第百八話 ライトの提案
全て話し終えると、俺は泣きそうになっていた。
全員が見ている前では流石に泣けず……
流れ落ちそうな涙を堪えながら外へと出て行き、こっそりと涙を流していた。
「ギレッド……先生……」
少しだけ曇っていた星空を見上げながら、俺はギレッドの名を思わず呼んでいた。
5分ぐらい経った頃だろうか? 俺に気がつかれるようにと……
そう、いかにも態とらしくヴァルディアは溜息をついていた。
「……ヴァルディア?」
「ったく、お前……話しすぎ……」
「ごめん。でも大事な事だったと思ったから…」
かなり気を使って話ししたつもりだったのだが、どうやら話しすぎてしまったらしい。
「まぁいいさっ。皆は口外しない思うし、しゃぁないから何かあったら尻拭いしてやるよ」
「お願いします。戦闘隊総司令官殿」
「こいつっ!!」
腹にエルボーを喰らいながらも、俺とヴァルディアは笑いあっていた。
その後、俺とヴァルディアは店の中には戻らずギレッドの話しをずっとしていた。気がつけばいつの間にか宴会も終了時間、間際になってしまっていたようだ。幹事であるムーンが『そろそろ終わりだよ〜』と声をかけてきた所で、俺たちも中に入る事にしたのである。
中に入るとライトは、皆に向かって最後の締めの挨拶をしようとしていた所だった。
“ディアがお願いしたのかな? でもなぁ〜ライトの話しは取り敢えず長い!!”
「久しぶりの再会。実に楽しかった! この企画を作ってくれたディアに俺は、感謝している」
「はいはい。ライト、ありがとう!!」
と照れ臭そうにディアは言い切りライトの話しがこれ以上、長くなるの前に途中で終わらせようとしたのだが、ライトはディアの次に言う言葉を言い終える前に先に口を開いたのである。
「ディア、ちょっと待て。まだ話しの途中だ」
「うっ……わかったわよ」
結局、誰にもライトの話しを止められず聞きながら終えるのを待つ事しか出来なかった。
そして……
「……と言うわけでだ、皆。この場このまま解散って言うのも何か寂しいと思わないか?」
「まぁ確かに……な」
ガイヤッの言葉に皆は、うんうんと頷いていた。ある意味、それは賛成するから早くライトの話しを終わらせてくれと思っているのかしれない。ってか俺はそう思っていた。
それを見渡しながらライトは、ある提案をしてきたのだ。
「そこで提案なんだけど、皆は明日一日いっぱい時間はあるか!?」
ライトは一体何を言い出すんだろう? と黙って聞いているとだ。
「ヴァルディアとリーサは行った事はないが、合宿で行ったダンジョンの山頂。……明日、日帰りで行って見ないか?」
「!!」
どうやら俺が出て行った後、皆はギレッドとの思い出を互いに語り合っていたらしい。
わかった事と言えば、卒業した後もギレッドは家庭訪問と称してフラリと皆の前に現れて、人生相談に乗ってくれていたみたいだ。
そして、その話しはあまりにも懐かしく、ライトは印象に残っている山頂のダンジョンに行きたいと言い出したのだった。
ライトの提案に、誰も反対する者はいなかった。
以外や以外。久しぶりに皆でダンジョン探検行く事が出来そうだった。
「でもよ、山頂のダンジョンに行くのは構わないが、あの時先生方は俺たちに正確な場所を教えてはくれなかったぞ」
そう言ってきたのは、ガイヤッだった。
確か……『合宿終了後に個人でダンジョンに行く事を防ぐ為、場所を教える事は出来ない』だったな。
そうなると、今からパラケラルララレ学校に行って他の教師に教えてもらわなければならないのか? 色々と手続きが面倒くさそうだな……
と一人で考えていたのだが、ライトの意見は違っていた。
「……ヴァルディア」
「んっ、なんだ?」
「アーツハンター幹部の一員であるお前なら、俺たちが合宿で行った場所はどこなのか? 調べれば簡単にわかると俺は思っているんだけど、どうなんだ?」
「まっ……確かに、調べればわかるとは思うけど……」
「では頼むな」
「……おぅ」
ヴァルディアに有無を言わせないで、ライトはドンドン話しを進めていく。
最早、明日の朝になって結局山頂のダンジョンはわかりませんでした。では済まされない、そんな勢いだった。
「よしっ!! では明日、正面玄関に集合した後に皆で行こう!!」
ライトはカリスマ性が強い。
俺には持っていないリーダーシップと言う奴を持っている。そして何より、彼は人を惹きつけてくれる。そんな魅力に満ち溢れていた。
パラケラルララレ学校の時には、嫌な奴だな。と思っていたけど、今は嫌だなと言う感情が溢れ出さないでいた。
結局ライトの提案に対して誰もが行かないとは言わず、皆参加と言う事で本日は解散となって行くのであった。
リーサ、サン、ムーン、ディア、四人の女性陣は、真っ直ぐ本日泊まる場所に行くと話ししていた。
「でっ? 結局リーサたちはどこに泊まるの?」
「うふふふふっ……秘密ぅ〜」
「??」
本当は四人仲良く? 温泉付きの宿で一泊しようって話しだったらしいのだが、リーサが当日になって突然宿屋代はかからなく、なおかつ温泉付きの宿よりも素敵な場所に泊まれる。と話しした途端女性陣は、予約していた宿屋を当日になってキャンセルしたのだ。
気になった俺は当然どこ? と何度かリーサに聞いてみたのだが、結局は教えてはくれないまま明日の朝各自で集合する事になったのである。
そして、ライト、ラスティ、ゼーン、ガイヤッ、ヴァルディア、俺の六人の男連中も宿で一泊する事はなかった。
ゾロゾロとヴァルディアの家に『お邪魔します。お世話になります』と言って押し入り、ゼーンとガイヤッに至っては全てのドアと言うドアを開け物色し始めていたのである。
なぜ、ヴァルディアの家に泊まる事になったのかと言うと……
そもそもヴァルディアはマーシャルの家で居候していたのだが、マーシャルが協会長となった為、住んでいた家は戦闘隊総司令官でもあるヴァルディアに引き継がれ、現在執事とメイドたちと共に生活をしていた。
ヴァルディアとしてはマーシャルとこの家での生活を望んでいたのだが、仮にも協会長となったマーシャルの身を守る為には、この家では困難と判断され許されなかったのだった。
現在マーシャルは、当然警備が厳重な場所で生活している。
俺も一度、セルビアと共に訪れたのだが……
家の外見自体は、ヴァルディアの住む家と大差はないのだが警備は厳重であれでは息が詰まるのでは? と思ってしまった。でも、事前に来訪する事を警備の者たちに知らせておけば、追い返される事もなく歓迎してくれるので、マーシャルはいつでも遊びに来てね。と言っていた。
たまに寂しくなり、ヴァルディアはマーシャルの家で寝泊まりしているらしい。
どっちが? と聞いたら、物凄く怒られてしまった。
「すまんな、ヴァルディア。急に押しかける形になって」
「いやいいよ、ラスティ……部屋はたくさんあるから気にしないでくれ」
「そうか、では好きに使わせてもらおうっ」
ゼーンは遠慮なしにメイドさんたちに、あれやこれやとお願いをしていた。
「ふむ、これがアーツハンターの幹部まで上り詰めた男が住む家か……」
興味があるのかライトは、キョロキョロと見回しながらそう感想を述べていた。
「いや……ライト。頼むからお前の住む家と比べないでくれ」
「何を言う、この部屋だって中々良いぞ」
「無茶苦茶言う奴だが、お前はいい奴だな。ライト」
大部屋に案内された俺たちは、本日ここで寝る事になる。
六人全員が大の字になってもまだ余裕がある部屋に、メイドたちが布団を綺麗に並べてセットしてくれていた。
「川の字で仲良く……寝ろってか?」
ラスティの言葉にゼーンやガイヤッは『それは、気持ち悪いな!!』と口を揃えて言い、自分の好きな場所に布団を移動させた後に、ソファに座って談笑し始めたのである。
一時間ぐらい、たわいもない話しをしていた頃だろうか?
「さてと、ルーク俺に付き合え」
「ん?」
「本部に行って、ライトが言っていた山頂のダンジョンの場所調べないとな」
「なぜ、俺もついて行かないとならないんだ?」
「俺は行った事はないんだ。ルークは行った事があるからどう行った場所なのかわかるだろ?」
「あぁ……そうだね」
そりゃ行った事はいないのだ、わかる筈がない。
「……と言うわけだ。気にしないで、先に寝ていてくれ」
とヴァルディアは言葉を残し、執事に『後の事は頼みます』頭を下げた後、アーツハンター本部へと一緒に行く事になったのである。
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山頂のダンジョンは、すぐにわかった。
アーツハンター本部にある資料に目を通せば、すぐに見つける事が出来た。
山頂のダンジョンの正式名称は『玄武の守りし山』と言うダンジョン名で、十階層になる小規模ダンジョンだった。主に一階から五階までは、学生や駆け出しのアーツハンターが行く場所でいわゆる初心者ダンジョンなのだが、それ以降の階層はAランク以上の者でしか足を踏み入れる事が出来ない、ダンジョンへと変貌するのだった。
資料に目を通していたヴァルディアは、ちょっと困った顔をしていた。
「おいおい……まじでここに行くのかよ?」
「ライトの事だから……絶対最下層まで行こうって言いそうだよねぇ〜」
「だよな……」
ヴァルディアは念の為、マーシャルに話しをつけてくるから先に屋敷に戻っててくれと言い部屋から出て行くのであった。
その間に俺は、皆が一緒に乗れる馬車の手配をするべく馬車小屋へと赴いていた。
馬車小屋のおっちゃんは、夜遅くの依頼だと言うのに軽く了承してくれた。
それも割安で……
馬車の手配を終え、どっと疲れを催しながら俺はヴァルディアの家へと戻るのであった。
二階にある大部屋を開けると、寝静まっていた。
“きっとライトが明日は早いから早く寝るぞ。とか言ったんだろうな……”
空いていたソファを見つけた俺は布団を被りながら、皆と同様に眠りにつく事にしたのである。
“ふぅ……ゆっくりやすもう……”
◆◇◆◇◆
深夜遅くヴァルディアは戻ってきていた。
マーシャルに報告したヴァルディアは、最深部まで行くのなら絶対無理はしないようにと、何度も話しされ書類を提出してからの帰還だった。
二階の大部屋を開けた時、多種多様のイビキに呆れ果ていた。
だが、何処となく幸せそうな顔をしながら寝ている姿を見てしまうと、まぁいいか。とヴァルディアは思ってしまっていた。
「ふぅ……」
必要書類の提出は意外と面倒で精神的にヴァルディアは疲れていた。しかし、すぐに布団に入り寝ようと言う気持ちにはならなかったのである。
そんな時である、テラスに人影を発見したのは。
皆は寝ている筈なのに一体誰だろう? と思いながらヴァルディアは、テラスの方へと足を運んでいくのである。
「……色々と我儘を言ったようだな。すまなかったなヴァルディア」
「!?」
後ろを振り返らずにヴァルディアに話しかけてきたのは、ライトだった。
少し焦ったのも事実だったが、ヴァルディアは冷静に言葉を返して行く。
「ん〜別に気にしないでいいぞ」
「フッ……」
見透かされているのかな? と思いながらも、ヴァルディアは話しを逸らす事にした。
「所でライト、寝れないのか?」
「いや、お前の帰りを待っていた」
「俺の……?」
「あぁ……単刀直入に聞くが、ヴァルディア。お前、ロールライトに帰りたいか?」
「……」
ライトの質問に素直に答えれば、帰りたい。とヴァルディアは言いたかった。
ロールライトには両親も健在であり、尚且つヴァルディアは何年も会ってはいなかった。親孝行もしたいと思ってはいたが、命と引き換えにロールライトを追放と言うで事で決着がついており、今更帰りたいとはヴァルディアは言えなかったのである。
「ずっと引っかかっていたんだ。帰るべき場所があるのに、なぜお前は帰れないのか? って……だから俺は、ここに来る前に親父に話ししてみたんだ。『もう何年も経っているんだし、そろそろヴァルディアの追放処分を解除してくれ』って」
「……」
「そしたら、親父に『今更それんな事出来るか!』と怒られた後に、漸くなぜお前がロールライトに戻れないのかって言う理由を教えてくれたよ」
「……」
「はぁ……そして聞きお終えた後、理不尽だな。ってひたすら思った」
「ライト……お前……」
「すまないな……ヴァルディア。もう少しだけ……待っていてくれないか? 今はまだ親父に意見を言う程、力は俺にはない。だがいつか必ず俺が、お前をロールライトに返してやる」
「……おぅ。気長に待っているよ」
そして、二人は眠りにつくのであった。
次の日の朝。正門前に集合した十名は山頂のダンジョン改めて、玄武の守りし山へと出発するのであった。
馬車は進む。ひたすら玄武の守りし山を目指して。
玄武の守りし山は、ロールライトから半日かけて移動する場所にあるのだが、ガーゼベルトから出発した方がかなり近いと言う事が下調べした時にわかった。
馬車は取り敢えず、十名乗りにして良かった。話しが弾んで、実に楽しかった。
………だが、なぜだろう? 女性陣の目線がさりげなく痛く感じるのだが……
「なぁ、ディアどうかしたのか?」
同窓会をやろうと言い出した、ディアなら何か知っているのかと思って聞いてみた所、ディアは顔を赤くして目線を逸らしていた。
「???」
俺が不思議な顔をしていると、リーサが俺の耳元で呟いてきたのだ。
「ねぇねぇ、十歳まで夜中怖くて大泣きしてセルビアさんと一緒に寝てたって本当ぉ?」
「なっ………なっ………!?」
“誰だっ!! そんな恥ずかしい昔話をした奴は!!!!”