪を償うかのように、我を忘れて繰り返し繰り返し動いた。
一通り終わった頃に、アードが起きて来て俺のやっている事に驚いていた。
「ルーク一人で、やったのか?」
「なにもできないから……せめて………」
至る所にある村のみんなの死体を一箇所に丁寧に集めた。
焼け焦げて誰が誰なのかは、さっぱりわからなかった。
それでも、俺は泣きながらごめん! ごめん! と心を込めながら集めた。
中には持ち上げただけでくずれてしまうのもあって、その度に泣き崩れそうになった。
「俺も手伝おう」
俺はアードと一緒に村のみんなの墓を建てた。
この村が今後どうなるのかわからないが、俺はここにはいられなかった……
気がつけば、太陽はもう日が高く昼頃になっていた。
遅い朝ご飯含む昼ご飯を食べながら、アードは話しだした。
「ルーク、これからの事なんだが…………」
「はい……」
アーツハンター協会には、アーツ専門の育成機関がある。
そこに行けばアーツの発動方法、成長の仕方、注意点等様々な事が教えてくれるらしい。
勿論お金はかかるが、卒業後アーツハンターとなり、働くという条件を満たせば費用は出世払いでいいらしい。
そして、寮生活での衣食住全てが揃っていると教えてくれた。
「行ってみるか?」
昨日会った見ず知らずの子供に色々と教えてくれる、アードの申し出に俺は凄く嬉しかった。
「はい、よろしくお願いします。アード・フォン・ルフさん」
「フルネームで呼ばなくていい、アードでいい」
アーツハンター協会までは、どうやら長い道のりらしいが、その道中アードは基本的な事を教えてくれると話してくれた。
こうして俺は、アードと一緒にアーツハンター協会を目指す事になったのである。
アルベルト→ルークの父親
感想お待ちしています。