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Arts hunter   作者: kiruhi
青年編 ー最後の教えー
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第百六話 今だ癒えぬ傷跡

今回は、セルビアさんですね。

 本当の父であるアッシュよりも、父と呼ぶのに相応しいかった男ギレッドはセルビアの腕の中で静かに消えて行った。


 そして、三ヶ月と言う月日があっという間に流れ過ぎていた。


 幹部の解散、メシュガロスの襲撃、新しいアーツハンター協会長はマーシャルに……

 と出来事は沢山あったが、今でも依然としてセルビアはアルディスに支部長の仕事を任せっきりのまま、心の整理はついていなかった。


 一層の事アルディスに支部長を後任してもらい、自分は綺麗さっぱり辞めてギレッドが見てきた世界を旅して見たい。そんな想いが頭の片隅に芽生え始めていたのである。


「………」


 セルビアの一日は、朝早く執事に無理矢理起こされメイドたちに身支度された後、アルディスの迎えでアーツハンター支部へと連れ出されていく。

 支部長室の椅子に座り、何もせず黙ったまま刻が過ぎるのを待っているセルビアは、夕方になると椅子から立ち上がり無言のまま支部長室を出て行き、今日もある場所へと足を運んで行く。


「はぁ……今日もあそこか……」


 アルディスは、書類の手を止め溜息をつく事しか出来なかった。

 自分ではセルビアを慰める事は出来ない。

 では、一体誰がセルビアを慰め立ち直らせてくれるのだろうか?


 その答えを導き出す事は今だに出来ずにいた。




 ◆◇◆◇◆



 ギレッドが大好きだった酒を持ちセルビアは、墓の前に今日も座り込む。

「……」


 トクトクトク……


 並々とつがれたコップを墓の前に置き、セルビアは残った酒をグビグビッと飲み干して行く。

「……」

 いつもなら、酒を半分程飲んだ所でセルビアは屋敷に戻って行くのだが、今日は違っていた。

「……師匠……皆が(わたくし)の事を心配していますわ……」



「わかっているのです。このままではダメだって……でも……どうしても(わたくし)は、前を向けませんわ……」


 かつてセルビアの子、シュラーゼンが五歳と言う年齢でこの世を去った時、セルビアは今回のように落ち込んでいた。

 その時は、ギレッドが後ろから背中を押し立ち直らせてくれた。

 だが、ギレッドはもういない。どうすれば、前を向けるのか……セルビアにはわからなかった。


  「はぁ……」


 帰還当初、セルビアは一人になりたいと思い部屋に篭っていた。

 でも、ギレッドの墓には毎日行きたい。

 そんな想いから、一日に一度は部屋から酒を持って無言のまま出て行き墓の前に現れ、暫くしたら家に戻り部屋に篭る。

 そんな日々を過ごしていたのだが……

 そんな姿を見ていた執事とメイドたちは、話し合った。このままではセルビアはダメになってしまう……と。

 そう結論を出し、決行したのだ。


 当初は嫌がり部屋に入る事すら拒んでいたセルビアだったのだが、合鍵を持っている執事とメイドたちの前では無意味だった。彼らは何か理由をつけて断るごとに部屋に無理矢理入り話しかけてきた。


 次第にセルビアは、部屋に籠らなくなっていくのである。


 今では、皆の前で明るく振る舞う事は出来るようにはなった。これは執事やメイドたちのお陰だとセルビアは思っていた。




 セルビアはルークも同様にギレッドの死に対して落ち込んでいる事を知っていた。

 本来ならば、ギレッドがかつてセルビアにしてくれたように、母として、ギレッドの事を良く知る者として、ルークに声をかけてやるべきだったのだが、セルビアは出来なかった。


 ルークとギレッドの思い出話しをすれば、先に泣いてしまうのは自分(セルビア)だ。

 泣き顔をセルビアはルークに見せたくなく、少しだけ距離を置いてしまったのもまた事実であった。


 そんな時に、ヴァルディアからメシュガロスの襲撃とマーシャルの悩みを聞いて欲しい為、ガーゼベルトに赴いて頂きたい。と言う書面がアルディスより手渡された。

 ロールライトに入れないヴァルディアは、ガーゼベルトから手紙を出し直接お願いしたくロールライト周辺に着ているとも記載されていた。

 その時にルークは、ヴァルディアからアーツバスターからメシュガロスが襲撃されたと聞き、すぐに身支度を整えセルビアの前に現れるのである。

「セルビアさん。俺……ギレッド先生が命がけでドランゴと戦い、取り戻した場所(メシュガロス)を簡単に奪われるなんて俺には納得できません。だから、行きます!!」

 と言ってルークは、ヴァルディアと共にメシュガロスに出発したのである。


 セルビアは何も言えなかった。

 ルークの後ろ姿を見守りながら、どうやってギレッドの死を乗り越えたの? と何度も問いかけていた。


「……ルークちゃんの方が、(わたくし)よりよっぽど大人ですわね」


 海風が頬を刺激して行く中、セルビアは最後まで酒を飲み干し立ち上がる。

「明日……また来ますわ……」


 二つの墓に触れた後に、セルビアは踵を返し屋敷に帰ろうとした時……

 そこには、一番会いたくない男が立っていたのである。


 ムッと一瞬なるも、怒りを抑え込みセルビアは目を逸らし素通りしようと横を通り過ぎていくのだが、男はセルビアの腕を掴み取り、行動を制止してくるのである。

「何も無視する事ないだろ?」

「……」

 返事もする気になれず、セルビアはキッ!! と睨みつけていた。

「……少しだけ話ししようぜ」

(わたくし)は、何も話す事はありませんわ。ベイウルフ……」

「……いつもお前はそう言う。あの時だってそう言っていたよな……」

「……」



 ベイウルフとセルビア。

 その間に産まれた子シュラーゼン。


 その昔、ロールライトでセルビアは幸せ。と思える日々を過ごしていた。

 シュラーゼンが五歳になるまでは……




 ------



 シュラーゼンが五歳になった時、セルビアは約束通りロールライトのアーツハンターギルド支部長に就任。

 忙しくシュラーゼンに会う機会は少なくなり、寂しい想いをさせてしまうかと思っていたが、ベイウルフはプロポーズの時にセルビアに『ずっと支えるよ』と言ってくれた。


 だから……幸せな日々は当然続くと思っていた。


 予想通り慣れない支部長の仕事は毎日が忙しく、帰ってくるのも夜遅かった。支えると言ってくれたベイウルフも最初は何も言わず優しく接してくれたのだが、ある日些細な口論が原因でベイウルフとの夫婦の会話は疎遠となり次第に喧嘩が絶えない日が続いていった。


「俺だって一流を目指すアーツハンターだ。高難易度の依頼だって受けたいんだ」

「じゃ、シュラーゼンちゃんはどうするの?」

「子供連れで依頼なんて受けれるわけがないだろ!!」

「ベイウルフっ!?」


 ベイウルフはそれ以来、あまり家には帰らなくなっていた。

 だからと言ってセルビアも支部長の仕事を放棄するわけにはいかず、シュラーゼンは一人で執事やメイドたちと共に生活する日々が続いていた。


 その日、理由はわからなかったがシュラーゼンはどうしてもセルビアに会いたかった。

「おやっ? シュラーゼンぼっちゃま、どちらに?」

「ママに会いに行ってきます」

「作用でございますか。お気をつけて……」

「うんっ!!」


 この時、執事はなぜ言葉を付け加えなかったのだろうか。メイドの一人をお供させれば良かった。と後に後悔していた。

 シュラーゼンは、近道でもある貴族街に足を踏み入れたのである。


 ロールライトには『庶民が貴族街を犯せば処断される』と言う暗黙のルールがあり、シュラーゼンはそれを犯した。ただそれだけの理由で、シュラーゼンは五歳と言う短い人生を終えてしまった。



 五日ぶりの我が家に帰った時、セルビアはシュラーゼンの死を執事から告げられ深々と頭を下げられた時、泣きじゃくる事しか出来なかった。

「ごめんね……ごめんね……シュラーゼンちゃん」


 もっとシュラーゼンとの時間を大事にすれば良かった。

 支部長にならなければ良かった。

 執事やメイドは自分ではたちが悪いと言うが何も悪くない。悪いのは自分(セルビア)


 とセルビアは自分自身を攻め続け、後悔しか残ってはいなかった。




 依頼から戻ってきたベイウルフも、長い間家を開けるのも悪いなと言う自責の念からシュラーゼンのお土産を用意し久しぶりの我が家にへと足をを運ぶのだったが、セルビアと同様に執事からシュラーゼンの死を聞かされるのである。

「セルビア様は、かなりショックを受けておいでです。知らされてから部屋から出ておりませぬ」

「……」

「ベイウルフ様、どうか……セルビア様を……」

 執事の気遣いにベイウルフは頷き、セルビアの元へと赴くのであった。


 ベイウルフがドアを開けたのと同時にセルビアは口を開き出す。

「ベイウルフ……シュラーゼンちゃん動かなくなっちゃった……」

「……だから言ったんだ。支部長と子育て両立出来るのかって……?」

「そうね……悪いのは全て(わたくし)。ベイウルフ……あなたは何も悪くないわ」

「なんだよっそれっ!!」

「もう沢山!!」

 セルビアは、両手を耳に当てそれ以上ベイウルフの言葉を遮断する素振りを見せながら、泣き叫ぶ。

「ベイウルフはいつもいつも怒ってばかり!! もう(わたくし)はあなたに何も話す事はありませんわ」

「……セルビア」


 セルビアの態度にベイウルフは、自分は悪くないの一点張りの罵声を浴びせ気がつけば屋敷を飛び出していた。


 そして、ベイウルフは二度とセルビアの前に現れる事はなかった。




 ------



「シュラーゼンの事は俺だって悪いと思っていたんだ」

「……ベイウルフ、先ほどから言っていますけど、(わたくし)はシュラーゼンちゃんの件で貴方と話し合う気は一切ありませんわ」

 それだけ言ってセルビアはベイウルフの前から去ろうとすると、ベイウルフは雷電のアーツを発動させセルビアの目の前に雷を落とすのであった。

「……どう言うつもり……なのかしら?」

 冷静な言葉とは裏腹にセルビアの黄色のクリクリッのくせ毛は、真っ赤なクリクリの髪の毛に変化していくのである。

「口で言っても聞いてくれないのなら、力ずくで聞いてもらうしかないだろ?」

「上等……ですわっ!!」


 焔と雷の戦いが、ギレッドの墓の前で火蓋が切って落とされた。




「はぁはぁ……」

 だが、墓の前と言うのもあって、最低条件として墓は破壊しない。と言う共通意識があったのだろう。

 広範囲のアーツの発動はやめ圧縮された単発攻撃が、互いの間で繰り広げられていた。

「あの時より遥かに強くなっているな。セルビア」

「……(わたくし)だって今迄遊んで過ごしていた訳ではありませんわ」


「それにしても、らしくないんじゃないのか?」

「なにがですの?」

「お前が、いつまでも落ち込んでいるなんてよっ!!」

「……あの時……立ち直らせてくれたのは、師匠ですわ。ベイウルフあなたは(わたくし)に一方的に言いたい事だけ言って出て行っただけではなくて?」

「確かにそうだな」

「なにが『ずっと支えるよ』ですかっ!! あの時あなたは、(わたくし)を支えてくれませんでした。出て行ったまま何年も顔を合わさずにいたのに今更、師匠に言われてノコノコ出て来て(わたくし)を慰めようとするなんて信じられないわ!!」


 怒り任せに放たれ焔を、ベイウルフは逃げずに受け止めていた。

 全身が焔に包まれながらも、ベイウルフは消え去るまで黙って耐え忍んでいた。


「はぁはぁ……確かにセルビアの言う通りだな。今回お前に会う決心がついたのは師匠のおかげだ。でもな、あの時お前だって悪いんだぞ!!」

「……」

「俺だって……シュラーゼンの死はショックだったんだ……それでも俺は、お前を本当に支えようと思って現れたんだ。なのに『何も話す事はない』と面と向かって言われた俺の気持ち、わかるかっ!!」


 セルビアの目の前に、雷は落ちプスプスと煙を上げ暫くていく。

 二人の間でにらみ合いが続いていく中、先に口を開いたのはセルビアの方だった。


「……確かに、(わたくし)にも非はありますわ。ですが、(わたくし)は貴方と言葉を交わした結果、例え納得した後に仲直りしたとしても寄りを戻す気は毛頭ありません」

「……」


 それ以降二人は、言葉を交わす事はなく戦い続けた。

 今までの鬱憤を晴らすかのようにセルビアは焔のアーツを発動していくのだが、結果的に勝ったのはベイウルフだった。

 焔の攻撃を避けたベイウルフは、体制を崩している所に特大の雷を発動。

 当然セルビアは避けきれずに直撃。


「……ベイウルフ……なんか、大嫌いですわっ……」

 そう言ってセルビアは、電撃を帯びたまま気絶しその場で倒れこんでしまうのであった。


「すまなかったな……」

 気絶したセルビアを悲しそうな顔をしながら見下ろしていたベイウルフは、崖とは反対方向にある森へと目を向けていく。

「……俺は、もう二度とセルビアの前に現れる事はないだろう。すまないが、これからもセルビアを支えてやってくれ……」

 誰かに語るかのようにベイウルフは呟き、ギレッドの墓とシュラーゼンの墓をチラッと見てから姿を消していくのであった。




「これが……Sランクアーツハンターか……」

 森の草木に身を潜め、完全に気配を消しながら二人の戦いを見守っていたアルディスは、己の存在に気づかれていた事にその凄さを改めて実感していた。

 気絶したままのセルビアを運びながら、自分もSランクを目指そうかなと思う。アルディスであった。




 ◆◇◆◇◆



 屋敷にある大きな庭ではルークとセルビアの両者が立っていた。

 一切手加減をせずにルークは闘気を、セルビアに向かって放ち叩きのめしていた。


 そもそも、セルビアはギレッドの言葉通りルークに闘気を教えてもらおうとは思っていたが、ギレッドの死に対して心の整理はつかないまま月日だけが過ぎ去っていたのが現状てあった。


 きっかけは、ベイウルフとの戦いだった。


 確かに広範囲を得意とするセルビアの焔にアーツに対して、ベイウルフは一体一の攻撃を得意分野としており、分が悪い戦いだったのは承知だった。

 だが、結婚前は幾度もベイウルフと戦っていだったセルビアは、余裕で勝利していたのだ。

 当然、ベイウルフとギレッドの墓の前で戦いになったとしても、敗北するとは一欠片も考えてはいなかった筈なのに……

 セルビアは敗北し、あまつさえベイウルフの目の前で気絶した。と言う事がセルビアには、とてもではないが許せなかった。


 自分の部屋で意識を取り戻したセルビアは、ギレッドの死に対する落ち込みよりも自分がベイウルフよりも弱かった。と言う事に心底腹立たしさを覚え、ルークがメシュガロスから無事に帰還すると同時にセルビアはすぐさまに『ルークちゃん、(わたくし)に闘気を教えて!!』と詰め寄っていたのである。




 ルークから放たれた闘気に対してセルビアは、焔のアーツを発動しその身を守ろうとするのだが……

 闘気を会得している者にとって、それすらも無防備状態と認識出来るのであり、焔で守っていたとしても無慈悲に直撃。セルビアは回転しながら、吹き飛ばしていく姿を見てルークは慌てて詰め寄って行くのである。

「あわわわわわっ!! セルビアさん、ごっごめんなさいっ!!」

「くはっ……だっ大丈夫よっ………」


 かなり無茶苦茶な教えですわね。とセルビアは内心そう思っていた。

 だが、ルークは闘気を教える前に言っていた。

「俺は……ギレッド先生がやっていた通りにしか教える事しか出来ません」

 と……

 ルークは、この無茶振りを乗り越え闘気を会得した。と言う事になる。


 ならば……

 母である、自分が泣き言を言うわけにはいくまい。


「ルークちゃん、まだまだですわっ!!」

「はっはいっ!」

 そんな胸中をルークに悟らせる事なく、セルビアの闘気を身につける修行は続いていくのである。




 一ヶ月後……

 ギレッドの死から気がつけば半年経っていた。

 因みに、ルークから闘気を教えてもらっている間もセルビアは、この場に来る事を欠かす事はなかった。


「ふぅ……ルークちゃん、手加減知らずでしたわ」

 身体をさすりながらギレッドの墓に語りかけ愚痴にも思える言葉だったが、セルビアは満足そうな顔をしていた。

「……ですが、お陰で(わたくし)も闘気を身につける事が出来ましたわ。今度、ベイウルフが来たら返り討ちにしますわっ!!」


 堅くリベンジを誓うセルビアであった。





「ふぅ……師匠、(わたくし)はもう大丈夫ですわ。でも……たまに来ます。また愚痴聞いて下さいね……」

 言いたい事だけで言ったセルビアは、ギレッドの死に対して吹っ切れたかのような爽やかな笑顔で墓の前から立ち去っていくのであった。






因みにセルビアさんとベイウルフの戦いが、墓の前ではなく広い場所だった場合。

余裕でセルビアさんが勝利します!


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