第百九話 到着。山頂のダンジョン
リーサの話しを、更に聞いてみるとだ。
どうやら女性陣は、昨日マーシャルの家で寝泊まりしたみたいだった。
事の発端は、同窓会が始まる五日前に遡る。
リーサは同窓会が始まる五日前にガーゼベルトに到着しており、当然リーサがガーゼベルトに住んでいた時にお世話になった、マーシャルに会い行きたいと言う思うのは至極当然であった。
しかし、記憶を頼りに屋敷に赴くもそこにはマーシャルはおらず、ヴァルディアしか住んではいなかったのである。
「そう……マーシャル様は、ここにはいないのね」
「あぁ、残念だがな」
「……行っても会える筈、ないわよね?」
「うーん。リーサがここに居た時に仕えていた使用人も、何人かそのままマーシャル様の元で働いている筈だから、リーサの事覚えている人たちもいる筈だよ」
「本当ぉ!?」
「あぁ、でも念の為俺も一緒に行くよ」
「ありがとう! ヴァルディアっ!!」
しかし、そう事は上手く進まなかった。ヴァルディアがマーシャルを護衛している衛兵に説明するも、納得する事はなくリーサは門前払いされかけていた。
俺に任せろ。と言った手前ヴァルディアは、何とかしてリーサをマーシャルに合わせなければならなかった。久しぶりに再会を果たしたというのに、頼りがいのない男になった。と思われたくない一心で……
「どうしても、ダメですか?」
「と言われても、この娘が以前マーシャル様と一緒に住んでいたと言うのか?」
「えぇ。彼女もまた俺と同様ですよ」
「……にわかには信じられん話だな」
「では、マーシャル様と一緒に来たメイド長呼んで来て下さい。彼女が一番の承認になってくれる筈です」
「……よかろう。だが、メイド長が知らないと言えば、その娘は正規の手続きをせぬ限りマーシャル様には会えぬからな!」
「わかりました」
暫くするとメイド長は門まで連れて来られ、衛兵にリーサの件を説明した後にメイド長はリーサの顔をマジマジと下から上まで見て回っていく。そして……
「リーサお嬢様。おかえりなさいませ」
メイド長は、深々と頭を下げリーサを迎え入れてくれたのである。
こうしてリーサは、漸くマーシャルと再会を果たす事が出来たのであった。
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「久しぶりね。リーサ」
「はい、マーシャル様もお元気そうでなによりです」
「ヴァルディアは、さっさと仕事に戻りなさい」
「なっ……俺だってリーサと話したい事ありますのに……」
「女の話に男がいるなんて、野暮な事言わないで下さる?」
「ぐっ……わかりました。仕事に戻ります……」
ヴァルディアをさっさと帰らせたマーシャルは、リーサを椅子に座らせ今までの話しに耳を傾けがうんうんと頷きながら凄く嬉しそうに聞いていたのである。
そして……
「所で、リーサはこれからどうするつもりなのかしら?」
「えっこれからですか? 少し早目に到着してしまいましたからね。同窓会が始るまでの間、宿に寝泊まりして久しぶりのガーゼベルトを見学しようかな? と思っていましたけど……」
「ねぇ、リーサ。ガーゼベルトを出発するまでの間、ここに泊まるといいわよ」
「えっ!? いや、それは流石に悪いです。マーシャル様」
「セルビアも呼ぶわよ?」
「!?」
セルビアの名にリーサは、興味を湧いてしまったのだ。
あの時……
リーサが父親に部屋に閉じ込められていた時、助けてくれたのはセルビアである。
それに何よりリーサは、セルビアにも会いたいと思っていた。
「でっでは申し訳ないのですが、お言葉に甘えてお世話になります。マーシャル様」
「はい♩」
同窓会が始るまでの間、リーサの一日は実に充実していた。昼間は剣の修行を欠かさず行った後に買い物に出かけ、使えそうな剣や防具を見て回り、夜には戻ってきたマーシャルと共に食事をしたり、談笑したりと剣の聖地に旅立つ前となんら変わりない生活を送っていたのである。
そして、同窓会が始まる数時間前……リーサは同窓会会場へと向かうべくマーシャルに頭を下げていた。
「マーシャル様、五日間お世話になりました」
「いいえ、全然構わなくてよ」
楽しかった日々は、あっという間に過ぎかってしまった。心残りと言えば、セルビアに会えなかった事だ。
どんなに急いだとしても、ロールライトからガーゼベルトに到着するのにはそれなりの日数がかかり、セルビアの到着は皮肉にも今日の夜だったのである。
マーシャルからその事を知らされた時、リーサは会えないんだな。とがっかりしていた。
「同窓会終わってから、また来てもいいのよ?」
「いえ……実は……」
マーシャルの言葉にリーサは、また来ます。とは言えなかった。
剣の聖地に同窓会の知らせが届いた時、ムーンは事前に『同窓会のお知らせ』と言う手紙を書いていたのである。その内容には『同窓会終了後、男性陣は男性陣だけで考えて、どうぞ好き勝手にして下さい。女性陣は温泉付きの宿に予約していますので、皆で仲良く寝ます』と記載されていたのである。
同窓会終了後、女性陣はムーンが予約した宿に皆で向かう中、自分一人だけ行かない。とはとても言えずにいたリーサはセルビアとの再会は諦めていたのだが、そんなリーサの姿を見ていたマーシャルはある提案をしてきた。
「ねぇ、リーサ」
「はい?」
「当日、条件付きで女性陣皆でここに泊まっても、全然構わないわよ?」
「えっ!?」
「勿論、温泉付きの宿よりも豪華よ♪」
と自ら申し出てたのである。
その話しにリーサは、二つ返事で受け入れたのであった。
その条件と言うのが、『リーサも女性陣の皆もそうだけど、男性陣。特にルーク坊ゃにはセルビアが来る事や、私の家で泊まると言う事は絶対秘密よ!』との事だった。
男性陣を無視して来たリーサたちは、門前払いされる事なく家に迎え入れてもらいマーシャルはいるし、その場にはセルビアもいたそうだ。
大歓迎される中、そこで俺の話題なるのは当然の流れだった。
酔っ払った二人の大人たちは、マーシャルがセルビアを煽り始めるとペラペラと俺の幼い頃の暴露話しを始めたのである。俺の暴露話を餌に、宴会と貸し寝たのは夜遅かったみたいだ。
十歳までは怖くて一人では寝れず、毎晩のようにおねしょしてたとか……
更には、セルビアとお風呂も一緒に入っていたとか……
ある時は、猫にひっかかれて大泣きしたとか……
それは俺に向けられる女性陣の目線が、痛かったのも頷ける内容だった。
“……ってか、普通内緒にしてくれるよな。酔っ払っていたとは言え、絶対あの二人楽しんで皆に話ししたんだろうな……”
ゼーンが俺に向けられる痛い視線に気がつき女性陣を問い詰めようとした所で、俺はゼーンの口を塞いでいた。
「ゼッゼーン!? なんでもないよ!?」
「んっそうか??」
「うっうん!! 気にしなくていいからっ! ありがとう!!」
“帰ったら必ず、マーシャルさんとセルビアさんには一言、言っておかないとな……”
馬車に揺られながらも、そう決心するのであった。
◆◇◆◇◆
「所で、ヴァルディア?」
「んっ? なんだ、ライト」
「俺たちが今から行く、玄武の守りし山と言うのは、アーツハンター基準のランクだとどれくらいなんだ?」
「……!」
やはり、それを聞いて来るか……とヴァルディアは内心そう思ったのと同時に諦める事にした。仮に誤魔化したとしても、ライトは結局最下層を目指そうと言いだすんだろう。ならば聞かれたこの時点で、六階以降はAランク以上の者でしか足を踏み入れる事が出来ない、ダンジョンへと変貌する事をヴァルディアは素直に告げたのであった。
それを聞いたライトは、更なる質問をするのである。
「ほぉ、Aランク以上か……それで今回俺たちは最下層目指していいんだよな?」
それは、ヴァルディアの予想通りの質問だった。立場上、肯定する訳にもいかず。だからと言って否定した所で、ライトの性格上こっそり行くのに違いない。ならば……
「六階以降、危険な魔物も多く集束しているらしい。だから、俺たちの実力で叶わないと感じたら、すぐに戻ると……」
「ふむ……」
「最低限自分の身は守れると、約束出来るのなら……」
「わかった、無理はしないでおこう。俺たちも尻拭いしてもらう歳ではないからな」
そんな会話をライトとヴァルディアがしている中……
「ねぇねぇ、やっぱり……ルークって……」
「だよねっ、だよねっ……!!」
「……っ」
納まる事を知らないかのように、女性陣の痛い視線は変わらず俺に突き刺さっていた。
「あっあのさっ……?」
少しでも弁明しておこうかと思い女性陣に話しかけようとするのだが、女性陣は俺と目が合うすぐに目線を逸らしてしまいとてもではないが、下手な弁明は更に誤解を生みそうな雰囲気だった。
“はっ……話しを変えないと……”
話を変える一案として思いついたのは、玄武の守りし山に着いた時内部にこの十名で一緒に入るかのか? どうかだった。
流石に十名で大暴れはしないまでも、戦闘行為が始まれば内部の洞窟は耐えられるのか? と言う疑問が浮かび上がって来る。なので、俺は到着する前に合宿で行わられたように、メンバーを決めるのはどうだろうか? と提案を持ちかけたのである。
「それは構わないが、どうやって決める?」
ガイヤッの疑問も最もだった。
「ジャンケンで決めるか?」
「くじ引きなんてどうだ?」
男性陣の提案を却下するかのようにリーサは口を開いていく。
「悪いけど、女性陣は女性陣だけで動くわ」
「……」
「何よ? 文句ある?」
剣の聖地ウィシュで、シュトラーフの右腕として認められたリーサの迫力に男性陣は何も言えず、頷く事しか出来きなかった。
こうして決まったのが……
1チーム目 ライト、俺、ガイヤッ
2チーム目 ヴァルディア、ラスティ、ゼーン
3チーム目 リーサ、サン、ムーン、ディア
とこんな感じで決まったのである。
俺たちを乗せた馬車は目的地に着いた事を知らせるかのように、静かに動きを止めたのである。確かにロールライトから向かうよりも、遥かに早く着く事が出来た。これなら日帰りで行けそうな感じだった。
「ーーーっと言う訳で、無理しないで下さい」
「では、六階からは各自別ルートで進んで行き、最終目的地は最下層で!」
ヴァルディアからの注意事項を聴き終え、ライトの言葉に九人は黙って頷いて行く中、ヴァルディアは心配そうな顔をしていた。
そんな顔を見ていたラスティは、ヴァルディアの肩に手を置いていく。
「そんなに心配する事はないさ」
「ラスティ?」
「上手い事にルークとヴァルディア、それにムーンの三人のアーツハンターが分かれたんだ。去り際の指示には従うさ」
「……だといいんだけど」
「それに、今回俺は始めてライト様と別行動を取る事になったが、今から入れてもらう事は可能だろうか?」
「今更それは……流石に無理があるな」
「……」
「仕方がない。ライト様に何かあったらどうなるか、ルークとガイヤッには伝えておかなくてはな」
「そんなに心配なのか?」
「ライト様はロールライトにおける、貴族の将来有望なお方だからな。まぁライト様が適切な指示をしてくださる。だから、あのチームは大丈夫だ」
「ふむふむ」
「そして、ライト様の側で長年仕えていた俺と、幹部であるヴァルディアがいるこのチームも大丈夫だ」
「女性陣は……?」
「おいおい、何を言い出すんだ? 女性陣チームが一番安全だろ!」
「と言うと……?」
「女性陣には、剣において最強に近い女、リーサがいる。心配する必要すらないな」
「……」
リーサが地獄耳でなくて良かったと、素直に思うヴァルディアであった。
準備を整えた、俺たちの十人は少しの不安と久しぶりの洞窟という好奇心に胸を膨らませる中、玄武の守りし山の洞窟内へと進入していく。