第二十八話 松葉杖の少年
セルビアの静止を振り切った俺は『水の街ヴァル』へと、松葉杖を使いながらゆっくりと歩いていた。
松葉杖を使わなくても歩けるには歩けるのだが、まだ俺の身体は全快ではない。
ペリアの【天使のアーツ】のお陰で、粉々に砕けていた骨や身体中の痣や切り傷は元どおりに治癒する事が出来た。
しかし、生命を優先に発動した【天使のアーツ】は体力と筋力、神経系統等を同時に回復する事は出来なかった。
だから、マーシャルに【月光のアーツ】で体力、筋力、神経系統を時間をかけて回復してもらっていた。
だが、全快になる前に俺は『水の街ヴァル』へと向かっている………
無理をして松葉杖を使わずに歩く事は可能だが、体力がまだ万全ではない為、歩いている途中で足が動かなくなる可能性も十分に考えられる。
そして、動けないまま誰にも助けてもらう事も叶わず、行き倒れになる可能性はゼロではない。
と考えた末に出した結論が……
無理をせず、カッコ悪くてもいい、惨めでもいいから無事に『水の街ヴァル』に到着する事。
そう考えるとやはり無難に松葉杖で移動するという結論になったのである。
アルディスから毎年誕生日に本をプレゼントしてくれた中で、様々な地域について詳しく書かれた本が一冊あった。
その本には、ロールライトの国境から『水の街ヴァル』までの距離は、本来なら馬車での移動だと三日、徒歩で一週間ほどで着く距離にあり、その道の途中に小さな街『レイーン』があると書かれていた。
更に『ヴァル』から五キロ程北に歩けば、立派な『温泉街カリドゥス』がある。
ここの温泉は神経痛や怪我、そして疲労回復などに大変よく効くらしい……
水の領土の恩恵を十分に受けたと思える程の由縁である。
『温泉街カリドゥス』には行ってみたいと思っていた。
国境を越え、松葉杖を使いながらひたすら歩く一時間ぐらい過ぎた頃だろうか……
俺の体力は消耗し脚はパンパンにむくれあがり、脇の下もズキンズキンと痛くなり始め松葉杖を使う事すら思い通りに出来なくなり、立って歩くのすら辛くなってきた。
「はぁはぁ……少し休もう…………」
我ながら体力のなさに泣けそうになった。
その場で座りこみ脚をマッサージし、再び進む事にしたのである。
ゆっくりと歩いている俺の姿を、見ながら色々な人たちが、
「頑張れよー」
と話しかけてくれていた。
嬉しくてちょっぴり元気が出てきた……
更に、ある行商人の人たちは座って休んでいる俺の姿を見ながら、
「にぃちゃん大丈夫かい?」
「はい、何とか……」
「どこまで行くんだい?」
「えっと『水の街ヴァル』まで行こうかと思っています」
「そうか、これをやるから頑張れよぉ」
と言って、行商人の人たちは俺にパンを渡してくれた。
ありがたく受け取り袋の中に入れ、俺は再度歩き始める。
「ふぅ〜」
休み休み歩いていたが流石に疲れが溜まり始めた頃、ふと上の方を見上げると看板があった。
『ここから先山道あり、夜間通行危険』
と書いてあった。
「ふむ………夜間通行危険……魔物でも出るのかな?」
丁度陽も沈みかかっていた為、今日はここで野宿をする事にし、残っている体力でなんとか薪を集め終えた俺は、ローリンアウェイからもらった袋の中から札を探し出す。
「えっと〜確かローリンアウェイさんがくれた中で…………」
独り言を言いながら札を探し出しだし、
「あっこれだ!」
探し出した札は、『火の札』。
これは火の威力自体は【火のアーツ】よりもかなり弱いのだが、焚き火の火を起こすには十分な火力を持っている。
早速『火の札』を薪の上で破き、破け散った破片は薪の上でパチパチと火がおきてきた。
薪を少しずつ足しながら、先程の行商人からもらったパンを食べる。
「美味しい………」
お腹が膨れ、一息ついた頃にはもう辺りは真っ暗な闇に包まれ夜になっていた。
「みんな……怒っているだろうなぁ………」
等と考えているうちに疲労が溜まっている身体は眠気を要求してきたかのように、瞼が重くなってきたのである。
うつら…うつら…
カクンッ
首を上下に振りながらはっと気がつき、慌てて『結界の札』を取り出す。
『結界の札』これは、半径1mの範囲なら敵に察知される事もないし、魔物に襲われる事もない札である。
「確かローリンアウェイさんが寝る前には、必ずこれを使えと言ってたな」
思い出したかのように『結界の札』を四分割し四隅にに置き結界を作り出し、毛布に包まりながら俺は、満天の星空を見上げながら眠りにつく。
◆◇◆◇◆
ピタン………
朝露が俺の頬に落ち、びっくりして飛び起きてしまう。
「つめたっ!!」
朝露は冷たかったが、気持ちが良く目が覚め目覚ましがわりになってくれていた。
念入りに土を焚き火の上にかけ火を消した後、荷物をまとめ袋を背負う。
そして両脇には松葉杖……
準備万端である!
「よし!今日の目標はこの山を越えるぞ!」
朝日がまだ昇りきらないうちに、俺は山の中へと入って行くのであった。
山道は以外と急斜面で平地での移動とは全く違っていた。
急斜面過ぎて松葉杖が邪魔で上手に登る事が出来ず体力だけが削られて行くのがわかった。
歩き出してから二十分経つ頃には、体力が限界になり座り込んでしまう。
「はぁはぁ……きっつ〜」
後ろを振り返ると、百mぐらいしか進んでいない事がわかる。
「うへぇ〜」
顔をパンパンと叩き気合を入れ直し再び、急斜面を登って行く。
ふと、ある事に気がついた……
松葉杖が俺よりも上の方にあると脇に突っかかり、バランスを崩して後ろの方へ転がりそうなった。
と言う事は先に片足一歩前に出し、身体を前の方に体重をかける。
そして、両方の松葉杖を前へ出すのと、同時にもう片方の足を前へ出す。
「おっこれいい感じかも………」
コツを掴んだら以外と早く登れるようになったが、それでも山頂に着いたのはお昼頃だった。
山頂では旅人たちが自由に休めるように椅子が用意されていた。
早速そこに座り休む事にしたのである。
「ふぅ〜疲れた〜」
しかし風は気持ちよく、気休めかもしれないが俺の身体を少しだけ癒してくれていた。
今度は下り斜面が、俺の進行速度を妨げてきたのである。
登りの時に掴んだ歩き方だと、膝がガクガクしてきて前に脚が出なくなってしまう。
またすぐに座り込み休憩をしながら、考えるのである。
「はぁはぁ………」
登った時は……脚を先にして松葉杖の反動で登ってきただろ……
よし、ならば逆でいってみるか。
松葉杖を先に地面に付け、反動を付けながら移動する。
なるべく後ろに体重をかけたつもりだったのだが、結構な急スピードがつきはじめてきた。
“やっやばい!!”
と思った時には既に遅く……
バランスを崩して転がり回り、更に勢いよく山道から飛び出し叫びながら崖下へと落ちて行ていく…
「うわっ……うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ゴロゴロゴロゴロ………
「いってぇ〜」
着ていた鎖帷子のお陰で、致命傷はなかったのだが先程の衝撃で、左足がうまく動かなくなっていた。
辺りを見渡すと広範囲の樹木が密集していた森が目の前に……
そしてすぐそばの後ろには、俺が転がり落ちてきた急斜面の崖があった。
崖を見上げるも、今の俺のこの状況下ではとても登れる高さではなかったのである。
次第に自分がどの方向に歩いていたのかすら、わからなくなってきた。
更に気がつけば、俺の命綱とも言える松葉杖が両方の無くなっていた事に気づく……
「どっ……どうしょう………」
右足だけで体重を支えながら立ち上がり、痛みを持っている左足を押さえながらどちらの方向へ歩けばいいのか悩んでいると……
ガルルルルル……
と言う唸り声と共に体胴長200cmぐらい、肩までの体高150cm、体重は90kgほどの大きな黒い狼が現れた。
「ブッブラックウルフだ………ってかでかすぎ………」
本で見ていたよりも数倍大きい……
『そもそもブラックウルフとは非常に好戦的です。
そして、脚も速いので逃げてもすぐに追いつかれます。
出会ったらまず逃げきれないので、生き延びたければ倒しましょう』
と本には記載されていた。
基盤は鋭く、口は大きく涎を垂れ流しながらブラックウルフは、俺目掛けて突進してきた。
ブラックウルフに背を向けヨタヨタと、左足を引きずりながら逃げ出す。
「はぁはぁ……たっ倒すしかないって……いっ今の俺には無理だよぉ……」
しかし、ブラックウルフの方がスピードが速いのは当然の如くあっさりと追いつかれ、鋭い牙が俺を噛み殺そうと飛びかかってきた。
「!!」
なんとか、その牙の攻撃を左方向によける事が出来た。
しかし、ブラックウルフはすぐさま、俺の方へと体制を向き直しジリジリと間合いを詰めてくる。
もう立っている事も出来なくなり、その場で力尽きたかのように、腰が落ち座り込んでしまう。
「はぁはぁ…くそっ…」
“はぁはぁ……殺らなきゃ、殺られる………”
座り込んだまま左手を前に出しに【黒のアーツ】を発動する。
掌から黒い槍が現れそれを握りしめ、ブラックウルフの攻撃に備えた。
そんなのは御構い無しにブラックウルフは、再度鋭い牙を開け噛みちぎろうと俺に向かってきた。
「ガルルルルルルッ!!」
“殺られる!!”
と思い目を閉じながら、黒い槍を前へ突き出す。
グサリッ!
と音と共に黒い槍は、ブラックウルフの喉元部分に深く突き刺さっていた。
ブラックウルフは悲鳴をあげる事なく一瞬で絶命し動かなくなり、黒い槍も静かに消えて行く。
「はぁはぁ……びっびっくりしたぁ〜」
しかしきちんと【黒のアーツ】が発動して良かった。
“発動しなかったら、ブラックウルフの餌になっていた所だ……”
そして、気がつけば更に迷子になっていた事に気が付く……
「………ここどこ?」
動かない左足を懸命にマッサージしながら、周りの景色を確認して行くと、
サワサワサワ……
と水の流れる音がしてきた。
「水の音かな……?」
その音の方へと痛い左足を引きずりながら、歩いていく。
「いっいてぇ………」
草木をくぐり抜けた先には確かに水が流れていた。
「かっ川だ………」
確か、川の流れの下流には村とか街がある可能性が非常に高い……
と本に書かれていた事を思い出す。
「村とかあるか、わからないけど……行ってみよう………」
川沿いを下流の方へと歩き出した。
岩や石だらけの足場は、庇って歩いていた右足を刺激し次第に痛くなり、遂に両足は俺の意志に反し動かなくなったのである。
その場に座り込み両足を伸ばしたまま困り果ててしまう。
「はぁはあ……どっどうしょう…………もう足が動かない……」
ふと川の方へと目を向ける。
よくよく観察して見ると、浅瀬で川の流れは緩やかであった。
“川の中に入って浮力と水の流れを利用して、下流まで行く事は可能かな??”
と一瞬考えこんでしまうが、いつどこで水の底が深くなるのかわからない為、断念。
使える物がなにかないのか、背負っていた袋を開け探し出して見た。
袋の中には、『火の札』今は使う時じゃないし………
『結界の札』……こんな時に結界は必要ないよ。
『土の札』土を作り出したって意味ない!!
『樹の札』………いらん!!周りは樹だらけだよ!!
『紐の札』……………紐………
他にも全く持って使える物は、何一つ入ってはいなかった。
途方に暮れながら水を眺め三十分程経った頃だろうが、次第に陽は落ちかけ始めてきた。
“後、一時間もすれば夜になるだろう。
このまま夜になっても『結界の札』のお陰で襲われる事はない”
だが、俺はこの場から離れたかった……
流れている水の量が少しずつ、増えているような気がしてきた。
「うーん、この札の中で使える物はないかな…………
急いでここを離れた方が、いいような気がする……」
俺はもう一度今持っている札を再確認し、そしてある事に気がついたのである。
「あっ!!!」
上手くできるかどうかわからないが、早速行動を起こす。
先ず『樹の札』を使い五本ぐらいの丸太を取り出す。
「樹なんて周りにいっぱいあるのに……もったいないな………」
独り言を言いながら、座り込みながら次は『紐の札』を取り出し丸太を紐に結びつけ、固定していく。
「ふぅ〜よし!出来た……」
少し休んだお陰なのか、両足の感覚が少し戻ってきた。
これなら数歩ぐらい、動けそうだ。
ヨロヨロと立ち上がりながらも、お手製の筏を川に浮かべ、川の流れに任せながら下流へと、下って行くのである。
しばらく下流に乗って進んで行くと、予想通り村の形が見えてきた。
「あっ村だ!!」
目と鼻の先に村はあった。
筏から降りた俺は、最後の力を振り絞り村へと歩いて行く。
やっとの思いで、小さな農村にたどり着いた頃には、すっかりと陽は沈んでいた。
村の入り口では、女たちは松明を持ち、男たちは剣や盾を片手になにやら警戒していた。
「あの…………」
「なんだ?お前は?
これから忙しくなるんだ、邪魔だから下がっていろ!!」
俺が話しかけた男は、リーダー的な存在なのか他の村人たちに話しかけていた。
「今日こそはあいつを倒すぞ!!」
「おーう!!」
気合がはいってた。
しかし待て度も待て度も、現れる事はなかった。
「あれ??おかしいな…………」
「?」
村人たちがだんだん落ち着きがなく、騒ぎ始めた……
立っている事が出来ず座り込んでいる俺は、リーダーに話しかけて見た。
「なにを待っているんですか?」
リーダーの男は、山を指差しながら、
「あそこから一匹のブラックウルフが、陽が落ちると村にやってくるんだ。
そして、我々の畑を食い散らかして行く。
毎晩奴を追い払っているのだが、負傷者も激しく今晩は奴を罠にかけて捕まえようと思っていたのだが………
ふむ、一向に現れん…………」
“ブラックウルフ???
そういえば、ここにくる前に倒したよな………”
「あのその、ブラックウルフって結構でかいですか?」
「奴は確かに普通のブラックウルフよりは大きいな……それがどうかしたか?」
「あの………そのブラックウルフ、俺が倒しました……多分…………」
その言葉を聞いていた周囲の村人たちが俺を嘲笑っていた。
「坊主……嘘はいけないぞ…………」
「嘘ではないですよ、崖から転げ落ちた時に、ブラックウルフと出くわして襲われたので倒しました。
嘘だと思うなら明日山に行って確かめてきてくださいよ…………」
「まぁまぁ落ち着け。
キトー、すまないが明日夜が明けたら山菜採りに行くついでに見てきてくれないか?」
「あぁ、わかったよ」
「ブラックウルフは、この時間になればもう来ないはずだ!
みんなご苦労、今日はもうゆっくり休もう!」
そう言うと他の村人たちは、散り散りに家へと入って行くのである。
ポツンと取り残された俺の目の前には先程のリーダーの男が立っていた。
「坊主、今日泊まる所はあるのか?」
「ないです。ご迷惑でなければここで野宿してもいいですか?」
「しゃあないな……俺の家に来い、飯ぐらいは食わしてやる」
リーダーはそういい歩き出した。
しかし、俺にはもう立ち上がる力も、歩く力もなくついて行く事は出来なかった。
リーダーは振り返り着いてこない俺に不思議そうに見てきた。
「どうした?」
「もう足が動きません…………」
リーダーは両足を伸ばし切っている俺の姿を見ながら、背中を貸しおんぶをしてくれた。
“はっ恥ずかしい………”
「すっすみません………えっと?」
「あぁ俺の名はフロガだ」
「ありがとうございます。俺は、ルークと言います」
「そうか……」
フロガの家は、一軒家で周りの家よりは少し立派だった。
中に入ると医療道具が、棚いっぱいに置かれ、ベットも三台程用意されていた。
俺は背負っていた袋を降ろされ、そのままベットでうつ伏せに寝かせられたのである。
「ここは病院ですか……?」
「こんな小さな村に病院なんてないさっ
ここは日々働き疲れた村人たちの身体をほぐしてやる場所さっ」
「へぇ〜」
俺がうつ伏せのまま一呼吸置いていると、フロガは黙ったまま俺の脚を揉み始めた。
「つぅ!!!」
「こんな状態で……」
「って!フロガさん!一体何を……?」
「何をって俺は、整体師だ。
お前の身体をほぐしてやろうかと思ったんだが、辞めるか?」
「いっいえ……お願いします……」
「というかこの足パンパンだぞ、大分酷使しすぎたようだな…………」
「途中、崖から落ちた時に松葉杖を無くしてしまいまして」
「松葉杖を無くしたとか、それ以前の問題だな」
「えっ……?」
「坊主の身体はまだ長距離を歩ける程回復はしていない、ゆっくりと時間をかけて治している途中だ」
「なぜ、そんな事が……!?」
「身体を触ればわかる……
そして、このまま歩き続ければれば、次第に腰椎に負担がかかり最悪の場合、二度と立って歩けなくなるぞ……」
「それでも、どうしても俺は『水の街ヴァル』に行きたいのです」
容赦なくフロガは俺の脚を揉み続けている。
ぐぐぐぐっ………
「いっいてぇ!」
「なぁ坊主、ここから『ヴァル』まで何日かかるか、知っているか?」
「えっ?わっわかりません………………」
フロガはうつ伏せになっている俺を、今度は整体施術を施し始めた。
「ぐえっ!」
右腕と左腕を掴み、ゆっくりと矯正し始めたのである。
「普通に歩いて五日だな……
松葉杖を使ったとして二週間……
『ヴァル』にたどり着く前に、お前の腰椎は限界を越え逝くだろうな……
そして二度歩けなくなりながらも、地を這いずりながら諦めずに目指す。
しかし山賊か魔物に襲われ、なにも出来ないまま殺されて終わりって所かな……」
「じゃ……いていてっ………フロガさん痛いです……どっどうすればいいのですか?」
「しらん」
「えっ!」
「俺は、坊主の身体の状態を見て俺の思っている事を、伝えているまでだ……
無理だとわかっていながら、強行手段で歩いてきている馬鹿になにを言えと?」
「うっ………」
図星過ぎてなにも言い返せなかった。
フロガの手は次第に俺の背骨の方を、グィグィと押し始めた時だった。
一瞬フロガの手が止まったのである。
「フロガさん?どうかしましたか?」
「あっ……いや、なんでもない………」
「うごっ!!」
顔を上げベットの端を力をいっぱい握りしめながら、痛みに耐えるしかなかった俺の姿を見ながらフロガは再び背骨を押しながら、話を続けてきた。
「話の続きだが……
『悪い事は言わん、家に帰れ』と言って欲しいのか?
『どうしても水の街ヴァルに行きたい』と言っている馬鹿に、なにを言ったって聞きはしないだろ?」
「忠告はした、後は自分で決めろ」
「………」
フロガはその後何も話す事なく、黙々と整体施術を行ってくれていた。
一通りの整体施術が終わった頃には、俺はもうすでにグッタリと疲れ果て眠っていたのである。
フロガは、俺に毛布を掛けた後に奥の部屋へと行き、ハンモックに揺られながら、
「逃亡奴隷か……」
と呟いていた。
次の日の朝、目が覚めた俺にフロガはもう一度整体施術を行い、終わった頃に話しかけてきた。
「よしいいぞ、ゆっくりと立ってみろ」
言われた通り恐る恐る立ち上がると、両足の先から腰にかけてビリビリと激しい電気が走り出す。
「つぅ……」
堪らずその場で腰を押さえながら片膝をつきそうになった所を、フロガは支えゆっくりとベットへと腰を座らせてくれた。
「ふむ、思っていたより重傷だな……」
「そっそんなにですか?」
「俺は、医者でもなければ、【回復のアーツ】の使い手でもない。
医者のいない小さな村に住むただの整体師から、一言言わせれば、悪い事は言わん。
今すぐ家に手紙を書き、迎えにきてもらえ……
そして、きちんと治してから『ヴァル』に向かう事を勧める」
「………」
「まぁ死にたいのなら、勝手に行くといい」
フロガはそう言い、俺を家に残したまま外へ出て行ったのである。
一人取り残された俺は、これから先どうすればいいのかひたすら考えていた。
“腰に負担をかけずに、行く……
どうやって??
むむむむむっ”
やはりいい案が浮かぶことはなかった。
「おい!坊主!!」
俺の名を呼びながらフロガは、家に帰ってきた。
そして、昨日無くしたはずの松葉杖を渡してきたのである。
「あっこれは俺の松葉杖!?どうしてここに?」
「朝早くから、キトーたちが山菜採りに山に入って先程帰ってきたのだが、昨日の坊主が言っていた事をついでに確認してもらった。
キトー曰く、『確かに我々の憎きブラックウルフは死んでた』
と話があったよ」
「助かったよ……これでブラックウルフに怯えずに生活が出来る」
「良かったです。信じてもらえて………」
「あっあの……松葉杖を使っても『ヴァル』まで俺の身体はもたないのですか?」
「はっきり言えばもたないだろうな………」
「そう……ですか………」
ションボリと下を向きいじけるて俺をフロガは、諦めたのか。
「あぁーー!もう!!しょうがないな!!
ブラックウルフを退治してくれた、恩人にきちんとお礼をしてやるよ!!」
「えっ?」
「俺の言う事をきちんと聞き、そして守れるか?
守れるなら、『ヴァル』まで辿り着ける方法を教えてやるよ」
「えっ!?是非教えてください」
「その前に、俺の言う事きちんと聞くか?」
「『ヴァル』に着けるのなら……!!」
「わかった………
では服を脱ぎ、その鎖帷子も脱いで背中を出せ……」
「えっ!?」
「俺の言う事は聞くんだろ?さっさと脱げ………坊主……」
「………………」
『背中を出せ……』
その言葉は俺の短い旅の終わりを、告げているかのように聞こえてきた……




